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怪談の学校  作者: runa
22/48

三日目~そして遭遇するものは*校庭編~

三話に纏まりませんでした…(/´△`\)


何はともあれ、途中経過をご覧ください。




***




「壺組全員、ここまで来て整列しろ」



 沼地独特の香りを背に、校庭に響く声。

 それを受け、ぞろぞろと壺組生が指示の通りに移動する。

 姿形の揃わない面々が整列をすると絵巻物みたいだ。

 百人いれば……いや、でも夜間に限定されるのか。

 百鬼夜行図。意外と近いうちに見られるかもしれないな…。

 そんな毒にも薬にもならない様な事を思いつつ。

 蛍と共に、列の半ばに並んだ。



 どうやら、号令を出したその人物が…否、その怪が体育を受け持つ教師らしい。

 三日間学園に通う限り、教師陣については大多数を人型の怪異が占めている。

 正直なところ、これは自分からすると有難い限りだ。

 中空に浮かぶ教師がいたら、授業を受ける側も気を遣う。

 こうした危惧感は、まさにオカルト界独特のものと言えるだろうね。



「黒塚だ。今後、体育の授業を受け持つ。朝の内に、担任から話は聞いてるな? 来週末は学年対抗別クラスマッチが予定されている。従って、今日はまず簡単な体力測定を行う」



 ……なるほど。

 簡潔な語り口で、分かりやすいことこの上ない。

 付け加えるなら、その名を耳にした時に初めから感じていた違和感が払拭された。


 黒塚氏、見る限り鬼婆の家系に連なる怪異と思われる。

 その名について書籍に記述があったのを思い出したのも理由の一つ。

 ましてその背後に置かれた銀色の輝き。

 うん。あれは肉切り包丁だろうね。多分。

 研ぎ石も積み上げられている辺りに、そこはかとなく几帳面さを感じられる。



「……教師が凶器を所持していていいのかな……」

「黒塚のあれは、怪異性からして付属品(セット)だからね」



 モッ君の注訳に、成程ねと頷いている間にも。

 淡々と本日の授業内容についての禁止事項が耳に届いてくる。



「短距離走においては、縮地は認めない。風による干渉も不可とする。まずは飛行系統と地上系統に分かれて三十秒以内に整列し直せ」



 蛍さんは言わずと知れた地上系統。

 顔を見合わせて、頷きあった後。

 周囲のざわめきを横に、地上側の列へ歩を進めた。

 見たところ、壺組は六割方が地上系統に分類されるようだ。

 因みに一割は迷っている。

 彼らは飛ぶ、というよりも跳ねる動作が多い怪異たちだ。

 その逡巡に見ている此方が気の毒になってくる程に右往左往している。

 東側に飛行系統、西側に地上系統に集まりつつある最中。

 勿論、進む先は西側。

 そこには既に、四隅君や河伯少女もいる。

 軽く手を上げた彼らに、同じく手を振り返して列に加わった。



「……常に浮かびあがっている怪とそうでは無い怪の分類は、自己判断なのかな?」



 あらかた二つに分かれた所で、思わずポツリ疑問を口にしていた。

 それもこれも、まだ迷いの最中にいる数名の怪異が残っているからである。

 これに対し蛍よりも早い解答を口にしたのは、自分のすぐ後ろに並んだ河伯少女だった。



「君は着眼点が人寄りな部分があるよねぇ……うん、面白い。そうだよ、基本的には自己判断。飛ぶ能力のあるモノは、飛行系統で間違いはないんだけどね。ただ、揚力の半端な怪だと見透かされて集中攻撃に合うからねぇ。その辺りも考えて、選択する感じだよね」


 何だかとてもシビアなところを聞けました。

 河伯少女、クラスにおいては纏め役に近い立ち位置なだけに背景についても合わせて説明してくれます。

 これは貴重だ。

 時折、見透かす様な視線を向けてくる事を省けば。

 ええ、是非ともお近づきになりたいものである。



「なるほど……。とても分かりやすい解説を、ありがとう」

「いえいえ。何だか君の近くにいると飽きないからね。詰まるところ、自己満足だよ」



 そうですか。

 ここは掘り下げずに、素直に感謝に留めるのが無難だろう。


 そんな内心の考えを、読み取ってか。

 やはり彼女は愉しそうに笑う。



 丁度そのタイミングを測ったかのように。

 三十秒の知らせか、黒塚氏が吹き鳴らしたホイッスルが響いた。

 その音にびくっ、とした勢いのまま跳ねていた最後の一名が西側へ転がりこんで来る。

 その巻き沿いになる形で、数名が被害にあった模様。

 

 うん…、まあ。何はともあれ間に合ったようで何よりだ。




「全員分かれたな? では、これから体力測定を開始する。地上系統は私が監督する。飛行系統の監督に関しては、今日に限り高等科から応援を依頼してある」



 言い終わりと同時。

 ふわり、と空気が変わる。

 それに既知感を覚えた自分。

 それもその筈。その空気を自分は既に体感しているのだから。

 見上げた先、姿を現した怪異にやはりと嘆息した。



 中空に浮かび、ひらひらと手を振る青年は今日も全体に黒い。



「紹介に預かりました、『風狸』です。ここ数年はクラスマッチの実行役員に名を連ねているので、今回はその一環で授業に参加させて頂くことになりました」



 そう述べるや、ふわりと着地した彼の横顔を見て真っ先に感じたのは。


 ああ、やはり疲労感の漂うそれだと。

 恐らく…否、確実に。

 昨晩の騒ぎの余波を、彼もまた被ったのだろう。



 それはさて置き。

 そろそろ周囲についても気を配りたい。

 具体的には、周囲の反応が顕著だ。

 そもそも隠す気はないのだと言われれば、まあ頷ける。

 悲鳴を上げる怪異こそ、いないものの。

 取り敢えず皆、顔色の悪さには尋常でない緊張が窺える。



 さてさて。どう考えたものか。

『彼』程ではないにしろ、やはり厄介は厄介らしいね。



「……『風狸』がわざわざ中等科の授業に参加するなんて、ねぇ。ふふ…まさに。どんな風の吹きまわしだろうねぇ……」



 どんな、と言いつつも彼女の視線の先は定まっているのだ。

 その遠慮の無い視線には、思わず苦笑する他ない。

 うん。これについては仕方がない部分もある。甘んじて受けよう。


 …とは言え、馬鹿正直に反応を返すのも癪である。

 無駄に体力を減らしてなるものか。

 正直なところはそれに尽きる。

 溜息を呑みこみつつ。

 それとなく反らせていた視線を、ここでようやく上げた。



 一日目の訪問騒動が尾を引いているのだろう。

 忙しなく視線を往復させ、おろおろしているのは四隅君である。

 彼には、取り敢えず落ち着こうと言いたい。

 以前ほどでは無いが、やはり顔色の悪い蛍さん。

 彼らに揃って気を配りながらも。

 今回ばかりは、正直自分にどうこうすることは出来ない状況である。

 お昼休みなら兎も角として。

 今はあくまで授業時間中だからね。

 取り敢えず、倒れる怪異が出たら協力して保健室へ運び込むくらいの対応策しかない。



 ざわざわ、と戸惑いの尽きぬ中。

 それを見計らったように、再び鳴らされたホイッスルにピタリと喧騒が収まる。




「はしゃぐのも程々にしろ。先程言った通り、今回は特例だ。紹介も済んだ所で、各系統ごとに測定を始める」




 いや、けしてはしゃいでいる訳ではない。

 そんなクラス一同の無言の叫びを余所に。

 しん、と静まったクラスの背景にごろごろと転がって行く首が二つ。

 校庭を転がるその姿は、もはや堂に入ったもの。

 とは言え、繰り返しにはなるが現在授業中。

 まるで空気を呼んだように、慌てて茂みへと後戻りしていったのが印象的だった。




「遅刻か……もしくはサボりだね」

「そこは今重要じゃないから。…全く、まるで緊張感が無いね君は」




 すかさず返って来るモッ君の指摘は、もはや熟練の域である。

 逸らしていた意識を戻しながら、感慨深さを噛み締めている合間にも。

 どうやらなし崩し的に始まったらしい体力測定である。





 授業は、序盤の混乱に比べれば拍子抜けするほどの平穏さで行われた。

 その項目は、殆ど現世と変わらないものであり。

 結論から言えば、黒塚氏の包丁が活用される場面は幸いにも訪れなかった。

 何よりである。


 所々、破乱こそあれど。

 全体的に振り返るに、平穏な授業内容であったと思う。



「反復横跳びは、水のバランスを取るのに気を遣うから……毎年平均に届かないの」



 一通りの測定を終え、蛍さんの零した呟きに然も在りなんと頷いている合間。

 ウトウトと肩の上でまどろんでいるモッ君を横目に木陰で休憩していた自分の頭上。



 ふわり、と風が吹いた。

 それを感じた時には、既に舞い降りた後である。



「……ここは涼しくて良いね」

「……ええ、木陰ですから。飛んでいてもそれなりに暑いものですか?」



 毎日のように顔を合わせる日々が続いている以上、もう知人と呼べる括りに入るだろう。

 条件反射的に蛍を背後に庇いつつ、無難な会話に留める。

 その辺りも踏まえてだろう。

 ある程度の距離を置きながら、彼は慎重に言葉を選んでいる様子だった。


 二日ばかりでも、見てきた印象を纏めるならば。

 恐らく彼当人は、事を荒立てる道筋を敢えて選択するタイプには分類されない。

 そう感じているからこそ、鋭意観察中という扱いに該当する。

 これは要するに、判断に迷うという奴であり。

 平穏を害する点では、間違いなく『関わりたくない怪異筆頭』なのである。

 自分は博愛主義ではないからね。

 そこまで言いながら、保留扱いに留めている理由。

 それは……。



「うん、下からは結構涼しげに見えるかもしれないけどね。日差しを遮るものがない上空は紫外線も凄いからね。……知ってるかな、近頃は空中向け日焼け止めクリーム(PA++++)がオカルト界でも定着しつつあるんだ。烏天狗たちの間でも密かな旋風(ブーム)になっているらしいよ?」



 何だろうね、彼らが自分と話す様子を見る限り。

 僅かでさえ、害悪を及ぼす意思を感じ取れない。

 どこか、嬉しそうにも見える。

 自意識過剰だと言われれば、否定する言葉は無いのだけれどね。



「日焼け止めクリームか…。なるほど、怪異とはいえスキンケアには気を遣う風潮が出てきているというのは興味深いですね……」



 我知らず日焼け止め談議を深め掛けたところで、はたと思い留まる。

 それもこれも理由は明白。

 現在授業中。

 隣からの泣きそうな視線が一つ。

 更に近い位置からの呆れた様な視線が一つ。


 勿論前者が蛍さん、後者がモッ君の順である。




「君……いや、もういいや。僕は静観することにしたよ」


「モッ君、その目は凶器に等しいからね。その辺りは自覚した方が……あ、眠るのね。ここで夜行性を発揮しなくても……いやでも。フクロウだから仕方ない?」



 とうとうモッ君にまで見捨てられてしまった自分に、果たして明日はあるのだろうか…。

出来る事なら、夕方くらいには目を覚ましてくれると嬉しい。





「見え辛いけど……もしかして君が肩に乗せているのは」

「モッ君です」

「……心太さん、それだと余計に混乱させるだけだよ?」




 こうして、初めて会話中に加わった蛍さん。

 未だ蒼白さは変わらないものの、そこには気丈な色が窺える。

 その芯の強さは、出会った時を思い起こさせるもの。

 やはり、私の友人としては勿体ないですね。ええ。



「……それもそうだね。ありがとう蛍」


 蛍が、握り締めてくれる手の暖かさほど頼もしいものは無いと思う。

 モッ君と言い、私の周囲は分不相応な程に可愛らしいものに囲まれている 現状を思えば。

 平穏ではないかもしれなくとも、十分に幸福なのだと。




「正式名称は祟りもっけ、と言うみたいですね。けれども、この子は昨日からモッ君に改名したのです。我が家の自慢のフクロウです」


「いやいやいや、何度訂正させる気?!」




 さて、モッ君が無事に覚醒しましたね。

 もはや覚醒文句として、定形化の予感さえ覚える昨今。

 これで起きなかったら、夕方まで落ちそうで落ちない絶妙なバランスにハラハラさせられ通しになるところでしたから。

 昨日の午後の授業中も、何度か危い時があっただけに…。

 出来れば避けたかったのです。

 移動中に地面にべシャリとか、流石に居た堪れませんからね。




「君は……本当に、うん。笑うしかないなぁ、これ。……信じられないよ全く。まさか上様の僕たちとそこまで打ち解けられるなんて。祟りもっけだよ? はぁ、もう。参ったよ。規格外も規格外だ。……通りで、兄さんが惹かれて止まない訳だ」



 いやいやいや、笑うしかないって言われた当人がここにいます。

 どう反応していいものやら、迷うばかりですよ。

 加えて。

 さり気無く後半に爆弾を潜ませて来た辺り、そこはかとない悪意を覚えます。

 ほら、蛍さんの顔色が下限を突き抜ける勢いで真白。

 零れ落ちそうなほどに見開かれた目。

 それに映る、困り切った自分の顔が情けない。



 いや、もうその辺りにしておいてくれないかな。

 授業時間中に周囲の絶句を一身に集める気持ち、分かってやってるとしたら貴方も大概酷いと思うの。



 悪夢よりもひどい現実を前にして、明日は荷造りを始めたい現状。

 うん、現実逃避したい。








 体育を終えて、更衣室で着替え終えた。

 傍らの蛍さんからは、随時ドナドナの歌の子牛を見詰める様な視線を向けられるという精神的なダメージを蓄積しつつ。


 思い返すに、何故あの時自分は奴の羽根を毟る位しておかなかったのか……と。

 現状はそれのみです。

 いや、今からでも遅くない。

 帰り際に、鴉たちの協力を仰いでみようかな。

 割と本気で考えてますよ、ええ。



「……心太さん、何時になく荒んだ目をしてるけど大丈夫?」



 教室に戻ったところで、思わず四隅君が声を掛けてくる程に据わった目をしていた事実からも、自分の本意は周囲の知るところだったらしい。

 つまりそれくらいに、透明度が低下していたということ。

 二重に知らされた事実に、思わず天を仰いだ後。

 深呼吸を繰り返し、意識を安定させて透明度を元に戻します。



 ああ、苛立ちというものは文字通りの命取りになる。

 それを再認識した後に、机の上からの視線を感じて視線を下ろせば。

 いつにない真顔。

 普段と違う色が含まれているそれに、思わず目を瞠る。



「現状は、僕の力不足から引き起こされたものだ。だからこそ、君には契約に則ってより能力の高い祟りもっけを主様に請求することが……」


「モッ君、 それ以上続けたら怒るよ。いいの……?」



 初めて、その言葉を遮って見据えた。

 予鈴の鳴り響く中、瞬きを繰り返すその双眸。

 ふわふわの身体を震わせて、純粋に疑問だけを浮かべるそれを見ていたら。



 少しずつ、平静に戻りつつあった自分の意識が一線を越えて醒めた感覚を覚えた。



 一拍分の沈黙を挟んで、ギリギリで引き摺り戻す。

 あの日以来だ。

 父の告白があって以来、時折過るモノ。

 違和感混じりの感覚の正体。

 これが、『怪』としての自分の本質と呼ぶべきそれであるのか。

 それとも全く異なるモノであるのか。

 分からない。だからこそ、まだ。

 以前よりも醒めやすくなっている自覚をしていられる間は。

 まだ、大丈夫だと。

 幾度もそう言い聞かせ、辛うじて留める。

 ……ふう、何とか間に合った。

 毎回のことながら、なかなかの重労働なのだ。これが。



 いつの間に瞑っていたのだろう、その目を開けて。

 伸ばした掌で、未だに固まったままのモッ君を掬い上げる。

 ほんの僅かに身じろぎしながらも、肩に乗ってくれたモッ君の温もりに微笑む。



 幸運なことに、二時限目は件のクラス担任の担当授業。

 総合という名の、お昼寝タイムである。

 今だけはこれに感謝しよう。




「モッ君、もし君以外の祟りもっけが来たとしても、私はもう受け取らない。……生憎と、こう見えて自分はストライクゾーンが狭くてね。加えて浮気性ではないから」


「……君、どうしようもないな」


「うん、そこは自覚しているとも。だから聞こえていますね? 上様、新しい子はいりません。契約の及ぶ限りの期間は、この子が家の子です。その意思を変えることはありません。それを改めて伝えておきます」




 モッ君を通して、伝わる筈の言葉。

 当人を呼び出すよりも、手っ取り早く簡潔に。

 大真面目に伝えたつもりが、当のモッ君は器用に頭を羽根で抱えている。




「君……ほんと、怖いもの知らずだよね。寧ろ感心する」


「……やっぱり、こういう大切なことは本人に伝えに行かないと駄目だろうか?」


「……いや、もういいよ。どうやら今回はツボに嵌ったらしいから。珍しいよ。あの主様が愉しそうにしているの、久しぶりに見た。……だからこそ後が怖いけど」




 後半でぼそりと呟かれた言葉が、何か恐ろしいですね。

 再び脳裏に過る、ドナドナの旋律。

 モッ君の苦笑に込められた意図を、けして察してはいけないと本能が訴えてくる。


 ああ、なんて現実と言うものは世知辛い。

 肩のフワフワを堪能しながらも、机に伏した少女である。


 そんな彼女を心配そうに見守る二人の怪異。

 興味深そうに観察する一人の怪異。

 好奇心と、畏怖をない交ぜにして遠目にするその他大勢。


 そんなクラスメイトたちと、平穏の象徴たる鼾を響かせる教室風景。


 壺組の二時限目はそんな風にして過ぎて行った。





今夜はもう一話分、お届けします(*´ー`*)

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