旭達は模擬戦の当日を迎える
ギリギリな完成になってしまった……
(※5/12 3時 文章修正)
コロシアムの内部に転移の術式をセットしてから数日後。
模擬戦の当日を迎えた俺達は、控室に集まっていた。
控室には大きなモニターが付いており、コロシアムの様子が映し出されている。
……ソフィアはこんなところまで構築したようだ。
「あ、パパ。コロシアムの中央に向かって誰か出てきたよ」
「お?本当だ……。あのイケメンはたしか……」
「旭さん、あれはレーナさんとリーアさんをナンパしてきたイケメンですよ。ほら、女性をたくさん侍らせていた……」
「あぁ……。そういえば……そんな奴もいたなぁ……」
コロシアムの中心に出てきたのは、ウダルに着いたばかりの頃に絡んできたイケメン君だ。
名前はなんて言ったっけ……?
まぁ、イケメンの名前なんて覚える必要はないか。
というか、謹慎中じゃなかったのか?
あぁ、もう1ヶ月経っていたのか。
そんなイケメン君はコロシアムの中央で、深く息を吸った。
……何を始めるんだろうか?
『Ladiesッ!! and〜…… gentlemenッ!!これよりッ!!響谷旭とその仲間達による模擬戦を開催するッ!!」
『『『『ウオォォォォォォォォッ!!!』』』
『今回、司会を務めさせてもらうのは、Dランク冒険者n『イケメンの名前なんて興味ないわっ!!』……名前くらい名乗ってもいいと思わないか!?まぁ……いいさ。今日は異次元の模擬戦を心ゆくまで楽しんでいってほしい!!』
『『『『オォォォォォォォォォォォ!!』』』』
イケメン君が司会なのは別にどうでもいいんだが……なんか異様なほど盛り上がってないか?
観客の歓声が地響きとなって、控室にまで伝わってくるほどだ。
どのくらいの人間がこの模擬戦を観に来ているのだろう。
2万人以上はいそうな気がする。
「お、お兄ちゃん……。この環境の中で模擬戦をするの……?」
そんなことを考えていたら、リーアが俺の腕に抱きついてきた。
この間は【狂愛】で緊張を解した様だが……本番前にまた緊張してしまったらしい。
こんな状態で全力を出すのは厳しいだろう。
多分だが……模擬戦が終わった後でリーアは激しく後悔してしまいそうだ。
「リーア。もし気になる様だったら……対策を考えようか?」
「……ごめんね、お兄ちゃん……。あんなに人数がいる中で全力は出せそうにないや。……お願いします」
リーアはそう言ってさらに強く俺の腕を抱きしめる。
……愛しい女がこんなに震えているんだ。
それに応えなければ……男として失格だろう。
「……じゃあ、ちょっと対策を講じてくる。ソフィア、リーア達の緊張をほぐしてやってくれ」
[Yes,My Master。この場はお任せを]
「…………【短距離転移】」
俺はソフィアにレーナ達の面倒を任せて、コロシアムの中央に転移した。
リーアを怖がらせる要因は……すぐにでも除去しなくては。
▼
「お、おぉ!?なぜ今君が出てくるんだ!?君が登場するのはまだ後だろう!?」
「……うるさい、黙れ」
「ひッ……!?」
コロシアムに転移した俺は騒いでいるイケメン君を視線で黙らせる。
イケメンの話を聞いている時間がもったいない。
俺はコロシアムの観客席をグルっと見渡した。
「お?あれが響谷旭か?意外とヒョロっぽいんだな」
「確か今回の模擬戦は旭が連戦するんだっけか?」
「だな。だが今出てきたのは旭だけだぞ?なにをするつもりなんだ?」
見渡す限りの人……人……人。
観客席は少しの隙間もなく埋まっている様だ。
……流石に来すぎじゃねぇのか……?
俺は深呼吸して大声を張り上げる。
「今日は俺達の模擬戦を見にきてくれてありがとう!まさか、こんなにも多くの観客が来るなんて思わなかった!」
「「「「オォォォォォォォォォォォ!!」」」
「だが!だがしかしだ!予想以上の来客数だったため、嫁の1人が緊張してしまった!!そこで……遺憾ながら対策を講じさせてもらう。まずは……このモニターを見てくれ!【クリエイト】!!」
俺の魔法のワードと共に空中に巨大なモニターが5つ創造される。
そのモニターにはコロシアムの内部が映し出されていた。
「空中にスクリーンが現れたぞ!?」
「あのモニター……浮いていないか!?」
「これだけの質量を……それも一度に5つも創造するなど……奴の魔力はどうなっているッ……!?
俺が創造したモニターを見た観客達は、口々に驚きの声を上げている。
まぁ、普通なら家電くらいしか創造できないらしいからな。
驚くのも無理はないが……今はそれよりもやらなければならないことがある。
「今回の試合の内容は……このモニターを通して見ていただきたいと思う!俺達の全力を見てもらうため……何卒ご理解願いたい!!……それでは、これよりもう1つの魔法をお見せしよう。【聖断】に【遮断空間】を付与……。いくぞ、【聖遮結界】!!」
俺は【聖断】に観客席からの音と視界を遮る【遮断空間】を合わせて発動させた。
ネーミングセンスが皆無だって?
仕方ないだろ……元々名付けは得意じゃないんだから……。
大目に見て欲しい。
俺の放った魔法によって、観客の姿と音が聞こえなくなった。
……これでリーアも緊張しないで、模擬戦に望むことができるだろう。
「お……俺はどうすればいいんだ……?」
「ん?別に解説役はいらないから観客席に行ってくれ。転移の対象をイケメンに設定……転移場所はコロシアムの観客席。魔法の発動を俺が控室に戻った時にして……【短距離転移】」
1人立ち尽くしていたイケメンに対して、観客席に転移される様に魔法の発動準備を行った。
俺としてはなんで解説役がこのイケメンなのかが理解できない。
イケメンは死すべきだ。
俺の嫁達がもしも惚れたら……どうするつもりなんだ。
「……なんか模擬戦前からどっと疲れたな……。レーナ達に癒されてくるか……【短距離転移】」
「ちょ、ちょっと待て!!今控室に戻ったら俺も転移されてしまうj……ウワァァァァ!!!」
俺は叫ぶイケメンを無視して控室に戻った。
少しだけ心がすっとしたのは内緒だ。
▼
「ただいま〜。とりあえず観客の姿と声が聞こえない様にしてきたぞー」
[おかえりなさい、マスター。【遮断空間】なんていつの間に使える様になったのですか?転移する前はそんな魔法なかったと思うのですが]
「ん?あれは転移した後に創造したからな。まさか【聖断】と掛け合わせることができるとは思わなかったけど」
ソフィアの質問に俺は素直に答える。
遮断というのは音も光もすべて遮る言葉だ。
それを使用すれば問題ないだろうと思ったのだが……【聖断】に付与できるのは知らなかった。
もしかしたら【聖断】もいろんな可能性を秘めているのかもしれない。
「お兄ちゃん、私のワガママを聞いてくれてありがとう。……でも、【聖遮結界】って……ふふっ」
「パパのネーミングセンスはあまり良くないっていうのは知っていたけど……予想の斜め上の技名だったよ……。……思い出したらまた……あはははっ」
レーナとリーアはそう言って、顔を見合わせて笑い始めた。
くぅ……!
ネーミングセンスが皆無なのはわかっているが、ここまで笑われてしまうとは……!
だが、2人が笑顔になったのならそれでもいいかと思ってしまう自分もいる。
……この笑顔を守るためにも、己の羞恥心は捨てるべきだろ。
……ん?
そういえば、ユミの姿が見えないな。
こんな時は誰よりも大笑いしそうなんだが……。
「そういえば、ユミはどうした?姿が見えないけど」
「旭さん。ユミは今……笑い疲れて寝ていますよ。旭さんが技名を言ってから5分くらいずっとお腹を抱えて笑っていました」
「どうりで静かなわけだよ……。まぁ、コロシアムでの順番も最後の方だし、今はゆっくり寝かしておくか」
まさか魔法を発動した瞬間に笑い転げるとは……。
……そんなにおかしなネーミングだっただろうか……?
ソフィアに相談してから決めればよかったかもしれない。
でも……一度決めた技名は変えられないんだよなぁ……。
▼
「そろそろ模擬戦も始まるから、もう一度段取りを確認しようか」
俺がつけた技名でレーナ達の緊張解れてから10分後。
俺はレーナ達を近くに集めてから、今日の予定を話し始めた。
寝ているユミを起こすのは気が引けたが……段取りの確認は大事なので起こさせてもらった。
「まず、今回の模擬戦の目的について。これはもう皆知っていると思うけど、俺達の実力をウダルに住んでいる人達に証明するのが目的だ。前回の様に訓練というわけではないから、全力で俺に挑んできて欲しい」
「にぃに。ユミははじめてたたかうんだけど……だいじょうぶかなぁ?」
俺の言葉に首を傾げたユミが、俺の膝の上に乗っかってきた。
ユミは元女神だが、今は6歳まで時間が巻き戻っている。
だが、以前の力を見るに戦闘しても問題ないと判断した。
……戦う相手は俺だしな。
「それについては控室で魔力を供給するし、模擬戦開始と同時に【神威解放】を使うから心配しないでも大丈夫だよ」
「ん〜……にぃにがそういうならいっか!」
ユミは俺の膝の上で満面の笑みを浮かべた。
……浄化されそうになるから手加減してください。
俺はそんなユミの頭を撫でつつ……話を続ける。
「で、次に戦う順番。これは出会った順だ。レーナから始まって、リーア、ルミア、ソフィア、ユミの順番となる。ここまでで質問はあるか?」
「はいッ!」
「ん?じゃあ、レーナ」
俺の問いかけに対して、レーナが勢いよく手を挙げた。
何かわからないことでもあったのだろうか?
「お兄ちゃんに勝利した時の報酬についても、もう一度確認しておいた方がいいと思います!」
「……いや、それは別に模擬戦が終わってからでもいい様な気もするが……」
というか……それ今の話し合いで必要か……?
そう言う話は俺抜きで話して欲しい。
だが、リーア達は違った様だった。
「いやいや、お兄ちゃん。私達のモチベーションを維持するためには大事なことだよ!!」
[リーアの言う通りです。ここはもう一度話し合いを実行する必要があります。]
そう言ってレーナ達5人は話し合い始めた。
白熱し始めた話し合いを横目に、俺は1人控室をでた。
ギルドマスターに最後の確認をしに行くためだ。
さて……いよいよ模擬戦本番だ。
観客を楽しませるためにも……頑張るとしようじゃないか。
レーナ達が言っていたご褒美云々については……横に置いておくとしよう。
ついに模擬戦が開催します。
旭のネーミングセンスについては……うん。
さて、次の更新は5/14or5/15を予定しています。
戦闘シーンが続くので……頑張って執筆しなければ……!




