第三十一話
すいません。更新したと思ってたら更新されていませんでした。
朦朧とする意識の中俺は誰かが呼ぶ声で目を覚ます。
「久しぶり。真」
俺が眼を開けると目の前に紗姫がいた。白い世界にただ一人変わる事のない光を反射する艶のある黒髪を腰まで伸ばし、リボンを二つ括った髪型。伏し目がちに開かれた瞳、常に微笑を絶やさぬ口元、周囲の空気を和やかに、そして優しい気持ちにする雰囲気。だがそこに弱さはなく芯の部分では曲がる事のない強さを秘めているそんな少女。
「ごめんね。こんな世界に巻き込んじゃって」
苦笑する紗姫。その言葉には自分を非難する響きもあった
「その事はどうでもいい。それよりこれはどういうことだ? お前は確か仮死状態のはずだろ?」
「うん、そうだね。これは真が見てる夢みたいなもの。君の中に残した私の魔力と真にあげた本があるでしょ『一欠けらの奇跡』」
「ああ、だが俺もあの本は何回も読んだが別段変わった事はなかったように思うが……」
俺が持っていた『一欠けらの奇跡』あれが紗姫の物だと気付いたのは記憶を取り戻してしばらくしてからの事だった。
「あの本にね魔法文字でいたるところに魔法術式を書いておいたんだ。私の魔力に反応して魔法が発動するように細工したの。で、その結果が今の状況だよ」
「つまり今話している紗姫は魔法で再現されているってことか」
「そうプログラムみたいなもの。ごめんなさい。久しぶりの再会がこんな偽物で」
「いやそれでも俺は嬉しんだが……だがなぜ魔法文字を記した本を俺に渡せた。俺達があの時巻き込まれたのは偶然じゃなかったのか?」
「ううん。真達が巻き込まれたのは確かに偶然。だけど私があれに襲われるのは予定調和だったんだよ。もちろん私もあれを返り打ちにしてまたあなた達と過ごす日常として戻るはずだった。だけど未来に確実なんてものはない。だから私は保険として真にあの本を渡し、あれにやられる前に二人に魔力を残したの。苦肉の策だったけどね」
「あの不気味な化物……あれは一体何なんだ!?」
「あれはこっちであってこっちでなくまた向こうであって向こうでないそんな奴。私は便宜的に〝狭間の住人〟って呼んでるけど詳しい事は私にも全然」
首を横に振る。
「リンカ達は知っているのか?」
「知らないよ。知ってほしくなかったから」
「何で! リンカ達の力を借りれば紗姫があんな事になることもなかったはずじゃないか!」
「あれは私の問題なのよ。だからリンカ達に迷惑をかけるわけにはいかない」
「だがリンカ達は自分達の力が及ばなかったせいで紗姫を助けられなかったって自分を責めているぞ!」
「それでも……ね」
苦笑する紗姫。俺達の前では絶対に見せない弱さを含んだそんな笑み。
「なんか理由があるのか? 俺にも言えないようなことなのか?」
「うん言えない。それにここでの事は忘れちゃうからね」
「忘れる?」
「ここで私と話した事は忘れる。内容も全部」
「なんで! 俺はまた紗姫の事を忘れたくない!」
「ありがとう。私のこと大事に思ってくれて。だけど覚えてたらまた真が辛くなる。だからちゃんとした再会は真が私を取り戻してくれてからね」
「分かった……約束する。必ずお前を取り戻す!」
「お願いします。それでね。私は伝えたかった事があって出てきたの」
「伝えたいこと?」
「そ。真、覚悟を決めたら私を呼んで。紗姫って呼んで。そうすれば私はあなたの隣で支えてあげるから」
俺と紗姫の間に短い沈黙が降りる。紗姫にはいっぱい聞きたい事や言いたい事があったのに口を開く事ができない。
「あ、そろそろ起きる時間だよ。由香梨とリンカ達と一緒に頑張りなさい。応援してるからね」
霞んでいく紗姫の体、俺は紗姫に手を伸ばそうとするが、体は答えてくれない。俺はもう一度心の中で決意する。必ず紗姫を取り戻すと……
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