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怪談の学校  作者: runa
23/48

三日目~そして遭遇するものは*屋上編~

本日のテーマ:

天井は、未知の領域です(*´ー`*)




***




「……ねえ、僕は暫く空中散歩に行ってきていいかな」


「モッ君、着いて早々言うことがそれなんだね……」



 昼休みである。

 ごろごろ、と猫が喉を鳴らすかのような低い音が遠く聞こえつつある正午。

 昨夜ぶりに聞こえる遠雷は、徐々に迫っている空模様である。

 屋上に至る扉を前に、既に石化の兆候を見せつつあるモッ君。

 そんな彼を見遣って、吐息を隠さない少女。

 そんな二人のやり取りを後方から見守る四名の怪異たち。


 ここに至るまでには、ほんの少しの紆余曲折があったことをまず初めに伝えておこう。




 二時限目を終えた所で、次の授業は例の映像学であった。

 再びあのシュールな光景を目の前にするのかと思うと若干気後れはする。

とは言え、そんな本音を零せば文字通り自分の出身を明らかにする様なもの。

 それ即ち、カミングアウト直結である。

 それだけは、何としても避けねばならない。

 ふむ、と様々な思いを呑みこんだ後。

 肩にモッ君を乗せて移動すべく、立ち上がった時のこと。



「あ、貴女……、あ、ちょっと……そこの心太止まりなさい!!」



 なかなかにインパクトのある台詞を惜しげもなく叫んだ少女。

 その件の彼女は、天井からこちらへ向けて躊躇い無く指を指している。

 きっと怪異たちの間では、人に指を指してはいけないという知識は出回っていないのだろうな…。

 その指の向けられている先が間違いなく自分だと分かった時。

 はた、と思い至る。

 自分としたことが、何と悠長にしていたのだろうと。



 姿勢をその場で正し、モッ君に目配せをした後に腰を折る。

 直角の礼である。

 この間。機転を利かせたモッ君は、足場を模索しながら器用にバランスを取っている。




「以前、大変失礼な物言いをしました。心から反省しています。……本来なら、もっと早い段階で謝罪をする機会を請うべきでした。申し訳ありません」


「……え、ちょ……あの、そんな急に悄然とされたら。こ、困るじゃない……」




 初めの勢いは何処へやら。

 何やら急激に険を失くしたらしい彼女は、天井を落ち着かない様子で歩き回っている。




「もう。調子が狂うわね……、ショックで寝込んだ自分が馬鹿みたいじゃないの……」


「……ショックで、寝込んでいたんですね。本当に、申し訳ないことを……」


「っ、っ……!! く、繰り返さないで頂戴。もう、良いわ……何だか馬鹿馬鹿しくなって来ちゃったもの。許して、あげるわ」




 見上げれば、頬を真っ赤に染めた美少女がふるふると拳を握りしめながら、そっぽを向いているという希少な光景が目に飛び込んできた。

 これは、凄い。

 何と言いますか、かなりの破壊力を秘めているであろう。

 それを目にしているのが自分、と言うところで何か惜しいとさえ思えてくるのだから。


 可愛いな、うん。

 夕暮れではない現在。

 蛍光灯の明かりを若干眩しそうにする素顔の彼女は稀に見る美少女。

 思わぬ真実を得たばかりか、更に上乗せされた特性が…想定外です。


 美少女のツンデレ属性が、現実に起こり得たという奇跡。

 妙なテンションになっている辺りは自覚しているので、心配はいりません。

 だからモッ君、それ以上呆れた目を向けないで欲しい。



「おーい、君たち? そろそろ移動しないと本格的に遅刻するけど良いの?」



 やおら、河伯さんが絶妙のタイミングで声を掛けてくれなければ恐ろしいことになっていたでしょう。

 具体的には?

 ええ。もれなくモッ君の目付きが、標準で呆れに変わるところでしたね。

 三日目は、振り返れば彼女に助けられてばかりの日です。

 改めて感謝を伝えなければとは思いつつ、今はただ無心で走るのみ。


 蛍さんも巻き込んでしまった現状を思えば、シュールなど何のその。

 スプラッタを横目に、詰めの甘さを指摘し合う声を聞きながら過ぎた三時限目。




「ごめん、蛍。二時限目の後も、…それから一時限目も迷惑を掛けました」


 購買まで伸びる廊下を並んで歩きながら、今朝方以来ようやく普段の血色に戻って来た様子の蛍へ謝罪した。

 自分といる事で、否応なく巻き込まれている現状をただただ申し訳なく思う。

 じっ、と何時になく真顔で見詰めてくる蛍にとうとう呆れられたものと察した自分。


 それはそうだろう。

 学園で畏怖されている大妖と関わり合う羽目にもなるばかりか。

 監査役と名高い上様から派遣されているモッ君の傍にいれば、下手をすれば彼女自身いつ目を付けられてもおかしくはない。

 まだ三日目だというのに、次々に舞い込む騒動はまさに枚挙に暇がない。



 蛍が望むなら。

 距離を取ることを望まれるのなら。

 その時は、自分に出来るのはそれに頷くことだけだと。

 そこまで思い至ったところで。

 

 蛍が、ようやくその閉ざしていた口を開いて言った言葉。



「……謝罪に、意味はあるのかな? ね、心太さん。あなたはきっと本当のところを理解していないよ。私は、あなただから『手繋ぎ』をしたいと思ったの」



 息が、詰まった。

 痛いほどに、真っ直ぐなその瞳に映る自分を恥ずかしいと思った。


 やはり、蛍は自分には勿体ない友人である。




「許して欲しいのなら、謝罪では無くて感謝が欲しいな…ふふ、欲張りでしょう?」


「……ありがとう、蛍。蛍が友人で、本当に幸せだよ」




 購買と言う名の戦場へと踏み出す寸前に、振り返って精一杯の想いを込めてそう伝える。

 それもこれも、間が開いたら居た堪れなさに戦意を喪失する恐れがあったからである。

 だからこそ、少女はその友人が呟いた言葉を耳にすることはない。



「……素であれとか、本当に厄介よね。反則だわ……」


 頬を真っ赤に染め、立ち尽くす友人の様子にも気付かないまま少女は今日も戦場を往く。

 最終的にはどうあっても残念。

 そんな少女の本日の収穫は、チーズレタスサンド(ハム入り)とグレープフルーツ果汁100%ジュースのセットである。




 戦利品を手に、駆け戻って来た少女が本日の成果を報告している最中。

 彼女たちの後方から、久方ぶりに響く声の主。


 購買のすぐ横で、豆腐稼業に勤しむ四隅君だ。



「蛍さん! 心太さん! 聞いて下さい。遂に、僕はやり遂げたんです……!!」



 いつになく興奮した面持ちの彼に、若干退き気味の蛍。

 しかしそれも、彼が差し出した盆の上を見た途端に一変する。



「わぁ……!! 胡瓜が、こんなにふんだんに使われてる!!」



 その食いつき振りに、今度は差し出した四隅君の方が微妙に退いている。

 何だかこの二人は、本当に似ている部分が多いんだな。と。

 そんな思いを内心に、どれどれと朱盆の上に視線を向ければ予想より遥かにバラエティーに富んだ薬味の数々であった。


 そう、件の組み合わせ薬味がとうとうお目見えしたらしい。


 自分の何気ない呟きに触発され、様々な組み合わせを思考錯誤していたらしい四隅君。

 その苦労の成果にして、まさに結晶とも呼べる薬味の数々。

 ざっと見る限りでも、十五種類。

 これには、感嘆するばかりである。

 まさに豆腐に掛ける情熱、ここに極まれり。


 因みに蛍さん、その場で胡瓜入りの薬味全種載せで一丁お買い上げ。

 自分は予約注文の形を取らせて貰いました。

 流石に、今日は豆腐を片手に屋上へ行くのは……うん。

 そこは空気を読まないといけないだろうな、という良識が勝った。



 昨日と同じく、レタスの端をモグモグするモッ君を肩に乗せたまま廊下を進み。

 とうとう差し掛かった屋上へと続く階段前。

 蛍に手を振り、別れようとしたところで思いがけない事態が起きた。



「今日は、私も途中までついて行きたいの。……お願い」

「……蛍、改めて言うのもあれだけれど。待っている相手は彼らだよ?」



 一度決めたことは、頑ななまでに貫き通す。

 そんな彼女の真っ直ぐさに、とうとう根負けするまでそれほど掛からなかった。

 何が起きても、扉を開けて屋上までは来ないことを約束させてようやく纏まった話合い。


 さて、行きますかと踏み出した先。

 思いがけず遭遇したのは、天井から此方を覗く少女と階段に座って手を振る天邪鬼だった。



「河伯さん……、それに蓑虫さんも?」


 蛍の呆気にとられた声に、まさに同じ心境にあった自分。

 しかしながら、それよりも確認しておかなければならないことがあった。



「……蓑虫? ま、まさか君もあのクラス担任の被害に……」


 その呟きに、どうやら図星らしく顔を真っ赤に染める彼女。

 そんな彼女を痛ましげに見上げる。

 ああ、まさに同志だ。

 色々と表面上は平静を保っては来たものの、平静に返れば痛いだけ。

 そんな名前を被せられた者同士、出来ることなら結成したいものである。

 そう、『名付け被害者の会』を……!!


 因みに活動内容は、姓名変更を求めるものではありません。

 基本的には苦悩を分かち合える同志が欲しいだけなのです。

 これ以上、むやみやたらと名を広げたいとも思いませんから。

 ただ、そうですね……。

 敢えて補足するなら、次代の被害者を防止するべく微力ながら活動できることがあればより素晴らしいとは思います。




「蓑虫さん、もし宜しければ今度時間のある時に是非お話してみませんか…? 実は今だから言えますが…私は、登校初日から貴女とずっとお話ししてみたかったんですよ」


「……?!……あ、あなた恥ずかしくないの? そんな真正面から……っ、」


「勿論忙しい様なら、機会が来るまで待ちますから」


「い、良いわよ。話くらい……別にいつでも」




 最後の方が囁き声のように掠れていて、微妙に聞こえ辛かったものの。

 取り敢えず、話しかけても良いようだ。

 それにしても、である。



 この間、蛍さんはどこか呆れた様子を隠さずにぼそりと何事か呟いていた。

 因みに河伯少女に至っては、見事な重箱のお弁当をぱくぱくと口に運びながらも合間合間に含み笑いを覗かせている。


 正直に言おう。



「河伯さん……言いたい事があるなら、言葉にするのも大切だと思いますが」


「ふふふ。本当に君って見てて飽きないよ……? あぁ、ご飯が進む」



 つまりその発言からすると、自分の言動ないし行動はご飯の供。

 もしくは、オカズという扱いになるのではないだろうか。


 流石にこれには脱力感を感じ、呑み込もうと思っていた溜息も思わず吐き出していた。




 そんなタイミングを見計らってか、聞き慣れた声がその階段に響いて来た時。

 一瞬空耳かと思った位だ。



「あ、河伯さん!! こんな所に……、もう散々探し回ったんですよ?」



 朱盆を片手に階段を駆け上がって来たのは、言うまでもなく四隅君である。

 どうやらクラス担任に頼まれて、河伯少女を探し回っていた次第らしい。

 何時にない組み合わせに、一瞬首を傾げた四隅君ではあったが蛍が豆腐の売れ行きについて問い掛けた途端に喜色満面になる。


 こんな短時間で売り上げるとは、恐るべし組み合わせ薬味。


 興奮冷めやらぬ四隅君と、喜びを分かち合うこと数刻。

 お昼休みが有限であることに気付き、結局その場の流れ的に屋上の扉前まで見送られることになった現在。


 思いがけず時間が掛かったものの、少女はとうとうドアノブを回した。



 視界に広がる曇天と、湿り気を帯びた空気の中で。

 視線を巡らせて、とうとう見つけた。


「……あの。 大丈夫ですか?」


 思わずそう声を掛けていたのは、屋上のフェンスに手を付いて蹲る白い少年の背。

 それに対し、悲壮な表情を隠さない黒い青年の横顔を目にしたからである。



 え、と。

 何だろう、もの凄く場違いに感じる。

 場面を間違えたんじゃないのかな、自分。


 割と本気でそう思ったわけである。



 しかし、それも顔を上げた少年の表情を見て認識の間違いに気付いた。

 ああ、これは遅れた自分の責任だと。



 これに、反射的に姿勢を正して頭を垂れた自分。

 そのまま口から滑り出た言葉に、少年の表情がそのまま凍りつく。




「ごめんなさい」




 青年は、この言葉を受けて嘆息した。

 その溜息は、ただ只管に重く、深いものだった。



 彼らが、浮かべた表情。

 まさに、悲嘆と呼ぶに相応しい。

 暫くして顔を上げた少女がそれに気付くまではもう少し。

 あくまでここで言った謝罪が、そのまま遅れたことへの謝罪であったことを知るまでは更にもう一呼吸分あったと思われる。




 ようやく言葉の食い違いに気付き、互いの状況を認識。

 当初の予定通りの精神的立ち位置に戻った時には、三者全員が疲れを隠せずに顔を見合わせる様な有様であった。


ここまで読んで頂いた方々へ、感謝を込めて。


次回で三日目を締めくくる予定です(^-^ゞ

さくさく進めて、放課後へ突入させますので…


まだまだ物語は序盤戦(*´ー`*)

宜しければ、気長にお付き合い頂けると幸いです。


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