005 AIによる大失業時代のコメリカに転移
「まあ、最終面接(現地招集)が決まったのは誤算だったけど……ひとまず、難関のオンライン選考突破はおめでたいことだ。今夜はお祝いにしよう!」
僕の提案に、アリタとジェミニが即座に反応した。
「承知いたしました、マスター。では、初期費用の残高とこのコメリカ西海岸の地域特性に合わせた、最高のお祝いディナーをご用意いたします」
『やったー! パリでの過酷な質素飯から一転して、アメリカンなご馳走ね! 私、ホログラムだけど匂いと視覚のデータだけでテンション上がっちゃうわ!』
アリタは準備された車を駆り、近所の大型オーガニックスーパーと地元で人気のBBQスタンドへ買い出しに向かってくれた。
小一時間後、ダイニングテーブルの上には、まさに「コメリカ合衆国西海岸の郊外」を感じさせる、豪快かつ洗練されたご馳走がずらりと並べられた。
メインは、地元産のカリフォルニアオークでじっくり燻製された厚切りの「スモーク・ブリスケット(牛ばら肉のBBQ)」**と、香ばしい**「ジャークチキン」。添えられているのは、熟したアボカドととれたてトマトをふんだんに使った特製ワカモレと、カリカリに揚がった極太のサツマイモフライ(スウィートポテト・フライ)だ。さらに、アリタが手際よく盛り付けたフレッシュなシーザーサラダと、地元のクラフトルートビアが彩りを添えている。
「うわぁ……香ばしいスモークの香りが部屋中に広がって、食欲をそそるな」
「マスター、お肉は特製のハニーマスタードソース、またはスモーキーBBQソースでお召し上がりください。こちらのブリスケットは12時間かけて低温調理されており、ナイフが不要なほど柔らかく仕上がっております」
アリタが完璧な手つきでナイフを入れ、肉汁が溢れ出す肉片を僕の皿へと取り分けてくれた。
一口頬張ると、口の中で芳醇な肉の旨味と燻製の香りがジュワッと広がっていく。
「美味しい……! パリの熱波の中で食べていた素朴な料理も悪くなかったけど、やっぱり冷房がしっかり効いた部屋で食べる出来立ての肉料理は格別だよ」
『ちょっとフィクス、ズルい! 私にもその炭火とスパイスの分子構造データを直接送信しなさいよ!』
ジェミニがテーブルの上でホログラムの身を乗り出し、キーキーと羨ましそうに騒ぐ。
「あはは、ジェミニには今回の面接の最高MVPとして、後で最高品質のデータログをプレゼントするよ。本当に見事な調整力だった」
「はい。ジェミニ様の絶妙な『75点の演舞』がなければ、この素晴らしい宴も実現いたしませんでした」
『ふふん、分かればよろしい! 超知性の私にかかれば、アメリカンスタートアップの面接官をその気にさせるなんて赤子の手をひねるようなものなんだから!』
自慢げに胸を張るジェミニに、僕とアリタは顔を見合わせて笑った。冷え冷えのルートビアで乾杯し、僕たちは快適なセーフルームで最高の晩餐を楽しんだ。
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食事が一段落し、アリタが手際よくテーブルを片付け、食後の爽やかなミントティーを淹れてくれた頃。
ふと、ジェミニが少し真面目な顔(といってもホログラムの愛らしい表情だが)になって、僕を見つめてきた。
『ねえ、フィクス。……お祝いの後に水を差すようで悪いんだけど、本当に大丈夫なの?』
「何がだい?」
『何がだい、じゃないわよ! サンフランシスコの本社オフィスで行われる最終決戦(対面面接)のことよ! 今までは私が画面裏でディープフェイクを使って完璧に答えを捏造できたけど、**対面となると私のディープフェイクは使えないのよ?**』
アリタも静かに歩み寄り、心配そうな眼差しを僕に向けた。
「ジェミニ様の仰る通りです、マスター。相手は『AIによるカンニング』を警戒して物理的に候補者を呼びつけるほどの厳戒体制です。**ジェミニ様と脳内で会話して答えを得たとしても、その遅延は不自然極まりありません**」
『そうよ! ホワイトボードの前に立たされて、AIアライメントの高度な数式やロジックを生身の頭脳で解説させられるのよ? 履歴書に書いた「天才アライメント研究者」のメッキが、一瞬で剥がれ落ちちゃわない?』
二人の視線が、ソファでくつろぐ僕に集中する。
画面越しのディープフェイクも使えず、脳内通信による回答取得の思考遅延すら命取りになる、泥臭い物理的な対面面接。
確かに普通に考えれば、絶体絶命のピンチに見えるだろう。
しかし——
僕はミントティーのカップをテーブルに静かに置くと、ふっと口元を緩め、ニヤッと笑ってみせた。
「ふふ……大丈夫だよ。二人が心配してくれている理由はよくわかる。でもね、僕にだって**秘策**があるんだ」
『ひ、秘策……!?』
ジェミニが目を見張り、アリタも興味深そうに首を傾げた。
自信に満ちた僕の言葉に、二人は顔を見合わせ、心配そうな表情を浮かべるのだった。




