五日目~一つ目の竜は苦労性*遭遇以前~
お久しぶりです(*´ー`*)
短編と、交互に書き上げております今日この頃…
今回は、やや短めの朝の一幕になります。
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「僕は、泥入れです」
「私は、大玉転がしよ」
「僕はねぇ……騎馬戦と泥リレーの兼業なのさ。学級の長なんてやるもんじゃないねぇ」
五日目の朝。
それは、それぞれの返答から始まった。
壺組におけるクラスマッチ対談である。
とはいえ、そこに至るまでの流れをもう少しだけ補足しておくことにしよう。
ようやく見えてきた、週末を前にして。
天気は生憎の曇り空である。
全体に燻一色の空から、はさはさと舞い降りて来たモッ君。
普段通りに校門にて、合流した後。
周囲を見渡してはみたものの。
さて、一体何処から現れるものやら。
内心の心境はそれに尽きた。
何せ此方は、相手の様相を知らない。
モッ君の不審げな眼差しを傍らにしつつ。
半ば挙動不審のまま下駄箱を通り、教室までやって来た訳であるが。
「君、いつになく不審人物的なのは昨日のことを引き摺っているから……?」
「うーん、それはあんまり……?」
「それはあんまり?! ………君、ほんと訳が分からない」
椅子に座るや否や、机の上をふわふわのモッ君がローリングする姿は癒しそのもの。
その当人がどうやら苦悩している心境にあっても、だ。
「ほんと君、性質が悪いよ………怪が苦悩している姿に目を輝かせる? 普通さ…」
「ごめんよ、モッ君。悪意はないんだ」
「余計性質悪いね?!」
モッ君、朝からいつになく饒舌だ。
このハイペースを一日保てるのだろうか。
不安になり、どうどうと馬を宥めるような気持で羽毛を撫でてみる。
振り払いこそしないものの、機嫌は回復の兆しを見せない。
……さて、これはどうやら根が深い。
……駄目元で継続してみるものの。
未だ気持ちが収まらないのか、モッ君は全身を膨らませていた。
お気に召さない模様である。
丁度その時、後ろから耳慣れた声が降って来たのだった。
「ねえ、と、と、とっ……透!! 体調はもう良いの? もし、優れないのならこれ……差し上げても良いのよ?!」
見上げれば、そこに頬を染めた美少女が。
朝から素敵な一幕である。
「これは……」
彼女が差し出していたのは、不思議な色合いの小瓶だ。
ラべリングされている文字を見れば“気つけ薬”と書かれている。
「わ、私の祖母は薬作りでは、それなりに有名なのよ。………別に必要ないなら」
「有り難く頂くよ、蓑虫さん。……そうだ。もし良かったら、皆で蓑虫さんの新しい呼び名も考えるのはどうだろう?」
小瓶を受け取りがてら、思いついたままに思わず口にしていた。
それに対する反応は、思いがけないものである。
まん丸に開かれた目と出会う。
そこからは、ぼたぼたと水滴が流れている。
重力に反している彼女が泣くと、それは頬では無くて髪を濡らすのだな――――
ではなく。
何かしら、自分の発言に落ち度があったものと知る。
知ればこそ、謝罪すべく口を開こうとしたところで。
「止めて!! ………謝ら、ないで。違うの。これは――――」
「嬉しかったんだよねぇ、蓑虫? あまり知られていないけど、この子は結構な泣き虫なんだよぉ」
彼女の後ろから、ひょっこりと現れた河伯少女が「おはよー」と手を振りながら解説した。
真っ赤な顔をして、それを止めようとする当の本人。
二人の攻防は、怪異とは到底思えない様な微笑ましいやり取りだった。
「うん、まあ。つまり考えてくれたら嬉しいな、ということだね。ツンデレだね」
「河伯!! 屈むなんて……ずるいわよ!! 鬼!!」
「僕、天邪鬼だからねぇ……」
「知ってるわよ!!」
教室の床に屈んで、ニマニマと上を見上げる河伯少女の様子。
その更に後方から、呆れたように見詰めるもう一人が加わった。
「河伯さん、蓑虫さんを弄るのも大概にした方が良いと思うよ」
壺組の良心、四隅君である。
いつの間にやら教室へ入って来たらしい彼は、やれやれといった様子で場の仲介に回った。
その慣れた様子に、このクラスにおける四隅君の立ち位置が透けて見えると思うのは自分だけだろうか……。
否、少なくともモッ君は同様の感想を抱いた様だ。
その横顔には、同士を見つけた様な―――共感に近しい色が窺える。
ともあれ両者のほのぼのでしかない遣り取りは、こうして終息した。
そしてホームルームが始まるまでの、合間。
それが冒頭の会話である。
「そういえば……話合いを欠席したモノに関しては、“塩レース”に振り分けられると聞いているのだけれど。実際のところはどうかな……?」
「…うーん、そうなんだよ。一応、担任も配慮はする気でいたみたいなんだけどねぇ……人数調整的な面で、その振り分けは避けられないかなぁ」
河伯少女の返答に混じる、明らかな同情の眼差し。
しかし、それを受ける自分の心境はといえば。
……いや、別段自分は“塩”への苦手意識が無い分それはそれで構わないのだ。
そんな具合である。
そう。自分は構わない。むしろ問題視しているのは―――
「やはり蛍も、自分の巻き沿いを食うことになるんだろうか……?」
例の『氷茨騒動』にて、一緒に放課後の話し合いの席を欠席することとなった蛍。
まして、昨日の五月姫の一件もある。
出来ればこれ以上の負担を、掛けさせたくない。
本心はこれに尽きた。
「……本当に君って、怪異らしさの無い怪異だよねぇ。つくづく興味深いよ」
「それは僕も同感です。良い意味で、信頼のおける怪異というのも珍しいですよね」
「……そ、それについては私も同意してあげても良いわよ?」
河伯少女の呆れ交じりの呟きの後に。
続く四隅君の発言を受けて。
どうして君はそう言うことをサラッと言えてしまうのだろうねと苦笑する。
好青年ならぬ、好少年といった心地である。
補足するならば、最後の一撃は反則だと思いますね。
デレが前面に出てきてる美少女の図とか、日常的に見ていて良いものではありませんから。
一言で言えば、贅沢ですから。うん。
「さてさて、それに関しては本人の意思も聞いてから考える事にしようか……?」
まるでタイミングを初めから図っていたかのような、ニマニマを受けて振り返れば。
昨日よりか、随分と顔色の戻った様子の蛍が扉を背にして微笑んでいた。
「ふふ。……透は本当に心配性だね。でも、気に掛けてくれてありがとう」
「蛍、もう…大丈夫?」
「……平気。透が助けてくれたから、私は大丈夫だよ」
ふわり、と日差しが差し込む様な蛍の微笑を受けて思う。
まさにこれは、癒し効果絶大だ。
モッ君のローリングと併せて、自分の周囲は何と恵まれている事だろうと再認識に至る。
拙いな…これは。
口角が、緩みそうである。
半透明ニマニマとか……不審人物まっしぐらである。
何としても避けねばなるまい。これ以上モッ君に残念認定を受けたら、流石に色々なモノを取り戻せなくなる気がするのだ。
「……心配しなくとも、もう手遅れだよ」
聞こえないよ、モッ君。
断じて、そんな矛盾した言葉は耳に入らないとも。
ここで、一時限目の予鈴が鳴る。
本日は移動教室から始まる為、必要な教科書を纏めて教室を出た。
移動先は音楽室。即ち、音楽の授業である。そのままだね。
「音楽……は普通に歌うの? 吹くの? それとも聞くのかな?」
「一気に並べ過ぎ。……この時期だと、まだ予定としては遠いけどね。クラスマッチ、中間考査、臨海合宿を終えたら学内コンクールがある。その際の選曲が近々あるんじゃないかな。例年だと、多分そう」
モッ君の丁寧な解説の中に、凄く不穏な行事内容が混ざっていたように思う。
気のせいかな……うん。
気のせいだと思いたい。
合宿とか、何かが巻き起こる予感しか覚えないよ。
「そんな遠い目をされても……まぁ、気持ちは分からないでもないけど」
「モッ君、何かあった時は運命を共にしようね…」
「不吉な文言を強要しないで!?」
さて、それは兎も角である。
考えても仕方がないことは、ひとまず置いておいて。
「モッ君、唐突だけど……“風切”という怪異を知っているかな?」
「………朝から君が挙動不審だったのは、それが原因?」
ようやく普段以上の挙動不審さが腑に落ちたよ、と。
全身もふもふながらも、苦笑いを器用に表現するモッ君。
その言葉を受けて、取り敢えず思ったことは。
そんなに普段から、挙動不審だろうか自分……と。
そんな切ない感慨だったことを、内心のみに留めておきたい少女であった。
次回は、学園の陰の支配者―――こと飛閻魔氏に表舞台に出て頂こうと考えています(^-^;
少女のみに進行を任せておくと、いつになってもクラスマッチに辿り着けないという作者の危機感からの次回予告となります。
ここまで読んで頂いた方々へ、感謝の気持ちを込めて。
宜しければ、次回もお付き合いください(^-^ゞ




