表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
コウジマチサトルのダンジョン生活2  作者: 森野熊三
第九話「コウジマチサトルは戦えない」
113/150

11・格好良くは戦えない

 堰に向かい走り出したサトルを追って、ルーたちも付いて行く。

 その中には当たり前の様な顔をして、モーさんを連たオキザリスの姿もあった

 オリーブやマレイン達に遅れ、オキザリスの横を走りながら、ルーはサトルに問う。


「サトルさん一体いつの間にリズを手懐けたんですか?」


 先を急ぐサトルには声が届いていないのか、返事は無い。代わりにオキザリスが答える。


「馬鹿にしないでくれる? 僕別にあいつに懐いてなんかいない。今だけここを助ける手伝いしてもらってるだけだから」


「ええ……」


 ふんと鼻を鳴らしてオキザリスは言うが、自分から飛び付いたり、ルーには目も向けないのにサトルはしっかり見つめ合ったりと、明らかに懐いているのはバレバレだ。

 何を考えてオキザリスがサトルに協力をすることにしたのかはわからないが、サトルが変な相手に好かれやすいのは今更なので、ルーは仕方ないかとため息を吐いて、オキザリスとの共同戦を受け入れることにした。

 ルーは周囲が思う程、オキザリスのことを憎い相手だとは思っていなかった。




  堰のある場所に戻って来てみれば案の定、イグサと一緒に行動をしていた髭面の男たちと、その仲間だろう別の男たちがいた。数にして総勢十三人。イグサの姿は無い。

 サトルにやられた後に増援を呼んだのだろう。


「帰って来やがった!」


「くそったれが! もう同じ手は効かねえぞ!」


 男たちはサトルに対して啖呵を切るが、その後ろについて来たオリーブたちを見てたじろぐ。


 ニゲラやマレインは優男風では有るが、男たちを見て怯む様子はなく、オリーブはそこいらの男よりも体格がいい。サトルの連れて来た援軍に絶対に勝てるという自信はないようだ。


 しかし更にその後ろを付いてきたルーは、サトルに聞いていたよりも多い相手の人数に怯えてオキザリスの後ろに隠れた。


「わわわ、私場違いじゃないですか?」


「そうだよね、僕と違ってルーは攻勢魔法使えないじゃない」


 オキザリスもルーが戦えるとは思っていないと、背に庇って呆れたようにサトルに言い、わざわざ名指しで連れてくるなんて無謀だと、嘲笑する。


「悪い、でも俺一人でここにいると確実に悪者扱いにされるから、できる限り目撃者が必要だと思って」


 サトルはルーたちを振り返る。

 それが隙だと思ったか、髭面の男たちが動いた。


「とりあえず……フロルメイ! 俺の指さす先にいる全員なぎ倒せ!」


 もちろん臆病が過ぎて慎重サトルが敵と認定した相手を前に、油断して悠長に雑談をするはずもない。

 視線はルーへ、指は男たちへ向けたまま放った精霊魔法は、全員ではなかったが、数人の男たちを無様に水の中へと転がした。

 目の前に倒れてきた男たちにたじろぎ、後続も足が止まる。


「うぶあ!」「おわ!」「げえ」「おぶ!」「ぶああ」


 次にサトルはしゃがみ込み足元の水に手を差し入れる。


「ベルナルド! 今転んだ奴らを氷の小さな檻に閉じ込めろ、水から体を上げさせるな!」


 サトルの手元から氷の帯が伸び、無様に倒れた男たちを囲むように、格子状の氷が水面へと立ち上がった。

 サトルの意思を汲むこと長けているベルナルドは、作った檻を人が立ち上がれないほどの低さにし、天井を作るのも怠らない。

 流水にさらされているので溶けるのは時間の問題だろうが、残り八人となれば、一人が対応しなければいけない数も減っているので、倒す時間も短くなる。一度に相手する人数を減らせば勝率も上がるという物だ。


「随分ひどいことをするねサトル。水かさが増えたら彼らは溺れるんじゃないか?」


 さすがに男たちを閉じ込める檻が低すぎるのではとマレイン。


「溶けるの前提だからいいんだよ。ここの堰が開きさえしなければ、死ぬことも無いだろ」


 むしろ、今此処で強硬手段に出たら、地面に縫い付けられるように身を低くしている五人は確実におぼれ死ぬだろう。

 もし彼らに少しでも身内意識という物があるのなら、きっと無茶はしないはずだとサトルは思ったのだが……。


「ああ成程。けど、彼らがそんな他人思いかな。君は人が良すぎるよ」


 呆れたように肩を竦めるマレイン。少しくらい他人に人間味がある事を信じてもいいじゃないかと、サトルは不服気に眉をしかめた。


 そんなサトルたちの後ろでも、意見の対立が起こっているようだった。


「凄いじゃない……僕だってここまではできないのに」


と、素直に感嘆するオキザリスに、冷たくルーが言う。


「と言うか、オキザリスは雨の日だとあまり役に立たないのでは? 場違いなのは私だけではない気がします」


 自分の力不足を指摘され、オキザリスがむっと唇を尖らせる。


「ふざけないでくれる?」


「ふざけてませんよ、事実ですー!」


「何それ僕がルーみたいな役立たずだって言いたいわけ? はん、自分がお荷物だからって他人に転嫁するの止めてくれる?」


「お荷物ではありません。立派な目撃者です。第三者です。サトルさんがわざわざついてこいと言ったのです」


「そんなの僕やマレインさんでも十分じゃん! あんたが必要だったわけじゃない!」


 キャンキャンと犬と猫が吼え合うような言い争いの中、サトルたちは八人の男と対峙していた。

 ニゲラはうっかり手加減をし損ねないよう、慎重に短刀を振るってくる男を三人ひきつけ逃げ回り、オリーブは向かってきた男をまるで柔道の投げ技のような形で水にたたきつけ、マレインは街中では得意の大規模な攻勢魔法が使えないという事もあって、サトルとともにごろつきの持つ刃物や拳から逃げ回っている最中だった。

 つまるところ、実質戦っているのはオリーブ一人。


「ああもう、二人とも子供じゃないだろ! 後ろで喧嘩しない。あとで二人の言い分はきっちり聞くから、ここをどう対処するか考えて。相手を殺さず大きな怪我もさせず無効化する方法! 思いつくなら教えてくれ!」


 キャンキャン吼える二人の傍に男たちがいかないように、逃げ回りながらも牽制を続けるサトルたち。

 サトルはそんなに余裕があるなら何か策を考えてくれと叫ぶ。


 それだったらと、オキザリスはすぐに答える。


「氷の魔法が使えるんだったら簡単だよ、服を凍らせればいいじゃない。氷が薄くても硬い物を被せられると関節って曲がらないんだよ」


 まるでやったことがあるかのような言い方だが、オキザリスはそれをどこで知ったのか。


 そもそもやり方が分からないとサトルは答え、しゃがんで殴りかかってきた男の足を掬う。

 男たちは喧嘩慣れしているのだろうが、足元に水があるという状況が、自分の体にどう影響をするのかは知らないのだろう。

 水が足に絡み付くと上手く走れない、殴り掛かるにしても、すり足で体勢を変えることもできないので、狙った場所を腰を落として殴る事もできない、また水は重く絡みつくので、一度足を上げてしまうとすぐにバランスを崩す。

 サトルはそれを知っていたので、できる限りその場から動かず対応した。


 バランスを崩した男の足首を掴んだまま立ち上がり、別方向から殴りかかろうと近付いてきた男に向かって投げる。もちろん当たりはしないが、乱暴に放り出された男の足が水面を叩き飛沫を上げて、一瞬近付いてきた男がひるむ。

 その間にサトルはオキザリスにアドバイスを乞う。


「服だけなんてできるか分からないんだが」


「ピンポイントで魔法を使いたい対象があるなら、触れて指示を出せばいいんだよ」


「ああ、なるほど」


 怯んだのも一瞬で、男はすぐにまたサトルへと近付く。水に足を取られながらのろのろと近付く相手に、サトルは大きく足を上げて飛沫を飛ばす。とにかく時間稼ぎをしているに過ぎないが、その間にオリーブが確実に一人一人意識を奪っているので、実はすでに残り五人だったりする。


「蹴り上げた水を凍らせろベルナルド」


 雫は礫となり男に向かい、男は悲鳴を上げる。


「それって結局サトルさんが頑張るしかないんじゃないですか」


「頑張る事なら慣れてるから大丈夫だ!」


 サトルにばっかり無理をさせるなとルーは言うが、サトルは無理をするつもり満々なので、ルーも仕方ないと、自分が知る限りサトルが使えそうな知恵を一つ口にした。


「無理しないでくださいね! それと、精霊魔法でも火種そのものを作る類の魔法なら、雨の中でもすぐには消えませんよ! 握ったまま相手に押し当てるとか使い道有ります!」


「分かった」


 氷のつぶてをぶつけられた男は、自分の相手をしながらも会話を続けるサトルのその態度を馬鹿にしていると感じたのか、顔を赤くして腰に下げていた剣を抜いた。


「ふざけやがって! もういいぶっ殺す!」


 つまり今までは手加減をしてくれていたらしい。それは一体どういうことか、サトルが尋ねる前に声が上がった。


「殺すなこいつはまだ使う!」


 そう叫んだのは、堰の板根のような構造物の陰に腰を落として隠れていたイグサ。思わず叫んでしまったらしく、明らかにしまったという表情。


 まだ使うと言う事は、サトルに罪を着せるつもりなのは変わらないのだろう。


「あんたが本当の指示者だったのかよ」


 以前にホップとオーツに助けられた時の事を考えれば、イグサが事の中心近くにいるというのは十分に考えられることだった。

 サトルは剣を抜いた男を無視してイグサの方へと走る。


 水の中で出来る限り早く走るコツは、足を高く上げて水を蹴らずに走る事。スキップかおどけた人の様な無様さはあるが、それをするのとしないのとでは雲泥の差であることをサトルは知っていた。

 突然自分に向かって駆け寄ってきたサトルに、イグサは慌てて逃げようとするが、水の中を走るコツを知らないイグサはすぐにサトルに捕まってしまう。


「服を凍らせろベルナルド」


 サトルはイグサのシャツとズボンを掴みベルナルドに命じる。


「ギャン!」


 急に冷水を浴びせられた野良犬のような悲鳴を上げてイグサは水の中に転がった。オキザリスの言う通り関節が曲がらず、逃げようと前傾姿勢だったこともありバランスも取れなかったらしい。


 とりあえず溺れないように足で蹴りつけ、イグサを仰向けに転がし、サトルは抜身の剣を持って背後に来た男に向き直る。

 やはり足を上げて男を回りこむように距離を詰める。横から背後に回るサトルに向き直ろうと、男はバシャバシャと水を跳ね上げながら向きを変えるが、慣れているサトルには追いつけない。

 サトルは背後から男に飛びつき、剣を持った右の二の腕を掴んた。

 男が驚き振り払おうとしたところで、サトルは火の精霊ベルナルドに命じる。


「レオナルド! 火種を一つくれ!」


 掌に火の小さな灯がともる。この火種は何かにうつさない限り、術者であるサトル自身が火傷することはない。逆を言えば術者以外に触れれば確実に火傷をする火だ。


 サトルは掌に火種を握り込んだまま、強く男の右腕を握りしめた。


「ぎゃあああああ!」


 腕を直接燃やされる痛みに男は悲鳴を上げ崩れ落ちる。痛みに喚きながら傷口を見ずにつけたはまた喚き、それでも痛みを取ろうと自ら体を起こせない。


 その攻防の間にも、マレインとニゲラが引きつけ、オリーブが個々に意識を奪っていき、戦闘意欲がある者は残りは二人になっていた。


 数の不利から一転して、サトルたちは圧倒的に優位。これなら問題なく男たち全員を拘束できるだろう。


 ゴウン!


 勝利を確信した直後、サトルの背後から巨大な稼働音がし、一体どういうことかとサトルが振り返るより先に、音と言うにはあまりにも強い振動を伴った破砕音が聞こえた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ