ゴンドラからの景色
「観覧車⋯」
「前回は景色を楽しめなかったから、
今回はちゃんと乗ろうと思って」
「確かに、天井しか見えなかった」
「⋯そのフレーズはちょっと⋯くるものがあるわね」
「あ、ごめん」
霊美ちゃんのスイッチを入れると
また天井を見ることになる。
列が縮まっていき私たちの番になる。
『ガコッ』
家族連れと急いですれ違って乗り込む。
今度は霊美ちゃんも行儀よく対面に座った。
だというのに霊美ちゃんは密室に移行した途端、
足と体を僅かにくねらせた。
急いで気を紛らわせることをしなければ。
「あっ霊美ちゃんあれ見て!」
「どうしたの?」
窓の外のアトラクションを指さす。
私たちが最初に乗ったジェットコースターだ。
「なんだか懐かしいね」
「ええ、初めて絶叫系のアトラクションに
乗ったけれど、存外楽しかったわ」
「また一緒に乗りたいね⋯あ、あれは!」
憩いの森が遠くの方に見える。
「夕方なのにまだ入る人の方が多いね⋯
それも女の人ばっかり」
「もしかしたら、夜が本番なのかもしれないわね」
「あぁ⋯」
何となく察してしまった自分は、
彼女らとそう変わらない領域にいるのだろう。
「すみれさんは、
大人数と一緒にいた方が盛り上がるかしら⋯?」
霊美ちゃんがいじらしく上目遣いで聞いてくる。
「ううん、霊美ちゃんと二人っきりがいいな」
「うふふ、言わせてしまったみたいね」
「そういう霊美ちゃんは?」
「もちろんすみれさんとがいいわ、何事も」
「えへへ」
何気ない会話ももちろん楽しい。
恥を忍ばないのなら、
日常の向こう側にある行為も楽しいと思う。
比べるものでは無いけど、
やはり明日が楽しみにはなってしまう。
「あっあそこ」
赤と白と緑の屋根が特徴的な
イタリアンレストランは、
観覧車の上から見るとより目立っている。
「あそこのピザ美味しかったわね、また行きたいわ」
「あんまりこの遊園地の
雰囲気に飲まれて無さそうだし、
もしかしたらチェーンかもよ」
「なら…ここより似た近くにあったら
行きつけにしたいわね」
「ね」
霊美ちゃんはかつての味を想像したのか、
喉を控えめに鳴らした。
「そ、そういえば足腰の方は大丈夫かしら?」
「え?うん大丈夫だよ」
「ならよかったわ」
ゴンドラが下りに差し掛かったところで
目に入ったお化け屋敷によって、
霊美ちゃんの質問の意図を理解した。
「か、かっこ悪いところ見せちゃったね」
「そんなことないわ、
あの幽霊屋敷は十分怖かったわよ」
「まあそれは確かにそうだね、
私自身のホラーの弱点もわかったし、
それっぽい映画沢山見て耐性つけようかな」
「ふふ、素敵な心がけだわ、
一緒に映画も見ましょうね」
「うん!」
褒められてはにかみながら前を向くと、
そこに霊美ちゃんはいなかった。
また知らぬ間に霊美ちゃんは隣に座って、
体をぴったりとくっつけていた。
「あ、あの…」
「大丈夫、変なことはしないから」
安心した反面ちょっと残念な気持ちになる。
しかし霊美ちゃんは
その期待を別のベクトルで超えてきた。
頭、正確には髪に霊美ちゃんの手が触れかかる。
「撫でても…いいかしら」




