ウユニ
ウユニのバスターミナルに降り立った僕たちを向かえたのは、群がるほどのツアーガイドの勧誘……ではなく、閑散とされた町だった。
拍子抜けした僕はよほど間抜け面をしていたのだろう。
メテムがすぐに声をかけた。
「ユウキ、どうした?」
「いやさ、旅の情報誌やブログをみると、バスターミナルを降りたらウンザリするほど勧誘があるって書いてたからさ」
「勧誘ね。まあいいんじゃない? 無いなら無い方が楽だろ」
「それがさ、そうもいかないんだよ」
「どゆこと?」
「実はここで見つかるとどこにでも書いてるから、この先ノープランなんだよね」
「なんだって……」
眉をしかめるメテム。
「いやまあツアーショップは沢山あるらしいし、最悪TIにでも駆け込もう」
僕は慌てて弁明した。
「TIね。そんなものがあればいいんだけど」
そういうメテムの視線の先には、あまり文明を感じさせない町が映っていた。
「お兄さん、塩湖行きたいんでしょ、塩湖」
僕らが町をぶらついてると、幸運なことに何名かのガイドがやってきた(もう少し手前で待ってろよ……ぶつぶつ)。
それから僕らの要望、塩湖真ん中に浮かぶ塩のホテルに泊まりたいこと、一泊二日のツアーを探していること、を伝えると、満面の笑みを浮かべた。
「大丈夫。ピッタリしたのがあるから」
そう言うとプラカードのようなものを僕に提示した。
確かにそこに書かれていた内容は、僕が求めていたツアーそのものだった。
何やら事が順調に進みすぎて怖い気もするが、どうやらそのガイドいわく、提示した内容はスタンダードのもので、どこも取り扱っているらしい。
他のガイドを探すのも面倒なので、僕はそこで申し込むことにした。
ツアーは午前十時から始まるとのことだったので、僕はメテムとそこいら辺のカフェに入った。
コーヒーを片手に一息入れる。
長旅であまり寝てない体には、カフェインは最適だ。
それから簡単なサンドイッチを食べ(流石に観光地だから英語のメニューがあった)、体を休めた。
ガイドの車は指定された時刻通りに来た。
南米感覚ということで遅れるだろうと高をくくっていただけに意外だった。
そして嬉しいことに、ツアーの参加者はは僕とメテムだけの様だ。
「やったね、メテム」
そう言いながら僕はメテムに笑みを浮かべた。
ウユニの町から塩湖へと向かう。
どうやら町からはすぐ近い距離にあるらしい。
車にガタガタと揺れながら進むと、たしかにあっと言う間に辺り一面真っ白の場所へ付いた。
ウユニ塩湖だ。
僕は思わず窓から身を乗り出した。
鼻を塩の香りがくすぐる。
長旅の果に、僕らはようやく目的地へ辿りつつあるのだ。
胸の高鳴りは増すばかりだった。
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「おい……」
隣に立つメテムが仏頂面をしながら(顔が見えないが間違いない)呟く。
僕はそれに対して何も言えず立ちすくむ。
「おい……ユウキ……」
そんな死者をいたぶる様にメテムの問いかけは止まらない。
僕は黙っていた。
「おい……ユウキ……お前これ、一体何の冗談だ?」
冗談。
メテムが言う冗談とは、まさに目の前の光景を指していた。
僕らは今ウユニ塩湖のど真ん中にいる。
塩湖真ん中に佇む塩でできたホテル「プラヤ・ブランカ」にたどり着いたのだ。
そして目の前にはウユニ塩湖が広がっている。
そう、雨が降り注いだ後の鏡張りになった幻想的なウユニ塩湖ではなく、雨が降らず砂塵で茶色くなった塩が全面に広がったウユニ塩湖が、だ。
「メテム、残念だけど良く聞いて欲しい」
ガイドから事情を聞いた僕はそう切り出した。
「残念だけども何も、聞かなくても分かる。どう考えてもここ最近雨降ってないだろ」
「うん、そうらしいんだよね。近年稀に見るほど雨が降って無くて、ガイドの人も困ってるんだってさ……」
「お前ね、あのな、お前が全面鏡張りの湖があるっつーから、こんな糞田舎まで来たんだぞ。イースター島からこっち何回飛行機乗り継いだと思ってんだよ。高山病のリスクを冒して、そしてバスで十時間揺られ。どういうことなんだよ」
「うぅ……もうただただ絶望しか無いね」
「まさに絶望しか無い……」
そう言いながらメテムは魔法書で顔を覆った。
それを見ながら僕はとっさに声を出した。
「そうだ、メテム!」
僕があまりに明るく大きい声を出すからメテムは思わずこちらを見上げた。
「ん、どうした?」
「魔法だよ! メテム、魔法があるじゃない」
「魔法? 確かにあるけど?」
「水だよ! 水ぐらい出せるでしょ!」
「確かにアクアっつー水をだす魔法はあるけどさ……。でもこの魔法、お前が想像しているようなものじゃ……」
「それだ――――」
メテムのセリフを遮り、僕の叫び声が辺りに轟く。
そんな僕を見て、メテムは観念したように右手を空中に上げた。
それから左手で呪文書を持ちブツブツと呪文を呟く。
おそらくメテムの右手が光り、辺り一面水の世界になるのだろう。
ワクワクしているとメテムの透き通った声が響いた。
「アクア!」
すると、掲げたメテムの右手から水鉄砲のような水がピューと勢い良く飛び出した。
「おぉ!」
思わず感嘆の声を上げてしまう。
そしてその飛び出た水は果たしてどのように塩湖を埋めるのか。
期待して様子を見守った数秒後、その水は勢いをなくし、メテムの手の中へと消えていくのだった……。
「……あのな、ユウキ。この魔法はお前が想像しているものじゃない。モンスターを倒す時に使う魔法なんだよ。こんな所埋められないって」
気落ちしている僕に話しかけるメテムの声が、虚しく消えていった。
立ち直れないでいる僕を尻目に、メテムはホテルの中へと向かっていった。
そうなると、流石にメテムを一人にするわけにはいかず、僕も腰を上げざるを得ない。
改めてホテルを遠巻きに眺める。
ウユニ塩湖中央に浮かぶ塩のホテル「プラヤ・ブランカ」は、ホテルというよりは精々言って民宿に近い。
平屋で、塩でできているからか壁が白い。
聞いた所によると、あまり快適に過ごすには向いてないそうだ。
「おい、ユウキ」
中からメテムの声が聞こえる。
僕はチェックインをする為に中へ入った。
プラヤ・ブランカの中は、外壁同様白い塩でできていた。
椅子を触ってみても、ザラッとした手触りだ。
流石に舐めることはしないが、仮に舐めたとしたら多分塩の味がするんだろう。
受付のスタッフに話をしチェックインをする。
曰く、電気やガスは当然無い、トイレも真っ暗だから夜はライトをもっていけ。
そして夕飯は夜七時で、それ以外は一切フリー。
宿泊客は僕とメテムだけとの事。
「一切フリータイムっつっても、お前、ここで何しろってんだ?」
後ろで悪態をつくメテムにヒヤッとしながら、僕はチェックインを済ませた。
荷物を置くために部屋へと向かう。
部屋はトリプルベッドが置かれ、結構広い。
ベッドの座り心地的に硬かったので、これも塩でできているんだろう。
ありがたいことに毛布が沢山敷かれていたので、寒いということは無さそうだ。
荷物を床に下ろすと、僕はすぐにメテムを連れて外へ出た。
「いやしかし、本当になにもないな」
塩湖を前にメテムが言った。
確かに見渡す限り塩しかない(茶色くなっていたが)。
これが鏡張りだったらどれだけ綺麗だったろうか。
どうしてもそれだけは思わざるを得ない。
本当に残念だ。
気落ちしながらもホテルをグルッと回る。
すると反対側の方面に変なオブジェがあるのに気がついた。
すこし台のような形で、何かが刺さっている。
「メテム、なんだろう、あれ」
不思議に思ってメテムの手を連れて近づいてみる。
どうやらそれは各国の国旗が突き刺さった台座だった。
記念に誰かが設立したのだろうか。
不思議に思いながらも眺めていると、国旗の中から見覚えのある日の丸を見つける。
「メテム、みてー。日本もあるよー」
そう言いながら誇らしげに指し示した。
が、当のメテムはあまり興味がない様だった。
「メテムーメテムー」
なんとか空元気を出して台座に登り、国旗をヒラヒラと振ったが、返ってきたのは冷ややかな目線だった。
「せめてさ、美味しいものでも食べれたら良いね」
ホテルの外、塩湖の上に設置された椅子に座りながら僕はメテムに言った。
しかしメテムからは反応がない。
眼前に広がる塩湖(しつこいようだが茶色い)を見ながらじっとしている。
「いやほら、ホテル的に期待できないかもだけど、もしかしたら塩を使った特別料理とか出るかもしれないよ」
するとメテムが視線を動かさず口を開けた。
「はぁ……塩ねえ……。お前、このホテルでまじで期待できると思ってるの?」
確かにどう考えてもこのホテルには文明の香りがしない。
しかし何とか繕わなければ間が持たない。
しどろもどろになりながら答える。
「いやほら、分かんないじゃん。もしかしたら塩のさ、ほら、ドーム状の塩の中に魚が入ってる料理あるじゃん。そういうのが……」
「そう言ったからには責任もてよ……」
「うぅ……」
頭を抱える僕だった。
「本日の料理は、塩パスタと塩スープ、メインはコンビーフになります」
そう笑顔のウェイターが差し出した料理を前に、僕は思わず身がこわばった。
お分かりだろうか。
手前の皿にはスープ、いや正確に言うとお湯が入っている。
色はもちろん透明で、具らしきものは何一つ浮かんでいない。
おそらく塩しか入っていないんだろう。
そして奥の皿には素パスタがある。
文字通り、茹でただけの素パスタだ。
添えつけられているコンビーフは、確実に缶詰のコンビーフだ。
「こ……これは……」
まさかまさか、ある程度は覚悟していたが、これほどの料理が出てくるとは思えなかった。
想定の範囲外、というやつだ。
まさに衝撃的と言っても良いだろう。
が、じっとしていても仕方ない。
何かを言わなければ。
そう焦る僕に一つの考えが浮かんだ。
「分かった。メテム。これ、ウユニ塩湖で取れた塩を使ってるんだ。だから塩の味を堪能するべくこのレシピにしてるんだよ!」
我発見せり、と言わんばかりに得意顔でメテムを見たが、明らかに疑っているような冷ややかな視線を浮かべていた。
何とかウェイターに救いを求めて顔を向ける。
と、申し訳ない顔をしながら僕にこう伝えた。
「それ、町で買ってきた普通のブラジル産の塩だよ」
「あのな、だから言ったんだよ。こんなホテルに何を期待するんだって」
目の前で憤慨するメテム。
「つーかな、この外観でどうやったら魚の塩窯焼きが出てくると思うんだ? さっき言ってたろ、電気も無い、ガスも無いって。バスは一日一度来るってか。ったく……」
はちきれんばかりに怒るメテムに、僕はただただ黙ってスープ(というか塩湯)を口に入れる。
味はもちろん塩の味しかしない。
そこには出汁はおろか調味料の味すら存在しなかった。
前回のグルメ旅行を思い出すと、そのあまりの落差に辛くなってくる。
グルメなメテムも辛いだろうな。
そう思って視線を移すと、何やら魔法書を取り出していた。
何の魔法を使うのだろう。
不思議に思ったが、そう言えば便利な魔法があるのを思い出した。
「あ! そうだ! メテムにはクリエイトフードがあるじゃん! やったよ、メテム!」
喜々として話しかけると、メテムは鼻を「フンッ」とならした。
「あたりまえだろ、私を誰だと思ってるんだ。……ったく、こんなもんばっか食べてられるか」
そう言うとメテムは魔法書を開き、モニョモニョと呪文を口にした。
「クリエイトフード」
詠唱が終わると目の前に光が現れる。
毎度の光景だ。
そして光が収束すると、中から葡萄がポンッと出てきてテーブルの上に落ちた。
「お――――、葡萄だ! やったよ、メテム。味のあるものだ!」
そう言うと、メテムは得意げな顔を見せる。
「ふふ、任せろ。次はハムをだすぞ」
そう言うとまた呪文を唱える。
そして光が出て収束すると、机の上にはまた葡萄が落ちた。
「ま、また、葡萄だ! まあでもこれで一人一個になるね」
「よし、次、ハムかソーセージかチキンだすぞ。このチキン美味いんだからな」
そう得意げに言うメテム。
美味しいチキンを想像しながら光の収束を待ったが、机の上にはまたしても葡萄が現れた。
「ぶ、葡萄だ……」
目の前に三つの葡萄が並び、メテムも予想外だったのか声が出ない。
それでもめげずにメテムは詠唱を続けた。
光が出て消える、光が出て消える。
しかし相変わらず出てくるのは紫の粒が実る葡萄ばかりだった。
「……お前、それ、何とか処理しろよ」
大量に積まれた葡萄の山を前に、仏頂面のメテムが僕に言う。
「処理ってどうしろと……」
「知らないよ、お前がクリエイトフードっつーから出したんだろ。そこら辺の客にでも配ってこいよ」
「客って……」
がらんどうの食堂(というか唯一の空間)を前に、僕は黙って座り続けるのだった。
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「メテム、怒ってる?」
ベッドで横になりながら、僕は隣で休んでいるメテムに話しかけた。
「……別に」
こちらを振り向きもしないで答える。
「まあさ、長く旅を続けてると、こういうこともあるよ」
「だから怒ってないってば」
僕は机に置かれた大量の葡萄を手にもった。
そして窓から外を眺める。
富士山よりも高い位置にあるからか、星がとてもキレイだ。
「そうだ、メテム!」
僕は喜々としてメテムに話しかけた。
「部屋にいても仕方ないからさ、星を眺めに行こうよ! 二人分毛布もっていくからさ!」
そう言うと僕はベッドを飛び降り、メテムの体を起こした。
「うわー綺麗だねえ」
頭上に浮かぶ満天の星空を見上げ、僕は横にいるメテムに話しかけた。
「ん」
軽く返事をするメテム。
「メテムのいた世界でも星空ってあったんでしょ?」
「そりゃ、星ぐらいあるさ」
「どんな感じだった? 見たことある星座はある?」
「ん、そう言われてみれば無いな。一応占星術も知識として知ってるんだけど、どの星座も知らないものばかりだ」
「星座もあるの?」
「あるさ、スライム座とか三叉龍座とか」
「……凄いのがあるんだね」
「まあでも、この世界の星も綺麗だな」
「そうだね。標高が高いし、周りに明かりが何一つないからね」
「お前のいた国じゃこんな透きとおった空はなかなかみれないからなあ」
「まあ日本も田舎に行ったらあるとは思うけど、流石に都内じゃあねえ」
「やれやれだよ」
そう言うとメテムは地べたに座った。
「寒い? 毛布いる?」
僕がそう聞くと、メテムは軽く横に首を振った。
安心して僕も横隣に腰を下ろす。
「まあこういうハプニングもたまにはいいね」
「ん」
「ほら、今まで順調すぎたじゃないの。すべてが上手くいくわけないしさ」
「順調って、どこかの誰かさん、インドで汚物投げつけられてたけどな」
「うぅ……また突かれたくないところをピンポイントで……」
「あっは」
僕が凹んでるのとは真逆にメテムは頭上を眺めながら楽しそうに笑った。
「でもさ」
「ん?」
「君とこういう旅ができて本当に良かったよ」
「そりゃ嬉しい。私も遥々世界を跨いで来た甲斐があったよ」
「メテムの世界から来るのって大変?」
「そりゃそうさ、次元の狭間を通って、細い細い魔力の波を辿って来たからな」
「いつか君の世界にも行ってみたいな」
「アイナトリーへ?」
「アイナトリー?」
「ああ、私の世界の名前。まあ良いとこだから、いつか呼んでやるよ」
「え? 本当?」
「うん、この世界を堪能した後な。でも向こうの連中驚くだろうな。私が男連れてきたら」
「あっは、向こうの君がどんなポジションなのか想像がつくよ。驚くだろうね」
メテムは向こうでもこんな竹を割ったような性格をしているんだろう。
男の匂いを一つもせずマイペースで生きている様子が目に浮かぶ。
想像するだけで笑みがこぼれてきた。
「この後のスケジュールはどんな感じなんだっけか」
「次はね、ブラジルって国かな。肉が美味しい国だよ」
「ほうほう、何があるの?」
「うーん、大きい滝がある」
「滝?」
「うん」
「どんな滝? 裏にダンジョンでも隠されてるの?」
「いや、ただ単に滝があるだけ。でも世界三大瀑布の一つで本当に大きいらしいよ」
「ふーん」
「あ、あまり興味なさそうだね……」
「まあとりあえず行ってみるか。どれほどの大きさか確かめてみたい」
「メテム、ヘリコプターに乗ろうよ」
「ああ、あの空飛ぶ小さな乗り物か。良いね、楽しみにしておく」
そう言うとメテムは胸に抱えていた膝を一層抱きしめた。
寒いのだろうか。
僕はメテムの隣に近づき、毛布をかけた。
そしてメテムの腕を引き寄せる。
星空満点の世界で二人きり。
辺りには明かり一つつかず、邪魔するものは何もない
鏡は見れなかったけれど、こういう貴重な時間も悪くないな。
「……ユウキ」
「ん?」
僕がロマンティックな気分に浸っていると、メテムが腕をつまんだ。
「水を差すようでなんだけど、私あんま寒いわけじゃないぞ?」
「そうなの?」
「常に魔力で全身を覆ってるから、いつでも適温でキープされてるんだよ」
「え? 今までずっと?」
「うん。当たり前だろ。じゃなきゃこんな恰好でいられるかっつの」
「……今まで知らなかった」
「あっは。すまんね、ロマンティックじゃなくて」
「……君のアイナトリーでの生活スタイルがなんとなく分かるよ……」
「はっはっは」
メテムの甲高い笑い声が、遮るものがない塩湖に響いた。
--
「おふた方、目の前に広がるのが塩湖自慢のフラミンゴの群れでございます」
寝ぼけ眼の僕達に、自信たっぷりにガイドが声を上げた。
「……フラミンゴの……なんだって?」
メテムが聞き返す。
「群れでございます」
ガイドが答える。
「群れ?」
メテムが更に聞き返す。
「群れ」
ガイドが勢い良く頷く。
「これが?」
メテムが指差す。
「はい」
ガイドが頷く。
これ以上続けても埒が明かないと思ったのか、メテムは僕の方を振り返った。
「ユウキ……」
「うん……」
「このガイド、目が見えないのかな」
「あれだよ、物理的には見えてるけれど、現実は見えてないんだろうね」
「そういうタイプなんだろうなあ……」
僕らの目の前には確かにフラミンゴがいる。
その数、わずか三匹程度。
塩湖でやる気なさそうに立っているだけだ。
流石に気まずいのだろう。
ガイドが申し訳なさそうに口を挟んだ。
「お客さん、今年はね、雨が降ってないからフラミンゴいないのよ、ごめんね……ごめんね……」
そう言うと辺りに沈黙が漂った。
「ま、まあ、こういう国もあったということで……」
何故か僕も申し訳なさそうに言う。
「……はぁ……まあもういいや。ユウキ、次の国はどこだっけ」
「次? ブラジルだよ」
「肉が美味しいんだよな?」
「美味しいよ! ついでに寿司もあるよ!」
「よっしゃっしゃ、肉食べよう。肉」
空元気かも知れないがメテムは勢い良く体を伸ばした。
「私は肉を食べるぞ――――」
メテムが大空に宣言した声は、どこまでもどこまでも響いた。




