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ゼノスフィード・オンライン  作者: 光喜
第3章 エラドリム鋼国
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第5話 テンカ

「また、お前さんは珍妙な格好をしておるな。ああ、クラスは魔法使いなのだったか。だが……むぅ。ここまでローブが不釣り合いな魔法使いは初めて見たぞ」

「そんなに似合ってないか、これ?」

「似合う似合わないではなく。その装備に命を預けられまい?」

「確かに」

「以前の装備は? 失くしたのか?」

「ああ、それなんだが。事情があってね。実は――」


 空からのダイブで騒ぎを起こしてしまったことを伝える。

 ゴルドバは俺の為人(ひととなり)を知っている。打ち明けるには打ってつけの相手だ。


「……お前さんの規格外ぶりは知っていたが……まさかヤーズヴァルの主とはなあ……」

「可愛いトコあるんだぜ。顔は恐ろしいけどな」

「……お前さんにかかっては五色竜もペット扱いか。頭が痛い」

「実際、ペットだったんだよ」

「……ああ、そうか。考えるだけ無駄か。分かった。事情はワシから姫様に伝えておこう」

「ラウニレーヤだったか。へぇ、面識があるのか」


 流石は高名な鍛冶師と思っていると、ゴルドバに鋭く睨み付けられた。


「お前さんのせいでな」

「俺の?」

「神国の一件を報告しないわけにもいくまい。あの後、どうなった?」

「簡潔に言うと……俺が神国に喧嘩売って、森神に俺は殺された」

「……分からん。さっぱり分からんぞ。死んだと言うが、何か。お前さんアンデッドなのか」

「死んだことになってるってことだけ分かってくれればいい」

「……詳しくは語れんのか」

「知らない方がいいだろうな」

「……お前さんが生きてると、知っているだけで危険なのではないだろうな」

「誰にも言わなきゃ問題ないさ」


 ゴルドバは重苦しい溜息を吐くと、席を立つ。外に出て、すぐ戻って来た。「店仕舞いして来た」らしい。部屋の隅に置いてある樽を持ってくると、拳を落とし、蓋を割る。酒が飛び散る。力を入れ過ぎたらしい。ジョッキを酒樽に入れ、一気に酒を煽った。


「……飲まんとやってられん」

「それが樽買いの由来か」

「ふん、酒を樽で買うぐらい誰でもやっておる。もう一つ二つ名があったのだがな。いつの間にかこちらが定着しておった」

「もう一つの二つ名ってのは?」

「竜殺しを鍛えしゴルドバだ」

「そんな立派な二つ名があるのに、なんで樽買いで通ってるんだ?」

「立派過ぎたのだろうよ。ワシに客を取られるのを商会が嫌ったのだろう。飲むか?」


 酒はドワーフにとって命の水だ。それを振る舞ってくれると言うのだ。ありがたく頂戴する。


「……キツいな」


 一口飲んだだけで喉が焼けた。味はウイスキーに近いか。ぷはっ、とアルコール臭い息を吐くと、ゴルドバがニヤリ、と笑う。


「お前さん、イケる口だな」

「飲み干したら二日酔い確定だけどな。ともあれ、再会に乾杯だ」


 ジョッキを合わせる。ごん、と重い音が響く。

 酒をちびちび舐めながら、ゴルドバの話を聞く。脱獄の顛末である。

 俺が陽動で暴れた甲斐があったのか、追手がかかることはなかったと言う。神都チェクウッドを出るまでは衛兵に追われたが、預けたゴーレムが穏当に追い払ったらしい。頼みの綱のゴーレムは半日で壊れてしまったが、その時既にチェクウッドを脱していた。二日間はまとまって行動していたが、三日目からバラバラに帰途に着いた。その後は特筆すべきことは何もない平和な旅路だったようだ。


「それで。お前さんが訪ねてきたのは修理だったか」

「刀の修理を頼みたい」

「あの刀か。無理だな。他の鍛冶師も無理だろう」

「即答だな」

「一度見れば武器の良し悪しくらい見極められる。だが、見せてくれ。ワシの剣を切って刃こぼれ一つしなかった刀だ。あの時は時間がなかったが、じっくり見たいと思っていた」


 八咫姫をゴルドバに渡す。が、「……抜けん」と苦い顔。あれ。商会の商人が抜けなかったのはまだ分かる。しかし、ゴルドバは腕のいい鍛冶師だ。なんだ。やけに八咫姫が不機嫌だな。「知らない男に乙女の柔肌を触れさせるの」と、憤慨している。いや、お前の柔肌、ガチガチだし。


「貸してくれ」


 俺が柄に手をかけるとするりと抜けた。

 真っ黒な刀身が露わになる。細かいヒビが入り、今にも砕けそうだ。八咫姫風にいえば、肌荒れが酷いとなる。親父との戦いの翌日、こうなっていたのである。

 ゴルドバが息を飲んだ。


「……お前さんこの刀で何を斬った?」

「神を」

「……神殺しの刀か。道理で」

「あれ、信じるのか」

「ん……おお、そうだな。荒唐無稽な話だ。だが、斬ったのだろう?」

「斬った、斬った」

「ガハハ。そうだと思ったわ」

「すげーな。なんで分かったんだよ」


 酔いが回ってるな。会話がおかしい。


「刀が成長しようとしておる」


 そういった瞬間、ゴルドバの瞳が素面に戻った。


「お前さんは知っておるか。成長する武具があることを」

「MVP報酬のことか」

「えむぶい……それだ」

「それだってどれだよ。絶対、適当に流しただろ」

「バレたか」

「バレるに決まってるだろ」


 ガハハ、と笑いあう。

 ジョッキはいつの間にか空になっていた。ゴルドバはそれを目ざとく見つけ、ジョッキになみなみと酒を入れた。頭の片隅で明日は二日酔いだな、と思いつつジョッキを受け取る。この楽しい時間の対価が二日酔いならば、甘んじてそれを受け入れるべきだろう。後で悔やむと書いて後悔なのだ。

 

「ワシの見立てでは修理は不要だ。下手に手を入れると、成長を阻害する恐れがある」

「そんなものか」

「そんなもんだ」


 本当はあれこれ理由があるのだろうが、酔っ払いに説明を求めるのは酷だ。

 それに思い当たる節があったのである。MVP報酬の武具は使い手と共に成長する。先日、俺はレベルが201の大台にのった。それに併せて八咫姫も成長していると思われた。

 だが、俺とゴルドバでは根本的な部分の認識が違う。

 俺は使い手のレベルが上がったから、武具も成長するのだと考えている。

 しかし、ゴルドバは八咫姫が経験値を得て成長したのだと考えている。

 鍛冶師は使い手より武具を主体にしているからだろう。

 ふと、思いついたことがあり、聖剣アーヴァチュアを取り出す。


「ほう。これもまた見事な剣だ。素面ではとても眺められんな。二度と剣を打てなくなりそうだ。この剣も成長しそうになっておる。だが……剣が成長を拒んでいるように見える」


 ゴルドバの見立ては俺と一緒だった。

 聖剣に意思を感じたことはなかったが、今はそっぽを向かれていると感じる。使い手のユマを失い眠っていた意思が、親父との戦いで起きたのかも知れない。

 八咫姫と聖剣。

 共通するのは互いに最終装備だと言うことだ。

 最終装備にはMVP報酬と同様の性質が備わっているのかも知れなかった。

 レベルキャップが200だったため、誰もそれに気づかなかっただけで。


「修理しないでいいのか、八咫姫」


 《鑑定》すると八咫姫の《耐久度》は減っている。しかし、八咫姫は「それでいいの!」と震えた。八咫姫に意思があると言っても、言葉を発せられるわけではない。意思の疎通がうまくいかないこともある。不機嫌だったのも、なかなか意図が伝わらず、イライラしていたためか。でもな。大抵、八咫姫不機嫌だし。何かあるとは思わねぇよ。

 だが、それは言わぬが花。

 お前の気持ちは分かった、と八咫姫をインベントリに仕舞う。

 要件は済んだ。

 ここからはただの酒盛りだ。小うるさい女は不要である。

 ゴルドバと酒を酌み交わしていると闖入者があった。


「なんだ、お前さんたち。見ての通り酒盛りの最中でな。用があるなら明日にしてくれ」


 一人……二人だ。

 同じ顔が二つあるように見え、酔っぱらっていると思ったら、顔立ちが似た二人組の男だった。黒目、茶髪のヒューマン。歳は十代半ばといったところ。よく見れば差異は幾つかあった。まず、髪の長さが違う。長髪と短髪。長髪は軽薄そうな顔で、短髪は真面目そうな顔だ。兄弟ではないだろう。短髪の首には隷属の首輪が嵌っている。短髪は長髪の奴隷なのか。

 《鑑定》すると長髪はテンカ・ファナ、短髪はヨミと言うらしい。

 家名持ちのハイヒューマンか。テンカはプレイヤーかも知れない。

 ジョッキを手放さないゴルドバを見て、テンカが嗤う。


「真昼間から酒を飲んで、いいご身分だね、ドワーフ。暇そうなお前と違ってボクは忙しいんだよ。明日から迷宮に潜るつもりだからね。竜殺しの剣を鍛えたんだろ。この、ヨミの短剣が欲しい。迷宮品を手に入れるまでの繋ぎにする」

「……なんだと」


 酒が回りゴルドバは赤ら顔になっていた。しかし、今、ゴルドバの顔が赤いのは、酒精以外の理由からであった。鍛冶師が鍛えた武具と迷宮品の武具では、圧倒的に迷宮品の方が強力だ。多くの冒険者がテンカと同じことを思っているはず。だが、それを鍛冶師本人に言う必要はない。門前払いされた腹いせかも知れないが、性格が悪い。

 大体、勝手に押し入って無茶な要求をしているのはテンカの方だ。

 ゴルドバは営業が終わった旨の看板を出していた。


「……出ていけ。ヒューマンに売る武具はない」

「ふぅん、そっちの彼は? ハイヒューマンだよ」

「友人だ。客じゃねぇ」

「いいから売れっていってるの。馬鹿なの?」


 話は売れ、売らないの平行線だ。

 牢屋でゴルドバが王国の横暴を嘆いていたのを思い出す。酔っぱらって重たくなった頭を頬杖で支え、これがヒューマンのデフォルトなら、ドワーフはさぞ苦労してるだろうな、と考えていた。ヒートアップする二人の話を聞くともなしに聞きながら酒を飲む。

 テンカを追い出すのは簡単だけどな。

 俺が手を出すと話がややこしくなりそうだし。

 

「話にならない。ヨミ、短剣探して。どうせ、すぐ捨てるんだ。出来合いのものでいい」

「……テンカ様、考え直してください。勝手に奪っていったとなれば、ファナ家の評判に傷がついてしまいます」

「はァ? ファナ家? あんなクソッタレな家が何だっていうの。家を出て清々してたっていうのに、その名前を聞かせないでくれるかな。ヨミはボクよりファナ家が大事だっていうの?」

「……私の身も心もテンカ様に捧げています」

「なら、早くしてよ」

「……私はファナ家の者にテンカ様が悪し様に言われるのを恐れているのです。このままでは当主の資格も失ってしまうかも知れません」

「ああっ、当主なんてどうでもいい。早くやれって言ってるだろ!」

「……できません」

 

 ゴッ、と鈍い音がして、意識が覚醒する。

 顔を上げるとヨミが倒れていた。テンカがヨミを殴ったらしい。

 

「……もういい。お前には失望したよ、ヨミ」

「……申し訳ありません」


 ヨミは口元の血も拭わずに頭を下げる。本心から申し訳ないと思っているのが伝わってくる。俺は半ば寝ていた。話半分にしか聞いていなかったが、無茶を言っているのはテンカの方で、ヨミは真っ当なことを言っていたと思う。どこに申し訳なく思う要素があったというのか。

 ああ、そうか。


「……ヨミはマゾなのか」


 白けた空気が漂う中、俺の声は思いの外響いた。

 傲慢さは鳴りを潜め、テンカが怯えたように言う。


「……ヨミ……お前、マゾなの? 痛いのがいいの?」

「ち、違います! テンカ様の心中を察すると、ただただ申し訳なく!」

「……そういえばヨミ、前にいってたよね。殴るなら自分を殴ってくださいって。あれって……そういうことだったのか……だから、お前はボクに忠誠を誓って……」

「怒りを抑えきれないのであれば、私を殴ってくださいと言ったのです!」

「……やっぱり、殴られたいんだ。鈍器を買った方がいいかな。殴って手ぇ汚れるの嫌だし」

「テンカ様! テンカ様! 私の話を聞いてください!」


 テンカが鈍器の購入を検討しているのは、ヨミを喜ばせようとしているのか。正直、その性癖についていけないけど、ヨミがそうして欲しいなら……と、健気に努力する主人の姿に見えなくもない。妙な主従である。

 俺はゴルドバと顔を見合わせる。


「……なんだ、これ」

「……同感だ。すっかり毒気が抜かれてしまったわ」


 テンカは求めていた短剣より、鈍器をどうするかで悩んでいる。

 ヨミは誤解を解こうと必死なのだが、その必死さが逆に誤解を補強していた。

 放っておけばいつまでもやっていそうである。

 混乱した場を収めたのは更なる闖入者であった。


「なに、大声でやりあっている。通りまで響いていたぞ。ヨミ、お前が付いていながら……いや、お前がついているからか。テンカ、黙れ。何があったか知らんが、女子供じゃあるまいし、感情を抑えることを覚えろ」


 ロイという名の初老の男だ。白髪を中分けにし、縁のない眼鏡をかけ、喋り方もあって、教授と言う感じである。

 テンカの反応は正しく教師に叱られた生徒のものだ。ヨミは顔を背けてこっそりと口元の血を拭っている。ロイはお目付け役のような存在なのかも知れない。

 テンカは不貞腐れたように、髪を弄りながら言う。


「ロイ、着いてたの。用事は? 終わった?」

「昨日のうちにな。用事は……まァ、そうだな」

「なら、迷宮に潜る許可を……あれ、髭剃ったの?」

「若返っただろう」

「年甲斐もなくはしゃいでいるようにしか見えないよ」


 ロイは辛辣だな、と笑う。


「許可は取った。喜べ。テンカの要望通りだ」

「要望ってなんのこと」

「人の多い迷宮は嫌だって言っていただろう」

「要望っていうか、それ愚痴だけどね。でも、要望通りってことは」

「迷宮は封鎖される。通行を許可されたのは、我らが《ドラゴンホーン》と二つのパーティーだけだ」

「やるね、ロイ。交渉を任せてよかったよ」


 ホクホク顔のテンカとは対照的に、ヨミは胡散臭そうにしていた。


「ロイ、残る二つのパーティーを教えて頂いても宜しいですか」

「くっくっく、いい奴隷を持ったな。テンカも少しは俺を疑え。《獣の花冠》と姫騎士だ」

「……二つともSランクですね。《ドラゴンホーン》もSランクですし、厄介事の匂いがします」

「ロイはボクを騙したワケ?」

「要望を通したとは言ってない。勘違いしたのはお前だ、テンカ。迷宮の奥から得体の知れない魔物が現れたらしい。それを排除し、できれば原因を潰す。冒険者ギルドからの依頼だ。どうする? テンカが嫌なら断ってもいいんだぞ」

「……受けるよ。やっとソシエの奈落に来れたんだ。一日だって待てない」

「そういうと思って手続きは済ませてきた」

「……見透かしたようなことを言うね……ロイもプレイヤーだったら知ってるか……」

「テンカ様は何か目的があってソシエの奈落を選んだのですか?」

「……ヨミは知らなくていいことだ」


 テンカに睨まれ、ヨミは顔色を失う。殺気が混じっていたのだ。テンカは舌打ちすると、「二度と聞くな」と命令する。それからテンカはロイに非難の目を向けた。しかし、ロイは薄笑いを浮かべ、口元を撫でるだけで、柳に風である。


「ロイは二つのパーティーと言いましたが、姫騎士はパーティーを組んでいないのでは? 新人の冒険者の手助けはしても、固定では組まなかったはずです」


 動揺から立ち直り、ヨミが言った。


「最近組んだんだろう。パーティー名も決まってないと言ってた」

「ああ、それは俺だな」


 俺が言うとゴルドバを除く全員がギョッとした。

 ロイは俺の顔を凝視していた(・・・・・・)


「…………驚いたな」

「全くだ。俺もいきなり姫騎士の名が出てきて驚いた」


 迷宮都市の迷宮が封鎖される。一大事だ。冒険者ギルドはこの話で持ちきりのはずだ。アリシアは合流場所の冒険者ギルドでこの話を知り、義勇心を発揮して依頼を受けたのだろう。無断で依頼を受けた格好だが、俺がその場にいても反対しなかった。冒険者ギルドに、ひいては鋼国に恩を売っておくのは悪いことではないからだ。

 

「アリシアは? 冒険者ギルドか?」


 アリシアが来ているのなら、合流しないとマズいだろう。

 だが、ロイは首を振り、「アリシア!」と叫んだ。


「内輪揉めは終わったのか、ロイ」


 と、アリシアが入って来た。彼女の後ろにセティ、シュシュと続く。


「……兄さん飲んでるの?」

「……妾達を放っておいて自分は酒盛りとはな。《アンチドーテ》」


 シュシュが魔法を唱えた途端、頭がハッキリと動き出す。酔いが抜けていた。

 ……そうか。酒は毒扱いか。

 

「……あ~、随分と早い到着だったな、アリシア」


 怒りの矛先を逸らすべく、アリシアに話を振る。


「……ん、んんっ。町中が混乱しているのが見えた。巻き込まれたのではないかと心配したぞ」


 言わされている感が半端なかった。恐らくアリシアは二人と合流した際、「騒ぎを起こして捕まらなかったのか?」と馬鹿正直に訊ねてしまったのだろう。もし、俺と会ったらこう言えと演技指導が入ったと見える。満足げに頬をぷにぷにさせていることから察するに、指導はシュシュか。セティは「えらい、えらい。よく言えたね」と、微笑んでいる。

 アリシアの頑張りを二人して無為にしているワケだが……いいか。

 

「見つかってよかったな」


 ロイの言葉にアリシアが微笑む。


「案内感謝する、ロイ」

「俺もウチのトラブルメーカーを回収に来たまでだ。では、また、明日。行くぞ、テンカ。ヘルゲがお冠だ」

「……ヘルゲを撒いてきたからねぇ。女はどうしてああも口煩いのか」

「それをお前が言うか」

ボクだから(・・・・・)言えるんだよ(・・・・・・)


 愚痴るテンカを連れ、ロイが出て行く。短剣はいいのか。気になったが、藪蛇になりそうなので言わずに見送る。弛緩した空気の中で、気になったことと口にする。


「ロイはアリシアの知り合いなのか」

「父の昔なじみのプレイヤーだ。久しぶりに会った」

「短いやり取りでよく気付いたのう」


 シュシュが感心したように言う。

 彼女達は冒険者ギルドで合流したらしい。いざ、俺を探そうとするも肝心の鍛冶師の居場所が分からない。俺が場所を聞いているからいいや、と真面目に場所を聞いてなかった。そこへロイが同道を申し出たらしい。テンカも腕のいい鍛冶師を探していた。同じ場所にいるかも知れないから、と。その過程でアリシアとロイが知己であることは分かった。だが、俺は気づけるようなヒントはほとんどなかったはずだとシュシュは言う。

 

「アリシアがロイの名前を憶えてたからな」

「…………」


 ああ、とセティとシュシュは可哀想な子を見る目をアリシアに向けた。

 アリシアは武具をくれた人の名前しか覚えない。初対面で武具をくれるような奇特な人はいない。消去法でアリシアはロイと面識があると言うことになるのだ。

 

「全員揃ったことだし、宿を取ろう。いい宿を知らないか、ゴルドバ」

「ふむ。ワシの家に来てもらっても構わんが……ああ、それより丁度いい場所があったか。嬢ちゃん、ワシにも魔法をかけて、酔いを醒ましてくれんか」


 と、酒飲みが言った。

ゼノスフィード・オンライン2本日発売です。よろしくお願いします。

次回更新は12/28(月)8:00です。

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