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13 小物臭

「俺はヌクリ。今回のアイヌ軍の幹部だ」


 ヌクリ。いかにもアイヌ民族って名前だな。

 それに今の矢、昨日奇襲された時のヤツと筋が一緒だ。もしかしてコイツが……?


「1つ訊きたい。昨日俺たちを襲ったのはあんたか?」


 するとヌクリは、コクリと頷く。


「フッ、よく気がついたな。そう、あれは俺だ」


 ヌクリはニヤリと笑う。

 俺は、ヌクリの強烈な雰囲気を感じ一歩引き下がる。

 

「昨日はなぜ、仕掛けてこなかった?」


「ああ、あれはタダの偵察さ。お前らが陽動を仕掛けてきているのはわかる」


「な……」


「けど見え見えなんだよ、山からだとさ」


 俺たちの行動は、最初から全て筒抜けだったのか……。

 やけに対応が早いと思ってたけど、そういうことだった訳だな。


「伝令! 長門隊が夷王山奪取に失敗! 撤退した模様です!」


「くっ……」


 くそっ、攻略作戦がものの見事に破られてしまっている。どうする?

 俺たちは、あまりに上手く物事が運ばれないことに苛立ちを隠せず、戦意が低下した。


「そういやあ、そこにいるのは蠣崎家きっての武辺者・不破武親だったかな?」


「そうだが……」


 なんだコイツ、俺になんか用があるのか? それにその呼び名、アイヌにも伝わっているらしいな。 


「んじゃ、ひとまず試してみたいな」


「試す?」


「出てこい、お前ら!」


 するとヌクリの合図とともに、周囲の茂みから夥しい数のアイヌ兵が参上してきた。

 まさか、もう包囲されていたとはな。索敵能力を一旦停止したのが、仇だったか……。


「さあどうする? この状況、お前ごときに打破出来るのか?」


 ヌクリは嘲笑うように俺を見下ろす。俺達を弄んでいるようにしか見えない。


「もう1つ質問。今回の武装蜂起の理由はなんだ?」


「おっと、いきなりなんだ? 怖じ気づいたのか?」


 そうじゃない。ただ、戦争という殺し合いをする以上、そこには何かしらの大義名分でも無ければならない。


「んじゃ、冥土の土産に教えてあげよう。『和人を、この“アイヌモシリ”から追い出すため』だよ」


 アイヌモシリとは、アイヌ語で「アイヌの土地」を表す。その範囲は北海道のみならず、樺太や千島列島にも及ぶ。


 そして和人とは、本州から北海道に渡ってきた人たちを指し示す。

 要はこのアイヌ達は、蠣崎家の人間が邪魔なようだ。


「そうかよ。だったらかかってきな」


「五郎!?」


「越中守さん、鷹姫さん。お互い、背後を守るように戦いましょう」


「へっ」


 俺たちの周りには、300人ほどの敵兵。槍をこちらに向けて、ジリジリ近寄る。

 鷹姫は一瞬狼狽えるも、状況が状況だけに俺の提案をすんなり受け入れる。


 そしてスナップを鳴らし、合図を送る。


「ちぇいさあああ!」


 そして俺は、300人の兵を一気になぎ倒していく。

 守継も鷹姫も、合図に従ってアイヌ兵を倒していき、戦闘は10分ほどで終了した。


「ほう、なかなかやるな」


 しかし俺たちの体は、悲鳴を上げていた。息を切らし地面を眺める。


 そういやあ、ステータスどうなってんだ?

 俺は久々に、ステータス表示を行った。


――――――――――――――――――――


 名前 不破武親


 HP 6772/9683

 MP 1500/1634

 攻撃 715

 防御 733

 魔攻 466

 魔防 531

 敏捷性 264

 名声 1415


――――――――――――――――――――


 長期戦の影響か、体力が削れていやがる。

 なんとかやれてはいるが、ヌクリがどれほどのヤツなのか、それによって戦況が決まる。


「だいぶ消耗しているみたいだな。んじゃあ、ここで俺が一騎打ちでも仕掛ければ倒せちゃうのかな?」


「へっ、やれるもんならやってみろ」


「フッ、ガキのくせにナメるなよ……」


 するとヌクリは、弓を捨て槍を持ち出した。

 向こうも、マンツーマンでやり合う様子。


 俺は念のため、ヌクリのステータスを開示する。能力値がわからないと、戦術が立てにくいからな。


 って、え……。


――――――――――――――――


 名前 ヌクリ


 HP 5000/5000

 MP 300/300

 攻撃 252

 防御 14

 魔攻 162

 魔防 49

 敏捷性 148

 名声 5570


――――――――――――――――


 正直言って拍子抜けした。HPと名声を除いて、全て俺のほうが圧倒的に勝っていたからだ。

 て言うか、防御低っ! これで俺に勝とうとしているのか。


 ナメてんのはどっちだ。ヌクリさんよお……。


「ああ? 笑うなよ、やる気あんのか?」


「当然、ククククッ……」


 俺は自然と笑いを堪えきれなくなっていた。

 そして、ヌクリの戦術のミソにも気がついたのだ。

 

 あれだけ大量の伏兵で襲いかかってきたのも、こちらが限界まで消耗するのを狙ったため。

 そして弱ったところを、一気に叩くつもりだったのだろう。

 

 戦としては常道だ。だが相手が悪かったようだね。


「相手にとって不足だな、お前は」


「な、なんだと……」


「思ったよりひよわで助かったよ」


「くそっ、ガキのくせに粋がってんじゃねえぞぉ!」


 俺の安い挑発に乗ったヌクリ。さっきまでと違い、立場は完全に逆転していた。

 

 一気に勝負をつけようと、ヌクリが特攻を仕掛ける。


「強がんなよ、不破武親あ!」


「フン!」


 お互いの槍が、クロスする。

 そして一瞬、鍔競り合いになるも、俺がヌクリの槍を力押しで折る。

 

「な、なんだと……」


「隙あり!」


「はっ……」


 ヌクリは俺の隙をついた攻撃を、紙一重でかわす。

 しかし大ダメージを喰らう。


――――――――――――――――――


 ヌクリ

 HP 3612/5000


――――――――――――――――――


 手応えを感じなかったが、予想以上にダメージを与えられた。


 これは……いける! 楽勝だぜ!

 俺はそう確信した。

「アイヌモシリ」の原義。“人間の静かなる大地”。

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