18 戦後処理
コタンシヤムが討たれたことにより、アイヌの軍勢は戦意を失い全員降伏。
もともとアイヌに寛容だった季広さんは、今回の武装蜂起に対して兵士達には、何も罪には問わないこととした。
蠣崎軍の中からは「蝦夷ごときに甘すぎる」「反乱を許してはならない」等の声が聞こえた。
しかし、禍根を残して軋轢を生んでしまうと、かえって領内の統治は難しくなる。
それに差別感情から来る発言が多いこと。
そもそも季広さんは、自分の父親の強引な統治法から脱却したがってたんだ。当然の帰結だろう。
また季広さんは、蝦夷地西部の首長であるハシタインや東部の首長チコモタインと共に、10年ほど前に結んだ「夷狄の商舶往還の法度」の内容についても再確認した。
コタンシヤムの反乱が、この2人の主導かそうでないかを知りたかったのだろう。
とりあえず今回の一件は、コタンシヤム・ヌクリ兄弟が勝手に主導したものとみて、間違いないようだ。
「しっかし、はた迷惑な話だよなぁ」
「何がだ?」
「だってさ、和睦は結んであったのに、こう変な難癖つけて戦乱を引き起こされるなんて。たまったモンじゃないよ」
いくら乱世とは言っても、この地方だけは安泰かななんて思ってたけど、やっぱりそんなことは無いな。やはり『世界征服』しなきゃダメなのか……。
「槍働きだけでしか活躍出来ないやつが、随分と……」
「……次は、勝つ」
「……悪い」
命を奪うことにまだ抵抗はあるが、それでも1人の男として慶広には勝ちたい。
なんだかんだ言って、俺も戦国の武士になりつつあるのかな。
◆◆◆◆◆
それから数週間。季広さんを中心に蠣崎家臣団一同、領内の混乱を鎮めるのに腐心。
その甲斐あってか、なんだかんだでゴタゴタも解消し、和人とアイヌの間の交易も平常通りの運航。松前の港にも徐々に活気が戻りつつある。
「ようやく、元の光景が戻ってきたな」
「ああ」
港にはカモメの鳴き声も響き渡り、潮風も俺達を吹きさらす。
それが妙に感傷を誘っていた。
「なあ慶広」
「なんだ?」
「本当に俺達、『世界征服』しなきゃなんないのかな?」
戦を一つ乗り越え、気づいたことがある。
改めて思い知らされた『平和の有り難さ』を。
前世では当たり前だったから分からなかったけど、数週間間の時をえて、それを噛み締めているところだ。
「余達の目標は、この平和を“世界に広める”こと。そのために、争いの種を徹底して根絶せねばなるまい」
「けど……」
争いを止めるために争うか。なんだか皮肉な方法だな。
「余は、コップの中の狭い平和など望まない。皆が笑って過ごせる世が見たい」
……そうだった。俺たちはその重い使命を背負わされてるんだったな。
やめた。深く考えるのは。
かの有名な織田信長だって、それを思い描いていたのかもしれない。
狭い世界だけを見て満足するには早すぎる。慶広はきっと、そういうことを言いたいんだろうな。
「悪い。俺も愚問を投げかけちまって」
「ふん。それでよい」
元より修羅の道。みんなで安定した天下を築くために、俺達が奮闘しないと。
「……はあはあ、やっと追いついた……」
「ん? どうしたんですか?」
正面に潮の香りを感じていると、徳山館から小姓が馳せ参じてきた。
「何用か?」
「し、新三郎様……。お館様からご連絡が……」
「ご連絡?」
「唯一戻っていらっしゃらない、下国師季様の安否を確認して欲しいとのことです」
「あ」
そういえば、すっかり忘れていたな。
まだ解決していない最後の案件、「下国師季の発見」である。