57話「この世界を賭けた最終決戦 その1」
「ウッ……グオォッ……!?」
大きな音を立て、地面にドラゴンの巨体は力無く沈んだ。誰もかれもが立ち尽くす事しか出来なかった。既にチロシンキナーゼの気配はいずかへと消え失せていたのだ。ティミミアを始末して即、また隠れたのだ。ジャントとレイジの地面に張り巡らせた索敵も、反応していない。
「同じ手は食らわねーか……やはり……! あの野郎、どうやって攻撃してやがんだ……装甲ごと、ティミミアを一瞬で攻撃するすべなんて持ち合わせてやがんのか!」
「あいつは今、出血すらしていないようだな、地面に血が垂れていない……本当に全快となったのか、まずすぎる、かなり……」
倒れてピクリとも動かないティミミアに駆け寄り、エクセルは呆然と立ち尽くした、静かに涙を浮かべた。俯きながら右手で自分の左腕と身体をギュッと締め付け、声を押し殺し、泣いた。
「戦えというのか、こんな、地獄とも思える苦しみを心に味わいながら、私は」
「戦うしかない、彼らが報われるには今の所、組織のボスを殺すしか無いようだ、ボスを倒せば、彼らも報われる、俺はそう思う」
ノドカはエクセルの肩に優しく手を添え、そして言い放った。その後ろでウツリは、前方遠くになにかの気配を察知する。
「あ、あのみんな! なんか声が聞こえないか? 組織の瓦礫の影から押し殺したような声が聞こえる!」
ウツリは音を頼りに全速力で駆けて、音の元を確かめに行った。アリシアとレイジ、ジャントもそれに続く。
「うわッ! こいつは!」
瓦礫の影には人が居たのだ、しかしそれはチロシンキナーゼではない! 女。彼女の名はポンズ・パクパタニア。先ほどレイジとアリシアが打ち破った「meeting(集合)」の意をもつオーパーツの持ち主である。しかし妙なことがひとつあった。
「う……うっ……く、う、う」
「お、おいコイツ……左手の小指が無ぇぞ、千切られていやがる!」
「ほ、ほんとだ! どうして!? まさか……」
「アリシア……そのまさかだ、チロシンキナーゼがこいつのオーパーツを無理やり強奪したのだ! こいつは小指にオーパーツを付けていたからな。チロシンキナーゼはMeetingのオーパーツを使用した何かを企んでいる! なにかしらの所有物を自分自身の元へと集合させようとしている!」
レイジ達がその事実に気が付いた瞬間、背後でシェーヌとトシマが叫びを散らしていた。
「チロシンキナーゼェェェ!!」
「決着をいまここで! 着けてやるッ!!」
レイジはその光景に驚愕した、チロシンキナーゼがシェーヌたちの近くに、姿を晒して現れているのだ! 急な登場に、相棒を失い怒り心頭のシェーヌとトシマは爆発した。こいつだけは確実に許さず殺さなければならない、と。
「あいつ……何かを策している! シェーヌ! トシマ! 離れろ、離れるんだ!」
トシマは螺旋ボールを投げ、シェーヌは光のナイフを渾身の力で振り投げた。
「ち! 左方向に瞬間移動したわトシマ! つまりあいつ今クロノスタシスを使ったってことよ!」
「はい! つまり数秒は隙のもとに晒されるッ俺の螺旋ボールはジグザグの軌道を刻んで……チロシンキナーゼを狙うッ!」
「……ふん」
チロシンキナーゼがクロノスタシスを解除してから1秒も経たないうちにトシマの臨機応変の奇襲は彼を襲った! しかしチロシンキナーゼはまたしても消え、トシマ達の背後に立っていた。
「なっ……ばかな!」
「クールタイムが短すぎるわ!」
かと思えば殴られた覚えもなくトシマはいきなり吹き飛んでいた。殴打された損傷はある、チロシンキナーゼはいずこから取り寄せたのか、巨大な丸太を持っていた。
「ぐはあ!」
壁に衝突し、倒れるトシマ、起き上がろうにも完全に腰骨をやられており、痙攣するばかりで全く腕にも脚にも力が入らなかった。
「単純だ、時間停止する時間を短くすれば、次の時間停止を行えるまでの時間が短くなる」
「私を先に……攻撃しなかったことを後悔しろォ!」
シェーヌはすかさず振り返り光のナイフでチロシンキナーゼの首を明確に狙い突く!
「無駄だ、雑魚能力め」
彼は素手でそのナイフを受け止めた、受け止めたというよりは手のひらをザックリと貫通したわけだが、何故だかナイフをそれ以上押し込み、彼の首に到達することは出来ずにいた。
「こい……つ、エネルギーを自分の手に流して強力に治癒してるッ……治癒し続けている手はこれ以上押し込みようが無い!」
しかしシェーヌは身軽にジャンプしてナイフを手放し、新たなナイフを目にも留まらぬ速さで生成、チロシンキナーゼの真上の位置からナイフを即投げる!
「速いッ、こいつ怒りかなにかで能力が急成長しているなッ」
チロシンキナーゼはもう片方の手でまたナイフを受け止めようとするが、何故だか腕が上に上がらない!
「ヌ……なんだ俺の右手が、矢に貫かれ地面と固定されている! 動かんッ……こいついつの間に矢を放った、全く見えなかったぞッ」
腕が使えんのならば、時間を止めるしか方法は無かった、クロノスタシスを発動する!
「クロノ……」
既に遅かった、時間を遅くしても間に合わないくらいの速度で光のナイフはチロシンキナーゼの眉間に到達していた、むしろゆっくりと刺さっていく中、身動きのできないチロシンキナーゼは『ゆっくりと致命傷を味わっていた』ッ!
クロノスタシスの効果は終了……その後、立ち尽くすチロシンキナーゼと。
「ブアッ……ごぶっ、ゲホッ……うあ゛ッ!」
地面に倒れ、血を吐き倒れるシェーヌが居た。
「シェーヌぅ!」
「おいレイジ! うかつに近寄るんじゃねーぜ!」
レイジはすかさずテレポートでシェーヌのもとへとワープした、このままではシェーヌが死ぬ! ジャントの制止を無視してワープした!
「肋骨を……全てへし折ってやったぞ……俺を二度も死に追い詰めるとは女のクセにやる奴だ……」
眉間から血をボロボロ流し、怒りの表情でシェーヌを見下すチロシンキナーゼ。そこにレイジが瞬時に現れる。
「お前……どうやってシェーヌの光のナイフを避けた! ぐっ!?」
現れざま空中から念動力のかかった蹴りを放とうとしたレイジは、突然地面に叩き落される、まるで念力のような力で。
「こ……れは、まさか!」
レイジが力の働く方向へ視線を向けると、そこには男が立っていた。名はアビス・エンプティロード。重力を使うチロシンキナーゼの味方! こいつはまだ戦闘不能には陥っていなかった、チロシンキナーゼはこいつを密かに切り札として這わせていたのだ!
「ア……ア、ア」
「なん……だ、あいつ、アビス。様子が変だ、廃人のようになっている……ぐはア!」
いつの間にかチロシンキナーゼはレイジの背中を踏みつけ上に立っていた。
「アビスの脳の一部を削り落とし、俺のオーパーツからエネルギーの塊を代わりに埋め込んでおいた……操り人形だ、俺のオーパーツが信号を送った時だけ重力波を放つ! 光のナイフは重力波を受け、ちりになり消えたのだ」
チロシンキナーゼは再びクロノスタシスを発動する! シェーヌの手を掴みテレポートで逃げようとしているレイジも一歩遅かった。テレポートする前に時間は停止した!
「そして死ねィ……!」
丸太を振りかぶり、渾身のパワーで! レイジの頭部を叩き潰す! これで強力な能力者は一人死んだ。
「クク、残る脅威は……ジャントぐらいか……どれ、割れた頭蓋を仲間みんなに見せてみろレイジ……ん!?」
居ない。レイジがそこに居ない、シェーヌも居ない、消えた、テレポートしたのだ、チロシンキナーゼは慌てて周りを見渡した、飛ぶ鳥も、雲も、風に揺れる雑草も全て完全に止まっている! 時間は停止している! なのにレイジが!
「消えた! バカな! 止まった時の中で……そんな、バカなァ……」
そして時は動き始める。




