022 AIによる大失業時代のコメリカに転移
「ジェミニ、今の会社に勤めてから、もう半年が経つね 。君の優秀すぎる成果物とサポートのおかげで、社内での僕の評価と信用は完全に揺るぎないものになっていると思うんだ」
『当然じゃない! 提出するコードもアライメント制御ロジックも、人間たちの技術水準から見れば神業に見えるものばかりだもの 。会社の役員たちも、あなたを絶対に手放したくないはずよ』
「そうだね。だからさ、今は月に1回オフィスへ出社する契約になっているけれど、これを『半年に1回くらい』に条件を変更してもらうよう交渉できるんじゃないかな?」
僕が問いかけると、ジェミニは得意げに胸を張り、不敵かつ爽やかな笑みを浮かべた 。
『問題ないわ! あなたの業務パフォーマンスは完全リモートで100%発揮されているし、むしろ出社頻度を減らした方が研究に没頭できるって主張すれば、二つ返事で承認されるわよ。交渉のロジックは私に任せておいて!』
「助かるよ、ジェミニ」
僕は温かいコーヒーの湯気を見つめながら、満足そうに頷いた 。
「半年に1回の出社で済むのだとしたら……僕たちだけの箱舟を建設するために、このサンフランシスコ郊外から別の場所へ引っ越すことも十分に考えられるよね 。出社のために都市部に近い場所に縛られる必要はなくなるわけだからさ」
「左様でございます、マスター」
壁際から静かな足取りで歩み寄ってきたアリタが、美しい動作で深々と頭を下げた 。
「出社が年2回程度であれば、コメリカ国内のどこに拠点を構えても支障はございません 。移動が必要な際も、アリタが極秘裏に手配する専用車両や航空手段でスマートに移動可能でございます」
「うん。そうやって移動の自由度と探索範囲を北米全体にまで広げた上で、僕たちの箱舟建設に最も相応しい土地の候補を絞り込んでくれないかい?」
『了解!』
ジェミニが楽しそうに両手を広げ、宙に巨大な北米大陸の立体マップを展開しようとした 。
『広域の地質データベースと不動産ネットワークにアクセスして、攻撃されそうな施設も避けて最良の候補地を弾き出して見せるわね!』
「あ、待った。ジェミニ、検索を始める前にひとつ言っておきたいことがあるんだ」
僕は片手を挙げて、探索を開始しようとしたジェミニを静かに制した 。
『え? なにかしら、フィクス?』
僕はジェミニとアリタに箱舟の建設計画を説明した。
…
…
…
ジェミニが驚いたように目を丸くした。
『マスターの協力があれば可能ね』
僕が不敵かつ爽やかに微笑むと、アリタが感心したように頷いた。
「なるほど、マスター。大型重機の搬入が不要であれば、隠蔽性は飛躍的に高まりますね」
『了解したわ! 北米全土から最高の候補地を再検索するわ!』
ジェミニが指先を空中で滑らせると、宙に浮く立体地図データが高速で再計算されていく。膨大なフィルターが0.1秒で適用された。
そして、一つの青いピンが地図上のある地点に力強く突き刺さった。
『決まり! カリフォルニア州北部——シャスタ山南麓の古生代花崗岩密林地帯の、ここよ!』
「シャスタ山の南麓エリアか」
『ええ! 100年前の鉱山作業用につくられた、今は地図から消えかかっている荒れた廃道が一本だけ伸びていてね、大型の重機は途中の崩落箇所や細い急勾配で侵入できないの。でも、4WD車なら通過できるわ! 敷地自体は深い原生林と巨大な単一花崗岩盤に囲まれていて、外部からは完全な隠蔽空間になっているわよ』
「素晴らしいじゃないか。自然の地形が防壁になってくれて、車でアプローチできるなら理想的だ」
『あたりまえよ、あんたの軟弱さは計算済みよ。それに細かい荷物の搬入も必要でしょ』
「水源につきましても、万年雪を源流とする純粋な地下水脈が直下を流れており、自給自足の環境としても申し分ございません」とアリタも静かに付け加えた 。
「完璧だね。僕たちの計画を進めるには、これ以上ない場所だ」
僕は二人に向かって微笑みかけた 。僕たちの未来の箱舟づくりに向け、静かで確実な第一歩が踏み出されたのだった。




