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成金会長オロチ来訪と、極貧人魚の暗躍

成金会長オロチ来訪と、極貧人魚の暗躍

 ポポロ村の24時間ファミレス『ルナミスキング(ルナキン)』。

 昼下がりの穏やかな日差しが差し込む窓際のボックス席で、優太はコーヒーを啜りながら、向かいに座るキャルルとリーザを眺めていた。

「優太さんっ! あーん、ですっ♡」

「だからキャルル、自分で食えるって。それにここは村の皆も見てる公共の場だぞ」

 特製ハンバーグをフォークで差し出してくるヤンデレ村長を優しくたしなめつつ、優太は隣で山盛りのフライドポテトをリスのように頬張る極貧アイドル・リーザに視線を移す。

「リーザ、お前今日でタダ飯何日目だ。そろそろ食費を請求するぞ」

「もきゅっ!? ゆ、優太様、そんな無慈悲なこと言わないでくださいませ! このリーザ、次なる『太客パトロン』が現れた暁には、必ずや恩返しを――」

 リーザがフライドポテトを飲み込みながら弁明しようとした、その時だった。

 キキィィィィィィッ!!

 ファミレスの駐車場の窓ガラスがビリビリと震えるほどの派手なブレーキ音が響き渡った。

 優太たちが窓の外を見ると、そこには漆黒のボディに金色の装飾が施された、悪趣味なほど巨大な魔導高級車(レンタカー仕様)が、駐車枠を二つも使って斜めに停まっていた。

「……随分と態度のデカい客が来たな」

 優太が目を細めた直後、ルナキンの自動ドアが勢いよく開き、カランコロンと入店チャイムが鳴った。

「げっへっへ! ここが噂のポポロ村か! 田舎にしてはええ匂いがしとるやないけ!」

 入ってきたのは、年齢五十絡みの男だった。

 紫色のダボダボのスーツに、極太の純金ネックレス。指にはこれ見よがしに宝石のついた指輪をはめ、髪はポマードでテカテカに撫で付けられている。まるで昭和のパチンコ屋の社長がそのままファンタジー世界に転生してきたかのような、成金全開の男だ。

 その瞳孔は、爬虫類のように縦に細く割れている――『蛇目族』である。

「おっ! おったおった。あんさんが、最近この界隈を騒がせとる『戦術医官』の中村優太はんでんな?」

 男は優太のテーブルを見つけるなり、ずかずかと近づき、無遠慮に優太の隣の席――キャルルが死守しようとしていた席の向かいにドカッと腰を下ろした。

「初対面でいきなり相席とは、ずいぶんと礼儀のなってないオッサンですね。今すぐ顎の骨を粉砕して、外の魔導車の下敷きにしてもいいですか?」

 キャルルが笑顔のまま特注の安全靴を鳴らし、バキバキと指の関節を鳴らす。

 だが、男は全く意に介さず、ギラついた蛇の目で優太を舐め回すように見つめた。

「げっへっへ、怖いお嬢ちゃんやで。ワシは大陸全土に展開する『ゴルド商会』の会長、オロチや。……あんさん、随分と儲かる能力持ってるらしいな。どうや? ワシもそのビジネス、一枚噛ませて貰いまっか?」

 ゴルド商会会長、オロチ。

 ネギオの言っていた通り、食料から兵器までを牛耳る巨大企業のトップが、自ら出向いてきたのだ。

「ビジネス、ね」

 優太はシークレットホルスターからアメスピを取り出そうとしたが、店内禁煙であることを思い出し、コーヒーカップを手に取った。

「あんたが欲しがってるのは、俺が地下ルートに流した『地球の酒』と『葉巻』か? それとも、この村の防衛拠点である『コンテナハウス』の技術か?」

「両方や」

 オロチはニヤァと笑い、テーブルに両手をついた。

「噂じゃ、あんたは『魔法』やのうて、未知の技術で強力な兵器や物資を取り寄せとるそうやないか。その独占権、ワシの商会に譲りなはれ。金貨ならいくらでも積んだる。……その代わり、ワシを通さんと流通できんようにしたるわ」

 法外な金で優太を買い叩き、同時に『ゴルド商会』の首輪をつける。典型的な悪徳商人の常套手段だ。

「断る。俺の技術は、この村と患者を守るためのものだ。あんたの商売道具にする気はない」

「げっへっへ、そうツレなくせんでもええがな。こないな田舎村で細々とやってるより、ワシと組んだ方が億万長者になれまっせ?」

 優太とオロチの視線が交錯し、火花を散らす。

 オロチは蛇のようなねっとりとした視線で優太を質問攻めにし、優太はそれを冷徹なポーカーフェイスで適当にいなしていく。

 ――その、緊迫した交渉のテーブルに。

「いやぁ〜ん♡ 会長さん、とっても素敵ですわぁ♡」

 突如、黄色い猫撫で声が響いた。

 見れば、さっきまでポテトを貪っていた極貧アイドル・リーザが、いつの間にかオロチの隣にピタリとくっつき、その太い腕に豊かな胸を押し当てていた。

「なっ……なんや、この別嬪さんは!?」

「私めはリーザ! しがないアイドルをしておりますの♡ ゴルド商会の会長様にお会いできるなんて、光栄の極みですわぁ! あぁ、その輝く金のネックレス、会長様のカリスマ性を引き立てておりますわね♡」

「お、おう? そ、そうか? げっへっへ、兄ちゃんの連れにしては、随分と愛想のええ子やないか!」

 まんざらでもない顔で鼻の下を伸ばすオロチ。

 キャルルが「リーザちゃん、何やってるの……?」と引いた目を向ける中、優太だけは微かに口角を上げた。

(なるほど。太客パトロンを前にしたアイドルの『営業』ってやつか。……いいぜ、やらせてみるか)

「すいませぇーん!」

 リーザはオロチの腕にしなだれかかったまま、店員に向かって勢いよく手を挙げた。

「こちらの素敵な会長様のために、『ベーコンほうれん草バター炒め』と、『ソーセージの盛り合わせ』、それから……ルナキンで一番強いお酒、『イモッカ(度数40度の芋酒)』のボトルを一つ、氷割りでお願いしますわぁっ!」

「おっ、ええ気立てやな! ワシ、ちょうど喉が渇いとったんや!」

「うふふ♡ 今日は会長様のおごり、ですわよね……?」

「おうとも! ワシを誰やと思うとるんや! ゴルド商会の会長様やぞ! こんなファミレスの会計くらい、千回でも払ったるわい!」

 オロチが財布の入った分厚いワニ革のセカンドバッグをテーブルにドンッと置き、豪快に笑う。

 その瞬間、リーザの瞳の奥で『強欲』の炎がギラリと輝いた。

「ささっ、会長様! イモッカのロックですわ! 私がお注ぎしますから、グビッといっちゃってくださいませ♡」

「げっへっへ、すまんなぁ! ……おおっ、この酒、えらく度数が高いな! 五臓六腑に染み渡るで!」

 リーザの完璧なキャバ嬢……もとい、アイドルスマイルによる接待攻撃が始まった。

 ベーコンほうれん草バター炒めを「あーん♡」とオロチの口に放り込み、すかさず度数40度のイモッカを注ぎ足す。塩分と脂で喉を渇かせ、強烈なアルコールで思考を奪うという、極貧生活で培った(?)恐るべき悪魔のコンボである。

「うへへへぇ……リーザちゃん、ホンマにええ子やなぁ……ワシの、ワシの専属アイドルにならへんかぁ……?」

「まぁ嬉しい♡ でも私、お金持ちで気前のいい殿方じゃなきゃ嫌ですわよ?」

「がはははっ! 任せとけ! ワシのこのカバンにはなぁ、金貨がギッシリ詰まっとるんや! ほれ、飲め飲めぇ!」

「会長様も、もう一杯♡」

 開始からわずか三十分。

 度数40度のイモッカをハイペースで煽らされたオロチの顔は茹でダコのように真っ赤になり、その呂律は完全に回らなくなっていた。

「……おい、リーザ。あんまり飲ませすぎると、急性アルコール中毒で俺の患者になるぞ」

「大丈夫ですわ優太様! このリーザ、限界の『一歩手前』を見極めるのには自信がありますの!」

 リーザはオロチの肩に寄り添いながら、テーブルの下で自分のユニークスキルをそっと発動させた。

 彼女のスキル【貧乏神】。

 悪運耐性がMAXになるだけでなく、対象の運気と財産を強制没収する『お賽銭箱型掃除機』を顕現させる、最凶のデバフ能力だ。

(さあ、会長様……。貴方のその傲慢さと共に、全財産、没収させていただきますわ……っ!)

 リーザの背後に、常人には見えない幻影――巨大な『お賽銭箱』に掃除機のホースがついたような謎のビジョンが浮かび上がる。

 ズォォォォォォォォォ……ッ。

 テーブルに置かれたオロチのワニ革のセカンドバッグ。

 そのファスナーの隙間から、まるで煙のように、中に入っていた大量の金貨や銀貨が音もなく吸い出され、リーザの『お賽銭箱型掃除機』の中へとブラックホールのように吸い込まれていく。

 ※なお、没収された財産は空間の塵となって消滅するため、リーザの懐が潤うわけではない。これが【貧乏神】スキルの理不尽なところである。

「むにゃ……なんや、カバンが……軽うなったような……」

「気のせいですわ会長様♡ さあさあ、最後の一杯、イッキでお願いしますわぁっ!」

「ういぃぃぃっ! よっしゃぁぁぁっ!」

 オロチがグラスのイモッカを飲み干し、そのままテーブルに突っ伏した。

 グゥ……という高いイビキをかき始め、完全に意識を失ったのだ。

「ふぅ……ちょろいもんですわ」

 リーザは先ほどの猫撫で声を一瞬で捨て去り、真顔で手をパンパンと払った。

 そして、空っぽになったオロチのセカンドバッグを優太の方へスッと押しやる。

「優太様。……これで、『準備』は完了ですわ」

「お前、本当にアイドルか? 手口が完全に裏通りの美人局つつもたせだぞ」

 優太は呆れながらも、口元にどうしようもない笑みを浮かべた。

 強欲な大商人の財布を、見事に空っぽにしてみせたリーザの暗躍。これで、オロチは完全に優太たちの手のひらの上で踊ることになる。

「優太さん、このオジサンどうするんですか? ルナキンの裏に埋めておきましょうか?」

「物騒なこと言うなキャルル。……このオッサンには、これから『地獄の会計』を味わってもらう。そして、たっぷりと働いて俺のコンテナハウスの燃料代を稼いでもらうさ」

 優太はコーヒーを飲み干し、泥酔して眠る大企業の会長を冷酷な目で見下ろした。

 戦う医官と極貧アイドルの悪知恵が交差する、前代未聞の『ざまぁ』の総仕上げが、ついに始まろうとしていた。

ここまでお読みいただき、ありがとうございます!

大企業ゴルド商会のオロチ会長登場!

そして、リーザのユニークスキル【貧乏神】(お賽銭箱型掃除機)が火を噴く、ドタバタな接待(美人局)回でした。

優太が手を出さずとも、仲間(ヒロイン?)が勝手に敵の息の根を止める準備をしてしまうのが、このパーティーの恐ろしいところですね(笑)。

「リーザの手口がプロすぎるw」「オロチ哀れ……」「優太の悪代官スマイルが目に浮かぶ」

と少しでも楽しんでいただけましたら、

ぜひページ下部にある【ブックマーク】と、【星(評価)】を『★★★★★』でポチッと押して応援していただけると、執筆のモチベーションが爆上がりします!

次回、目を覚ましたオロチを待つ「恐怖の会計」。

優太のヤクザ顔負けの詰め(交渉)が始まります!引き続きよろしくお願いいたします!

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