悪徳商人の会計パニックと、地獄の借金契約
悪徳商人の会計パニックと、地獄の借金契約
「……う、うぅ……頭が痛ぇ……」
ルナミスキング(ルナキン)のボックス席。
度数40度の強烈な芋酒『イモッカ』をストレートで数杯煽らされたゴルド商会会長・オロチは、ズキズキと割れるような頭痛と共に目を覚ました。
「おや、目覚めましたか会長様♡ よくお休みでしたわね」
「あ、ああ……リーザちゃんか。ワシ、ついウトウトしてもうて……」
寝ぼけ眼を擦るオロチの前に、ルナキンの制服を着た店員が、スッと黒いバインダーに挟まれた『伝票』を裏返して置いていった。
「なんや、もうお開きか。しゃあない、ワシのビジネスの話はまた――」
オロチが軽い気持ちで伝票をめくり、その合計金額を見た瞬間。
彼の蛇のような瞳孔が、限界まで見開かれた。
『合計:銀貨15枚と銅貨8枚』
(なっ……なんやこの金額は!? たかがファミレスで、銀貨15枚やと!?)
アナステシア世界において、銀貨15枚といえば庶民の約一ヶ月分の生活費に相当する。
原因は明らかだった。泥酔したオロチの隣で、リーザが『ハンバーグ・ルナミス風トリプルサイズ』をさらに五人前、高級スイーツ全種盛り、さらにはイモッカの最高級ボトルを勝手に追加注文し、ブラックホールのような胃袋へ消し去っていたのだ。
「フフッ、会長様のおごりですもの! 遠慮なくいただいちゃいましたわ♡」
「お、おう……! が、がはははっ! これくらい、ゴルド商会の会長であるワシからすれば、路傍の石っころみたいなもんや! 任せときなはれ!」
オロチは冷や汗をかきながらも、大物ぶって見栄を張った。
実際、彼の分厚いワニ革のセカンドバッグには、金貨が数十枚(数百万円相当)はギッシリと詰まっていたはずだ。銀貨15枚など、痛くも痒くもない。
「ほれ、釣りは要らんで!」
オロチは豪快にセカンドバッグのファスナーを開け、手をつっこんだ。
――ガサッ。
オロチの指先が、バッグの『底』に直接触れた。
「……ん?」
オロチはバッグの中を覗き込んだ。
空っぽだった。
ぎっしり詰まっていたはずの金貨も、銀貨も、ついでに魔導車のキーを入れた小さなポーチも、何から何まで、文字通り『空間から消滅』していた。
「な、ない……? な、なんやて!? 金が、金が全部消えとるゥゥゥゥッ!?」
オロチが悲鳴を上げ、バッグを逆さにして振るが、ホコリ一つ落ちてこない。
当然である。彼の財産は、リーザのユニークスキル【貧乏神】の『お賽銭箱型掃除機』によって、小一時間前にすべて空間の塵となって強制没収されているのだから。
「ど、どないなっとるんや!? ワシの金が! 盗まれたんか!? いや、ずっと手元に置いとったのに!」
「あれれ〜? 会長様、もしかして……『一文無し』ですかぁ?」
パニックに陥るオロチの耳元で、リーザが小悪魔のような笑顔を浮かべて囁いた。
「も〜、大企業の会長様ともあろうお方が、ファミレスで無銭飲食だなんて。駄目な大人ですねぇ♡」
「ち、違う! ワシはゴルド商会のオロチやぞ! 金は腐るほどあるんや! ただ、たまたま今、手元にないだけで……っ!」
「仕方ありませんわね。……ここは、私の奢りにしてさしあげますわ♡」
リーザは満面の笑みでそう言うと、向かいに座っていた優太のポケットにスッと手を伸ばし、優太の財布から銀貨を二十枚ほど鮮やかに抜き取って、バインダーに挟んだ。
(おい、それ俺の金だろ)という優太の冷ややかな視線を浴びつつも、リーザは「お釣りはチップですわ♡」と店員に渡して会計を終わらせてしまった。
「な、なんやて……ワシが、こんな小娘に、ファミレスの飯を奢られた……?」
オロチはプライドを完全に粉砕され、ワナワナと震えていた。
だが、オロチの地獄はここからが本番だった。
「さて、オロチ会長」
コーヒーカップを置いた優太が、ゆっくりと立ち上がった。
その瞳には、戦術医官としての冷徹な『悪代官』の光が宿っている。
「無銭飲食は俺が(リーザ経由で)立て替えてやったからいいとして。……外の駐車場に停めてある、あんたのド派手な高級魔導車。枠を二つも使って斜めに停めてたな」
「そ、それがどないしたんや! ワシの車は特別製や! 傷でもついたら困るさかい――」
「ルナミス帝国の法律……ならびにルナキンの規約を知らないのか? 『無断駐車、および悪質な枠の不正利用は、罰金として金貨100枚。支払えない場合は、即時奴隷落ち、もしくは強制労働の刑に処す』って書いてあるぞ」
「なっ……!?」
オロチの顔から、一瞬にして血の気が引いた。
優太の言う通り、ルナミス帝国を建国した佐藤太郎は、前世での『コンビニ無断駐車』に対する強い憎しみから、駐車違反に対して異世界でも類を見ないほど極悪なペナルティを法律で定めていたのだ。
「ば、馬鹿な! 金貨100枚やと!? そんなもん、商会に連絡すればすぐ払えるわい! おい、魔導通信石を貸せ! 部下を呼んで……」
「部下を呼ぶ前に、通報を受けたルナミス帝国の警察が飛んでくるぞ」
優太はシークレットホルスターからアメスピを取り出し、カチッと軍用マッチで火を点けた。
青白い煙が、オロチの顔に吹き付けられる。
「考えてもみろ。ゴルド商会の会長が、ファミレスで無銭飲食をした挙句、駐車違反で逮捕・奴隷落ち。……明日のルナミス新聞の一面を飾るには、最高のゴシップ(スキャンダル)だな。商会の株価はストップ安、敵対企業はここぞとばかりにアンタの利権を食い潰しにくるだろうぜ」
「ひぃぃっ……!!」
オロチは想像しただけで背筋が凍りついた。
商売人にとって、信用の失墜は死を意味する。特にオロチのような強引な手段で成り上がった男は、敵が多い。一度でも弱みを見せれば、ハイエナのように群がられ、すべてを奪われる。
「お、脅しや! そんなもん、ワシが……ワシが……」
「キャルル、外の公衆魔導通信機から警察に通報しろ」
「はいっ! 優太さんのためなら、一〇〇番でも一一九番でも喜んで!」
「ま、待てェェェェェェェッ!!」
立ち上がろうとしたキャルルに、オロチは土下座の勢いで頭をテーブルに擦り付けた。
「た、助けてくれえ! ワシが悪かった! あんたらの地球のアイテムを独占しようとしたワシが浅はかやった! 警察沙汰だけは、スキャンダルだけは勘弁してくれぇぇっ!」
完全に屈服した大企業のトップ。
その額に冷や汗をダラダラと流す姿を見て、優太はタバコをくわえたまま、ニヤリと笑った。
「……助けてほしいか?」
「ほ、欲しい! なんでもする! 金なら後でいくらでも払うさかい!」
「金はいらん。俺の『地球のアイテム』が欲しいなら、あんた自身に価値を分からせてやる」
優太は屈み込み、オロチの耳元で悪魔のように囁いた。
「駐車違反の罰金、金貨100枚。ここは俺が、ポケットマネーで店に払って揉み消してやる」
「ほ、ほんまか!? おおきに、おおきにぃ!」
「……ただし。利子は『労働』で返してもらう」
「ろ、労働……?」
「ああ。ポポロ村の豊かな大自然の中で、たっぷりと汗を流してもらう。金貨100枚分の働きを見せるまで、あんたは村から一歩も出られない。……もちろん、部下に連絡するのも禁止だ」
優太の宣告に、オロチは絶望の表情でへたり込んだ。
「ワ、ワシに……ゴルド商会の会長たるこのワシに……土いじりをせえっちゅうんか……」
「嫌なら警察を呼ぶが?」
「やりますぅぅぅっ! なんでもやらせていただきますぅぅぅっ!」
泣き叫びながら契約に同意するオロチ。
その光景を見ていたマンミアは、戦慄して自分の腕をさすった。
(恐ろしい……。五百の死蟲機を消し飛ばした時より、今この時の優太殿の方が、よっぽど恐ろしい悪魔に見えますわ。……でも、そんな冷酷なところも、素敵っ♡)
「よし、商談成立だ。キャルル、こいつをタローマンに連れて行って、一番頑丈な作業着と長靴に着替えさせろ。明日から日の出と共に畑に出す」
「了解です! 逃げようとしたら、顎を砕いてから引きずっていきますね!」
「ヒィィィィィィッ!?」
恐怖に震えるオロチをキャルルが首根っこを掴んで引きずり出していく。
残された優太は、アメスピの煙を深く吐き出し、満足げにコーヒーを飲み干した。
「さて。これで、コンテナの燃料代を稼ぐための『最高のパトロン』の首輪は確保した。あとは、こっちの価値を骨の髄まで分からせるだけだな」
「さすが優太様! 大悪党の顔をしてらっしゃいますわ♡」
リーザが優太の財布をこっそり返しながら、満面の笑みで親指を立てた。
戦う医官の悪知恵と、極貧アイドルの暗躍によって。
大陸屈指の大企業会長は、たった一時間で一文無しの借金奴隷へと叩き落とされたのであった。
ここまで読んでいただき、ありがとうございます!
大企業会長オロチ、痛恨の会計パニックと「ざまぁ」回でした!
リーザの【貧乏神】スキルによる無一文化から、優太の駐車違反をダシにした悪魔の詰め。武力を使わずに強欲な権力者を完全に屈服させる、大人の交渉術(ヤクザの詰め)です。
「ルナキンの駐車ペナルティえぐいw」「優太の悪代官っぷりが最高!」「リーザのちゃっかり具合好き」
と少しでもスッキリしていただけましたら、
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次回、紫のスーツを脱がされたオロチが、ポポロ村の「危険な農作物」相手に地獄の強制労働!
コメディ農作業回をお楽しみに!




