68 小平季遠VS.エイヴィン・ウルリヒ
小平季遠。史実では次のような人物だ。
通称藤兵衛尉。小平季久の嫡男で、蠣崎季広を軍事面から支えた人物だが、檜山安東氏に内応したと疑われて謀殺された男である。
ただし本当に内応していたのかはわからない。
そもそも形式上は同じ安東氏の家臣にも関わらず内応を疑われる時点で、蠣崎家が安東氏から本格的に独立を志していたのは明白と言える。史実の季遠にしてみれば、とんだとばっちりだったのかもしれない。
ちなみに長男・季長は江戸時代に入り金山奉行を務め、財政面で松前藩を支え、次男・季時は同じく蠣崎家家臣の三関広久の養子となった。
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「はぁ……これは予想外の展開ッス……」
ラウラ曰く、セーデル王立士官学校創設以来、数回しか許可されなかった決闘。
しかし俺達のいる中庭は、既に決闘の準備が完了している。
そして俺達から見て左側には季遠、右側にはエイヴィンがスタンバイ状態だ。
「校長、なんで許可したッスか……? 自分にはわからないッス……」
「それにしても野次馬多過ぎない? 彼方此方から注目を浴びてるんだけど」
「う~んっ、暑苦しいよ~……」
季節は秋に入っているが、現場に大勢押し寄せた生徒の熱気が中庭の気温を押し上げている。さながらサウナ状態。
近くの校舎の窓からも、数えきれない士官候補生が中庭に釘づけ状態だ。
「決闘だってよ! しかも外国の使節とだってよ!」
「申し込んだのはエイヴィン・ウルリヒのようね。あのただ尊大なだけの男が、ついに出過ぎた行動を……」
「気に入らないけど、将来の王国軍士官なんだから負けるなよー!」
皮肉が混じりつつも、会場はその殆どがエイヴィンの応援に回っている。
つまり季遠とっては完全にアウェー。もっとも、彼がこの状況に動揺するとは思えないが。
「武親、どちらが勝つと思うか?」
「そうだな……。ここは『ステータス確認』を使って判断するか」
俺はチート能力『ステータス確認』を2人に向けて発動させた。
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名前 小平季遠
HP 2230/2230
MP 100/100
攻撃 244
防御 238
魔攻 39
魔防 35
敏捷性 151
名声 652
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名前 エイヴィン・ウルリヒ
HP 2975/2975
MP 763/763
攻撃 296
防御 223
魔攻 312
魔防 300
敏捷性 163
名声 1915
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まいったな……。エイヴィンは人物としては小物だが、能力はいずれも季遠より高い。
季遠の立場からすれば、今回はアドバンテージが全く存在しない。そのうえ敵地。
今回の決闘では、条件をフェアにするため魔法を使わないルールとなっているが、それでもこれで勝ったら相当なものだ。
「小平藤兵衛尉! 日ノ本の魂を見せつけるでござる!」
「承知」
「一方の体に傷がついた時点で勝敗を決する。それでは、決闘開始!!」
台上に立つ校長の合図で、ついに決闘が始まった。
ちなみに校長は女性のようだ。40は超えているだろうが、けばけばしさは感じられない。
サバサバとはしていそうだが。
一方会場に目を移すと、しっかり日本刀を構える季遠とは裏腹に、エイヴィンは余裕をかまして挑発する。
「アウェーの敵にはハンデをあげましょう。貴公のほうから僕にかかってきなさい」
「その言、後悔すべからず。覚悟!」
季遠は早速、刀を振るって一直線にエイヴィンに斬りかかる。
「せいあっ!」
だがエイヴィンは、横一線にレイピア一本で季遠の刀を受け止める。それも、涼しげな表情で。
「ほう……なかなか重い一撃ですな。だが、甘い!」
次にエイヴィンは、レイピアで季遠を素早く擦り斬ろうとする。
しかし、今度は季遠が日本刀で受け止める。
「何っ?」
「軽率にて候」
やり返したで候、と言わんばかりに季遠もエイヴィンにしたり顔。どうやらこの決闘、すぐには終わらなそうだ。
両者、一旦間を取って次に攻撃の手を加えるタイミングを図り、一合、また一合と打ち合う。
その後も季遠とエイヴィンは、ひたすら会場の上で日本刀とレイピアを打ち合い続けた――
◆◆◆◆◆
それからしばらく時間が経過した。
会場では、いっこうに決着のつく気配のないまま、かれこれ既に数十合打ち合っている。
形勢はと言うと、元の能力が高いエイヴィンに対し、日本刀の高い性能を駆使した季遠が辛うじて互角に持ち込んでいる具合だ。
「しぶといですね……」
「貴公こそ、忍耐強いで候……」
とは言え、長時間命の削り合いを行っているため、双方とも消耗が激しい。
苛烈な打ち合いが続き、互いの得物の損傷も相当なもの。
恐らく、次の一撃が決着となるだろう。
「ですが、これで終わりです。はっ……!」
フィニッシュを決めるため、エイヴィンは季遠に向かって突撃する。
「愚かにて候。同じ手は通ぜ……」
しかしながら季遠が刀で防御しようとした直後、エイヴィンは隙を突いて彼の懐に見事入り込んだ。
「むっ……!」
不意を突かれ、目をカッと見ひらく季遠。
「今度こそ本当の終わりです。はっ!!」
エイヴィンは即座に季遠の腹部に斬りかかる。
これで季遠の負けが確定したか……。会場の皆がそう思った。
――が、次の瞬間。
「ぐあっ……!?」
響いてきたのは、エイヴィンの唸り声。
その原因を探ろうと彼の腹部に注目すると、左腕側の脇腹から血が出ていた。
「な……なぜっ、僕が……? ま、まさか……」
エイヴィンは季遠のほうに顔を向ける。
すると季遠もまた、右腕側の脇腹から出血していた。そう相討ちだった。
「……相星にて候」
「……」
両者一歩も動かず。そして会場の観衆もまた静まり返っていた。
「――そこまで!! 両者、引き分け!!」
校長の審判で、2人の決闘は正式に終了した。
そして遅れること数秒、観衆から轟く歓声が敷地中に広がった。
「引き分け、引き分けだああ!」
「士官候補生とは言え、相討ちまで持ち込める奴ってなかなかいねえぜ!」
「あの人たちの国、ちょっと興味があるかも……」
彼らからすれば、士官候補生と互角の戦いをする外部の人は珍しいそうで、それがまた波紋を呼んだ。
そしてそれは、季遠の生まれた国・日本への興味にも繋がっていく。
「…………」
その一方で、ラウラと蝦夷地の使節団はただ黙ってその様子を見つめるのみだった――




