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怪談の学校  作者: runa
21/48

三日目~そして遭遇するものは~

三日目は、お昼と放課後で山場を二つ抱えることになりそうです(/´△`\)...


予定では、三話に分かれます。

今回はその前置きがてら、爽やかな学園の朝をモッ君と共にお送りしていきます。






 空が、青い。

 樹の洞を出て、見上げた空にまずそう思いながら。

 さて、今日こそは平穏に締めくくってみせようと意気込む自分です。

 とはいえ、若干疲れが出てきているのも否めないのが現実というもの。

 のそのそと樹を降りて、昨日の夕刻よりか静かに見送られながら学園へと向かいます。

 頭上を先導するように飛ぶ幾羽かを、見上げながら一息。

 うん。程々を目指そう。

 目標設定、し直しました。

 理由はまあ、あれです。

 昨日までを振り返れば、分かって頂けるかと思います。



 朝だと言うのに、相変わらずの校舎の陰影を見上げつつ。

 校門付近で足を止めた所で、鴉たちとは異なる羽音が聞こえてきます。

 何だか聞いているだけで、疲労感を覚える音でした。

 どんな音だ、と突っ込まれると描写に困ってしまいますが。

 ええ、確かにそんな羽音です。



「おはよう、モッ君」


 朝から濃密な疲労の色を纏いながら、肩へと墜落が如く舞い降りて来た今日のモッ君。

 正直とても不安です。

 大丈夫だろうか、モッ君。

 果たして朝からこれで、今日一日を乗り切れるのだろうかモッ君。

 余程にそう言いたい有様である。



「昨晩は、…雷が酷かったみたいだね」

「もしかすると、睡眠不足ですかモッ君?」



 梟なのに、一瞬目の下に見事な隈どりが見えた気がした。

光の加減かな、うん。



「……疲れ過ぎると眠れなくなるって、本当だった」

「……お大事に」



 遠い目をして思いの丈を伝えてくるモッ君へ、一言返すだけで精一杯な自分。

 駄目ですね、うん。

 もっと他者の悩みに寄り添える思慮深さが欲しいところです。

 とはいえ、ここには自分しかいない現状。

 現実とは、得てして儘ならぬものですね。



 そんな思いをつらつら並べていたこともあり、少女は全く気付かない。



「あの騒ぎを、血を見ずに収めるとか。常識外にも程がある………」



 そんな呆れを通り越して、脱力に近い呟き。

 祟りもっけことモッ君が抱いた内心の声。

 それを、当人である少女は全く知る由もないのだった。




 爽やかとは到底言い難い、疲労満載なオーラを放ち続けるモッ君を肩に乗せる現在。

 早くも幸先が不安です。

 そうは言っても、回れ右は出来ません。

 さて、どうなることやらと思いながらの登校三日目です。



 習慣化しつつある、朝の瓢箪君との掛け合いを終えた後。

 教室へ向かう道すがらに、振り返るのは。

 今日の瓢箪君は、いつになく機嫌が宜しい。

 なぜならば、理由は明白。

 肩のりモッ君が、彼の期待する反応を返したからだ。

 疲れでぼんやりしていた所為だと、頑なに言い張るモッ君。

 とはいえ瓢箪君渾身の脅かし声に、羽をばたばたさせたことは事実である。

 それにしても、驚いたモッ君は可愛い。

 普段はニヒルな雰囲気を常態にしているだけに。

 想像以上のギャップに、周囲を歩いていた数人の怪異たちがほっこりした表情をして通り過ぎて行った。

 きっと、その時の怪異たちは今日一日の始まりを温かく迎えられたことと思われる。









「おはよう、心太さん」

「おはよう、蛍。……そういえば、蛍にはまだ正式に紹介して無かったね」


 癒しの怪異こと、蛍さんと朝の挨拶を交わしながらふと思う。

 何しろ、自分と接地している間はほぼ無色の肩のりモッ君。

 昨日は初日ということもあり、何だかんだで詳しい経緯や説明も儘ならなかったのだ。



「モッ君です」

「正式名称で紹介しろよ、お前。……はあ、もういいよ」



 何だか悟った様な眼差しを向けられました。

 これはつまりあれですね、諦観に限りなく近い色です。


 溜息を付きながらも、妙な所は生真面目なモッ君。

 蛍さんに見えるようにでしょう、肩から一時的に飛び立ってお辞儀してました。

 可愛いなぁ、モッ君。

 朝からこんなにほっこりした気持ちになれたのは、何日ぶりでしょうか。



 因みに蛍さんの反応は、自分が想像していたものとは違いましたね。



「……心太さん、もしかして昨日の朝の呼び出しの後から?」


 蛍さん、またも顔色が白に近いです。

 これはもしかすると、紹介のタイミングを誤ったかもしれないと気付くも。

 今更無しには出来ません。

 さてさて、余程に『上様』は畏怖の対象として周知されている模様。

 頭が痛いですね。うん。




「モッ君は良い子だから心配はいらないよ、蛍。実は、『魔王子』君対策に叔父様経由で相談したら、やって来ました家の子です」


「お前の家の子になった覚えはないよ。あんまり調子に乗り過ぎると、祟るよ?」


「ほら、律儀な突っ込み。こんなにマメな梟に悪い子はいません」



 言い切る少女に、胡乱気な眼差しを向けるフクロウの図。

 そしてそれを何とも言い難い複雑な胸中を抱いたまま見て、呟きを零す蛍。



「……なんだか、もの凄い認識のズレを感じる」

「……奇遇だね、僕もだよ」



 そんな彼女の脳裏に響く、聞き慣れぬ声。

 視線を向ければ、くるりと回る半透明なフクロウ。

 暫し、無言で見詰め合った彼らには何かしら共感するところがあったのだろう。


 とりあえず、蛍さんの顔色が戻って来た。







「……本当に、君って面白いよねぇ」



 とりあえずの顔色回復に安堵していた自分へ、後方から掛けられた声。

 振り返れば角。

 思い返すと、これほど近くでまじまじと見たのは初めてです。

 遠目では単純に白なのだろうと思っていましたが。

 ちゃんと見ると真珠のような艶やかな色彩をしていますね、これは。



「……そんなに興味深い?」

「ええ、とても綺麗なものですね。因みに硬度は如何ほどですか?」



 有角少女が、にまにまとした笑みを隠さずに問うものですから。

 思わず考えていたことがそのまま口を割って出てしまいました。

 心証を害したかもしれないとは、言ってから気付くものです。

 とはいえ、今回は大らかに笑って受け入れられた幸運な例でした。




「さあてね、計ったことは流石に無いかなぁ。ただ、大昔に角の強さを競った馬鹿はいたみたいだけどね。……結果を知りたい?」


「……正直に言えば、知りたいです」


「ふふ、正直な子は嫌いじゃない。何せ僕は同族嫌悪をする性質でね」




 これはまさかの、僕っ娘でしたね。

 とはいえ、全く違和感はありません。

 しかし同族嫌悪ですか……正直者の反対と言えば。

 そこで、思い当たる一つの名。



「貴女は天邪鬼……でしたか?」


「ふふ、君なら言わなくても気付くと思ったんだよね。僕の勘もなかなか馬鹿にはならないよねぇ……。学園内では『河伯』の名で通ってる。改めて宜しくね」



 宜しくお願いします、と頭を下げると同時。

 朝礼の鐘が鳴った。




「君の周りは、なかなか濃い面子が揃ってるよ」



 其々に席に着いた後、肩の上でモッ君がそう呟くのにピンと来なくて首を傾げる。

 その様子を見て、溜息を付きながら首を回すモッ君。

 その器用さをしみじみとした心地で観察しつつ。

 例の如く、朝から欠伸主体で教壇に立つのはクラス担任であり。

 その芸術的な寝癖は、健在だ。




「おはよう、皆。今日は一応知らせがあるから、ちゃんと聞けよー」


 ざわざわと喧騒静まらぬ中、珍しく連絡事項を口にしようとしている。

 さて、ようやく担任らしい姿を見る事が出来るのだろうか。

 とりあえず静観する。



「来週末、学年対抗別クラスマッチがあるからな。その班決めと競技説明を放課後にやるぞー。強制参加だ。尚、シカトして帰宅した奴は……分かってるな?」



 いえ、全く分かりません。

 徐に挙手をしようとした所で、モッ君の注訳が入って来た。




「つまり、毎年枠が埋まらない競技に強制的に振り分けられるということだよ」


「……ちなみに例年は、どんな競技が?」



 声を潜めて問えば、聞き慣れぬ競技名が返って来た。



「塩レース」

「……如何様なレースでしょうか?」

「より多く、塩を所定の位置まで持って往復できたものが優勝。それだけだよ」



 さすがオカルト界。奥が深いよ。

 怪異の種類にもよるらしいのですが。

 やはり本質的に、塩は相容れないものらしい。

 苦手……というよりか、永遠のライバル的な位置を占めるのかな。

 そして聞きたい。

『塩レース』を一番初めに提言したのは何処の誰かと。

 寧ろそこに興味があります。

 敢えてレースに塩を組み合わせる、ある意味での鬼的思考。


 とはいえ、自分は全くもって平気である。

 まあ、言うまでもありませんね。

 伊達に十四年現世で生活してませんから。

 うん、これはシカトして帰っても大きな問題にはならないだろう。

 いえ、出ますけれどね。

 協調性は人並みにありますから。




「因みに他には、どんな競技が?」


「全部で部門は六つ。其々に空中戦と、地上戦の区分がある。競技名は綱引き、大玉転がし、騎馬戦、塩レース、沼リレー、泥入れだよ」



 ……うん、途中までは普通だったね。

 後半から怪しくなり、何故か増していくばかりの泥臭さ。

 やはり校庭が半分沼地状態である所が、基因しているのだろう。



 三日目にしてようやく朝礼らしい朝礼を終え、一時限目は体育から始まります。

 因みに学園の更衣室は、学年ごとに男女別に各一部屋ずつあります。

 ジャージを片手に移動すべく、立ち上がった所で肩からふわりと羽ばたいて机の上に着地したモッ君。



「準備が整ったら、声を掛けてくれ」


 モッ君、空気が読めるばかりか紳士である。






 蛍とともに、更衣室へと移動した。

 さて、着替えるかと制服の釦に手を掛けた所でふと覚える既知感。

 まずは意識的に透明度を高めた。

 首を傾げる蛍の横を通り抜け、向かう先。

 

 どうやら、気付いていたのは自分だけでは無かった様子。



「……これはどうやっても」

「構わないよ。少しくらい痛い目を見たほうが数日程度は自重する」



 天邪鬼の彼女が、氷点下の笑みで見下ろす先。

 ぱち、ぱちと瞬きを繰り返すそれはどう見ても目。

 因みに片目。

 流石に両眼は無いかと、一応見渡してもいる。



 蠅たたきを振り下ろすよりも鋭利で、狙い澄まされた粛清の軌道。

 どこか遠方から、何やら痛々しい悲鳴があがったようだが。

 うん、自業自得と言えよう。

 出来る事なら、モッ君を見習ってほしい位だ。



 因みにこの時の覗き魔は、後日同じことを繰り返して天井下がりの少女に吊るし上げを食らうこととなる。

 懲りない怪異である。




「さっきのは、多分『望遠』奴の目だ。初等科の頃から諦めという言葉を知らない」


 有角少女こと河伯の説明を受けつつ、一旦教室へ戻る。

 勿論、モッ君を迎えに行く為だ。

 しかし教室の扉を開いた所で、迎えられたのは大の字に横たわった黒髪の少年だった。


 壺組でも数少ない、人型の怪異の一人。

 呻きの中に洩れ聞こえるキーワードから、どうやら彼が『望遠』らしい。



「目が、目がぁ……!!」



 何だか、凄くセオリー。

 その姿に同情など皆無です。

 呆れた目で見下ろすモッ君の様子からも、どうやら事の次第は把握しているらしい。



「お待たせしました、モッ君」

「……はぁ、なんか凄く馬鹿馬鹿しい光景を観測してしまった」



 モッ君の呟きに、苦笑するしかない自分。

 扉を閉めて、校庭へ向かう途中も時折あの呻きが脳裏を過る。

 

 地味な弊害だった。


ここまで読んで頂いた方々へ、感謝を込めて。


次回は中盤戦になります\(゜ロ\)(/ロ゜)/

投稿まで、今暫くお待ちいただければ幸いです。

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