side 魔王子
久方ぶりに筆を取りました……ヽ(´o`
短文です。
さらっと彼について纏めになってます。
*
少年は両親以外の誰かと一対一で向き合うことが出来ない。
二人きり。
その言葉があまりにも遠い自分の境遇に虚しさを覚え始めたのは、中等科に上がる直前の頃だったか。
周囲の畏怖の目を感じ取るのと同時に、自分が望んではいけないものを知った。
他者と対等な立場を気付くことを許されない、己の業。
妖怪としての自身の在り方に、ようやく自覚し始めた。
自分は限りなく孤高であると。
隣に並び立ってくれる誰かなど、この先現れることは望めない。
幾度も、思い知らされる。
ある日は、悲鳴で。
ある日は、狂騒で。
ある日は、憎悪の眼差しで。
彼等が自分に何を見ているかは、詳しいところは分からない。
しかし風狸曰く。
『兄さんの中に、自分の醜さや、目を背けてきたもの、過去の恐怖を見ているんだよ』
それを聞いた自分が何を思ったかは、言わずとも知れるだろう。
この先、自分と仲良くなりたいと思う存在など現れない。
人にも、怪異にも受け入れられず、ただ狭間で生きていくしかない。
学園では、一人で出歩くことも避けなければならない。
万一、はずみで幇縛が取れた時に対面する怪異がいれば結果は知れている。
常に集団の中を、風狸と管と共に移動する。
管というのは、使い魔のことだ。
あれとは生まれた時から共にいる。通常であれば、管が共にいる間は風狸と同行しなくても周囲に被害が生じる可能性は少ない。
それでも今日まで風狸は自分と共にいる。
万一があってはならないと、一族の総意から付けられたのが風狸である。
風狸は義弟だ。母が違う。彼がいたことで救われてきた部分も多い。
けれども今日に至るまで、己の業を完全に忘れられた日は無かった。
宵の淡いと、ざわざわと騒ぐ陰影の間。
久方ぶりに聞く声は。
『随分機嫌が良いな、静帷』
低くも無く高くも無い、平淡さを感じさせる声質のなかに僅かに混ざる感情。
それは平時では殆ど分からない位に微かなものである。
しかし、彼には分かる。
この声の持ち主もまた自分と同じように、彼女を知った。
それもそうだ。彼は自分と表裏一体の存在にして、夜目一族の中で彼と当主以外を明確に分ける存在の起因としてあげられる部分でもある。
他の怪異は、これを『二面性』と呼ぶ。
一つの器に、二つの怪異性を宿す極稀にして矛盾を孕む存在。
それが自分である。
そして今、その矛盾が気まぐれに声を発している。
珍しいことだった。
ここ数年でも、表層には出ずにじっと沈黙していたというのに。
『それにしても、また難儀な娘に惚れたな。そこがお前らしいとも言えるか』
惚れた。
それを否定する気も起きないということは、つまりそうなのかもしれない。
まるで他人事のように内心でひっそりと溜息をつく。
しかし、引っかかる言い方だった。
「難儀な、というのはどの面からの言葉?」
『……ふうん。お前はあの子の血の香を嗅ぎ取らなかったのか。意識か無意識かは知らないが、それでも出逢えた自分の幸運を誇れ。これ以上は野暮だ。伝えない』
幼少から『これ』を本心で言えば苦手なままで相対して来た。
まるで見透かしたような口調も。
その悠然としたあり方にも。
紛れも無く、これもまた自分の一部であるという事実への違和感も総て。
今もって不快である点は変わりがない。
それでも、以前ほどに感じ取らない自分の感覚に変化が生じていることは分かる。
彼女と出会ったあの刻から、確実に自分の中で何かが動き始めている。
不思議だ。
人はそれを縁と呼ぶのか。
彼女との関わりを、けして絶ちたくないと思う心だけが確かなものとして存在する。
戸惑いを越えて、今ここで動かなければいけないと自分の中の無意識が囁く。
きっと一筋縄ではいかない。
昼の彼女を見る限り、彼女自身は必ずしも自分との関わりを望んでいるとは思えない。
むしろ関わりたくないと思っているだろう。
それでも、自分は望むのだ。
ここで退くわけにはいかない。
『ふ、……嵐の下でその蕾ごと狩られないよう、精々足掻いてみろ』
「……あのね、その言い方だと悪人の捨て台詞にしか聞こえないんだけど」
『……そうか』
「そうだよ」
今一締まらない二人である。
今夜中にもう一編投稿予定ですρ(・・、)
ようやく二日目に入れます。
長いよ、長い。
とはいえ、朝の件でほぼ占めます。




