エピローグ
「うひゃー 眺めがいいねえ」
メテムが気分よく声をあげる。
「ユウキ、こういうさ、平和な雰囲気も悪くはないね」
「そうだねえ」
僕もユラユラしながら相槌を打つ。
メテムが言うように目の前は湖が広がっていて眺めが良い。
辺りには騒音もないし、時間がゆっくりと経過するのが分かる。
そしてもっと雰囲気を出しているのが、今乗ってる物。
象だ。
「象ってさ、こんなにゆっくり歩くもんなんだねえ」
「そうだね、しかも籠がついてるから乗り心地も抜群だし、牧歌なもんだよ」
そう言って僕は籠についてきたクッションに体を沈めた。
「何というか、ユウキアレだね、アレ」
「アレ?」
「象はいい象、なんちゃって」
「……」
「おい、なんだそのリアクションは」
すぐにメテムの拳が頭に降り注ぐ。
……痛い。
「まあさ、ユウキ、終わってみたらこの旅、悪くなかったねえ」
「そうだねえ」
「色んな事があったね」
「うんうん」
「誰かさんはさ、うんこ投げつけられるし」
ぐさっ、コンノートプレイスの思い出が胸をよぎる。
「そういうさ、古傷をえぐるようなこと言わないでよ」
キシシ、とメテムが笑う。
「でも残念ながらメテムの場所は見つからなかったね」
僕がそう言うとメテムは急に真面目な顔になった。
「そうだね。まあそう簡単に見つかるとは思ってもないけどさ。何年も世界を放浪して見つかればいいかな、みたいな」
「まあね、人生かけて見つけていけばいいか」
「そうそう、今見つからないってのは、まだその時でもないのかもしれない。場所が私を招いてないというか、もしかしたらガンジス川がそうなのかもしれないけど今は感じ取れないとか」
「そんなこともあるの?」
「わからないけど、それだけ心に直結した場所だってこと。まあ焦らないで探してみよう」
そう言うとメテムは表情を崩した。
「しかし次はどこ行こうかね」
「んー、ヨーロッパとか?」
「ああ、街の雰囲気もそうだし文化的水準がとても高いってとこか。一度は行ってみたいな」
「そうか、メテムは当然ヨーロッパを知らないのか。あそこは文化もそうだし、食べ物もめちゃ美味しいよ」
「え、ほんと?」
「うん。ノルウェーでサーモン食べて、スウェーデンでミートボール食べるの」
「美味しそう美味しそう」
「後は酪農王国オランダでチーズ食べたいなあ」
「んじゃ、次はヨーロッパとやらでグルメツアーだ」
「素敵な響きじゃないの! 帰ったらすぐ予定組もう!」
「やったー!」
そう言うと僕の心はすでに此処にあらず、遠いヨーロッパの方へと向かっていた。
サーモンにミートボール、それにチーズだなんて大歓迎だ。
向こうは芸術品や世界遺産も見どころ十分だし。
空を見上げる。
この空は広い。
空繋がりで続いている世界に、まだ見ぬ世界遺産があるなら、死ぬまでに全て見てやろうじゃないの。
「何考えてんの?」
気づくとメテムがこちらを見ていた。
「なんでもないよ、君と世界を回るのは素敵だな、って思ってたとこ」
「ふふ、世界中見てやろうな」
「勿論! 旅はまだ始まったばかりだよ!」
そう言うと僕たちは腕を絡ませて空を覗き込んだ。




