62話「さらば忌まわしき紺色の、旅立つ世界の白色へ その3」
「これは……」
ジャントの目の前には青白く光る浮遊階段が現れた、百数段はあろうその階段の遥か上の先に、光の門は開かれていた。いつの間にか人型の光るオーパーツのビジョンは消えており、恐らく奴は階段になったのだ。
「あぁ……おい、こりゃあ……ほんとかよ」
その扉の先には町が広がっている、その町の中には十数名の人間たちが居た。ジャントの顔見知りの冒険者たち。プロトスも、エルスも、レイジも生きている、この階段の先にはジャントが望む一番の……ヘイワナセカイが広がっていた。
「ジャントさぁん! どこいくんだ! 私の声が聞こえてはいないのか!」
ほんの数メートルしか離れていないのに、張り上げても声は届いていない様子だった。魅せられているのか、オーパーツの力に魅せられているのか。
あと数歩で……階段は登りきる、ジャントがその扉をくぐったとき。何が起こるのか、それはこのオーパーツの思念にしか分からないであろう。
「この扉の向こうには俺の望む未来が広がってんだな……ほんとに」
「そうだ……お前が望む世界、オーパーツの最終能力、それは世界を作り変えること」
「……世界を作り変える、じゃあ、この世界はどうなる」
「世界の寿命はお前が思ってるよりずっと短い……世界は度々塗り替える事によって成り立ち保たれる。我々オーパーツの役目がそれだ、そしてこの世界は消える」
「意味がよくわからねぇ」
「門をくぐれ、くぐれば理解できる。お前は神と言っても良い力を手に入れ、そして失った仲間たちと平和な時を過ごす事ができる、安心しろ、この世界の連中はジャント、お前が消えたことを認識しない、この大きな戦いが終わった……その安寧の中で、ゆっくり、安らかに消えて行くのだ」
「そうかい」
「あ」
ジャントは黒の鬼神色の剣でその門を破壊した。その剣の勢いそのままに、背後に立つオーパーツの思念の首元に剣をつきつけた。
「オーパーツくんよォ……門の向こうに俺は興味無ェ、神とか世界とかそんな大それた言葉はつまんねぇんだよ、俺には要らねぇモンだ。俺たちが必死こいて戦った、その事実だけが、その伝説だけが俺にとって、世界に必要なモンだからな、それ以外は世界ですら無ぇよ」
「なるほど……苦労して集めたオーパーツだろうに、勿体無いとは思わんか、いや、思わんだろうな」
門の向こうの世界が歪んで消え去る瞬間、その向こうの世界には冒険者達は居たが、よく顔を見れば全員別人だった。空の色もメチャクチャなその世界は……ジャントが望むものなど向こうには無いのだと表していた。
「だが世界が塗り変わるのは運命なのだ、オーパーツが集まるということは必然なのだから。いずれ世界は誰かが塗り替えるぞ」
「じゃあ逆に聞くが、俺が次の世界に渡ったらその世界は一生平和なのかよ、どうなんだ?」
「人間単位で考えれば、一生と言えるほどは平和だが、いずれは『27個のオーパーツ』が現れる、その時また、世界を塗り替えなければな」
そう言うと階段も、そのオーパーツくんもフッと消え去り、ジャントは落下した。
「うげっ! いてぇ……20メートルは落下したはずなのに死んでねぇ俺やべぇ……いや、あのオーパーツくんは能力なんでも使えるんだっけか、距離を操る能力でも使ったのかもしれねぇな……」
「ジャントおい!! 無視すんなよ!!」
「うるせえ!?」
「やっと聞こえたの! 何が起こってたの今!?」
「かくかくしかじか」
「8文字で伝わると思わないで」
ウツリとジャントのそのやりとり、ここで場所と時間はもとの病院に戻る……。
「ということがあってな? な、ウツリ」
「はい、大体そんな感じでしたね」
「ジャントお前いつのまにこの病室に戻ってきたの?」
「さっき」
トシマに軽く驚かれてるのを軽くあしらう、ウツリが話してる途中でジャントが割って話しだしたようだ。
その話を聞いて皆が半信半疑であったり、不安めいたりするなか、スカーレットは深刻そうな顔でジャントを見つめた。
「もしその話が本当なら、今ここで話すべきでは無かったんじゃないの? もし組織の人間が生きていて、今その話を聞いてチロシンキナーゼの意思を継ごうとしたりしたら……あっ」
しまった。スカーレットの顔はそう彷彿とさせる表情へと変わった。咄嗟に全員はスカーレットの目線の先、病室の入り口に振り向いた。
「こいつは……いつの間にこの場所に」
「あ、あんたは」
ノドカとトシマが構える。こいつの名前と容姿はよく知っている……名はレイター・ドゥルーフミッグ。水の能力者! おもにトシマを襲ってきた女!
「うッ……ちが、私は……!」
「オーパーツはチロシンキナーゼに奪われて丸腰のようだな! 何を企んでいる!?」
「いやっ違うんです! 私は違う!」
「なにがどう違うんだっ」
詰め寄るトシマとノドカ、逃げ出されてしまうとのちに何をしでかすか分かったものではない、後ずさりして廊下の奥に消えゆく彼女を追いかけ入り口から駆け足気味に廊下にでた。
「お、よぉトシマ」
「え、ガレン!?」
目の前にはガレンが現れ、レイターはと言うと、しゃがんでガレンを鷲掴みにして後ろにかくれている。
「こいつは無害だぜ、と、いうかその逆だ、トシマに話があるんだとよ」
「えっ……あぇ、俺にィ?」
「とっ……トシマ、私はあなたを殺してやろうとしたのに……あなたは私を助けて、くれることを、選んだとお聞きしまして、その、ごめんなさい……そして、ありがと、ぅ……」
「ファ? あ、ども……はは」
ガレンの尻尾をいじくりまわしながら、目を泳がせながら謝罪と礼を伝え、俯くレイター。ガレンは独自に組織本部内で生存者の探索をしていたらしい。
「こいつは師匠のトコに連れて行ってコキ使ってやるよ、ま、組織本部の中に居た生存者はこいつだけだったがな」
ノドカはこの一連の流れを見て思った。
「(レイターを助けたのは実質俺なんだけどなぁ)」
「あんな悪い奴に従ってた悪い奴だから更生は当然だよな、あと、コイツもな」
いつの間にかガレンの背後に歩み寄ってきていた少女が居た。主に白色の服に身を包んでいたので看護婦か何かだと思っていたが、その女は、みながよく知る人物!
「あんたは……たしか、エクセル」
「いかにも、死んだと思ったけど生きてたよ☆」
脳に直結するオーパーツを引き抜かれ、即死したと思われていた彼女は、額に包帯をグルグル巻きにしてる有様だが生きていた。にやりと笑顔を見せ歩き回れるほどに健在である。
「ヒャハハ、なんで生きてたか知らねーが、生きてるもんは連れ帰らなきゃしょうがねーからな、俺が持って帰った」
「トシマくんっ、というわけで君のとこにお世話になるよっ☆ ガレンもね、よろしく!」
「ヒャハハ、スカーレットと飲みに行く約束してんだろ未成年、だぁがその前に師匠の元で家事手伝いの嵐だぜ」
「ま、まてガレン! エクセル! 待って、えぇ……そんな急な! 生きてるのは嬉しいけど……俺の生活が窮屈に……」
「ほう召使いが二人も、ふー。どうこき使ってあげようかな」
「ぉわソニアさんいつの間に!」
「ふ、ジャントから聞いた話は師匠に報告する用に記しておいた、私の役目はもう終わったことだし帰ろうかなと思ってね、トシマ、首輪を付けておけこの2人に」
後ずさりしてたじろぐレイターとエクセル。まさか動物扱いとは予想外。
「鞭も買っておいたよ」
「ソニアさん怖い! 二人もドン引いてますからやめましょ、先帰ってていいですよっ」
「む、そういうのは趣味じゃないようだねトシマは、ふむ……これも師匠に報告しとこう、さぁついてこいそこの二匹!」
「んなもん報告しなくていいですから!」
レイターとエクセルを連れて物々しく帰っていくソニアを見送って、ノドカは少し考えにふけている様子で口を開いた。
「……アリシアは、未だ見つからないらしいな、どこに行ったのか……」
「あぁ……そうですよね、レイジの死があまりにもショックで錯乱してしまったのかも、しれません」
「そのレイジの死体すら、誰も確認できていないのも俺は気になる。もしかするとレイジ、本当は生きて……」
「オアアアァみんなぁぁぁア!!」
突如ウツリが大絶叫した。病院ではお静かに。
「なんだなんだよ窓見て叫ぶんじゃねーよウツリィ! 鏡を理解できない猫かオメーはよぉ〜!」
「いや、みんな! み、見て! アァ、アリ、アリシアさんが下に居る! アリシアさんがこの町にいる、アリ、アリアリ」
「な、なんですって! みんな! 降りるわよ! スカーレット! じゃあ私たち行ってくるから! またね!」
その朗報を聞くや否や、シェーヌとジャントは慌てて病室を飛び出す。
「あら、まぁ……」
そのふためき慌てようにびっくりした様子で、にこり手を振りスカーレットは見送った。
「ノドカぁっ! この町にアリシアさんが居るッ! やっと見つかったんだ、やったぞっ、みんな揃ったんだっ!!」
ウツリも飛び出して、廊下にいるトシマ、ガレン、ノドカにもこの事を伝える。
「アリシアが……おいトシマ、ようやく見つかったようだぞっ!」
「おぁ、珍しくノドカさんが笑顔だ」
「ヒャハハほんとだ、メガネのくせに笑ってんのか」
「俺は基本的に笑ってるぞっ、まぁいいから、さぁ急ごう!」
ノドカ、ウツリ、ガレン、トシマも駆け足で病院の出口を目指す……途中、トシマはスカーレットの病室の入り口にひょっこり顔を出した。
「スカーレットさん! 俺たちはひとまずここを出るけどさ、良くなったら、みんなで飲みに行くんだろう? 俺も行くよ、絶対! その、全部奢るからさ!」
「ありがと、トシマ……ティミミアの分も頼むわね、高くつくわよ? 私をヒモにしちゃったら」
「もちろん! 大丈夫の極みです!」
嬉しそうな笑みをお互いに浮かべ、スカーレットは俯いて、自分の欠けた頭部を撫でながら、上目でトシマを見つめた。
「ねぇトシマ……も、もし私があなたを愛してると言って……付き合うことになるのって、嫌? かしら……その、愛してるというか、好きというか、ぁの、あ、えーと、何が言いたいんだっけ……」
「え、俺スカーレットさんのこと好きですよ、付き合うなんて余裕っすよ! 当たり前じゃないですか」
スカーレットは、その満面の笑みと共に繰り出されるインパクトある言葉に驚き、凄い勢いで歯に力が入り下唇を噛み裂いてしまった。その痛みと共に仰け反って壁に後頭部を激突させ次は鼻血を噴き出した。
もはやなんでもありである。めちゃくちゃである。
その一部始終に驚いて腰を抜かしかけたトシマだが、なんとか堪えて即座にスカーレットのそばまで駆け寄って、布巾で鼻血を抑えた。
「ごブッ……ごめ、なさい……! 恥ずかしい……」
「一体どうしたんですかっ、まさか損傷による後遺症!?」
「ち、ちがぅ……さっきの話の続きだけど、つき、あったら、私なんかと一緒に町を歩いたり、さ……その、顔が私めちゃくちゃだし、その、キスとか、でき、なぃんじゃ、グスッ」
遂には言葉の途中で泣き出してしまった。トシマからすれば大惨事の嵐である、ドン引きしても始まらないのでトシマはスカーレットをじっと見つめて……。
「それも……余裕です」
その言葉に胸が詰まるくらいの苦しさを覚え、瞳孔が開ききり、真っ赤な顔のままギョロギョロと目が遊泳するスカーレット。鼻血を抑える布巾から鼻息の音が絶え間なく漏れる中、顔を少しずつ、トシマの方へ向けた。目がばっちり合った。
次回、最終回




