5. 恋路ヶ浜の悲しき恋物語
※シナリオ形式
※モノローグ=M表記
夜、やっと雨があがった。
李璃の姿は、テラスにあった。そこへ美佳がやって来る。
美佳:どうした? 元気ない
李璃:そっかな
美佳:優とは話せた?
李璃:どうかな……
美佳:せっかく会えたんだから
李璃:8年は、やっぱり大きかった。何話したらいいか分かんないんだよね
美佳:人に気持ちを伝える方法は、言葉だけじゃないと思うよ
李璃:え……?
美佳:熱量って、言葉がなくても相手に伝わるもんだよ
李璃:でも……優と佳純にしか分からないものがあるんだよ
美佳:そうかな? 優は、本当はそこから抜け出したいんじゃないかな?
李璃:えっ?
美佳:優の心の中には、きっと今でも李璃がいると思うよ。わたしはそう思う
李璃:(涙を堪えながら)二度と会いたくなかった……
美佳は李璃を抱きしめる。
美佳:二度と会いたくなかったっていうのは、ずっと会いたかったってことだよ
李璃の目から涙がこぼれる。
海岸で海を見ている優。佳純が横にやって来る。
佳純:雨やんだね
優:あぁ
佳純:ねぇ、この浜の伝説知っとる?
優:伝説?
佳純:昔、高貴な身分の男女が許されない恋をした。そんな二人が都を追われて逃げてきた場所。それが恋路ヶ浜
優:あぁ
佳純:二人とも病になって、亡くなっちゃうの。悲しい恋の物語だよね。でも今は恋人の聖地になった
優:(興味がなさそうに)へぇー
佳純:ねぇ、二人でかけに行かない? 『願いのかなう鍵』
佳純は、優に『願いのかなう鍵』を差し出す。
優は、その場を立ち去ろうとする。
佳純は、優の腕を掴む。
佳純:優、わたし待っとるよ。ずっと今でも、優が好きだよ
優:……
佳純:わたしじゃダメなの?
優:別にそういうことじゃ……
佳純:なら、どうして……
優:ごめん……
優は、佳純の手を払う。
佳純:やっぱり、李璃がいいの?
優は無言で、その場を立ち去る。
その場に取り残された佳純は、静かに涙した。
貸別荘の男子部屋では、和也が窓を開けた。
そこで、雨粒が付いた蜘蛛の巣を見つける。
和也:蜘蛛の巣にかかった蝶がいる。蝶を助けようと思う?
和也は、部屋にいる翼に尋ねた。
翼:(笑いながら)何だよそれ?
和也:俺は昔、蝶がかわいそうだと思った
翼:まぁ、捕まっちゃったら、しゃーないわな
和也:でもそれは、ずっと巣で待ち続けてた蜘蛛にとっては生きていく為に必要なものなんだよな
翼:あぁ
和也:『蝶を助けたら蜘蛛がかわいそうだよ!』って、昔李璃が言ってた
翼:え? 李璃が?
和也:(懐かしそうに)うん。確かにそうだなって後から思った
和也は、蜘蛛の巣を見て微笑んだ。
驚いた様子の翼。
和也:俺は今でも李璃の巣から抜け出せないでいるよ
翼:えっ!?
和也:まぁ、それで死んだとしても本望か
翼:なっ……!
和也:レスキュー隊目指すとかさ、それも結局李璃に言われたからなんだよね
翼:え……!
和也:体育で走り高跳びやったことあったじゃん? 学年一番の記録でさ。『すごーい、レスキュー隊とかなれそう』って言われてさ
翼:マジか……
和也:何の根拠もないのに。もう本人は覚えてないかもしれないけど
翼:えっ! ちょ、お前、まさか李璃が好きなの!?
和也:えっ? そっから?
翼:マジかよ。じゃあ、みんなカップルだな!
和也:え? カップル?
翼:だって、もともと優と佳純だろ? で、和也と李璃。俺は美佳! ちょっとー何青春しちゃってるのぉー! さすが恋の伝説の地!
和也:お前なぁ……
翼:よし、協力し合おうぜ! 優と佳純はまぁうまくいくだろうから、俺が李璃と引き合わせてやる。だから和也は、美佳と俺をこうさぁ……
和也:それは難しいと思うよ
翼:えっ、なんで! 諦めんなよ! やってみなきゃ分かんねぇだろ?
和也:分かってないなぁ。李璃の心の中には俺はいないよ
翼:えっ? どゆこと?
翼は、首をかしげた。
深夜、眠れない李璃は、貸別荘の扉を開けると、外に出た。
波の音だけが聴こえる。
李璃は、足元に落ちている貝殻を手に取る。
李璃:わたしの心も貝になっちゃうのかな……
李璃は、貝殻に話しかけた。
李璃:あなたは何年この海を見てきたの? この海は変わった? 変わらないものなんて、ないんだよね……
貝殻は、何も答えなかった。
ポケットから『李』という文字が書かれた、ちぎれた消しゴムを取り出す。
李璃は、寂しそうに消しゴムを見つめていた。




