↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
不破一族の多世界征服記~転生者一族の興亡史~  作者: 伊達胆振守(旧:呉王夫差)
3章 対ミュルクヴィズラント王国戦争
43/206

42 覚悟と藁人形

(あと、もう少しだ……)


 数分後、フルホルメン大佐の部隊に追い回されている俺は、ようやく勝山館に戻る坂道を発見した。

 一度入ってしまえば上り坂。お互い競り合いながら登っていく王国軍に比べ、俺は1人だから身軽。

 それに地の利はこっちにある。相手も無理には追ってこないだろう。


「せいやあ!」


 俺は坂に入ると、疲弊しきった体を奮起させて一気に駆け昇って行った。


「待て! 逃がすな!」


 王国軍も必死にスピードを上げるが、俺のチートボディから出る速度の前にじりじりと突き放されていく。

 そして勝山館までもう少しと言ったところで、俺に助けの手が差し伸べられた。


「――今だ! 岩を落とせぇ!」


「御意!」


 坂の上のほうから男の声が聞こえ、同時に俺の後ろに向かって、大きな岩が次々と転がっていく。

 標的は大佐の部隊だった。


「う、うわあああ! お、押し潰されるー!」


「全軍、追撃中止! 即時後退だ!」


「りょ、了解しました! ……って、ぎゃあああああ!」


 後方を見下ろすと、岩の向こう側から王国軍の断末魔が嫌でも耳に入ってきて、思わずその光景まで脳内に浮かんできた。 

 おっと、グロテスクな妄想はやめよう。

 ところでこのベタだが、タイミング良い計略を実行したのは誰なんだ?


 俺が気になって頂上まで登りきると、そこには2人の武将の姿が。


「ふう、なんとか凌ぎましたな。孫八郎殿」


「備中守もご苦労だった。拙者もこれで、親父に対する罪滅ぼしはなっただろうよ」


 頂上にいたのは、コタンシヤムの乱のとき勝山館の守備に就いていた下国重季。

 それと、本来は勝山館近くの比石館(ひいしたて)にいるはずの厚谷備中守季貞《あつやびっちゅうのかみすえさだ》であった。


「あ、あの……ありがとうございます」


「む? 五郎、礼はいい。これは拙者のためにやったことだからな」


「五郎? もしやこの小さな男が、あの不破武親であるのか?」 


 さすがに俺の名は、蠣崎軍中でもかなり有名になっているようだな。やはり去年の戦功は俺にとって大きな財産だ。

 

「不破五郎武親です。初めまして」


「お初にお目にかかる。厚谷備中守季貞だ」


「ところで、なぜ備中守さんはこちらに? 比石館はどうしたのですか?」


 挨拶を終えると、俺は早速季貞に単刀直入に聞いた。


「比石館は……放棄した」


「え?」


「まあ、この大軍を相手にするのだ。各人が方々に散らばっていては勝てんと、父は仰せになられた。今厚谷家は南条越中守のもとに集結しておる」


 言われてみれば、なるほどと思わずにはいられない。

 蠣崎家は常に慢性的な兵力不足である。確かに米を獲れない蝦夷地では、館を落とされれば、貴重な収入源である交易に大きな支障が出る。

 だが、目先の小さな館の防衛を気にするあまり、兵が分散して、戦に勝てなくなっているのもまた事実。

 アイヌの武装蜂起の度に、次々と館が落とされている記述がその証拠。

 

 だから大軍の前には思い切って拠点を捨て、兵を1カ所に集結させるのは良い決断だとは思う。

 しかし、なんとまあ思い切ったものだ。

 

「でも……未練とか、そういうのは無いんですか……?」


 だが季貞には、そんな甘い感情は有していなかった。


「今は戦乱の世。この荒れた時代に重きを置くべきは、即ち家の存続。館に対して、未練がどうのと申しておるようでは、戦には勝てぬ上に、お家断絶は必至であろう」


 ……ふっ。俺としたことが愚問だったかな。

 未練とか思わず言ったけど、俺もそもそも前世では思いきって『自殺』した身なんだ。未練も残さず、覚悟を決めて。


 だから季貞も「未練を持っていない」という点では同じ、覚悟の据わった目をしている。

 

「では異国の者を払ったところで、戻るとしよう」


 けど違う点が1つある。

 季貞の姿勢は前向きだ。今後、戦況が好転するのを見越して。

 

 一方の俺は後ろ向きだった。

 だって絶望して自殺だぜ? あとあと考えたら、結構恥ずかしい死に方だぜ?


 今でこそポジティブに物事考えられるようになって、季貞みたいな覚悟も持てるようになったけど。いや、茂別館から撤退した時のこと考えると、季貞レベルには程遠いな。

 まだまだ未熟だな、俺も。


「どうした? 五郎」


「あ、すみません。戻りましょう」


 ところで守継のほうはどうなったんだろう?一応、策の提案はしたけど、上手くいってるかなあ?



 ◆◆◆◆◆



「ムキー! もうやってられません!」


 勝山館の中に入ると、突然女の人の悲鳴が聞こえた。

 む、この甲高い女性の声は……


「鷹姫、心情察し致すが辛抱願いた……」


「あの憎き豆坊主! あとで打ち首に処してあげます!」


 ちょっと待てい! いくらなんでも、理由もなく打ち首はねえだろ!

 あ、でも鷹姫ならやりかねないか……。ああ、くわばらくわばら。

 

 恐怖心に震えながら襖の僅かな隙間から中を見ると、そこにはふて腐れた鷹姫と、黙々作業に打ち込む守継隊の兵の姿が見えた。

 作業。実は俺が提案した策には、ある大量の道具が必要だったのだ。


「越中守殿と兵部少輔殿の部隊は、何を作っておられるのだ?」


「ああ、あれはですね……」


「じっ」


「うわっ!」


 俺が重季と季貞に作業内容を伝えようとすると、襖の向こうからリシヌンテが見つめ返してきた。


「へっへ~。驚いちゃった?」


「ビックリさせないでよ、リシヌンテ……」


「リシヌンテ。こっちは作業に集中してるんだから、迷惑なことはしないで」


「う、ごめん、レスノテク……」


 アイヌの人たちも手伝っているようだな。

 そしてレスノテクは仕事モード突入か。相変わらずの他人を寄せ付けないムード満載だな。


「まーめーぼーずー」


「うっ!」


 この呻くような声は、た、た、鷹姫……か?

 

「天誅!」


「おわっと!」


 間一髪、俺は鷹姫が振り下ろした刀を真剣白刃取りで受け止めた。

 やべえ……この黒い殺気、シャレにならねえぞ……。

 

「鷹姫! ここは堪えてくれ」


「はい! 守継様~」

 

 ところが守継に呼ばれた瞬間、殺気だった表情は一瞬にして立ち消え、笑顔満点で守継のもとに飛び込んでいった。

 ふう、守継、助かったよ……。



 俺達が館の中に入った時には、すでに作業は終盤に差し掛かっていたようで、数分後ついにその道具が完成した。

 それは、およそ1500体に及ぶ、等身大の藁人形であった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。