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92 残党の行く先

 残党狩りのため、再びセタナイの集落がある北に進路をとる俺達。

 戦いの疲れは残っているが、現地住民の命を見殺しにはできない。

 雪の残る海岸線を、俺達はひた走る。



 が――


「はて? 敵は何処に参ったでござろうか?」


 江差の北、厚沢部川で俺達は一旦進軍を停止した。

 ここを北に真っ直ぐ行けば、確かにセタナイには到着する。

 しかし厚沢部川の上流に向かって東に行けば、第4師団長の部隊がいると思われる函館平野に繋がる。


「セタナイには、もう援軍は向かっているらしいッスけどね……」


「でもセタナイまでの間にも、集落は何個かあるんだよな……」


 代表的な集落として、江差とセタナイの間には、オトウンぺ(現・乙部町)という集落が存在する。

 今から100年以上前、嘉吉年間(1441~1443年)から和人が住んでいる所だ。


 江差より北側の住民については、重季達も通っていることだし避難している可能性もあるが……荒らされて復興が遅れてしまっては話にならない。


「河口からセタナイに向かった援軍の様子は、目視で確認でそうッスけどね……」


「そして援軍の多さに恐れをなし、北に進むのを諦めて東に逃げていった可能性もありますし」


「途中の集落も気がかりですが、リシヌンテや宗継、モルク大佐を信じて任せたほうが宜しいですわね」


 そうだ。セタナイには10000の兵が既に向かっている。

 地形的に全兵士があの狭い土地に集結しているとも考えにくいし、オトウンぺ方面にも兵をある程度派遣していそうだな。

 

 まさか、エッゲ連隊の残党がこの辺に潜伏しているということは……ないな。

 検索しても反応は無いし、厚沢部川河口は一先ず安全圏だ。


「では、本日は太陽も暮れてきましたし、わたくしたちもこちらで憩いの一時を」


「だったら、部隊の配列はどうする? 今のところ、残党もすぐ近くにはいないようだが」


「そうですわね……」


「異国の姫、某から申し上げたい儀が」


「季貞?」


 ここで、季貞がヴィクトリアにある提案をする。


「某の隊を、最も東に置かせて頂きたく存ずる」

 

 季貞の隊を一番東に? 確かに部隊ごとに場所を決めようとは思っていたから、有難い申し出だけど……。


「その理由は?」


「敵は東に逃れているとは限らぬ。日が沈むのを見計らい、某達を夜襲するやもしれぬ。場合によっては、亀田の敵の大将が反対に此方に迫って来ないとも限らぬ」


「あ……」


 なるほど。函館平野の拠点を失って総崩れとなった師団長の部隊が、より討伐隊の少ない日本海側に来ると言うのは十分考えられる。

 さらに言えば、東に逃走中の残党と西に敗走中の師団長部隊が合流し、俺達の陣取る場所に血路を開きに来る。有り得そうだな。

 

「異国の姫と五郎は、此度の戦において重要な存在。仮に某の隊が壊滅するとも、2人がおれば戦況は如何様にも建て直せるでござる」

 

「ですが、それでは貴方のお命が危険に晒されますわよ?」


 確かに、考えようによっては季貞の隊が一番危険だ。

 壊滅は覚悟の上らしいが、俺としては簡単に壊滅しては困る。

 圧倒的な優位で戦いたいからだ。


「某は侍にござる。元より死など恐るるに足らず。それに……」


「それに?」


「――いい加減、某も分かり易い功を挙げたいでござる!」


 ああ、そういうことか。あわよくば自分一人で活躍したいと考えているわけか。

 そう言えば、江差の戦いで結局季貞の出番はかなり減っちゃったしな。

 知内の戦いでも微妙に不満を漏らしていたし、ここは大人しく最東端に配置した方が良さそうだ。

 

「……はあ。まあ、よろしくってよ」


「やったああっ!」


 ヴィクトリアに溜め息をつかせるとか……。こんな我が儘、王国人だったらきっと直ぐに咎めるに違いない。場合によっては大逆罪で厳罰も。

 日本人で良かったな、季貞。



 その後、部隊の配置が決まった。

 厚沢部川に面した所に、俺・不破武親隊。

 少し上流側に進んだ場所に厚谷季貞隊。

 そして俺と季貞の部隊の間に幾つか部隊を置き、ヴィクトリア率いる第2師団の本部は一番江差に近いところとなった。 


 ちなみに江差の戦い終了後、捕虜を保護している大隊を一つ大陸に送ったそうだ。

 さすがに戦場に捕虜がいては、色々と世話とか面倒臭いからな……。


 

 ◆◆◆◆◆



「備中守さん、大丈夫かな……」


「あの方も、なかなか勇気がおありでいらして。けれど、油断はできませんわね」


「そうだな。でも補佐にハーコンがついてるんだろ? きっと大丈夫さ」


「そうですわね。少々、享楽が過ぎていらっしゃる御二方ですが……」


 享楽が過ぎている……まさしく同意だ。

 酒が好きな季貞と、女が好きなハーコン。お似合いのコンビだ。


「それにしても、せっかく大軍で威圧して降伏させるつもりだったのに、結局武力衝突に終わってるもんな……」


「……」 


 そう、今回7万もの大軍を連れてきたのは、あくまで第4師団を降伏させるためであった。

 しかしながら、相手は投降の意思をすぐには見せず、大半が壊滅してからようやく白旗を掲げるパターンが続いている。

 

 これは、本気で師団長――アクセル・スヴェンセン少将を倒さないと収まりがつかないな。




「――殿下、ご報告があります!」


 本部でヴィクトリアと話し込んでいると、伝令の兵が突然やってきた。


「あら、どうなさいましたの?」


「厚谷隊が……襲撃を受けました!」


「襲撃!?」


 心配していた事態が発生したか。夜襲か? それとも、師団長の部隊との遭遇戦か?


「それで、相手方の兵力は?」


「それが、何分暗闇の中でしたので、正確な兵力を計るまでには……」


「備中守さんの部隊は無事?」


「いえ、急な襲撃でしたので防衛の準備が整わず、混乱に陥っています!」


 残党の抵抗だとしたら、交戦部隊同士の兵力差だけでも5倍。さすがに他の部隊に損害を与えるまでにはいかない。

 

 けど師団長の部隊だとしたらヤバいな。下手したら、味方の多くが雲散霧消しかねない。


「……悪い。俺、少し様子を見てくる」


「武親!? いくら武勇の面で頭二つ抜けている貴方でも、命を落とさないとも限りませんわよ」


「わかってる。別に俺まで戦闘に加わるわけじゃない。ヴィクトリアと俺の部隊が動く必要があるか、見定めに行くだけさ」


 わざわざ司令官の手をあっさり煩わせるわけにはいかない。現場で解決できるなら、是非そうしてもらわないと。


 俺は本部を出て、季貞の元に向かった。

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