4.タイムカプセル
※シナリオ形式
※モノローグ=M表記
翼:1、2、3、4……
翼の足が、歩数を数えている。
6人だけが知る、秘密の場所が海岸にはあった。
美佳:それ、意味ないんじゃないの?
翼:えっ! でも、この大きな岩から確か10歩
李璃:子供の足のサイズで、でしょ?
翼:そ、それは……!
佳純:4年生の時、足何センチ?
翼:えーっとぉ……
和也:なんか、他に目印なかったっけ……?
優:その大きな岩から翼の足で前に10歩。そこから右を見る。延長上に大きな松の木が見えるとこ
翼:おぉ! 優ナイス!!
和也:え、木なくない?
優:切られたんだよ
翼:え! 意味ないじゃん!
優:今建物建っとるだろ? あそこの開発で切られたんだよ
佳純:これじゃ、どこに埋めたか分かんないじゃん!
美佳:とりあえず、予想で掘るしかないってことね……
沈黙が流れた。
李璃はショベルを手にすると、突然掘り始める。
美佳:李璃?
李璃:もう、ひたすら掘るしかないでしょ?
李璃は、一人、砂地を掘る。
美佳:よし! じゃあ、やりますか?
佳純:ちょっと、本気?
美佳もショベルを持つと掘り始めた。
つられるように皆ショベルを手にすると、掘り始めた。
× × ×
やがて、雲行きが怪しくなる。
佳純:待って、これ雨降ってこない?
美佳:やばそうだね
和也:全然出てこないんだけど!
翼:ここであっとるのかなぁ?
李璃と優は、黙々と掘っていた。
× × ×
突然、大雨が降って来る。
翼:うわ! 降ってきた!
和也:天気予報、雨なんて言っとった?
優:夕立だろ?
佳純:もう、髪濡れる! はよ戻ろ
美佳:雨強っ!
皆、貸別荘に戻ろうとする。李璃は掘ることをやめない。
美佳:ちょっと、李璃! はよ戻ろ! 風邪ひいちゃう!
李璃:だって……!
李璃の様子に、優は立ち止まる。
優:まだ、時間あるだろ? 一旦戻るぞ!
李璃:でも……
優が李璃の腕を掴む。
動揺した李璃の手からショベルが離れ、雨に濡れる砂地に落ちた。
貸別荘の女子部屋に戻った李璃、美佳、佳純。
佳純:雨最悪! わたし先お風呂入ってくるから!
佳純は部屋を飛び出した。
美佳:雨すごいね。これやむかなぁ
美佳は窓の外を覗く。
タオルを取り出し、そのまま無造作に置かれた佳純の荷物から、『願いのかなう鍵』が顔を覗かせていた。
李璃はそれに気付く。
李璃:転校しなかったら、どうなってたんだろう……
美佳:ん? どうした?
李璃:へっ……いや、雨やまんね……
ロビーに6人は集まった。
外は変わらず雨が降っている。
翼:まいったなーやまない
佳純:1日目から掘っとくべきだったのよ!
和也:見当くらいは付けといたらよかったかもね
翼:あーあ。何でわざわざ埋めたんだろ
美佳:提案者がそれ言っちゃう?
翼:いや、だって! もっと簡単に見つかると思っとったし!
李璃:この街も変わったんだね
翼:そうか?
李璃:新しい建物が立って。この場所だってそうでしょ?
翼:あぁ、まぁ……
美佳:海も昔より、汚くなったかも
和也:ところで、俺らって何埋めたっけ?
佳純:手紙とか、写真とか?
李璃:わたしは、当時みんなの絵描いてて、そのノートを埋めた
美佳:紙類ばっか。ちゃんと残っとるのかね?
李璃:未来の自分に手紙書いたよね
美佳:書いた、書いた!
佳純:わたし何書いたっけな?
李璃:わたしも何故か覚えてない。忘れないと思ったけど。あの頃のわたしは、今のわたしに何て言いたかったんだろ……
和也:意外と覚えてないよな
翼:あっ! 音楽会の楽譜埋めたよな!
美佳:あー
李璃は、チラッと優を見る。
優は、みんなの会話に入らず、興味のない様子。
翼:『翼をください』だろ? 翼だけに!
皆、翼に唖然とした。
佳純:何であの歌だったんだろ
和也:合唱といえば、みたいな?
翼:その時、優がピアノでさー!
美佳:(小声で)ちょっと!
美佳が翼を睨み付ける。
翼は、しまったという表情。
李璃:あの音楽会が、わたしが最後に参加した学校行事だったなぁ……
佳純:そうだったっけ?
和也:音楽会の翌日だろ? 引っ越したの
佳純:そんなすぐだったっけ?
李璃:うん、そうだよ
美佳:せっかく仲良くなったのにって。だからまた会おうってみんなで埋めたんだよ
翼:ちょっとさ、やっぱ、それ提案した俺素敵じゃない? 実際こうやって集まったんだし!
美佳:はい、はい
翼:何だよー。まぁーでもさ、こうやって集まれたんだし、最悪タイムカプセルが出てこなくてもいいんじゃない?
佳純:まっ、苦労して見つからないとか、やってられないしね
李璃は、皆の様子に、少し悲しそうな表情を浮かべた。
李璃M:みんなにとっては、きっと、あの日埋めたタイムカプセルは、そこまで大切なものじゃない。優はまったく興味ないのかな? 仕方なくここに来た? わたしだけが、あの日のままでとまってる。わたしにとってタイムカプセルは、何よりも大切なものだった……。