29話 誤ちを犯した者の末路(香織)
29話 誤ちを犯した者の末路(香織)
今日で桜咲学園寮は、年末年始のため来週まで閉寮となる。私にも帰る家が一応あるので帰らなければならない。とはいえ、今まで寮に居ることにより、家族………?を避けて生活をすることが出来ていたのに、家に帰省しなければいけないとは………。考えただけで私の気分は落ち込んでしまう。あの話を聞いた後なら尚更なのだが。
「香織、迎えに来たわ」
荷造りを終えた私が楽しくゲームをしていた頃だった。迎えに来てくれたのは知り合いのお姉さんこと、月本 真里さん。実を言うとこの人、超有名芸能人!映画やドラマ、バラエティー番組にも出演している大物さん。私の仮の家族が住んでいるアパートから歩いて3分程度の所に大きく綺麗な豪邸を持っていて、休日とか遊びに行ったこともある。彼女関連で、最近の発見は、我が桜咲学園のアイドル部顧問、田崎先生と同い年だということ。
簡単な説明はこのくらいにして、なんで私がこんな方と知り合いの関係になったか、というのは後のお話にするとしよう。
「月本さん、今日はありがとうございます」
私は月本さんにペコリと頭を下げる。わざわざ私を家まで送って行くためだけに、大切な休みの日を使ってここまで来てくれたのだ。月本さんは、「かしこまらなくてもいいわよ」と優しく言ってくれた。
「大きくなったわねー」
「ま、まあ………」
「また更に可愛くなっちゃって」
月本さんは近くまで来ると、私の顔を覗き込むようにして見た。その覗き込む美しい顔に、思わずドキッとなってしまう。小さなお顔の中にある、ぱっちりと開いた目、スッキリとした鼻だち、大人の甘い色っぽさを出す唇、それらのパーツで構成された顔を栗色のショートの髪が神懸って月本さんを最大限の美しさにしている。……『かみ』だけにね、ハハッ……。異性、同性、そんなの関係無しに相手を夢中にさせる、さすがは大物芸能人です。
「この前の警固公園でのクリスマスライブ見たわよ、センターなんてやるじゃん!」
月本さんに褒められて、自分が一流の人物になったと錯覚してしまいそうになる。
私達のクリスマスライブは、《ミュージックスターズ》の公式YouTubeサイトにアップされている。再生リストにもCosmicrownの名前でリストがあったことから、これから仕事などが増えていく予定であることが暗示されている。
「私が、Cosmicrownのリーダーですから。リーダーとして、もっともっと頑張っていくつもりです!」
私に初めてやりがいをくれたもの、みんなを笑顔にすることの楽しさを、私に教えてくれたアイドル活動。だからこそ私はこれに全力で取り組んでいきたい。
「それを聞いたら、あなたの妹ちゃんも喜んでくれるわね!」
妹………?そんな関係じゃ無いよ、月本さん。
「妹………?義理の妹………、私が義理の姉ですよね?」
このように単刀直入に言うことがタブーであることと感じながらも、私は月本さんに言った。真っ直ぐに私が見つめると月本さんは気まずそうな顔をして目を逸らした。が、目を瞑って少しして、何か決心したのか、ハアッと大きなため息をつき、口を開いた。
「わかったわ。あなた、事情を知っているようね。」
私のベッドの上に腰をかけて、月本さんは本当の全てを話し始めた。
※ ※ ※ ※ ※
①香織の名前
上林香織、この名前は現在の名前であって、彼女の本当の名前ではない。
本当の名前は、藤田香織。藤田家に生まれた一人娘。香織の父親(正一)が、母親(香菜)の家へと婿入りをしたことで、苗字が藤田となった。
香織という名前は、香織の《香》が、母親の名前から一文字。
《織》という文字は、織姫の《織》から来ている。
七夕の時期に産まれたこともあり、織姫のような美しい女性になって欲しい。という両親の願いもあって、香織という名前となった。
②上林香織に
藤田家は家族の仲が良く、喧嘩なんて起きない手本となるような家庭だった。周りからは、おしどり夫婦のように見えていたらしいが、本人たちはそんなことは意識していなかった。二人はそんなことを気にするよりも子供の世話に熱心だった。
そのおかげか香織はいい子へと育っていき、幸せな生活を送っていた。
祝日だったある日、藤田一家は遊園地へ遊びに向かっていた。
現在の香織の母親(美和)は、前日に、兄である正一から『香織が明日の遊びに行くのを楽しみにしている』と聞いていた。父親が、自分の妹にそのことを報告したくなるくらいそれを楽しみにしていた。
しかし、その日に遊園地に遊びに行くことは無かった。
二年前に起きた大事故。北九州市まで続く大きな高速道路で事故は起きた。
大規模な玉突き事故が発生してその事故で8人の尊い命が失われた。原因は大型トラックに乗せてあった数本の鉄パイプが道路上に落ち、ばらまかれたこと。
後ろを走行していた車のドライバーは、車を緊急停車させた。しかし、後続の車がその車にぶつかり、そこから大規模な玉突き事故が発生。
結果から言うと、藤田一家はその事故に巻き込まれて、正一と香菜は死去。香織は意識不明の重体、一命は取り留めたものの、打ちどころが悪かったため記憶を失ってしまった。
これにより香織は一人になってしまった。
そこに、自分の家庭の経済状況を充分に理解していながらも、優しく手を差し伸べて家に引き取ってくれたのが美和である。
※ ※ ※ ※ ※
「そうだったんだね………」
全ての状況を私は知っていなかった。あの時も、真実を知るのが怖くて現実から逃げようとしていた。突然、私の受け止め切れる現実の範囲を超えて話し始めた、楓と保真麗、武琉が怖くて、その場から逃げた。
あの3人は、事実を私に教えることにより、私にわかってもらいたいことがあったんだろうな。
「美和さんはあなたのことを引き取ってくれた人物なのよ……?感謝の気持ちは忘れないでね?」
「わ、わかりました……」
なんでだろう、そんな良さげ話を聞いても素直に感謝をすることのできない私が何処かにいた。
※ ※ ※ ※ ※
「さ、行きなさい」
「ありがとうございました」
アパートの前まで送ってくれた月本さんに感謝をして、アパートの自分の部屋へと進む。帰ってから真っ先に母親と話し合わなければならない。それくらい私にはわかっているけれど、なんか気が進まないというか。
随分と懐かしい光景を見て、小学生時代を振り返りながらアパートの階段をのぼる。あの頃の母親は、そして妹は………。
階段で3階まで来て、302号室へと行く。
「必ず話すんだ、私。今までの私が間違っていたか、いなかったか。全てのことを受け止めるんだ、私……」
一応持っているアパートの部屋の鍵で、自分の部屋の入口の扉を開ける。寮に比べてやけに薄暗い部屋だなと思いながら「ただいま」と言い中へ入る。
私に気づいたのか、妹と母親がこちらへ向かってくる。
「おかえりなさい、香織」
笑顔を作ってそうは言ってくれるけれど、なんだろう。元気が無いのか?前より相当痩せこけた気がするな。さらに、声も少し弱いような……?そして妹の方も、疲れているような様子。この前会った時と比べて生気が薄くなっている2人を見ると、憎しみや怒りの感情よりも先に心配になる気持ちの方が勝ってしまう。
「どうしたの、げっそりと痩せたような気がするけれど」
「大変だっただろうに、わざわざ心配なんてしなくていいよ」
そんな様子で優しく声をかけられてもどう返していいか分からないし、あの話をする気にもなれない。にしても、なんで本人の口から私に言ってくれなかったんだろう……?
「香織、元気そうで何よりだわ。私、安心したわ……」
「ちょ、お母さん!」
あれ?なんで私、今、素直にお母さんなんて言えたんだろう。そんなことは本当にどうでもいいことだ。
私は、荷物を玄関にボサッと降ろして、その場に力尽きて倒れた母親の元へ駆け寄る。妹はビックリしてひたすらに「お母さん?お母さん?」と、声をかけている。
「だ、大丈夫?って………」
私はお母さんを持ち上げたが、痩せこけたお母さんは不気味な程に軽かった。私よりも身長は高いのに、体重は殆ど変わらないんじゃ無いか?と聞きたくなるくらい軽かった。
「なんで、こんなに軽いの?」
私が妹に問いかけると、妹は泣きそうな顔で私に抱きついて話し始めた。
「だってお母さん、ご飯を、全く食べないんだもん!」
その時は自分に全ての原因があることがわからなかったけれど、今考えてみればそれはそうだよね?となる。とても当たり前なことに気づけていなかった私はなんてバカだったんだろうね。
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