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コウジマチサトルのダンジョン生活2  作者: 森野熊三
第十一話「コウジマチサトルは戦える」
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7・悪い善人

 謝罪をしろと言ったサトルの言葉を受け、クレソンとバレリアン、二人の視線がヒースへと向けられる。


「俺には謝らなくてもいいよ。けど俺のせいで二人が喧嘩したら、俺もリズみたいに悪者にされるなら……きっと二人を軽蔑する。リズは少なくとも話に聞いていた感じとは全然違ったし、今はクレ兄とリアンさんあんまり信じられないから、正直謝ってもらいたくない」


 思っていた以上に攻撃的なヒースの言葉に、クレソンとバレリアンはぐうと呻き言葉を失う。

 謝罪すらいらないと言い切るほど、二人の行動はヒースにとって嫌悪を感じるモノだったらしい。


 そのヒースの態度を見てか、マレインは何か考えるように眼鏡の奥の目をすがめる。


「なるほどなるほど、彼らは君が話に聞いていたほど悪人では無かった、と?」


「そうだよ。リズは悪い奴じゃなかった」


 昨日からずっとこれを伝えたかったと、ヒースは実に清々し気に断定する。

 サトルもまた、オキザリスだけでなく、バーベナとベラドンナも悪い人間ではなかったと主張する。


「ああ、三人ともタチバナが育てただけあるよ、自分たちが命の危険にさらされても、必死で病人たちを助けてたし、それに何より……ルーのために俺を疑っいてた。一連の行動もすべてはルーのためだったんだ」


 しかしサトルの言葉にオリーブとカレンデュラは猜疑的な様子。


「ルーのためにか……にわかには信じられないが」


「そうね、言い訳かも知れないと……」


 ルーはすでにその話を聞いていたのだが、何度聞いても三人が自分のために陰で苦労をしていた、というのが心に刺さるのか、ただでさえ感情豊かな目に涙を湛え、感極まった様子だった。


 その表情を見て、オリーブとカレンデュラは、言いかけていた言葉をのみこんだ。


「ルーは、サトル殿の言葉を信じるのだね?」


 オリーブの問いかけに、ルーはしっかりと強く頷く。


「はい! 三人は私の大事な家族です。信じたいんです!」


「分かった。ルーがそう言うのなら……サトル殿、三人がルーのために行動していたというその話、詳しく教えてくれないだろうか」


 オリーブの問いかけは有無を言わさぬ強さがあり、もちろん話すつもりだったが、サトルは慎重に疑われないよう、三人がルーのために行った一連の行動の真意を語った。


「なるほど……」


 サトルの話を聞き終え、オリーブは深々とうなずく。


「確かに……あの貴族は、問題があるとは思っていた」


「そう言えば、ベラドンナは露骨にサトルを口説いていたわ……それがサトルの悪い噂を聞いての行動だっというのかしら?」


 サトルは僅かにアンジェリカに視線を送る。全員を呼び集める前、部屋を訪ねて事前に打ち合わせをしていた通り、それまで静かにしていたアンジェリカが口を開く。


「確かにそうね。噂が無かったとしても、どこか遠い国から来たらしきサトルは明らかに怪しい人物よ。疑われてもしょうがないのかも」


 サトルは疑われてしかるべき人物だったと、アンジェリカ。サトルも確かに自分は怪しかったと肯定する。


「だからオリーブたちも、マレインも、ワームウッドも最初は俺のこと疑いまくってたよな?」


 マレインはまあ確かにと肩を竦める。マレインはサトルを疑っている事を隠さなかった筆頭だ。

 それに対して、オリーブたちはルーが納得しているならと、表面的にはサトルに友好的だった。

 しかし、アンジェリカはその友好的な態度は完全なものではないと暴露する。


「今でも疑っているわよ。でなければ貴方のこと監視したりしてないわ。そうでしょ? オリーブ」


 もちろんこれも打ち合わせの通り。そしてサトルは予定通りにアンジェリカに怪訝そうに問う。


「どういうことだ?」


「気が付いてなかったかのかしら? 私の使ってるこの子に、貴方を見張らせていたのよ……心苦しかったわ」


 そう言ってアンジェリカが自分の服の裾から出して見せたのは、小さなトカゲのようなモンスター。以前見た物とは違うが、これもまたサトルの周辺を監視していたのだろう。


「そんなことができるのか? それはその……どうやって?」


「視界を共有できるのよ。さすがに声までは聞こえないけれど……怪しい行動があれば、すぐに対処をするつもりだったわ」


 すでにその能力について知っているサトルと、二度目の説明をするアンジェリカにとっては茶番でしかないのだが、まさかアンジェリカがサトルに自分の能力の秘密を離すとは思っていなかったオリーブたちは、苦々しく顔を伏せた。


 オリーブたちの態度から、マレイン達もまたサトルへの監視が、オリーブの指示会っての物だったと理解したのだろう。まさか君がと驚く。


「そんなことをしていたのか? ああいや、君は結構モノを考えるから、慎重になっていてもおかしくはないか……言い出せなかったのは、後ろめたかったからかな?」


 マレインの問いに、オリーブは素直に頷き、サトルにすまなかったと謝罪をする。

 日本人ではないのでまっすぐに目を見つめ合っての謝罪だ。サトルはその強く真摯なまなざしを受け止める。


「心配半分だったのだが、そうだな、監視なんて疑いを向けるような真似だ。すまなかった」


「心配か……まあ、仕方ないだろうな。俺は弱い。こちらの国では世間知らずだし、それに度々倒れて迷惑をかけたからな。心配してもらったのはありがたいよ。疑われていたのも……仕方ないと思っている。ちょっと、複雑な気分だ」


 視線を受け止めたまま、サトルは感情的には飲み込みきれないと返す。


「深謝する。私たちが疑り深かったせいで、サトル殿を傷つけてしまった」


「いやいいさ、謝る必要はないんだ」


 最初からこうする予定だったので、サトルとしては本当にこれ以上の謝罪は必要なかった。むしろサトルは自分の方が謝るべきだろうなと、内心独り言ちる。


 卑怯な真似だと分かっていたが、サトルとアンジェリカはそれぞれに落ち度を付きつけ、サトルの頼みを断り辛い心境を作ることにした。

 アンジェリカが共犯になってくれたのもまた、サトルを監視していた事への罪悪感があったからだろう。


「ただ、そうだな……俺に少しでも申し訳ないと思うなら、力を貸してほしい。疑われて仕方ないんだったら、少しでも善行を積んで、世間の評価を変えたい。前は名声や権威なんていらないと思っていたが、疑われないようにするために必要なら、いくらでもあった方がいいだろ?」


 サトルは駄目押しとばかりに、最初にしていた人の命を助けたいんだという主張を繰り返す。


「それに何より、俺は俺の前で死ぬかもしれない人間は、やっぱり見捨てられないから」


 サトルはオリーブの目を真っすぐに見て懇願する。


「たのむ、一緒に黒妖精を探すのを手伝ってくれ」


 サトルの強い頼みに、オリーブもカレンデュラも、もちろんだと答える。オリーブのいつもは重そうに垂れている耳が、感情の高ぶりに合わせるように持ち上がる。


「ああ、わかった! サトル殿の気が済むまで、必ず!」


「そうね、謝意を行動で表すいい機会だわ。有難うサトル」


 二人に続いてマレインが、クレソンの肩とバレリアンの尾を握ったまま、自分も協力させてもらうと表明する。サトルの気のせいなのかもしれないが、マレインの笑顔の裏に般若の影が見えるようだった。

 もちろん握られたままの二人は強制参加だ。


「僕はもちろん手伝わせてもらおう。こいつらの尻ぬぐいも兼ねて」


「ありがとう! マレイン!」


 最後とばかりにアンジェリカが答える。


「私ももちろん手伝わせてもらうわね。ようやく腑に落ちたのよ……あの子たちの行動の意味が。だったら助けるのが姉というものだわ」


 びしりと手を挙げて、ルーも自分もだと主張する。


「妹もです!」


 目がらんらんと輝き、耳は興奮から内側が赤く染まっている。

 よほどオキザリスたちを助けたいという思いが強いのだろう。


「頼んだ、ルー。君の力が必要になると思う……病をもたらす黒妖精だ」


 サトルの言葉に、ルーは強く頷いた。


 ワームウッドだけは賛同しなかったが、サトルはそれは仕方ないと諦める。ワームウッドの心境は今の状態では探りようがない。無理に誘って反発されても面倒だからだ。


 とりあえず目の前の者達に、サトルが避難所で見た具体的な黒妖精の話をする。もちろん妖精たちとどのような攻防を繰り広げたかもだ。

 そして、サトルの目的はその黒妖精を見つけ出し、どうにかして退治するか封印する方法を探したいという事。


 一通り話を聞き終わり、オリーブたちはとにかく最初に、その黒妖精とやらの実際の被害者の様子を確かめたいということになった。

 モーさんの対である黒妖精が、モーさんと同じように分裂して色んな人間に取り付いている可能性や、それを見つけ出して治療する必要性もあるだろう。その為には実際の病状を見ておいた方がいいとなったのだ。


 話を聞き終え、ルーが心配そうにサトルに問う。


「サトルさんは……大丈夫なんですか? その話しぶりだと黒妖精と戦ったのでは?」


 サトルは黒妖精のもたらす病になってはいないのだろうかと、ルーは心配しているようだ。しかしサトルはそこは問題ないとあっけらかんと答える。


「ああ、俺は大丈夫。キンちゃんたちが治してくれてるから。こっちに来て今まで一度も怪我が膿んだことは無いしな」


 正直言ってこの世界の感染症について、気にしたことは無かった。

 サトルは元の世界にいた時にさんざんワクチンの予防接種等をしていたので、ただでさえ人より免疫のある病気は多かったが、それよりも、病気のことを考えている余裕のない時に一度モンスターに襲われ怪我をして以来、色々と心配することを諦めていた。

 もし元の世界に戻ったなら、その時は様々な検査をされるだろうことは覚悟していた。


 しかしこの世界では病気というモノに対して、あまりにも考え方が軽く、まるで寝ていれば治る程度の認識しかないように感じられた。

 しかしそれがダンジョンによる恩恵だと知って、サトルは今回の黒妖精のことも含め納得した。

 このダンジョンは病を防ぐ力を持つ。そのダンジョンの力の影響が、ダンジョンの内外に病への特効薬を生み出しているのだろう。


 想像に過ぎなかったが、サトルの左手にまとわりつくようにじゃれる妖精たちを見て、サトルは確信に近い物を感じていた。


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