よそはよそ、うちはうち
桐谷のことはまるで知らないが、
学校で見たフットワークの軽さには
どこか見覚えがあった。
今日でそれがなんなのか思い至った。
忙しい時間帯のバイトリーダ―、多忙な官房長官、
それらが忙しさの中で
自然に身につけたであろう足取りだった。
「ぜぇ⋯ぜぇ⋯」
「はぁっはぁっ」
足の向く先はテーマパークの
一番外側のジェットコースターだろうか。
まさか今日で
全部のアトラクションを周るつもり?。
佐倉は意外にも
遅れず桐谷に着いて行っているみたいだ。
「つ、着いた⋯」
桐谷が止まった場所は、
やはり園の一番外側のジェットコースター。
当人は汗一つ、息切れ一つしていない。
「私達はどうする?乗る?」
「後ろの列に並ぶと気づかれるかもしれないわ、
ここはちょっと、休みましょう⋯はぁ」
既に大分疲弊してしまっている、可哀想に。
「あそこのベンチで休もっか」
「ええ」
ゆっくりと腰を下ろし、水分をとる。
「⋯これ、思ったんだけどさ」
「私も、多分同じことを考えているわ」
「うん、佐倉さんの合図まで、
私達別にあの二人にぴったりくっついて
行く必要ないんじゃないかな」
「全くもって、その通りだったわ、
近くにいることに越したことはないけれど、
ずっと監視していると
バレるリスクも高まるでしょうし」
「私達は私達はで楽しもっか」
「そうしましょう」
来た道を逆走し、パークのゲート付近を散策する。
「あれ面白そうじゃない?」
十数階建てのビルに比肩する高さの、
いわゆるフリーフォール系のアトラクション。
「霊美ちゃん高いところ大丈夫?」
「大丈夫⋯よ、ただ、命を粗末にする行為は⋯」
「や、やめとく?」
「⋯いえ、行きましょう、何事も挑戦よね」
やっぱり霊美ちゃんはノリがいい。
パークのゲートに近い
アトラクションということで、
少々人が並んでいる。
「「キャアアアアア!」」
猿叫にも似た絶叫が上から下へ近づいてくる。
「おーやってるやってる」
「⋯ゴクリ」
隣で固唾を飲む音が聞こえた。
「やっぱりやめとく?」
「大丈夫、ここで止めたら格好がつかないもの」
少し声が震えている。
『ぎゅ』
黙って手を握る。
「ありがとう」
「へへ」
順番になり手荷物を預けアトラクションに乗る。
安全レバーが降ろされ、二人とも正面を向く。
「霊美ちゃん細いからすっぽ抜けちゃいそうだね」
「ちょっと、怖いことを言わないで頂戴」
声の震えはもう無くなっている。
スタッフが退くと機械は上昇を始めた。
「おお⋯」
アトラクションの入口の屋根を通り過ぎ、
徐々にパークの全景が目に入ってくる。
上昇するにつれ
他の客も色めきだった声でざわつき始める。
「落ちる時に叫ぶと気持ちいいんだよ」
「や、やってみるわ」
こういうフリーフォールの怖さは、
背面の頂上の高さが分からないまま
登っていくところだと再確認できる。
そんなことを考えている内に、機械が止まる。
霊美ちゃんと目を向き合わせる。
「「キャアアアアア!!」」




