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一欠片の軌跡  作者: 皇 欠
三章~立ちはだかる真実、隣にいる仲間~
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第二十五話

第三章始まります。

「凄かったね。だけど皆いい人達で良かったよ」

「そうだな。もっと陰鬱したとこだと思ったけど、バカみたいに騒がしかったし、何より俺自身が楽しかった」


学校に転移した元の公園に戻ってきたのはすでに日が沈みかけ赤に染まる綺麗な夕暮れ時だった。いつもの帰り道を歩いてる俺達が話題にする話はもちろんクラスの皆や今日体験した出来事の事だ。


「確かに真自然に笑えてたよね」

「……顔に出てた?」


俺は自分の顔を撫でながら由香梨に聞いてみる。


「なんとなくだよ。だけど当たってるでしょ」

「まぁそうなんだけどさ」

「やっぱりね」


ふふっと笑う由香梨。


「委員長もね。真は自分の気持ち隠すのうまいけど隠しきれないタイプでしょって見抜いてたよ」

「うぐっいつの間にそんな話したんだよ」

「秘密」


―――そんなに分かりやすいか俺?


「うん」

「いや、さらっと心読むなよ」

「だから真は隠しきれてないってば」


ハハハと声を出して二人で笑いあう、いつもの様に向こうの世界を知らなかったときと同じように笑いあえる。そんな変わらない俺達。

本当ならもう一人ここに紗姫がいるはずなのに今はいない。二年前までは由香梨が明るく話題を振り、それに紗姫が静かに相槌と巧みに話題を広げていき、そんな二人の会話に俺が突っ込み、由香梨を赤くさせたり、笑いを生んだり、イジメ過ぎた俺を紗姫が窘めたりそんな当たり前の光景はたった一人欠けただけで空虚な気分に満ち、その時間がどれだけ大事でどれだけ至福な一時だったのか痛感させられる。そんな事を考えていたからだろう由香梨が不安そうな顔で俺の顔を覗きこんできた。


「紗姫の事考えてるよね?」

「ああ……こんな風に他愛ない話を由香梨としてるとどうしても思い出しちまってな……」

「二年……私達が紗姫の事を忘れてた期間。本当なら紗姫とも一緒に修学旅行に行って楽しんだり、高校

受験で苦しんだり、卒業式で泣いたり、今も一緒に帰る事が出来たんだよね」


由香梨は足元から伸びる影を見つめながら沈痛な面持ちで呟いている。俺は努めて明るく言いながら由香梨に話しかける。


「でもさ。まだ取り戻せるだろう。さっさと紗姫を起こしてあの騒がしいクラスでさ。今日みたいにリンカのスパルタ授業を受けながら笑いあって二年なんて時間を忘れるくらい騒いで思い出を作っていけばいいと俺は思う」


俺の言葉に由香梨は何度も頷き、


「うん、うん、そうだね。そうだよね。そのためにも私達が頑張らなくちゃね!」


胸の前で握られた拳を上下に振り、心の昂りを表現しているようだった。

でも、現実は待ってはくれない。俺の想いも由香梨の気持ちも明日への願いも全て押し流して全てを飲み込んで残酷を突きつける。背筋に悪寒が走る。体がそれ自体を拒絶するように。それ自体が俺という一つの個を否定するように。そんな言いようのない吐き気すら催してしまいそうなそんな感覚。そして世界は夕暮れの赤よりもより冷たい(あか)に色付き姿を変える。


「真……」


震える声で呼びかける由香梨、さっきまでの姿もなりを潜め必死に足を踏みしめて負けないようにしている。なら俺だってこんなのに負けるわけにはいかない。


「行くぞ由香梨。まだ俺達じゃどんなに弱い奴だって勝てない。リンカが言ってたように逃げて救援が来るまでやり過ごすぞ」


何で昨日の今日で来るんだよ。そう悪態をついても仕方ないとは分かっていてもどうしようもない。


「とりあえず隠れる場所を探そう」

「うん」


最初この空間に取りこまれた時は通りの大きい場所で隠れる場所はなかったがここは住宅街、道は狭く入り組んでるため袋小路に迷い込まなければ撒きやすい。だが逆に追い詰められた場合逃げ道がなく窮地に陥りやすいそんな一長一短の場所だからこそ隠れる場所は慎重に選ばないといけないがそんな悠長な時間はないみたいだ。


「マジかよ……」


角から出てきたのは俺達に襲ってきた尻尾だけが蛇になっている異形の化物(モンスター)。その化物は血の様に赤に染まった空に向かって天高く咆哮した。


「なんで早すぎる……」

「今は逃げるのが先決だ!」


由香梨の手を引いて来た道を逆に戻り、すぐの角を曲がる。


「あれって私達が最初に会った!?」

「ああ! 〝犬蛇(ヘル)〟リンカのような魔法使いが使う使い魔の中で最もポピュラーな奴だ」




教壇に立ったリンカは手を腰に当て黒板をバンと叩き威厳に満ちた顔で言った。


「いい、逃げるときは魔法使いの動向にも注意を払わなきゃいけないけどその使い魔にも注意しなさい」

「使い魔って小説とか漫画とかで魔法使いが従えてるあの使い魔?」


「そうその使い魔、あんた達を襲った半身が蛇の犬、あれも使い魔よ。低級の使い魔で〝犬蛇〟そこまで脅威になる事はないけど犬の嗅覚と蛇のピット器官を使った策敵能力に優れていて魔法使いはまずこいつらを使って迷い込んだ奴が居ないかを探し出すの。一体一体の力は強くはないけどこいつらに見つかったら素早くそいつを倒しなさい。〝犬蛇〟は遠吠えですぐに仲間を呼ぶ。数で攻めて来られたら対処のしようがないからね。けど今のあなた達じゃ無理だからすぐに逃げなさい」


「だがすぐに仲間を呼ばれて追ってくるんじゃないのか?」


「だからこそ逃げるのよ。その場所に居たら囲まれてしまう。それよりは逃げて時間を稼ぐ方が助かる可能性は高くなるんじゃない?」


「それはそうかもしれないが……」


「まぁとりあえず何が言いたいのかっていうと、生き延びる為にはその場その場で一番最善の方法を探して選びなさい。時には誇りを踏みじられることも想いを否定されることもある戦いもあるでしょう。だけど全てを抑えつけて冷静に行動しなさい。それが生き延びる為に最善を選ぶ方法よ」


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