表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
怪談の学校  作者: runa
24/48

三日目~そして遭遇するものは*手繋ぎ編~

長らく、お待たせいたしました<(_ _)>

暫し間が空いてしまいましたが、三日目の後半戦をお届けしていきます。



***



 優雅さからは、かけ離れた飛翔を見せるモッ君を見上げつつ。

 そろそろ本格的に迫りつつある雷音を余所に仕切り直します。

 気を利かせたものか、その内心は分からないものの。

 風狸青年はある程度の距離を置いて、屋上のフェンスからさり気無く此方を窺っている。

 いや、逆に気になりますから。

 そのさり気無さには意味がないと思うの。

 余程にそう言いたい自分。



 しかし、今はそんなことを言っている場面では無いと流石に自重する。

 改めて見ても、当主である怪談の王譲りの美貌だ。

 細かい部分に差異はあるものの、色彩や全体の印象は似ていると思う。

 その琥珀色の双眸にじっと見詰められながら、約束を果たすべく口を開いた。



「簡潔に伝えれば、貴方の提案に頷くことは出来ません」

「……理由を、聞いても?」



 どこかで、予期していた部分はあった筈だ。

 それでも震える声で問われれば、罪悪感にも似た何かが掠めもする。

 だからと言って、返答を違えることは決してないのだけれどね。



「正直に言えば、逆に聞きたいくらいです。……貴方が、何を思って自分に提案するに至ったか。そしてその結果、起こりえた可能性を分かっていて昨日の提案をしたのかも含めて」


 その琥珀の双眸が、隠し切れない感情の揺れを含んで揺れる。

 それをじっと見詰めて、答えを待つ。

 答えを待った。

 …待って、みたものの。



 やれやれ、どうやら外貌に比べて彼は相当の口下手に当たるらしい。

 自分も社交性には欠けるだけに、共感する部分は無いとは言えないものの。

 しかし、実際問題。このままでは話が進まない。



 仕方ない、とは内心の声。

 徐に視線を上げる。

 それだけで、さり気無さを装っていた件の人物は察したようだ。

 その頷きを確認して、今回ばかりは仕方がないと頷き返す。

 だからと言って、午前中の仕打ちの数々を忘れた訳ではないことを重ねて伝えておきたいところである。

 今は野暮だから、内心に留めるだけである。



 風狸青年が風と共に降りてきた。

 ふわりと混ざる、湿った風を周囲に感じながら。

 再び三者三様に戻った場で、青年は溜息を付きながら助け舟を出した。



「兄さん、このままだと埒が明かないから。……それに昨夜白鈴様からも伝えられた通り、兄さんは浅慮だった。その浅慮を流血もなく鎮められたのは、全て彼女のお陰なんだよ。だから、兄さんには謝罪と説明の両方をする義務がある」



 そんな彼の声を聞き、ようやく冷静を取り戻した様子が窺える。

 双眸の揺れも見えなくなったところで、漸く訥々と話し始めた。



「……そう、だったね。君が、日和の血に連なる姫だと知らなかったとはいえ、到底許されないことをしたのは事実だ。……お許しください。日和の姫君」



 そう言い終えるなり、膝を付く彼。

 それに対して、自分はただただ嘆息を隠せない。



「……まぁ、ばれてますよね。でも学内では身元を特定されたくないので、どうかこの場限りにして下さい」



 当然それは伝わっている筈だとは予期しながらも、また一つ平穏から遠ざかった現状に遠い目をしているのは自覚している。

 うん、大分疲れているのは否定しない。

 まして午前中の仕打ちもあるからね。

 案外、根深い方なんですよ。自分。




「付け加えるなら、貴方は自らの言動を既に反省している様子ですから。私からは、今回の事で特に言うことはありません。そもそも、そんなに謙られるような身分でもありませんから」


「君、以前から思ってはいたけど……『日和』や『夜目』への意識が希薄だよね」


「……そう、なのかもしれないですね。まぁ、それは色々此方の事情もあって。私個人としては、そんなことよりも平穏に暮らしたいんです。それはもう切実に」




 風狸青年の指摘に、特に戸惑いもなく肯定する。

 それを受けた二人の絶句を前にして、もはや珍しくもないと感慨にふける自分も大概なのだろう。

 とはいえ、それが事実である以上はどうしようもない。

 偽るにも労力が必要なのですから。

 今は、そんな労力を割ける程のゆとりはないと言うだけの話です。




「……切実に望むのが、平穏?」


「……無茶は承知で言っている事ですから。そんなに微妙な目をしなくても……。自覚してますよ。ええ、それはもう哀しくなる位に」




 だからもう、これ以上は空気を読んで下さい。青年よ。

 言葉を重ねるごとに現状を自覚して、虚しくなるのは自分なのですから。



 幸いなことに、風狸青年はそれ以上突っ込んで聞いてくることはない。

 それよりか彼が兄にあたる少年へ向ける視線。

 それに含まれた意図が雄弁過ぎて、寧ろそちらが痛い。



「兄さん、頑張れ」


 声に出てるよ、君。

 聞こえてますから。そういった激励もどきは出来るなら本人のいないところでお願いします。



「……私と一緒にいれば、けして平穏は望めないだろう。……つまり、それが答えだね」



 彼がその時に浮かべた表情から、目を逸らさなかったのが運の尽き。

 そう言ってしまえば、簡単なのだけれどもね。

 それだけでは、あまりに無責任だろう。

 結局は、自分が選択した。

 振り返っても、それが全てだ。



「君が結論を出すのは道理が違う。現に、私はまだ理由を聞いていない。君。……君の周りに平穏を望めない理由は、君が『夜目』だからかい?」



 真っ向から、切り込む様な言い方になってしまったことを失敗したと思いこそすれ、後悔はしていない。

 その時、確かに自分は知りたいと思っていたからだ。

 もしかしたら、同時に傷つけたかも知れない。

 それでも、ここで聞けなければきっと二度と聞く機会は巡ってこないだろうと直感で感じていたからこそ。

 実際、ここで切り返す選択をしなかったならと考えてもいる。

 予想はあくまで予想でしかないことを踏まえても。

 きっと、私と彼らの縁はそこで切れていた筈。

 多少確信めいた言い方になったものの、あくまでこれは勘ですからね。悪しからず。




「……そうだよ。もう聞いているね? 夜目と関わるものは例外無く恐怖し、畏怖し、悲鳴か罵声を向けてくる。私はそれを抑える術も持たず、対象を選ぶ事も出来ない。さながら、歩く悪夢だよ」



 暗い目だ。

 暗澹たる、と称するのにこれ以上適切な例は無いだろうくらいの。

 しかしそんな表情を浮かべながら、平時よりか饒舌であるという矛盾。

 そこから分かる気がした。

 彼は、そんな自分をずっと自覚し続けてきたのだろう。

 だから、なのかもしれない。

 口下手なのは、他者と話す機会をこれまで持てなかったからなのか。

 自然と思考はそこへ至っていて。

 結果から言えば、自分の感情は諦観に傾きつつあった。


 それを否定できない、心象を持ってしまった。


 本来なら、避けるべきであろう方向であることは分かっている。


 けれども、…だね。

 その言葉が去来した時点でほぼ自分の負けである。

 それは勿論、返答如何ではなく。

 こんな暗い目をした怪異を前に、自分に何が出来るだろうということを考え始めていた。

 現世で友人の一人に、常々言われていた言葉も併せて。



『関わりあった時点から、既に選択肢は互いの手の中にある』



 そう、既に考えは纏まっている。

 ただし、事はそう単純なものでもない。

 思い当たる提案はあるものの、周囲へ及ぼす影響を考えると容易には口に出来ないのだ。

 自分はそれを踏まえて、選択をしたいと思う。

 さて、どうしたものか……



 ひしひしと感じる少年の傍らからの視線はさて置き。

 その決断を後押しすることになった変化。

 それは結果として、後方から吹いて来た。

 ふ、と後方からの視線を感じて思わず振り返ったところに居並ぶ面々がいたのである。

 いつの間に、と声にならない部分もあった。

 けれどもそれ以上に、蛍が自分へ頷いてくれたのが全ての決め手だったといっても過言ではない。


 きっと蛍には、自分の考えていたことが伝わっていた。

 やはり、彼女は自分には勿体ない友人である。

 もう何度目になるか分からない認識とともに、しみじみする。

 加えて。

 彼女の後方には、不安げながらも震えを懸命に抑える四隅君。

 扉の脇には、興味深そうに事の次第を眺めている様子の河伯少女。

 そして逆さ向きに、事の次第が呑み込めない様子で首を傾げる蓑虫さんがいる。




 そんな彼らと共に、歩めるのなら。

 平穏からは程遠い学園生活であっても、悪くないかもしれない。




 魔が差したと言えば、そうなのだろう。

 けれどもここが『何の』学園であるのかを考えれば、納得もする。

 ふわり、と吹いた風に舞い上がった髪をそのままに。

 見守ってくれている彼らへ向けて、微笑んだ。

 せめてもの、感謝の気持ちである。

 それに対し、目を瞠った彼らの表情には首を傾げつつも追求はしない。

 理由ですね?

 現世でも、時々そうした表情は目にしていたからです。

 何故か、当人たちに聞くと決まって言葉を濁されるんですね。これが。

 日常というものには、不可思議があって当然。

 いつしかそれが持論になりましたね……

 そう。

 意識せずに粉塵爆発を引き起こす母や。

 会社で実は透明人間なんですよね、自分と暴露してしまう父。

 そうした両親を持つ以上、それ位の帰結を抱いても無理はないのです。




「……悪夢、ですか。ならば覚ませばいいですね? そんな貴方に提案があります」


「……提案?」


「私と『手繋ぎ』して貰えませんか? 高等科の先輩に対して、後輩の自分から提案するのは……やはり無理がありますかね?」




 見慣れた、で括っても良いだろう。

 もう何度目になるかも分からない絶句を前にして、徐々に語尾が力を失くすのは大目に見て欲しいと思います。

 基本的には積極性の反対側。それが自分ですからね。




「……君、正気?」


「……プロポーズまでした貴方にそれを言われるのは正直心外ですけどね。それに貴方は、肝心なところを省略している。一対一、が基本でしょう? 少なくとも幇縛の影響下では大多数に対する能力行使は無効化される……間違っていますか?」


「……それは誰から?」




 ひどく迷う様な目で、淡々とした口調を維持されても説得力は皆無ですよ。

 そんな内心の声を苦笑に変えながら答えた。




「『夜目』関連の書籍に目を通した結果ですよ。特別誰に聞いたというものではありません。……その様子だと、どうやら間違いでは無いようですね」


「君は、切実に平穏を求めているのだろう? ……自分はそれに応えられない」


「真面目だなぁ……どこかの誰かによく似ているよ」


「それ、まさか僕のことを指してないだろうね」




 思わず、といった風に零れ落ちた言葉でさえも見落とさないモッ君の知覚範囲ときたら。

 惚れ惚れしますよ、ええ。

 ごろごろと、頭上に差す稲光と共に耳元を打つ羽音。

 怪異とはいえ、流石に空中遊泳を続けていられなかったのだろうね。

 やはり墜落するような勢いで、肩に乗った重みは若干しっとりしている。



 ……モッ君、微妙に湿ってるんですが。

 やはり上空は湿気も多かったのだろうね。

 うん、これは仕方ないのか。



「おーい。ねえ、聞こえてる? はぁ……もういいよ」


 モッ君からの許しも出たところで、二度目の仕切り直しと行きましょう。



「確かに、平穏を望みます。けれども、極端な話。結果がそうあればいいんですよ。貴方は私に害を及ぼすような怪異ではない。少なくとも、貴方と関わることを選択したのは自分。あとは、貴方がこの手を取るかだけの話ですね」



 ぽつぽつと降り出した雨の下で、差し出した手の先に揺れる琥珀色。

 その葛藤を前にして、判断は確信に変わる。

『彼』の本質はとても優しく、聡明だ。

 もし、彼の様な立場に大半の人や怪異が置かれたなら。

 周囲に傷つけられ、歪んでしまってもおかしくないというのに。

 彼は、周囲に与える影響を十分に自覚しているばかりか。

 平穏を望む自分を、遠ざけようとした。

 そんな彼と、友人になりたいと思うのは極自然な心理だろう。

 


 だから私は今、手を伸ばすのだ。




 ゆっくりと持ち上がった手が、触れる。

 互いに伸ばした指を、絡めた瞬間。


 まるで、その刻を待っていたかのよう。


 ざあ、と計った様なタイミングで降り注ぐ雷雨。

 指を重ねたまま、二人同時に空を仰ぎ。

 頭上には雷光。

 透明な驟雨の中で。

 顔を見合わせ、苦笑した瞬間から。

 きっと私たちは友人になったのだろう。




 いつの間にかすぐ傍に来ていた風狸青年が広げた翼が即席の傘になる。

 うん、この羽根を毟るのはやはり止めておこうと思う。

 近くで見れば、本当に綺麗な色合いだったんですね。これが。



「良かったね、兄さん。……むしろ俺が泣きそうだよ」

「止めろ、風狸。頭を撫でるな」



 そんな彼らのやり取りを聞きながら、ふと思う。

 この学園で、きっと自分はまだ様々な困難に出会うことだろう。

 その度に、荷造りを志す自分の姿も脳裏に浮かぶ。

 けれども、…だね。


 きっと、友人たちと支え合うことで進んでいける道がある。

 だから今は、これでいい。

 当面の問題は、周囲への報告くらいなものである。

 ……そう、雷雲と吹雪を前にしても泰然としていられる精神力。

 ……そして、現在進行形で向けられているモッ君の視線に込められた意図を敢えて読まないでいる鈍感力。


 ……何というか、うん。泣けてくるね。

 やはり現実と言うのは、儘ならないものらしい。


 降り出した雷雨を背に、階段下で手を振って別れた。

 予鈴の音を聞きながら、私たちは目の前にある廊下を走る。

 


 次の授業は、行動学。

 きっと雨童先生は、いつにも増して熱の籠った教鞭を取ることだろう。

 そう。まるで水を得た魚のようにね。


ここまで読んでいただいた方へ、感謝の気持ちを込めて。


今日で三日目は終息に至ります。

宜しければ、もう暫しお付き合いください。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ