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アクトヒーロー出張記  作者: 赤雪トナ
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6/11

6 異世界のあれこれ 前

 神官は目的の部屋につくと、細かな彫りの入った扉を開けて入口で頭を下げる。


「お客様をご案内しました」

「ご苦労、中に入ってもらいなさい」


 男の低い声がして、神官は二人を中へと促す。

 ジャスティーが進み、その少し後ろを蒼太が歩く。

 部屋の中は学校の教室ほどの広さになっており、床には刺繍の入った青絨毯。壁にも絨毯と同じように刺繍の入った青カーテンがかかっている。

 絨毯の先に二人の人物がいる。その二人の背後の壁に縦長の旗が七枚かけられている。中心にある一枚が大きくその両端に三枚ずつ小さめの旗が並ぶ。

 一人は六十過ぎの男でグレーのスーツに身を包んでいる。白髪の入った短い髪を後ろに流し、整髪剤で固めている。表情には柔和な笑みが浮かんでいる。もう一人は小学六年生ほどに見える少女だ。手には宝石のついた短杖、薄紫の修道服に身を包み、頭には聖歌隊がかぶるような白帽子をかぶっている。服は他の神官とは違って飾りけが多い。白金の髪を腰まで伸ばし、緑色の目を持つ。緊張した雰囲気を放ちつつ蒼太たちを見ている。

 男は厳格ながらも優しさを感じさせ、少女は顔立ちが整っていて将来誰もが見惚れる美人になるだろと思える。だが俗世から一歩離れた神秘的な雰囲気が近寄りがたさを感じさせる。


「こちらへ」


 男が誘い、ジャスティーと蒼太が近づき、ある程度近づいたところで両膝を絨毯についた。

 ジャスティーが視線を下に向けているので、蒼太も真似ている。


「立ち上がってください」


 いいのかと蒼太はジャスティーを見て、その視線に気づいたジャスティーが小さく頷き立つ。

 立ち上がった二人へと、男と少女は笑みを向ける。


「ようこそ大神殿へ。私はグロードス。神官長をやっている」

「初めまして、フタジマ様。私は使徒のクリーネと申します」


 神官長はまだわかるが、使徒というのがどういったものかわからず蒼太は疑問顔になる。それを見てクリーネは説明のため口を開く。


「使徒というのは神から言葉を授かり、それを他の者へと伝える役割を持つものです。ほかに毎日魔力を神に捧げる役割もありますわ」

「説明ありがとうございます」


 頭を下げた蒼太に、礼を言われるほどのことではないとふわりとした笑みをクリーネは向けた。

 可愛い笑みだったが、蒼太は綺麗な芸術品を見たという感想を持つ。他の者も似た感想を持つだろう。クリーネの神秘的な雰囲気がそういった感想を生み出すのだろう。


「まだなにかわからないことが?」


 少しだけ疑問に思っていたことが蒼太にはあり、それをグロードスが見抜く。


「あ、いえ、なんでもないです」


 神の言葉を授かるということで、こっちには神が実在するのだろうかと思っていたが、それを宗教のトップに向かって聞くのは無礼極まるだろうと聞かないことにした。

 この疑問はほかの日本人も抱いたものだ。彼らは神官に神の所在を聞いてみたが、明確に答えられる者はいなかった。神官たちも神の声を聞いたことはないのだ。


「わからないことがあればいつでも聞いて構わないよ。さて今日からフタジマ殿は数日神殿で寝泊まりすることになる。その際なにか不便なことがあれば言ってくだされ」

「お世話になります」

「寝泊りする部屋は準備しておる。あとでジャスティー殿かクリーネ様に案内してもらうとよいだろう」

「クリーネ、様にですか? 彼女に案内してもらうというのは失礼にあたるんじゃ」

「クリーネ様は神殿のトップだが、そなたも賓客。案内するのもそうおかしなことではなかろうて」

「え? トップって神官長であるグロードス、様よりも上ってことですか?」


 誰かを様付けすることに慣れていないため一拍空いているが、クリーネもグロードスも事前にそういったことを聞いていて気にした様子はなく微笑ましそうな視線を向けている。


「うむ。神と直接言葉を交わせる使徒の方が立場的には上だよ」

「上といっても象徴的なもので、神殿業務を取り仕切っているのは神官長なのです」


 グロードスの言葉にクリーネが付け加える。


「まあ、さすがに十代前半の子供に業務を押し付けるわけにはいかんからのう」

「私としてはこのまま現状維持でかまわないのですけれどね」

「しばらくはこのままでしょうな。さて挨拶は終わった。儂は仕事があるので失礼させてもらう。忙しなくてすまないな」


 言いながら蒼太に申し訳なさそうな視線を向ける。


「俺のような一般人のために時間をとっていただきありがとうございます」


 一般人という部分でグロードスは表情を引き締めるがすぐに元の柔和なものに戻すと、蒼太の肩に手を置く。


「なんのなんのソウタ君には期待しておるよ。頑張って良い成果を頼む」

「俺にできる範囲で頑張りたいと思います」


 グロードスたちの本当の願いを知らないが故に求める返答ではなかったが、頷きグロードスは去っていった。


「私たちもでかけましょう、と言いたいところですが私は着替えてくる必要があるので少々お待ちくださると嬉しいのですが」

「その恰好だと駄目なのかな?」

「はい。これは使徒のみに着ることが許された服なので、このまま出ると騒ぎになる可能性が」


 そういうことならばと蒼太は待つことに頷く。

 ではと言ってクリーネはお付きの神官と一緒に部屋を出て行く。

 残された蒼太たちには椅子と小さなテーブルが用意され、お茶とお菓子が出された。

 待っている間、妙に神官たちの注目を受けているなと蒼太は疑問を抱く。神官たちは蒼太がエモールド戦の切り札と知っているのだ。そういう期待感や本当に倒せるのかという疑問の視線を蒼太は、外国人が目立つのと同じというふうに受け止めていた。

 十五分ほどでクリーネが戻ってくる。クリーム色のセーターにオレンジ色のプリーツスカートで、帽子は外している。かわりに毛先を緑のリボンで結んでいた。足は白のハイソックスに同じく白のスニーカーだ。

 普通の服装になったことで神秘性は薄れ、いいところの出の可愛らしい少女に見える。


「お待たせしました。こちらがフタジマ様の上着となっていますので着ていただけますか?」


 手渡されたシンプルな茶の革ジャンを蒼太は着る。

 ジャスティーはそのままだ。もとから飾りけのないスーツを選んでいるのでこちらの服とそうかわらない。ただし日本では持っていなかったナイフを懐に隠し持っている。

 準備を整えた三人は、裏口から建物を出る。


「やっぱり神殿といったらこうなのかな」


 振り返り神殿を見た蒼太の感想だ。

 蒼太の視線の先には地球古来の神殿に似た建物が建っていた。


「この建物は二千年前に建てられたものです。それ以前から幾神教はありました。当然建物も。二千年以前の建物は老朽化が進んで使うことが困難になり、神殿を別の土地に移したんです。その時に作られ、今も使われているのがこの建物なのですよ。ちなみに以前の神殿は文化財として近くにあり、風雨にさらされないよう保護されています」


 見上げる蒼太の隣に並びクリーネが説明する。


「古いですね。あと幾神教と言うんですね、クリーネ様が所属するところは」

「そこはジャスティーから聞いていなかったのですか?」

「こちらに来てからでいいだろうと説明していませんでした。ソウタ君、説明聞く?」


 簡単に、という蒼太に頷くとジャスティーはクリーネを見る。所属する人間に任せた方がいいだろうと思ったのだ。

 その視線を受けてクリーネは頷き、口を開く。


「幾神教はおおよそ四千年前に生まれたと聞いています。確証はとれていないのですけどね。古い書物にそう書かれていました。始まりは神ととある人間が友になったことだそうです。その人間の仲間が苦労しているということで、神は自身の仲間に声をかけて人間に手を貸すように頼んだのだとか。名乗り出てくださった神は六柱。太陽神、星神、火神、水神、地神、風神。人間は神の手助けにより、日々の暮らしを楽なものとしました。魔法を使えるようになったのも神のおかげなのだそうです。その感謝を示すため神殿を作ったのそうですよ。私たちが先ほどいた部屋に七枚の旗がかかっていましたよね? あれは七柱の神を示すのです。中央の大きな旗が人と友になってくださった神です」


 ここまで話し一度切る。ここまでは大丈夫でかと蒼太に視線をやり、頷きが返ってくると再度口を開く。


「幾神教の成り立ちの次は役割です。そちらでいう冠婚葬祭の取り仕切り。ほかに危機予報というものがあります」


 蒼太の顔に明らかな疑問が浮かぶ。それを見たクリーネは小さく笑った。おそらく疑問を抱くだろうと思っていたところで予想通りの反応が見れたのだ。その笑みにキョトンとした蒼太に詫びる。


「失礼しました。危機予報というのは……例えばどこかで大雨が降り川が氾濫しているということを神殿にいながら知ることできたり、竜巻や山崩れが起こるということを起こる前に教えてもらえます」

「それはすごい、のかな」

「日本で暮らしているとテレビで当たり前のように遠くのことを知れるけど、こっちは情報伝達速度がそちらほど早くないの。だから神様からの情報はありがたいし、今よりも技術が発達していなかった昔ならなおさら」


 ジャスティーが説明を追加する。そう言われるとすごさがわかったか蒼太は感心した表情となった。


「大きな役割はこの二つですね。ほかには相談にのったりです。昔は孤児の世話をしたり、旅人を無料で泊めていたと聞きました。けれど魔物被害が減ったことで生活が安定しやらなくなっています」


 今も魔物領との境目では魔物被害はあり、孤児になる子供もいる。だが昔に比べると少なく国が支援する孤児院で十分まかなえるのだ。


「成り立ち、役割ときたので最後は教義です。これは簡単です。強制するなというものですね。寄付の強要だったり、地位を笠に着てなにかをやらせるということができません。崇める神々が自由を好むからこういう教義が生まれたといわれています」

「主な教義はそれだけですか?」

「あとは太陽神派や火神派といった個別で信仰する集まりで細々とした決まりがある程度です。ついでに教義とは違いますが、政治に関わるな関わらせるなというものもあります。これにより幾神教は独立した組織として扱われてきました」


 政治云々は神と友になった人間が、王たちによって神が利用されないようにと考えた代物だ。神そのものの利用は困難だが、神の威光の利用くらいならばできる。それによって友である神におかしなイメージがつくのを避けたのだった。

 

「この神殿も国主導で作られたわけではなく、幾神教がお金を出して人を雇い作ったものなのよ。経営も国からの支援は一切入っていないわ」


 そう言ってジャスティーは心の中で、非常事態ではそのかぎりではないと付け加える。

 人が滅ぶかもという現状で、いつまでも独立独歩でいくという姿勢は身を亡ぼすと幾神教関係者もわかっている。なので危機が去るまでは国と協力していくことを文書に残している。

 その判断がなければゲートを開き地球に行くこともできなかった。ゲートは古来より使徒が捧げ続けている魔力を使って開かれ維持されているのだ。


「幾神教に関して簡単に話すならばこのような感じですね。詳細が知りたいのなら別の日に話すとしましょう」

「そうですね。ここでずっと立ち話していてば今日の予定を消化できません」

「説明ありがとうございました」

「この程度はお礼を言われるに値しませんわ」


 礼を言う蒼太にクリーネは微笑み歩き出す。

 三人は神殿関係者用入口にある馬車に乗り込んで移動を始める。ジャスティー以外の護衛が車内に一人、御者席に一人座っている。

 馬車には大きめのマジックミラーがついていて、外の光景を見ることができる。

 蒼太は興味深そうに異世界の光景を見ていて、その邪魔をしないように他の者たちは話しかけることはない。

 町並みはマンハッタンやロンドンといった海外都市を思わせる作りだ。高層ビルはないがいたるところに建物が建ち、様々な色の髪や瞳の人間が歩いている。以前話に聞いたように鎧姿の者もいた。頭に角の生えた者や獣の耳を持つ者もいた。そしてそれらに周囲の人間は驚いていない。

 車やバスの行き来が少ないためか、道路は一車線で、すれ違えるように日本の道路よりも広めにとられている。


「いろいろと違いはあるけど、共通点も多いんだなー」

「そのような世界を探しましたからね。違いが多すぎると交渉も苦労するでしょうし」

「俺のいた世界以外にも知性のある世界ってありました?」


 好奇心からの問いにクリーネは頷きを返す。


「虫が文明を作った世界、気体のような生物のみがいる世界、海のみで魚たちが文明を作っている世界などがありました」

「やっぱり世界は広いんだな」

「ええ、広くて地球を見つけるのに苦労しました」


 探査には溜めた魔力を使い、その際にクリーネが必ず立ち会わなければならず、探査中は魔力を引き出し世界を覗き見る魔法装置に魔力を注ぐためじっとしていなければならなかった。三時間ほどその状態が続いてたときはさすがに文句の一つも言った。

 当時のクリーネは十才にもなっておらず、三時間もじっとしていたと褒められるべきだろう。


「そろそろ博物館に到着です」


 外を見たジャスティーが言う。馬車も速度を落とし始めている。

 馬車を置くスペースに止まり、蒼太たちは馬車から下りる。わざわざ馬車でやってきたということで他の入場客からいくらかの注目は集まったが、幾神教のトップとまでは想像されず金持ちの子息と判断される。金持ちの子息とみられたのは隠せない品を漂わせるクリーネで、そういった雰囲気のない蒼太は荷物持ちの使用人とみられていた。

 馬車に御者と護衛の一人が残り、蒼太たちは博物館に入る。

 入場受付の近くに、今展示されている品について書かれたポスターがある。

 ジャスティーがお金を払っている間に、蒼太はポスターになにが書かれているのかクリーネに尋ねる。


「展示テーマについて書かれていますね。今と昔の比較ということです」


 これは蒼太来訪に合わせて作られたテーマだ。この世界のことを少しでも知ってもらい愛着を持ってもらうためだ。目的がブルーホープのテスターではなくエモールド討伐とばれたとき、この世界に愛着を持ってもらっていればエモールド討伐を続けてくれるのではという狙いがあった。

 子供に昔のことを知ってもらうのにちょうどよく、学校関係者が子供を見物に連れて来てもいる。


「最新の技術で作られた物やそれの大本となった昔の品が置かれているようですよ」

「最新っていうと日本の技術が使用された物とかかな」

「そうですね。今一番新しいものはそれになるでしょう」


 二人が話しているとジャスティーが戻ってくる。


「こちらをどうぞ」


 五百円硬貨よりも大きなメダルを差し出す。表にライオンのような獣の顔、裏に文字が書かれてる。

 来場の記念メダルかと蒼太が思っているところに説明が入る。


「これは入場チケット代わりと防犯措置の魔法が刻まれたメダルです。これを持ったまま接触厳禁の品に触れると音が鳴り注目を集めることになります」

「帰るときに返す必要があるのでなくさないようにしてくださいね」


 クリーネの追加に蒼太は頷いてポケットに入れる。

 早速中に入り展示品を見ていく。

 最初に置かれているものは衣服や生活雑貨だ。服は地球と似たような進歩をたどっている。一番古いもので動物や魔物の毛皮や大きな葉だ。

 それを見て蒼太はふと疑問を抱く。


「人間はなんで毛皮を着ることをやめて、布を作って服にしようと思ったんだろうな。というか布を織るっていう発想はどこからきたんだろ」

「んー……私が知ってる知識の中にはそれに該当する答えはありませんね。なにかの作業をしていて偶然糸が布の切れ端のような形となったんでしょうか」


 わかるかとクリーネはジャスティーたちに視線を向けるものの、それを受けた二人は首を横に振る。


「糸の誕生ならなんとか想像つくんだけどな」

「糸ですか」


 クリーネは興味の色を浮かばせた目で蒼太を見る。続きを流されていると判断し蒼太は自身の考えを口に出す。


「最初は蔦とか縄の代わりになる植物だったんだと思うんだ。それがちぎれやすくてもっとちぎれにくいものを求めて、いろいろな植物の茎とかをよって縄にした。作る過程で細いものも生まれて、それの使い道を思いついて糸が誕生とか。想像でしかなくて正解しているかわからないけど」


 ある程度の筋は通っており、なるほどとクリーネたちは頷く。

 クリーネも考えてみて、なにかヒントになりそうなものがないか展示品を見て籠で目が止まる。


「糸じゃなくて服ですけれど、一つ思いつきました」


 どのようなと三人の視線が集まる。

 籠を指差して続ける。


「発想の元は籠だったんじゃないでしょうか。なにかを運ぶために動物の毛皮で包むだけでは不便で、木材を組みそれに載せて運びました。組むという発想の発展で茎や木の枝で背負子などが生まれ、編むという考えが生まれて糸に転用された。こういうのはどうでしょう」

「おーなんだかそれっぽい。組み上げるということから編み込むという流れか、なるほどなぁ」


 感心したような表情は蒼太だけではなく、ジャスティーたちも浮かべている。


「私のこれも想像でしかないのですけどね。さあ、次に行きましょう」


 次の展示コーナーは魔法仕掛けの生活雑貨だ。

 最初期のものは明かりを発する木板や小さな火を出す棒や寒さを和らげるストールなどがある。

 これらを見ながらクリーネが注釈を付け加える。


「最初期と書かれていますが、先ほど見た衣服と違って、こちらは魔法が一度失われてからの品になります」

「それ以前の品は全て失われて?」


 蒼太の疑問にクリーネは首を横に振った。そして周囲を見渡し、目的の物を見つけたか指差す。


「いえ、貴重なので展示されていないのだと。ああ、あそこに壊れたものが置かれていますよ」


 近寄って古代の魔法の道具を見る。

 古ぼけた金属の筒で、縦五十センチほどだ。蒼太は水筒を縦長にしたような品物に感じた。真ん中に亀裂が走っており、これが原因で壊れたのだろう。

 どのような道具かは絵と文字で説明されている。

 蒼太は絵でわかったことをクリーネたちに聞いてみる。


「おそらく体とか服を洗う道具?」

「そうですね。詳しくは魔物と戦うため遠出したときや海上で汚れを手早く落とすための道具です。絵に描かれているように、筒の中で変質した水が衣服と体を包み、汚れを落とすようです」

「濡れたままにはならない? 魔法でなんとかするのかな」


 クリーネの説明に蒼太は湧いた疑問を聞く。これに答えたのはジャスティーだ。


「私は使ったことがある。水が筒に戻ったら衣服は乾燥したし、肌も濡れたままということはなかった」


 ジャスティーは軍のサバイバル演習で、軍が所有していたこれを使ったことがあるのだ。

 洗浄は三分もかからずに終わり、使い終わったらさっさと次の者と交代した。


「あら、軍もこれを所有していたのですね」


 そう言うクリーネは使ったことはない。噂で貴族がコレクションとして所有していると聞いたことがあるのだ。


「便利だからね。ただし綺麗にするだけでお風呂に入ったようなリラックス効果はない。使ったあとは味気無さが感じられましたよ」

「急ぎのときは便利なのでしょうね。昔のお風呂好きな人には不評だったのでしょうか?」


 洗浄道具の隣には小さなリュックが置かれていた。

 こちらはゲームでもおなじみの道具がたくさん入るというリュックだった。古代の技術でもゲームほど便利にはできないのか、収納した道具の時間を停止させることはできないらしい。重さを減らし、大きさを変え、時間を遅らせるという効果だった。


「これも便利だけど、現代の技術で同じものを作れるの?」

「無理ですね。似た魔法は数十年前に作られたのですが、必要魔力量が多いうえに、時間が三分弱と短い。使い物にならなくて、未来の技術に期待しようという結果がでました。そして今もなお同じものはできていません」

「その魔法を分解して、重さを変える魔法とかは使われてますけどね」


 重さを変える魔法や大きさを変える魔法は使うのになんの不都合もない。今では生活になくてはならないものだ。

 蒼太が着るブルーホープにも重量軽減は使われている。

 古代の魔法関連から本来のコースに戻る。

 クリーネとジャスティーの説明を受けながらミレジオリの歴史と暮らしを学ぶ。人々の暮らしが劇的にかわったのは、やはり魔物と住み分けしたときからだった。

 一時間半かけて館内を回り、三人は外に出る。

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