16 首長コタンシヤム、推参
「我が名はコタンシヤム! 精強なるアイヌ兵を率いる大将だ!!」
コイツがコタンシヤム! ようやく総大将のお出ましか。
「コタンシヤム。あんたのことは弟のヌクリから聞いてるぜ」
「……」
「コタンシヤム?」
「弟……? そんなヤツは知らないな」
は? いやいや、だって、ヌクリはあんたのことを『兄貴』と言ってたはずだぞ。嘘で『兄貴』と言う奴にも見えなかったし……。
まさかこの男、弟を見捨てる気なのか?
「……ヌクリのことは、何とも思わないのか?」
「あんな“ウェンペ”にかける情けなどない」
アイヌ語で「ウェンペ」とは、働き盛りの年齢で乞食をやっていたり、仕事もせず怠けている人をさす。
と同時に、そう言われる人たちは“アイヌ”扱いされないのだ。
とは言え、仮にも最前線で戦っていた弟を“ウェンペ”扱いするとは、あまりにも冷淡すぎではないのか?
「随分な物言いだな」
「覚悟の足らない奴だった。それだけだ」
自分の弟を切り捨てるとは非情な男だ。利用価値があれば用い、無くなれば捨てる。
でも俺にしたら、こんな男が蝦夷地から俺たち和人を追い出すなんて、出来ないような気がする。
「イヤな兄貴だな……」
「何か言ったか?」
「いや別に。とりあえず蠣崎軍の一員として、あんたを倒すことにしよう」
「貴様のような小僧に倒される我ではない。思い知るがいい」
「そうかな? 強さには自信があるけど」
「己の弱きことも理解できぬとは笑止。我直々に叩き込んでくれる」
言葉を交わしている時から闘いは始まっている。
お互いの距離を正確に計りつつ、攻撃と防御のタイミングも計算する。
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名前 コタンシヤム
HP 7000/7000
MP 500/500
攻撃 393
防御 321
魔攻 227
魔防 215
敏捷性 508
名声 8074
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くっ、俺より敏捷性が高い。
背後を取られないように気をつけないと。
「隙あり!」
「え?」
最初に飛びかかったのはコタンシヤムだった。
数値で見て俺より速いのはわかってたが、いざ体感するとその速さに驚く。
俺はワンテンポ遅れて間一髪で防ぐも、精神的には一撃浴びせられた感覚だ。
「わかっちゃいたが、やりにくいな……」
「そりゃそりゃそりゃそりゃ!」
「げっ!」
コタンシヤムのスピードを頼りとした多段攻撃に、俺はひたすら避け続けるのみ。分身の術を思わせる攻撃に、反撃の糸口が見いだせない。
「はっ、はっ……」
「つまらんな。この我に一回も攻めの手を出さない、いや、出せない」
「くそ……」
「言っただろう小僧。貴様に倒される我ではないと」
能力値的には、俺のほうが上なのに……。後手に回るのが、ここまで不利に傾くとはな。
「思い知れ」
「ぐっ!」
そして油断した刹那、俺の腹部にコタンシヤムの槍が刺さる。
俺は口から大量に吐血し、意識が朦朧となる。
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名前 不破武親
HP 4012/9683
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「はっ、はっ……」
「散れ」
「ぐふっ!」
今度は顔面に鋭い打撃。前方がぼやけ、良く視認が出来ない。
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名前 不破武親
HP 2900/9683
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「ほう、まだ立つか」
「まだまだ……」
確かにコタンシヤム、あんたは強い。
けどな、俺には大事な約束があるんだよ。こんなところで倒れる訳にはいかないのは、俺も一緒さ。
「とは言え……どうしたものか……」
しかし依然、反撃の決定打を見いだせない。
体力も急所を突かれ、一気に窮地に陥ってるし本当にどうしよう……。