5 主人公の転生先
今回から、成人する前まではありますが、主人公の名前が「DQNネーム」になります。
あと、今作の不破氏は蝦夷の戦国大名「蠣崎氏」に仕えます。織田信長には仕えませんので、ご了承ください。
現・○○町となっているのは、2014年から見てのお話です。
便宜上、西暦を使用しています。
あの不思議な夢から6年後の1554年(天文23年)。
俺は2人から授けられたチート能力を表に出すことなく、6歳、数え年にして7歳のある日のこと。
この6年間、俺が何をしてきたのかは、個人情報保護の観点から伏せて頂くとして、いくつか俺の転生先に関してわかったことがある。
俺が転生したのは、蝦夷地渡島半島、現代日本でいうところの、北海道南西部に位置する函館や松前の辺りであった。
ここを支配するのは蠣崎氏、後に松前氏と改称して松前藩を立てることになる一族。
当主は蠣崎季広。蠣崎家4代当主だ。
先代の義広は、北海道の先住民族・アイヌに対してかなり強硬な人物だったが、当代の季広は一転して融和政策をとっている。
お陰で、渡島地方は急激に発展したそうだ。
まあもっとも、以上の歴史は、俺が元いた前世の世界における話であって、異世界「ミズガルズ」などと融合した今となっては、将来この松前の地がどうなってしまうのか、あまり予測はつかない。
けどこの6年間、特に前世における戦国時代の日本との違いはあまり見られなかった。
潮が香る港には、カモメが華麗に空を舞い、海からは商船が行き交い、街は商人たちによって繁栄している。
一見、平穏でのどかな日々が送られている。
だが、異世界の影響は皆無ではない。
不思議な現象こそ起こらないものの、早速俺の膨大な歴史知識との食い違いが発生していた。
◆◆◆◆◆
最初の食い違い、それは他ならない俺の家だった。
「父上、失礼します!」
「よい、入れ」
俺は子どもらしく元気よく挨拶しながらも、父の部屋の襖を静かに開け、中に入る。
部屋の主は、今年54歳になる俺の父親、不破武治である。
俺の前世の名前、不破武親の名字と同じ「不破」だ。
父は学者志向な性格で、書斎には壁一面に蔵書がビッシリ詰まっている状態。普通の人なら、この光景だけで卒倒することだろう。
でもおかげで、今俺が置かれている状況や当時の常識を知ることが出来るんだから、結構助かったりしている。
最初の頃は得意な古文も、教科書に載っている楷書体ではなく、筆で書かれた蛇のようにうねった書体に悪戦苦闘してたけど、今となっちゃあ書物の1つや2つ、お茶の子さいさいだ。
さて、戦国通であれば、ここで疑問を呈することになるだろう。
「あれ、不破氏って美濃、今の岐阜県に居るんじゃないの?」とか「斎藤道三に仕えてるんじゃないの?」といった質問が予想される。
俺も最初はそう思ったんだ。
だけど斎藤道三に仕えたのは、不破光治であって武治ではない。
しかもこの人、俺の膨大な歴史知識のどこを探しても見当たらない人物。
つまりはこの世界における、架空の戦国武将と言うことになる。
父曰わく、「某は不破光治の叔父で、斎藤道三らに理不尽にも追放されて蝦夷に逃れてきたのじゃ」とか言ってだけど、俺は信じていない。
俺の中では、この人はミネルヴァとフレイアによるお膳立てでこうなったと考えている。
きっと前世の名前と混同しないように、配慮してくれたのだろう、多分。
だだ俺の偏見かもしれないが、天才や学者タイプの人間は、しばしば普通の人と感覚が異なっている場合もある。
「今日は何を読むんじゃ?」
「歴史書が読みたいです」
「そうかそうか、お前は勉強熱心だな、“珍妙丸”」
「珍妙丸」恥ずかしながら、本当に顔から火が出るほど恥ずかしながら俺の幼名だ。
名前の由来は、俺が他の兄弟よりも精神的な成長が異常に早かったから、それを「珍妙」に思い「珍妙丸」なんて珍妙な名前を――ダメだ、自分で何を言ってるんだかよく分かんねえ……。
確かに織田信長も、自分の長男・信忠が生まれた時に「奇妙丸」って名前はつけてましたけど!
けど珍妙丸、だめだ、恥ずかしくて思い出したくない。現代日本でDQNネームを付けられた子供が、つくづく可哀想に思えてくる。
本当に将来、グレてきちゃいそうだ……。
これが、父が普通の人と思考回路が違うことを証明する1つの事例である。
「……その名前で呼ぶのは止めてください、父上」
「なに? 立派な名前ではないか、珍妙丸」
「だ・か・ら! その名前は……」
「わかったわかった。この本をやるから、大人しくするんだ」
「うう……」
おのれ、なんか物でもやれば収まると思いやがって。俺は精神的には23歳なんだぞ。もう立派な大人なんだぞ。
俺は父の性格は嫌いではない。ないんだけど、名前を呼ばれる時だけはイヤなんだ。
3歳になったばかりの時に、松前の街のど真ん中で、「珍妙丸! 珍妙丸、どこへ言ったんだあ!」なんて呼ばれた時は、街の人に散々笑われて恥ずかしさで意識失ったぐらいだ。新手の羞恥プレイですか。
それ以来、母や他の兄弟は俺のことを「丸」って呼んでいるけど、父だけは相変わらず「珍妙丸」で呼んでいる。
はあ、死にてえ……。ミネルヴァさん、フレイアさん、助けてくだせえ。
◆◆◆◆◆
仕方ない、父の思考回路を読み解くついでに、ここでいっちょ能力紹介を1つ行うか。
俺が2人の女神から授けられた能力、その1。
「自分や相手のステータスを数値化して表示できる」。
「いやいや、ゲームじゃないんだから」とか言っている、そこのアナタ!
論より証拠。まずは俺のステータスを表示させてみよう。
名前 不破武親
HP 3630/3630
MP 585/585
攻撃 158
防御 170
魔攻 104
魔防 134
敏捷性 69
名声 213
まさしく、ゲームみたいなステータス表示である。
おかげで、自分の状態が手に取るようにわかるから大助かりだ。
ここで1つ、おそらく皆「6歳でこの数値? 高くない?」とお思いだろう。
その通りだ、証拠に父のステータスを数値化させよう。
名前 不破武治
HP 1807/1807
MP 91/91
攻撃 160
防御 138
魔攻 14
魔防 25
敏捷性 62
名声 3040
名声の数値以外は見事に俺のほうが上で、能力値も抑えめである。
だけど格段、父だけが低いわけではない。この6年、気づかれないように様々な武将のステータスを見てきたが、程度の差はあれ、皆、父と同じくらいの能力値だったのだ。
すなわち俺は所謂「チート」。
ミネルヴァとフレイアが、俺の世界征服を後押しするためにチートスキルの1つとして授けたのだろう。だったら活用しなきゃソンソン。
レベルアップの様子もすぐに確認できるから、鍛錬に向けて良いモチベーションが保てそうだ。
それに戦いってのは、その8割から9割が情報戦を占めているとすら言われている。
いくら相手が個の武勇で優れていたところで、情報さえ握っていれば弱点を上手く突けるという算段だ。
つまり俺は、「戦闘能力」のみならず「情報」についてもチートな存在なのである。
おっと、だいぶ話が逸れてしまったかな? 本題に戻ることにしよう。
◆◆◆◆◆
俺が続いて、父の思考状態を調べようとすると、俺が入った襖のほうから救世主が現れた。
「あなた、丸をイジメちゃだめでしょ」
「別にイジメちゃおらんのだがのう」
俺のこの世界での母、お凛、27歳である。
実は父・武治は前の正妻とは死別していて、今の母を側室から正妻にしたらしい。
ちなみにこの母から生まれた子どもは俺1人で、他の兄弟は全員前の正妻から生まれてきたそうだ。
道理で若いはずだ。年の差婚ってのは、何時の時代もあるものだねぇ。
まあ、それはおいおい説明するとして、母はなにやら連絡したいことがある様子。
「それよりも、お館様が、親子で徳山館に来なさいとお呼びになられましたよ」
徳山館とは現・松前町にある館で、俺たちの主君・蠣崎季広の居館に他ならない。
お館様とは季広のことである。
「季広様が? それは大変だ。珍妙丸、早く準備をするのじゃ」
「……はい」
だからその名前ヤメロ、と言っても無駄か。
ここは指示に従ってサッサと着替えてこよう。
そう言えば、蠣崎季広っていったら、今の俺みたいなDQNネームをつけられた子どもがいたような―――




