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コウジマチサトルのダンジョン生活2  作者: 森野熊三
第十二話「コウジマチサトルは解決を望む」
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3・名案提案明暗思案

 あくまでも黒妖精をどうにかできるのは自分とニゲラだけというサトルの主張に、最も反発したのはクレソンだった。


「ふざけんな、お前しかどうこうできないような相手ってわけじゃねえ。あいつはやりようによっちゃ俺たちでも」


 サトルが一人で抱え込もうとしていることが気に入らないのか、席を立ちサトルに詰め寄る。

 しかしサトルは現実問題として、自分以外に適任はいないと言い切る。


「そのやりようってどうやるんだ? 俺がダンジョンの妖精に見つけてもらって、俺自身が囮になって、ニゲラの力を借りて、黒妖精を倒すよりも効率よくできるのか?」


「ああ、やってやるよ」


 実際に黒妖精と対峙した分、クレソンは自分ならばできるはずだと見栄を切る。

 そんなクレソンをマレインが諫める。


「できるわけないだろう。クレソン、相手は曲がりなりにもダンジョンの勇者様だよ。サトルでなくてはいけない、という理由は、相手が妖精であるってだけで十分だ。僕たちには手出ししようがない」


「何でそんな諦めるんすか!」


 諦めているのではないと、セイボリーも口を挟んだ。

 セイボリーの横ではルイボスもまたその通りだと頷いていた。


「そういうものだからだ。ダンジョンの勇者というのは、その時々に、必ずダンジョンの手によって必要として選ばれる存在だ」


「タチバナもまたそうでした。冒険者として活動するには向いているとは言えませんでしたがね、彼女はダンジョンそのものに関して、誰よりもアドバンテージを持っていたんですよ」


 ルイボスの言葉にクレソンは言い返す言葉を探すように視線を泳がせる。

 タチバナの勇者としての資質については聞いたことは無かったが、タチバナと最も付き合いが古いらしいルイボスがそういうのだから、勇者がダンジョンに関してのアドバンテージがある存在だ、というのは確かだろう。


 それでもクレソンは自分が何もできないのは我慢ならないのか、何かないかと言葉を探すように視線をさまよわせる。

 本当はサトルとしても、彼らの助力を得られるのならそれに越したことはないと思っていた。だがそれにはデメリットも多かった。

 実際に黒妖精と戦って分かった、攻撃は当たらない、防戦一方になるかもしれない事や、知性があるがゆえに大人数で向かえば黒妖精が逃げ出してしまう可能性もある。少人数で行動するにしても、対処のできる人間は限られるので効率が悪く、だったら別のことにその力を使ってもらいたいところ。


「発言、いいですか?」


 悩むサトルたちの沈黙をルーが破った。


「何か名案でもあるのかしら」


 そうアンジェリカが揶揄するように口に出し、サトルはおやと首をかしげる。


「でしたら、黒妖精の影響で病気になった人を探すだけとか、その辺りでしたら私たちにもできますよね。それで、もし捜索中に大型の固体を見つけたら、そこにサトルさんを呼ぶまで時間を稼ぐくらいとか、そういうのはできませんかね? 私たちでも」


 黒妖精は小さな個体が集まる事で大きな固体になるので、もしかしたら小さな個体が存在している周辺に大きな固体がいるかもしれない、という事だろう。

 小さな個体がもたらす病気自体は、タイムのニガヨモギのクッキー、もしくは風邪の万能薬グレニドレで治すことができるので、それに関してはサトルが出張る必要はないという事だろう。

 だがルーの提案にアロエが無理ではないかと首を振る。


「できないんじゃない? だってどこに黒妖精いるか分かんないし、もし仮に見つけることができたとしてもさ、その時サトルっち呼びに行こうにもサトルっちがいる場所どっかわかんないし」


 しかしルーはアロエの懸念については問題ないと言い切った。


「いえ大丈夫だと思います。ニコちゃんたちなら黒妖精を見つけられるみたいですし、モーさんがいれば、すぐに襲われるという事も無いんですよね? 少なくともリズを助けることができたみたいですし。あと、これ、先生が私たちに残してくれた物なのですが」


 そう言ってルーはサトルが買い取ったあの笛の様な通信具を取り出し、テーブルの上へと置いた。


「あ、ルーそれは」


 サトルはまさかルーがその通信具を皆の前で見せるとは思っていなかったため驚いたが、横目で見ればアンジェリカはまるで最初から知っていたかのようなすました顔をしていた。もしかしたらサトルが帰って来る前に話しを付けていたのかもしれない。

 通信具については、他の者達も知っていたらしく、驚きはしたがすぐにそれがどういう道具なのか理解したようだった。


 マレインがルーの許可を得て通信具を手に取る。


「へえ、通信具か。随分と高価な物を……しかもこれは、ほとんど傷も無い、作られて真新しいのかな?」


 マレインの視線が自分に向けられるのを感じて、サトルは自分にはわかりかねると嘯く。


「これが五つあるんです。私とバーベナとオキザリスの血で登録してある笛が五つ」


 ルーはマレインの意味深な視線には触れず、通信具についての説明をする。


「これを使えば、連絡自体はすぐに取れますから、どこにいるか、サトルさんを呼ぶことはできるんじゃないかと」


 緊急連絡用のトランシーバーのような使い方だ。サトルも覚えのあるその通信具の使い方に、それはいいと頷く。

 サトル以外が無茶をしないで済むうえ、離れた場所でも連携が取れるというのなら、サトルも自分だけがどうにかしなければいけないと、思い悩むことも無い。


「サトル殿、肩の荷は下りただろうか?」


 サトルの安堵に気が付いたのだろう、オリーブの問いかけに、サトルは困ったような顔で笑った。


「……ああ。思っていたより、俺は思い上がっていたようだ」


 サトルは事黒妖精に関しては、自分だけで何かをしなくてはと考えてから回っていたが、人の協力を得るための布石は自分でも知らぬ間に用意していたらしい。

 見ればアンジェリカが得意げな顔をしてサトルを見ていた。


「笛の事、ルーに提案したのはアンジェリカか?」


「あら、お分かり? でもどのように活用するかはルーが決めたわ。私はもう少し連絡を密に取るのに使えばと言った程度よ」


 活用方法についてはまだ詳しく考えていることがあるはずだとアンジェリカが指摘すれば、ルーはその通りですと胸を張る。


「黒妖精については先ほどサトルさんからしっかり聞きましたから、復習はいいですね。それでは私たちが使える道具、頼りにできる妖精たちを整理ます。笛は全部で五つあります。一つは私が、残りはサトルさん、ビビ、ベラ、リズが持っています。すべての笛は、一人が使うと全ての笛の持ち主と双方向で会話することができます。ニコちゃんと同じ性質の妖精は、コニちゃんとココちゃんの二人ですよね。モーさんの大型固体は三人まではこの家を離れて行動できてましたし」


 つらつらと挙げられる妖精たちの名前にサトルは感心する。確かにコニちゃん、ココちゃんは最近モンスターの中から助け出した、ニコちゃんと同じ性質を持つ妖精たちだ。


「よく覚えていたな」


「ええ、まあ毎日見ていますしね。それでですね、まず黒妖精は大人数で行動すると逃げるかもしれませんよね。ニコちゃんと一号モーさん、コニちゃんと二号モーさん、ココちゃんと三号モーさんをそれぞれ連れていくようグループを作ってみてはいかがでしょう? 人数は多くても五人ほどで」


 五人というルーの提案に、マレインが賛同する。その手元には数枚の紙。それが昨日町で人を襲った黒妖精についての詳細なのだろう。


「うん、それが妥当だろうね。サトルたちがダンジョンに潜った時の人数も、遭遇したという心配冒険者も、五人だった。町で黒妖精に襲われた者も、連れは一人だけ。人数的にはそれ位が、黒妖精に警戒されないいい数字だろう」


 だったらとオリーブが言葉を継ぐ。


「となると、ここにいる者達を三組に振り分けるべきか。サトル殿とニゲラ殿以外は、あくまでも捜索がメイン。見つけたらその都度通信具を使ってサトル殿を呼ぶとして……ニコちゃんと一号モーさんはサトル殿とニゲラ殿と一緒が良いだろう」


「残りの人員はどうしようか。誰か意見は?」


 マレインに促され、もう一度ルーが口を開く。


「何も全員で探す必要もないかもしれません。数人は待機、もしくは明日から動くのであれば、冒険者への依頼ではなく任意での協力をしてもらっている事として、ローゼルさんと話を付けていただければ。冒険者にとっても他人ごとじゃないんですよね? だったら、冒険者の方々に広く情報を得られればと思います」


 ローゼルに話しを付けるというルーの判断に、確かにそれも必要だろうとルイボス。


「妥当な判断ですね、我々全員が動くのであれば彼女に話さないわけにはいかないでしょう」


「それじゃあどうチームを分けるかだが」


 具体的なチーム分けをとマレインが言いかけた言葉を遮り、クレソンが大きく声を上げた。


「俺とリアンは別々だ、絶対にその方がいい」


 突然の名ざしにバレリアンはもちろん怪訝な顔。


「何故?」


「攻撃されたときに反撃するには、とにかく反射神経が必要だからな。俺と同じくらいならお前以外いねえだろ。まあ俺よりちょっとは劣るけどな」


「僕が劣る? 貴方に? 何を言うかと思えば」


 クレソンの余計な一言で勃発しかけた争いを、マレインが手を打ち音を立てて諫める。


「こらお前たち。今それを競う必要が有ると、本気で思っているのか? ん?」


 笑顔だが眼鏡の奥の目は笑っていないマレインに、二人は頬を引きつらせ大人しくなる。

 だがクレソンの提案はもっともだなと、オリーブはクレソンとバレリアンの別行動を採用する。

 いつの間にか議長がオリーブ、進行はマレインになっているようだ。


「クレソンは二号モーさんと、バレリアンは一号モーさんと行動を共にしてほしい。カレンデュラ、アンジェリカ、君らは私と一緒にクレソンと一緒に行ってくれるか?」


 名指しされた二人はもちろんだと答える。


「ええ構わないわ」


「問題はないわね」


 クレソンもそれでいいと頷く。


「では私の笛はアンに託します」


 サトルを呼ぶための手段の笛も、アンジェリカになら託すに問題は無いと、ルーはアンジェリカに手渡す。


 だったらとアロエも手を挙げ元気良く主張する。


「リアンの方にはあたしとモリーユが行くよ。いいでしょ? ベラから増え借りればいいかな? この話すればたぶん貸してくれるし」


 ベラドンナが笛を貸してくれるだろうということに疑いはないと、アンジェリカも同意する。


「ベラならそうでしょうね。そうしてくれると助かるね」


 すんなりと決まっていく人選に、マレインは残り、自分とセイボリー、ルイボスをどうするかと考える。


「残りは僕らか……」


 セイボリーはすぐに、自分が付くべきはオリーブのいないチームの方だろうと主張する。


「私はバレリアンの方に付こう。近接で戦うことになる事を考えるなら、その方がいいと思うが」


「まあそうだろうね。だったら僕はサトルたちの方へ行こうか。いいかい?」


 セイボリーがバレリアンたちの方にというならば、人数的に最も少数のサトルのサポートも必要だろうと、マレインはサトルに問う。


「そうだな、そうしてもらえるとありがたい」


 マレインならサトルのように自ら囮になる様な事もしないだろうことや、モーさんがいれば一人くらいは安全を確保できるだろうと、マレインの随行を歓迎するサトル。

 そんなサトルに、だったら自分もとヒースが手を挙げる。


「あ、じゃあ俺」


 みなまで言わせずサトルはそれを却下する。


「ヒースとワームウッドは避難所の手伝いをしててくれ」


 ヒースは目に見えて耳や尾をしおれさせる。ワームウッドはそんなヒースのお目付け役かなと、意地悪く笑う。


 最後に、ルイボスがローゼルとの話し合いは任せろと請け負う。


「では、私はローゼルを説得しましょう」


「……有難う、頼みます」


 サトルとしてはそれが一番面倒だろうなと、内心苦く笑いつつ、ルイボスへと頭を下げた。


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