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質疑応答その3、ジェーンの場合

相変わらず長いです。

日別ユニークアクセス2300人、読んで下さった方々。有難う御座います。

6/9デイリーランキング44位についても重ねて御礼申し上げます。

しかし、44位とは縁起が悪い・・・。4は死に繋がると言うしなぁ・・・。

読み飛ばし推奨。

 二人目の質疑応答も終わり、議長によって次の名前が読み上げられる。

「ブリスケン革新党、ミセス・キャンベル」

 せめてミズと言って欲しかったのだが、と思いつつジェーンは立ち上がり、前に出る。

「時間が押しているようなので、挨拶等は省略させて頂き質疑に入らせて頂きます。」

 そこでスっと息を吸って

「まずはシン公述人に対しての質問なのですが、アルフレッド公述人の論では不況の中において民間投資では駄目だ。デフレにおいて、経済を回復させるためには政府主導の大規模な公共事業の拡大という大型投資が必要だと仰られていました。そこで具体的にどの程度の規模で、どのような公共事業を立ち上げるのか、あるいは既存の事業を拡大するのか、具体的な意見をお聞かせ願いたく思います。」

 丸眼鏡をクイっと持ち上げて、アルフレッドが立ち上がる。

「まず最初に、どの程度の規模で公共事業の拡大を行うか、という事ですが我々としては想定している大体10兆マルケス程度」

 それを聞いた瞬間、議員達がざわめく。

「そうです、10兆マルケスです。桁は間違ってないです。10兆マルケスの規模を想定した公共事業への資金投下が必要である、と。しかも、この10兆マルケスという額は『国家強靭化論』における十ヵ年計画全体で、という事ではなくてですね。十ヵ年計画を三年、三年、四年のスパンに分けてその都度に資金を投下していく、というわけです。」

 その言葉を聞いて、議員の中からは「無茶苦茶だ。」という声が聞こえる。アルフレッドは構わず続ける。

「昨年のブリスケンの経済成長率は前年と比較して、マイナス5.2%です。このマイナスを帳消しにし、経済成長率をプラスマイナスゼロに戻す。この建て直しにまず三年、10兆マルケスの資金が必要なのです。経済を復興するというのはそれほど手間とお金が必要であると、ここにいる方々にはまずそれを認識して頂きたい。」

 アルフレッドは議員達を見回す。

「そこから更にブリスケンの成長に勢いをつけるために5兆マルケス、そこから更にそれを加速させるために5兆マルケス、合計10年で20兆マルケス。これだけあれば間違いなくブリスケンはかつての大躍進時代の威容を取り戻せると我々は確信しています。」

 緊張のためか口内がやたらと乾く。言葉を短く切らなければ噛んでしまいそうだ。

「それから、どのような公共事業へ重点を置くか、という議論についてですが、まずここで焦点としてきたいのが先程プロフェッサー・フランクリンの述べた乗数効果という概念であります。この乗数効果を最大限引き出すには、有効需要の創出が必要となるのですが、ここにおいて我々はポート・レール計画というプランを提唱したいと思います。」

 再び言葉を切る。

「このプランは材料の輸入、加工、輸出における輸送を全て政府が一手に担う大規模輸送プランです。具体的には、材料を輸入するための港、材料を加工するために必要な工業地帯、そして材料を輸出するための港。これらを輸送用の大型鉄道で結ぶのです。また、港の整備も必要でしょう。ブリスケンの基幹産業において大きな割合を占めているのは自動車産業と精密機器、南部の諸島国家や西のパルティス大陸の発展途上国では今これらの需要が高まっている。その事を鑑みれば、まずブリスケンの国際競争力を高める事は急務であります。」

 アルフレッドは丸眼鏡を再度クイっと上げながら

「まずこれらの鉄道敷設、港の増改築、及び輸出入、輸送におけるシステム作り、これらを三年で完了して頂きたい。資金と熱意さえあれば決して不可能なプランではない筈です。また、更に可能であるならば海外の鉱山資産の買収も検討して頂きたいです。ブリスケンにおけるデフレでマルケスの価値が相対的に上がっている今ならば海外の資産を安く買い取る事ができます。特にブリスケンではかつての十年戦争の原因になった事からも分かるように、国内にまともに採算の取れる質の高い鉱物を算出できる鉱山がほとんどありません。また、今回の案がもし仮に通ったと仮定した場合、当然マルケスを大量に刷ればマルケスの価値は下がります。がそれ故に、今のデフレに乗じて海外の鉱山を押さえる事ができれば大量の物資を一度に輸送できる鉄道システム、マルケス安による輸出有利とが相まって必ずブリスケンの威信を世界示す事ができるでしょう。以上です。」 

 アルフレッドが席に着く。

「では、次にフランクリン公述人に対する質問です。『国家強靭化論』において、国債を発行し財源を得て、マルケスを刷る事で国債を返す方法論が述べられていたと思います。しかしながら、これだけ大規模な資金の動きがあれば当然マルケス安の変動も予期されうる事は必定です。然るに、このグローバルな社会情勢において果たしてそのマルケス安の変動を与える事に危険性は無いのか、そして国債を発行する以上金利は町が無い無く上がると思われますが、それに対する具体的な対策はありますか?お答え下さい。」

 ジョゼフが立ち上がる。

「まず、一つ目の質問。マルケス安に関してですが、無責任な事を言うようで恐縮ですがこればかりは最早我々には想定しようがありません。通常、常識の範囲でのマルケス安ならば輸出の有利、輸入の不利という、まぁ経済の基本ですね。ぐらいで済むのですが、何せ今回は額が額なので、如何せんこの社会情勢の中ではこれだけ大規模なマネーを動かすとどれだけの影響が出るのか想定できません。」

 一気に曇りだす議員達の顔、当然の反応だろう。

「ですが、一つだけ確かな事があります。このままマルケス高の状況が続けば、輸出を主とするブリスケンの大企業は悉く倒産します。それがどういう事を意味するかというと、大企業が一つ倒産するごとにその系列企業全てが道連れになります。こうなるともう、一国の財政投資でどうにかなる問題ではなく、間違いなく国家が破産し、確実に今の状況すら生易しいと思えるような大恐慌が訪れます。具体的に言うと、まず社会維持が困難なほど深刻な失業率の増加、それに犯罪率大幅増加、社会不安、公共資産の売却、公共料金の大幅値上げ、国家プロジェクトの前面凍結、郵貯銀行の引き出しストップ等の変化が次々と起こる筈です。何より貴方の財布の中のお金が紙クズと金属片になります。最もブリスケンほどの市場規模を持つ国が破産などすればそれは世界経済の大混乱を招くであろう事は明確なので、他国家はそれを止めるために経済介入をするでしょうが、それでどうにかなるとも思えませんな。」

 ざわめく議員達を顎を撫でながら見つめる。これだけ言えばそこそこインパクトもあるだろう。

「続いて二つ目の質問ですが、これは一つ目の質問とも強い関係性を持っていて、国債を発行しているのが自国の機関であるという事、そして国債の買い手がほぼ100%自国内の借り入れで海外からの借り入れは1%に遥かに満たないものである事、これらが上手く作用してくれるのではないか、と考えています。自国の機関である以上は、ブリスケン中央銀行との調停次第で金利の引き上げを何とか調整する方法はある筈です。当然国内からの不満も高まるでしょうが、海外からプレッシャーをかけられる事に比べれば遥かにマシであると言えます。その点に関しては貴方方、政治家の手腕に任せると致しましょう。」

 そこでニコッとわざとらしく笑顔を作って見せる。

「また、国債をマルケスを刷って返すと述べましたが、国債が国が行う借金的性質がある事からも分かるように何も一気に返す必要は無いのです。故に中央銀行との協調次第では上手く金利をコントロールして、マルケスを段階的に刷っていく事で急激なマルケス安を抑えるという狙いもあります。」

 ジョゼフはふぅっと一度息をつく。

「ここで注意して頂きたいのは、貴方々はこの問題をブリスケン一国だけの問題として片付けてはならないという事です。ブリスケンほどの巨大な国の市場が動けばそれは必ず世界に波及する。今日世界経済は崩壊への序曲に立たされています。今ブリスケンが倒れればそれは世界へと波及して次々とドミノ倒しのように国家が破綻し、世界の経済は崩壊します。これは比喩ではありません。だからと言って何もせずただ座していても、崩壊は免れ得ない。だからこそ、貴方々は言い方は悪いが伸るか反るかの賭けをしなければならない、そんな段階にまで貴方々は、いや、我々は追い詰められた状況なのです。」

 歳が歳なだけに長時間の喋りは身体に堪える。しかし、それでもジョゼフは強く言わなくてはならないのだ。

「今、世界はファンタジーの世界、御伽噺のような危機に晒されているのです。そして我々はこの世界において、剣ではなく算盤で以って世界の危機を救う勇者とならなくてはならないのです。何度も言うようにこれは比喩ではなく、事実です。」

 ジョゼフが席に着く。ジェーンがマイクに寄る。

「有難う御座います。他にいくつか質問もあったのですが、どうやら時間となってしまったようなのでここで質疑を終わらせて頂きます。本日はご足労頂きまして大変恐縮の至りですわ。」

 ジェーンはちらとウィリアムの方を見た。時間は常に誰にとっても有限なのだ。それを痛感した瞬間だった。

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