25 武親、弓を引く
俺は一回、周囲にいる最前線の戦力について、茂別館の将兵に伝えた。
実はさっきの無茶な申し出は、斥候を務める意味もあった。だが俺の説明に、皆は半信半疑の顔色を示している。
「俄には信じられんな……」
「兄上……信じてくれないんですか?」
俺の4番目の兄、不破家政が訝しげな目で俺を見る。
「五郎。この緊急の時に嘘はいけませんよ」
「母上まで……」
母のお凛までまるで信用していなかった。
だが俺は嘘偽りの類は全く言ってない。
やはり起こったことがあまりに現実的じゃないのか。特に魔法とか。
大方、大軍を前に気がおかしくなって、幻でも見えたのだろうと。
だが、父だけは俺の報告を信用してくれた。
「何を申すか2人とも。折角、五郎が身を挺して前線から送った報告に御座ろう。ワシは信じる」
「父上……」
「ありがとうございます!」
やっぱり父は頼りになる。まだ耄碌してない慧眼、賞賛に値するぜ。
「じゃがそうなると、館を出て迎撃することは適わぬか」
「多分、一歩出ただけで即死です」
だからといって戦況が良くなるわけでもない。
むしろ突破口が次々に閉じていく様を、実感するのみである。
「仕方ない。五郎、四郎とともに弓兵を率いよ。お前は副将として疑り深い四郎を補佐してくれい」
お、ついに俺も兵を率いる立場になったか。さらに戦国武将らしくなってきたな。
「了解です」
もちろんOKだ。その任、引き受けさせてもらうぜ。
俺は四郎こと、兄の家政とともに弓の準備を整え、兵士たちと土塁の上に駆け上がった。
◆◆◆◆◆
「……五郎。疑念を持ってすまなかった」
家政は謝った。眼前の奇っ怪な軍を見て、彼は直ちに意見を翻した。
「でも、誰だって一目でこの状況を信じられる人なんていませんよ」
俺は異世界人に関する知識を、予め前世で獲得出来ていたから、なんとか状況を飲み込める。
けど一族の他のメンバーは、そんな情報源は一切ない。だから半信半疑だったのも頷ける。
けど、圧倒されている時間が既に勿体ない。
「もう時間はありません。早く御命令を」
「ああ」
そして家政は刀を上げて、号令した。
「皆の者! こちらも矢の雨を降らせるのだ!」
「御意!」
一斉に矢嵐を発動させる家政隊の各員。
俺も矢を一気に5本ずつ引いて、素早く敵の前衛を崩しにかかる。
「ぐわああ!」
「くっ、なんと苛烈な攻撃よ……」
常に全滅の恐怖を背に、気息奄々の茂別館の将兵。自らの全力を振り絞って反撃に当たる。
「怯むな! 敵は少数! 数で押していけば勝てる!」
しかし王国軍側も退かない。数的優勢を武器に、力ずくで茂別館の土塁を破壊しにいく。
そして後ろからは、エルフと魔女たちが攻撃魔法を繰り出そうと、呪文を唱えているように見える。
「ヤバい……兄上!」
「分かっている! 皆の者、敵は妖しげな術を使おうとしているぞ!」
「え……な……なんだ、あれはぁ!」
気づくのが遅くなったのか、何人もの兵が、王国軍の魔法に飲み込まれ死んでいく。
「くそ、負けて……たまるかよ!」
俺は倒れていく味方の分も含め、ひたすら弓を引いた。
◆◆◆◆◆
「……し、死ぬかと思った……」
1時間は経ったのだろうか。
家政隊は王国軍の兵を500人ほど撃破して、辛くも最初のピンチを乗り切った。
王国軍もこれ以上の犠牲は危険と判断したらしく、一度撤退したようだ。
「でもこの調子では、最後まで持たぬぞ……」
けど、俺たちとて無傷では済まなかった。
茂別館の東の土塁はおよそ6割も削れていた。
理由はドワーフの巨大なハンマーに寄る強力な打撃。そして土塁の崩壊によって、味方の兵が15人ほど転落。
いずれも落ちた衝撃か、もしくは王国軍の攻撃の餌食となって死んだ。
それにエルフと魔女による遠方からの攻撃も、家政隊の兵を消耗させた。
結果100人いた家政隊は、およそ40人余りまで減少してしまった。
残った者も皆体力を著しく減耗させている。
「なんで俺が絡む戦って、こうも味方が不利になりやすいんだ…………?」
俺は、自分にこんな苦境を与えた世界を恨んだ。




