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魔法使いと行く海外旅行  作者: ユウキ
中欧・東欧編
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29/48

カルボナーラ

「ユウキ……」


 目の前ではメテムが仏頂面をして座っている。その手元にあるのは、一切れのパンだ。


「これさ、ええとなんだっけ、ブランスタッタ?」


 メテムはパンの端をつまみながら言った。


「ブルスケッタ」


 メテムに答える僕。


「そうそう、それ。でさ、これはさ、単なるガーリックパンじゃない?」


「そんなことないよ」


「いや、そんなことあるだろ。単にパンにガーリック塗り込んでるだけだぞ」


「いやほら、オリーブオイルもかかってるじゃん……」


「うーん……」


 メテムは頬を膨らまし、さらに輪をかけてふてくされた表情にした。



 僕たちは今、世界最大の食の宝庫、イタリアはローマにいる。

 ボスニア・ヘルツェゴビナを離れた後、ドゥブロヴニクに一旦戻り、それから空路でローマへと入ったのだ。

 そして適当なホテルに潜り込んだ後、早速グルメタイムとなったわけ。

 ホテルのフロントにオススメのレストランを聞く。

 するとホテルより程近い場所にある「ラ・カルボナーラ」というお店を教えてもらった。

 店名の通りカルボナーラが売りのようだ。

 クリームっぽい味付けが大好きな僕たちはまっさきに向かった。


 オシャレな街並みを教えられた方に向かう。

 流石中欧の名国イタリアとあって、ただ歩いているだけで気持ちが良い。

 大理石で出来た建物に、石畳の通路。

 そして東欧には見られない時折ある花壇が彩った。

 しばらく歩いていると、店があるであろう場所に人だかりが見えてきた。

 人気店と聞いていたから、おそらくここが「ラ・カルボナーラ」なのだろう。

 人混みをかきわけながらこじんまりとした門構えをくぐると、中には雰囲気の良い店内が広がっていた。

 席に案内され早速メニューを見せてもらうと、日本でもポピュラーな品名が並ぶ。

 ペペロンチーノにラザニア、クアトロフォルマッジョにマルゲリータ等だ。

 色々と悩んだ末に僕たちが頼んだのは「ブルスケッタ」「カプレーゼ」「カルボナーラ」だ。


 雑談をしながら待っていると、最初に運ばれてきたのが件のパン、ブルスケッタというわけだ。


挿絵(By みてみん)


 パッと見る限り、確かにメテムが文句を言うのも分かるっちゃ分かる。

 ただ皿に焼けたパンが置かれていただけだからだ。

 でも注意して香ると確かにガーリックが効いていた。

 そしてそれを口に運ぶと、ガーリックの強い味と、そしてそれをまろやかにするべくオリーブオイルが染み込んでいるのが分かった。


「メテム、これいけるよ」


 僕は少しテンションを上げてメテムに言った。


「うーん、美味しいのは分かるんだけど、そもそも想像していたものと全然違うことに問題があるんだよ。おまえさ、ブルスケッタって確かガーリックが効いてて、さらにダイスカットされたトマトが沢山乗ってるパンって言わなかったか?」


「ギクッ」


「でもさ、蓋あけてみりゃ、これ単にガーリックが塗られたパンじゃない?」


「ま、まあ、これもブルスケッタと言うみたいで……」


「やれやれ」


 メテムの表情に戦々恐々していると次の皿が運ばれてきた。

 鮮やかな赤いトマトと、コントラストに映える白いモッツァレラチーズ。それにオリーブオイルがかけられた、カプレーゼだ。

 周りにはバルサミコソースまでかけられている。


挿絵(By みてみん)


「お、これはなかなか良さそう」


 カプレーゼを見るなりメテムが顔を明るくした。


「そうだね、これは期待できそう」


 僕も嬉しそうに答える。


「これさ、このまま食べるの? 塩か何かかけるのかな」


「いやもう、かかってるんじゃない?」


「そかそか」


「あ、でもね……」


「ん?」


「これ、トマトとチーズ、両方同時に食べる料理だから気をつけてね」


「そりゃそうに決まってるだろ。同じ枚数のトマトとチーズが交互に並んでたら、どんな阿呆だって普通同時に食べると思うぞ」


「……」


 メテムは可愛げのない事を言いながら、器用にナイフとフォークで自分の皿へ何枚かのトマトとチーズを運んだ。

 そしてそれを口に運ぶ。


「う……」


 メテムの口から瞬間的に吐息が漏れる。

 この旅ではお馴染みの光景だ。


「う?」


 良いのか悪いのか。

 経過を見守っている僕。

 すると……。


「旨い!」


 一気に破顔の笑みが浮かんだ。


「ユウキ、これいけるじゃないの。トマトがさ、外はしっかり固くてそれでいて中の果肉が瑞々しい。一緒に食べるこのなんちゃらチーズがまた弾力があって口の中でアクセントになってるのよ。味わいも乳のエキスが染み出てくる美味しさ。それが同時に口の中で一つになるともうなんと表現したら良いのやら……」


「わ、わかった、わかったよ。メテム。そんな気に入ってくれて良かった。いや本当に」


 僕はホッとしながらメテムに言った。

 冗談抜きで、メテムが気に入って機嫌が直ったのは嬉しい。


「うん、これ気に入った。というかこれだけじゃ足りん!」


 そう言うとメテムは皿に残っていたカプレーゼの大半を自分の皿に持っていった。


「ちょ、メテム。僕食べてないんだけど……」


「何言ってんだ、一切れ残ってるだろ、皿に」


 と、申し訳ない程度に一セット残ってるカプレーゼを指すのだった……。


 カプレーゼを食べた後(というかメテムが大半食べた)、いよいよメインのカルボナーラの出番だ。


「メテム、メテム」


「ん?」


「カルボナーラだって」


「あのクリーミーなやつね。日本でも食べたけど、あれは旨かったなあ」


「でさ、本場のカルボナーラって日本のものとはちょっと違うんだよ」


「らしいね。なにやら生クリームを使わないんだっけ?」


「そそ、卵で味付けしてるみたい。で、このお店のカルボナーラは、店名の通り看板料理になってるみたいなんだよね」


「まあ楽しみなこった」


 そんな感じで楽しみに待っていると、ウェイターが仰々しく大皿を持ってきてテーブルに置いた。

 途端に辺り一面に広がるチーズの香り。


「うわー、良い匂い」


 思わずメテムが声を上げる。

 時折見せる年齢相応の可愛らしい仕草だ。

 それを見るのが楽しみの一つではあるんだけれど、それを言うと怒るだろうし、言わないほうが良いだろう。


「そうだね。よし、熱いうちに食べよう」


 そう言うと僕は二人の皿にカルボナーラを分けた。


挿絵(By みてみん)


 改めて眺めるカルボナーラは、確かに日本のカルボナーラより何というか水っ気が無いように見える。

 まあ生クリームを一切使ってないので当たり前か。

 そしてこちらも当たり前だが、卵の色が強く映っている。

 申し訳ない程度に入っているベーコンもまたカリカリに焼いてるようで美味しそうだ。

 その強烈に味覚を刺激する匂いに我慢できず、僕はカルボナーラを口に運んだ。

 ……途端に広がったのは、圧倒的な卵黄の味。そしてネットリとまとわりつく麺。


「ユウキ……」


 顔をメテムに向けると、そこには何とも言えない顔をしたメテムがいた。


「うーん……」


 僕もとっさに呻いた。


「分かる、分かるんだよ。言いたいことは。でも、でも、何というかコレジャナイ感が凄いというか」


「そうだねえ、メテム」


「いや本当に言いたいことは分かるし、むしろ本場のイタリアが出すこっちのほうが正しいカルボナーラだってことは理解できるんだけど、私が求めてるのはもっとこう滑らかなものであって……」


 そう、メテムが言いたいことは凄く分かる。

 このカルボナーラ、決して不味くはないのだ。

 卵黄がネットリと効いていて、その上にチーズが溶けているもんだからもう濃厚そのもの。

 ベーコンの塩気もまたよい按配になっている。

 美味しいかどうかと言われれば美味しいと答えても良いレベルだ。

 でも、でも、残念ながらこれは僕らがイメージしたカルボナーラじゃ無い……。

 これじゃないんだ、もう少し滑らかでそれでいてコクのあるものが食べたかったんだ……。


 すっかりテンションが落ちた僕たちは、それから黙々とカルボナーラを口に収め、お店を後にしたのだった。


「なんかまだ口がモニョモニョする」


 メテムが口を膨らましながら呟いた。


「あー分かる。卵がまとわりついてる感じがするね」


「うん、そうそう……」


「ま、イタリアは他にも見どころあるし、美味しいものだって沢山あるさ。次行こう、次」


 そう言うと僕はメテムの手を握り、石畳の上を滑るようにしてホテルへと戻った

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