二日目~そして転がるのは首だけではなく~
サブタイトルの意味については、今回の分だけだとまだ「???」ですね。
次回の二日目続き、ひいては学園の顔役である彼の話とその後に予定してます夜行さん襲来まで、今暫くお待ち頂けると幸いですヽ(´o`;
*
おはようございます。
それはもう、申し分のない快晴。
爽やかな朝を迎えています。
さて、言うまでも無く今自分がいるのは『螢澪の館』。
目の前に広がる光景に、寝起きからこうして状況整理に入っているところです。
「鶯。これは私に対する挑戦と取っていいのね?」
「おはよう、凪。君は本当に名前に似合わないひとだよね。…うん? その喧嘩腰だよ。朝からやり合う気満々なのはどうかと思う。たまにはその名の意味を顧みてはどうかな。いや、そこで構えないでよ。給仕さんの邪魔になるからね」
すでに前述のとおりです。
もはや見慣れたと言っても過言ではない遣り取りを前に、固まる箸。
朝食を目の前にしても、空気が読める己が哀しい。
どうしたらいいですか……
祖父の背に乗り、帰郷した生家。
そこは予想を越えた大きさを誇る邸宅でした。
辿り着いて早々に自分を出迎えてくれた人たちのなかで、真っ先に自分を抱擁してくれたのは母の姉にあたる凪叔母様。
ここ日和家の長女にして、学園の夕立叔母様と母の姉だと知ったのはその抱擁から解放され、宴の席が始まった時でした。
いや、予想は付いていたのである。実際のところはね。
二人目の叔父として、鶯叔父様が自己紹介をしてくれた時には分かっていましたよ。
しかし、その後がいけない。
実はこの二人、普段は非常に仲睦まじいとのこと。
しかし、どうしてか自分を間に挟むと空気が冗談でも無く凍る。
何故だ。
自分が悪いのか。
昨夜の宴会を終えて、南の別邸の一つを間借りさせていただいている状況に色々と思うところはありますが。
深く考えては、負けることも多い人生です。
ここは回避しようと思う今日この頃。
学園でも同じようなことを考えていたような……?
いや、前向きな自分だけが尊い訳ではない筈だ。うん。
「いい加減になさい、二人とも。呉葉が困っているでしょう? それに後ろを見なさい。……逆鱗に触れたみたいよ」
祖母の穏やかな声が割って入ったことに安堵していたが、話の後半でその雲行きも怪しくなる。
……あぁ。雷雲が見える自分の想像力の豊かさが怖い。
朝食の席に姿を見せた祖父は、人の姿であるというのに威圧感が人の枠に収まっていないのでむしろそのほうが恐ろしい。
同じことしか言ってません。
つまり怖い。
とにかく怖い。
怒りの矛先は違えど、間近でそれを感じるだけで胃薬が恋しくなります。
返して下さい、ささやかな日常。
外でも中でも気を張っているせいか、やたらと全身疲労です。
泣けてくる。
一体自分が何をした。
半分死んだような目をしている自分とは対照的な父のつやつや感が寧ろ憎い。
そして自分よりも酷い顔色の母には……うん。最早掛ける言葉も見つからない。
兎に角、二日目である。
今日も昨日同様に、半透明で頑張ります。
***
「おはよう。心太さん……? 何だか昨日に増して半透明だよ」
「おはよう、蛍。……うん、そうかな。そうかも……」
教室にて、初めて出来た怪異の友人からの挨拶を受けて。
ようやく少しの安息を得ています。
癒されるなぁ……。
「あ、そういえば今日は夜行日だった。……心太さんは、まだ知らないよね?」
そういえば以前にも、聞いたことがあったねその謎の日。
「……具体的にはどんなことが起きるんだろうか?」
「……うーんとね、簡単にいえば夜行さんが学校内を駆け回る日なの」
成程。
夜行さんが駆け回る日だから、夜行日か…。
ところで。
「……夜行さんって誰かな」
「……そこからなんだね。うん、説明しよう」
蛍の目が優しい。
なんだかそれを見てると居た堪れない気持ちになる自分が、哀しいばかりだ。
とはいえ、蛍さんから学びました。
以後、蛍先生と呼びたいと告げると光の速さで固辞された。
今思い出しても、あの返答の速さにはいろいろ思うところである。
夜行さん。
それすなわち、首切れ馬に乗って徘徊する鬼の総称とのこと。
現れる日にも規則性があり、その日にちを夜行日と呼ぶらしい。
因みにこの夜行さん、遭遇するとひどい目に遭います。
具体的には数メートル単位で投げ飛ばされたり。
やはり数メートル単位で蹴り飛ばされたり。
うん、端的に纏めよう。
会いたくないな……。
それ、酔っ払いより性質悪いもの。
とはいえ、やはり夜行日には気を付けていても遭遇するものらしい。
そんなに頑張らなくても、と本人に言いたい。
しかし聞くところ、対処法があるという。
これは運がいい。遭遇してから聞いても遅いのだ。
とりあえず朝から一安心である。
これ以上の心労はご免被る。
…………そんなことを思っていた時もありました。
その人が教室の扉を開いた瞬間、空気が音を立てて凍ったような錯覚を覚えたのははたして自分だけだろうか?
肩に乗せているものと、当人のギャップがあまりに大きくて凝視してしまった自分がそれほど目立ったとも思えないのですが。
しかし、視線がかみ合ったのは事実。
半透明でもかみ合う奇跡。
今までになかったことで、正直驚いていると。
「……心太、はお前か……?」
「……心太は私です」
何だかこのやり取りには、毎度妙な気まずさを覚えるのですが。
何しろ聞く当人も、どこか半信半疑で尋ねてくるので。
頷く方もなんだか首を傾げたくなる不思議。
「話がある。担任には話を付けた。…ついて来い」
なんて端的な展開だろうか。
しかし自分もここで安易に頷くほど、この学園を甘く見た覚えはない。
何しろ二日目である。
一日目の失敗を、二日目に生かしてこそ自分の平穏に近づけるというもの。
「すみません、そこの方。……まずは名乗ってください」
昨日と同じように、青ざめる周囲の様子はもう見なくてもわかるよ。
おそらくこの人も、学園では名のある怪異なのだろう。
しかし、こちらは転入二日目。
知らずとも無理はないと、相手も分かって然りである。
ここは退くまい。
これ以上平穏から遠ざかって溜まるものか。
ここまで来ると意地である。
そんな自分に向けられる、氷よりも鋭利なその眼差し。
……なんだか日和の本邸で、何度か見ているものと同種だ。
なんとなくそんな風に思った自分。
たった一日程度でも、それなりの耐性が付くのか目を逸らさずにいられた。
周囲の驚異的なものを見る目がむしろ、耐えきれそうにない。
「……飛閻魔だ。今回の件は、お前の叔父絡みだ」
その言葉に、腑に落ちました。
そういえば言ってましたね叔父様。
「分かりました。用件も付け加えてくださって、有難うございます」
素直にここは感謝を述べ、席を立った。
ちらりと見えた傍らの蛍の顔色が、尋常ではない。
ここは早足で行こう。
それがクラスメイトの心の平安に繋がる筈である。




