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不破一族の多世界征服記~転生者一族の興亡史~  作者: 伊達胆振守(旧:呉王夫差)
1章 戦国時代の東洋と異世界「ミズガルズ」
6/206

6 天才丸、のちの蠣崎慶広との出会い

 翌日、茂別館(もべつだて)

 茂別館とは、今の北海道は函館の西、荒波押し寄せる津軽海峡を望む、現・北斗市矢不来にあった道南十二館(どうなんじゅうにたて)の1つで、俺たち不破家の居城である。


 道南十二館とは先住民族・アイヌとの交易拠点。歴史の教科書にも掲載されているが、記憶している人は少ない。


 ただ今から40年くらい前、西暦にして1512年にアイヌによる大規模な武装蜂起が勃発。

 この武装蜂起は鎮圧されたものの、アイヌの侵攻を受けやすい茂別館は捨てられ、当時の館主・下国師季(しもぐにもろすえ)は日本海側の勝山館に移住し、しばらくの間放置されていた。


 だけどその後、美濃から逃げ込んできた父が再建し、不破家は茂別館に住むようになったと語られている。


 ちなみに、俺の膨大な歴史知識と食い違う点・その2が、「茂別館の再建」だ。

 史実通りだったら、今頃もうボロ屋状態通り越して瓦礫と化していたんじゃないかな。そこは俺のデータベースには無いんだけどね。



 ◆◆◆◆◆



 俺と父の武治、そして長男(俺の一番の兄)の広治(ひろはる)は今、太陽燦々と輝く茂別館で出発の時を迎えていた。ちなみに広治の年齢は20歳である。


 父も兄も主君・季広に会うとなって、今から既にソワソワしている。何せ上司との対談だから、体や頭が固まってしまうのも無理はない。


一方の俺は、普通通り平然と佇んでいた。

 心の中では「緊張し過ぎですよ2人とも」と楽観視する俺もいれば、「いやいやお前は緊張感無さ過ぎ」と自身を叱咤する俺もいる。

 まあ前世でも受験で全く動揺しなかった記憶はあるから、俺って案外プレッシャーには強いのかも。


「い、いいい、いくぞ広治!」


「は、はははい父上!」


 ……やっぱ、この2人は緊張し過ぎだな。

 て言うか声震え過ぎ。変なエコーでも出すんじゃないかとヒヤヒヤさせられる。


「ま、丸。お前は大丈夫なのか?」


「だいじょうぶですよ兄上。丸はこのとおり、ピンピンです!」


 肝が据わっていることを示すため、えっへんと小さい胸の1つでも張ってみる。いやあ、自分の父兄を超えている優越感に浸れて気持ちいい!


 なんて勝ち誇っていると、父のグーパンチが脳天に命中。緊張しているはずなのに、拳だけはブレることなくストレートに衝撃が伝わった。

 あまりの痛さに、俺は地面にしゃがみこんでしまう。


「お前はもっと、自分の兄を尊敬する心を持たぬか!」


 うわあ、烈火のごとく怒ってるよ……。

 そうは言っても、前世の俺に兄弟はいなかったからなあ。イマイチ兄達との距離感が掴めない。「兄だから敬う」って感覚そのものがないし。

 もっともこの時代、兄弟がいない家庭なんて少数派だから、俺の常識を頭で理解できるはずもないか。


 結局、父の説教により出発が半刻(約1時間)ほど遅れ、松前までの道中、俺と父は口を聞くことは無かった。



 ◆◆◆◆◆



 徳山館(現・松前町)。

 俺達親子は、普通の城でいう本丸にあたる大館で、主君・季広と彼の長男・舜広(としひろ)、そして三男の天才丸《てんさいまる》と対面した。


「殿のご尊顔を拝謁でき、誠に恐悦至極に存じまする……」


 父と兄は深々と礼しながらも、石像と形容すべきほどにガチガチに全身が硬化しきっていた。

 頭を下げる時もロボットのようにぎこちなく、錆びた機械音すら聞こえてきそうだ。


「これが儂の息子、天才丸じゃ」


 遠路はるばる訪れてきてくれた俺達に気を良くしたのか、季広さん(大名は基本「さん」付けね)が俺と同い年のまだ幼い天才丸を、俺達親子の前に差し出した。 


 そうだよ「天才丸」、後の松前藩初代藩主・蠣崎慶広。俺がなかなか思い出せなかった戦国のDQNネーム! しかもこの人、「天才丸」の名に恥じない政治手腕も持ち合わせていたんだよな。


 そしてこの事実から、長男・舜広の命運が若干わかってきちゃうってのもなんか悲しい。実際の史実ではどうなったかはお察しください。

 いやいや、歴史改変は既に始まってるんだから同じ運命を辿るとは限らないしな、うん。


「うわさには聞いているぞ、珍妙丸」


「はっ、天才丸さま」


 おお、顔近っ。でも間近で見ると、幼いながらもなかなか凛々しい顔だちで、将来の後継者って感じがする。

 しゃべり方からしても違う。同い年で互いにDQNネーム持ちなのに、放っているオーラが別格だ。何気にお手本通りの作法で接してくれるし。

 何にせよ、この子も主君のご子息。季広さんの手前、失礼のないように振る舞わないと。


 すると天才丸が、父と季広さんたちが大人の歓談に熱中している間に、俺の耳に向かって季広さんたちに気づかれないよう、そっと呟いた。


「余の部屋に来ないか? お前とは、一度会って話がしたくてな」


 天才丸さん、俺と(肉体的には)同い年なのに一人称が「余」って……そこはツッコミを入れるところじゃないな。

 それにしても、俺と話したいってどういうことだ? もしかして、名前のおかしさ繋がりで?


「父上。私たちは部屋で対談してよろしいでございますか?」


 そして天才丸さん、相手に合わせて一人称と言葉遣いをキッチリ使い分けているよ。地味にスイッチの切り替えが速い子なんだな。

 きっとこういう臨機応変なところが、史実における政治力の高さに結びついているのか? 


「ウム、いいぞ。子供どうしで仲良くやるがよい」


「はい!」


 すぐに季広さんの許可ももらい、俺と天才丸は蠣崎家直属の家来に案内され、天才丸の部屋に入室した。

 そしてこの後、誰も予測できない意外な展開が俺を待ち受けていたのだった――


 

 ◆◆◆◆◆ 



「さて2人となったし、将棋でもしながら話しをしよう」


 幼い天才丸の命令によって、家来が押し入れから将棋盤と駒を取り出した。


 将棋か、中学以来だな。よく戦略本とか読んで研究してたっけ。

 もっともあの頃は、学校で対戦してくれるヤツなんていなくて、前世の父親とばっかり指していたけど。


 俺と天才丸は将棋の駒を準備し終えると、お互い一礼して対局を始めた。

 先手は天才丸。対局中、駒を置く音が小気味よく部屋じゅうに鳴り響く。


「ところで珍妙丸よ。余とお前、共通して不憫だと思うところはないか?」


 おいおい、6歳児が「不憫」って、こいつガチで天才か中二病のどっちかじゃないのか?

 だだ単に季広さんが親バカでつけたと想ってたけど、これはもはや必然の結果だな。既にこんなに賢いし。


「もしかして……名前……とか?」


 俺が恐る恐る言った答えに、天才丸は「ぷっ」と押さえ気味に笑いをこらえて吹いた。


「まったく、その通り」


 子どもらしくない笑い方だな。もうこんなにマセちゃって……ん? マセてる?

 やはり様子がおかしい。とてもじゃないが6歳児には見えない。仕草とかも大人っぽ過ぎて、違和感アリアリだ。


「お前の負けだ」


「――へっ?」


 俺が別の方面で熟考している間に、将棋のほうは81手で終了。

 俺の王将が、美濃囲いを見事に突破されて詰んでいた。

 

「……投了します」


「しかしこれだけでは物足りぬ。もう一局、指そうではないか」


「……はい」


 いやいやウソでしょ? 結構短くなかったか、今の勝負。

 つかもう少し粘れよ俺! 中学時代、将棋部で全道準優勝だった誇りを忘れたのか!


 だが盤上の駒を睨みつけても、結果が変わるわけではない。通常、決着まで100手はかかる将棋の勝負はあっさり終了。しかもベテランのはずの俺の負けで。


 再び気合いを入れ直す俺。だが天才丸の戦術は確かなものだった。



 ◆◆◆◆◆


 

 俺はその後、休憩を挟みつつも天才丸と対局。だが、俺の意地と根性が実ることはなく、結果は12戦12敗。俺の――完敗だった。


「ふう、良い勝負の後の茶は格別じゃ」


 天才丸は家来が淹れてきた湯呑みの緑茶を、対局(戦い)に敗れた俺の横で特に気を使う風もなく、静かにすする。

 

「ほれ、お前も一杯飲まぬのか?」


 さすがに悔しくて、すする気になんかならない。ミネルヴァとフレイアから貰った特殊能力、なんでこういう場面で活かせないスキルなんだ?

 

 だが天才丸は、これまたとても子どもとは思えない行儀の良さで緑茶を平らげる。俺の様子に気がついたのか、やや遠慮気味に接し始める。

 でも子どもにヘタな配慮をされると、それはそれでイラつく。


 クソウ、なんだよ、なんでだよ。

 コイツばかり大人顔負けの異常な強さを見せつけやがって! これじゃ俺のほうが子どもじゃないか。チクショウ! ん? 大人顔負け………?


 ――その時、俺の脳内にある仮説とともに、一筋の稲妻が走った。


 さっきから子どもらしくない言葉遣い、振る舞い、そして将棋の差し方。2局目以降、将棋歴10年の俺を70手足らずで追い詰める戦略の上手さ。そして相手に見事に気を使う態度。


 決定的なのは、美濃囲いの崩し方(・・・・・・・・)を知っていたことだ。

 美濃囲いは安土桃山時代以前はマイナー、もしくはそれを通り越してほとんど指されない戦法で、もちろん対策なんてほとんどの人間は知らなかったはず。

 なのに、天才丸は俺がかつて所持していた戦法書通り(・・・・・)、もしくはそれに近い指し方で難なく突破していた。


 まさか天才丸も――俺と同じ? 


「あの、つかぬことを申し上げますが、もしかして天才丸様も……“転生者”?」


「!?」


 わずかな情報からたどり着いた、頼りない憶測。

 だが虚を突かれたのか、天才丸が数秒遅れて幼い顔で驚愕の表情を浮かべる。

 静まり返り、外から聞こえるのは鳥の鳴き声のみ。


 けれどしばらくして平静を取り戻したのか、彼はニヤリと笑った。

 そして秘密のベールを脱ぎ、彼の正体が明かされる――


「よくわかったな。余――オレは“転生者”、前世では知恩院海翔(ちおんいんかいと)という名前だ」

 茂別館は1562年に捨てられたとの説もありますが、今作は1512年説を採用します。

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