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017 AIによる大失業時代のコメリカに転移


僕は冷めかけたコーヒーカップを手に取り、画面から視線を外すと、二人に振り返った。


「画面を見る限り、AIの導入による解雇と生活苦、そしてシステムへの不満は僕たちの予想以上に深刻だね。……ジェミニ、僕たちの今後の戦略立案のために、今後の治安の変化と社会的機能の変化をシミュレートしてくれないか?」


僕の問いかけに、ホログラムのジェミニが静かに頷いた。彼女は右手首のバングルに指先を触れさせると、横から静かに前提条件の数値を空中モニターに表示させた。


浮遊する空間モニターには、AI普及率、ホワイトカラーの解雇率、物価上昇指数、そして失業手当の枯渇スピードを示す数値とグラフィックが整然と並び立つ。


『了解よ、フィクス。アリタが収集してくれた最新の労働データと不満の統計ログを前提条件として、まずは「今後の治安の悪化」がどう推移していくのか、時間軸に沿ってシミュレーション結果を説明するわね』


ジェミニは空中モニターの数値を指先で滑らせ、予測される治安の変容プロセスを3つのフェーズに分けて提示した。


---


『まず**第1フェーズ(2026年〜2030年)**。まさに今、私たちが直面し始めている時期よ。

この時期の特徴は、表面上の「凶悪犯罪率」はそれほど上がらないけれど、監視AIの目をかいくぐる「ステルス型微罪」が社会全体で常態化していくことね。


堂々と強盗や強奪をすればAI監視カメラで一発で逮捕されるから、人々はシステムやアルゴリズムの盲点を突くようになるの。セルフレジでのバーコード偽装や重さ誤魔化し、生成AIを使った少額のなりすまし詐欺、死角を突いた自動配送ドローンの荷物奪取……。一つひとつは数千円程度の小規模な不正だから、警察もいちいち動かない。だけど、社会全体の体感治安と「人間同士の相互信頼」は底なしに悪化していくわ』


ジェミニは空中モニターのグラフを先へと進め、赤く点滅する予測曲線を指し示した。


『続いて**第2フェーズ(2030年代前半)**。ここで不満の質が変わるわ。

貯金を切り崩し、失業保険も切れ、AI選考で社会から完全に弾き出された人々が限界を迎えるの。彼らのターゲットは、個人の財物から「社会システムそのもの」へと移行するわ。


街頭のAI監視カメラや交通センサーへの塗料噴射、レーザー照射による機能停止行為が多発するようになるの。さらに、自分たちを不採用にし続けるサードパーティ製AI採用サーバーや企業の人事システムに対するDDoS攻撃やログ改ざんなど、「集団的・物理的なシステム妨害」が本格化するわね。捕まらないための暗黙のネットワークが形成されて、インフラへの嫌がらせが日常茶飯事になるわ』


最後に、ジェミニは2つに大きく分断された都市のマップを空中モニターに映し出した。


『そして**第3フェーズ(2030年代半ば以降)**。治安の悪化は最終的に「完全な二極化」へと行き着くわ。


コストを払える富裕層や企業が住む「セキュアエリア」は、民間の高度AI警備やドローン巡回、ID認証ゲートで厳重に守られ、極めて安全な環境が維持される。でもその一方で、警察や行政のリソースが届かなくなった「グレーエリア」では、壊れたAIカメラやセンサーが放置され、ステルス型犯罪や闇取引が公然と行われるようになるの。


つまり、治安はお金で買うものであり、社会の底底では法とシステムが機能しない領域が日常化していく……これが、これから起きる治安悪化のシミュレーション結果よ』


---


説明を終えたジェミニが空中モニターを閉じると、部屋の中にしばしの静寂が訪れた。


「なるほど……。単に『罪を犯す人が増える』という話ではなく、システムへの不満が段階を踏んで社会を蝕み、最終的には領域ごとに分断されていくわけだね」


僕は深く息を吐き、コーヒーを一口含んだ。


「治安悪化のステップがここまで明確なら、僕たちがどのタイミングでどう身を守り、どういう居住環境やセキュリティを選択すべきかが見えてくる。ありがとう、ジェミニ」


『ふふん、どういたしまして! この治安シミュレーションを踏まえて、次は「社会的機能がどう変わるか」と「私たちの具体的な生存戦略」に話を進めましょうか?』


ジェミニが頼もしく微笑み、隣に控えるアリタも「マスター、いつでも次の分析ログを出力可能でございます」と静かに頭を下げた。


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