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65 クヌーテボリ大聖堂

 一通りの買い物が終わると、俺達はセントルム商店街の中央にある広場に集合した。


 商店街でショッピングを楽しんだ俺達。

 その内訳は、俺と慶広が書物、季貞が予想通り大量の酒、宗継が王国独自の工具、季遠が武器屋で購入したという刀剣や弓矢、レスノテクが食器などの日用雑貨、そしてリシヌンテがお菓子。

 今日一日で、蝦夷地からの持参金がほぼ全て無くなるという量だった。


「滅茶苦茶買ったッスね……」


「お買い物最高!」


「見てたら、お腹空いちゃったよ~」


「これで、松前に帰ってからの愉しみが増えたでござる……」


「領内の発展には欠かせぬものでありますゆえ」


「強剛にて候」


 でもなあ、別に今回の使節団は首都クヌーテボリだけを視察するわけじゃないんだぜ?

 他の街とか村とかも見て回らなくちゃいけないのに、ここで銭を切らしてどうするんだ?


「それで皆さん、今後のお金は大丈夫ッスか?」


「「あ」」


 おい、「あ」じゃねえよ。何も考えてなかったんかい!

 確かに俺も人のことを言えたタチじゃないが、もっと計画的に使えよ。

 これから他の地方を訪れたとしても、特産品とか全く買えなくなるんだぞ? どうするんだ?


「致し方ない。かくなる上は勉学も兼ねて、アルバイトにでも興じる他ないか」


有留(ある)……馬夷徒(ばいと)? 新三郎様、其れは如何なるものに……」


「そんな野暮な事、国賓の方々に王国側がさせるわけないッス! あんたたちも変なこと言わないで欲しいッス!」


「されど金が無い以上、拙者らは何も出来ないでありますが」


「7人分の小遣いぐらい、国費で賄えば何とでもなるッス。ガルバレク軍曹、すぐに宮殿に戻って手配するッス!」


「了解!」


 ラウラは俺達の無駄遣い用のお金を補充するべく、彼女の部下であるラグンヒル・ガルバレクという長身で可愛い系のお姉さん軍曹を派遣させた(名前は、皆が集合し終わる前に聞いた)。

 彼女は犬の獣人らしく、スレンダーな容姿とキュートなイヌミミを兼ね備えていた。

 

 ラウラ率いる護衛小隊は、その他にも兎や狐、狸などの獣人もいる上に髪の色も様々なため、俺としては結構目の保養にはなる。

 季貞達も、ブレンダと初めて出会った時よりかは、少しばかり異種族の存在に慣れてきてはいるようだ。

 

「そして自分たちは、軍曹が戻ってきたら次の目的地に向かうッス。それまで待機ッス」


「うっす」


 ラグンヒルが帰ってくるまでの間、俺達は広場でひたすら待ち続けた。



 ◆◆◆◆◆



「――そして、ここがクヌーテボリ大聖堂ッス!」


 30分後。ラグンヒルが返ってきた後で、俺達はパトロヌス教の大聖堂に到着した。

 その内部は、前世の世界で言うところのキリスト教の大聖堂と、古代ギリシャの大神殿を組み合わせたようなところだった。

 具体的には、手前側にパルテノン神殿のようなドーリア式の白色の柱や天井があり、奥に進むとノートルダム大聖堂のようなゴシック建築の聖堂が待ち構えているという感じだ。


 そのような建築様式のため、俺の目から見て独特の構造をしているともいえる。

 もっとも、比喩に使ったパルテノン神殿も6世紀にはキリスト教の教会に、15世紀にはイスラム教のモスクとして使われたらしいが。


「これが、異国の寺にござるか!」


「寺と言うか、神社に近い気もするでありますが」


「荘厳にて候」


「ねえ、神々を祀るのにここまで豪華にする必要あるのかしらね?」


「イオマンテやるのって、基本お外の祭壇だからね~」


 そうか、季貞達には“教会”とか“神殿”という概念がそもそも無かったか。これは後で教えておかないとな。


「うう、緊張するッス……」


「確かに、ここでは余も自然と背筋が伸びるものだからな」


「そうじゃなくって……それもそうッスけど、自分が言いたいのは別のことッス」


「どういうことだ、ラウラちゃん?」


 ラウラが緊張する理由。それは――


「このクヌーテボリ教区の司教、アストリッド・フォーゲルクロウ猊下(げいか)。彼女は、昨今のパトロヌス教聖職者の中で、最も優秀と目されている人ッス。話では、数年以内に枢機卿に任命されるとの噂も」


「……マジで?」


「マジッス」


 あの(・・)アストリッドが、そんなに凄い人物だったとは……。

 よくよく考えてみれば、一国の王女と普通に知り合いだもんな。有り得ない話ではないか。ちょっと見直したかも……。


 ただ、彼女の傲慢な態度を思い出すと、どうも猊下という尊称が不似合いな気もするけど。


「枢機卿がいるということは、教皇も存在するのか?」


「その通りッス。ああ、王女殿下とお話しした時も心臓が思わず飛び出そうになったのに、これじゃ、心臓が幾らあっても足りないッス……」


 そう話し込んでいると、司教座にアストリッドの姿が見えた。 


「――あらあら、私めから聖女神様の救いを乞いたい人がちらほらと……」


「救いが欲しいわけではないが、パトロヌス教について知りたいとは思っている」


「そうでしたか。しかし私めのことは、敬愛なる乙女、シスター・アストリッドと呼びなさい」


 ゴメン、前言撤回。さっき見直したと思ったのはただの錯覚だった。やっぱりこの人、どこかイタい。

 そもそも指導的な修道女は「マザー」と呼ばれるのが通例なのに、なんでアストリッドは「シスター」と呼ばせるんだ?


「ええ……それはちょっと……痛っ!」


 俺が躊躇していると、アストリッドが杖で俺の頭をすかさず叩いた。


「呼びなさい」


「い、いえっさー……敬愛ナル乙女、しすたー・あすとりっど……」


「棒読みなのは気に食わないですが、聖女神様の教えに免じて許してあげましょう」


 なんでこんな傲慢な奴が司教なんだよ。一体、パトロヌス教の教皇や枢機卿は何を考えて彼女を任命したのか? 俺は訝しげにそう思ってしまった。

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