光る目
更新滞ってすみません。頑張って再開する予定。
気温の上昇を肌に感じさせる三月と言えど、朝晩はかなり冷え込む。
明かりの点いている人家も、人の往来もまばらな午前三時半。まだ日も出ない内から王家の寝所を囲むように大きな塀の脇で10マルケスのコーヒーを片手にもそもそと何かの準備に勤しんでいる男が一人。
背は170センチ前後、ハンチング帽を深めに被り、服はTシャツに薄いジャケット、下はジーンズにスニーカー。パっとしない外見にパっとしない服装。そんな事は本人が一番分かっているのだが。
彼の名はテオ・ブラウン、普段はここグリュニアにある「M.O」という新聞社に努めているジャーナリストだ。テオがここに来ている理由は勿論、現在世間を賑わせている最もホットな話題。それを提供したウィリアム王、彼を取材せんが為である。
が、表通りに面した通用門は既に多くのマスコミ関係者が張り込んでおり競争率が高い。地元の新聞社とはいえ、大手のマスコミに対してどけと言える発言力があるわけではない。加えて、宮内省自体がこの件に関しては完全にマスコミをシャットアウトする動き見せているため、収穫は絶望的な状態だ。
しかし、この道で飯を食っているテオとしてはその程度の事でハイそうですかと引き下がるわけにはいかない。生活に直結するだけに切実な問題だ。
取材ができないならば、せめて他のモノで代用する必要がある。何か良い案は無いかとネットで検索をかけていたテオはある一つのニュース記事に目が留まった。
その記事は、ウィリアム王がいつも連れている秘書についてだった。結構な美人。名前は何と言ったか。テオはこれだ、と確信した。
儚げな美貌を持つ王と美人の秘書、絵になる二人。この二人に関して何か、何でも良い。この二人の関係性を強く読者に示す証拠となるモノを掴みさえすれば、その真偽は兎も角、きっと記事になると思ったのだ。
調べていくと、面白い事が分かった。どうも、他の宮内省の役人達と違って彼女だけは寝所自体に住んでいるようなのだ。
勿論確信は無い。寝所とは別に居を構えている可能性は否定できない。実際、宮内省の役人達の中にも寝所で寝食を行っている者がいる事は既に分かっている。
しかし、そういった者達も本来の所在としてはそれぞれ別に住所を持っているのだ。
ところが、彼女の場合はどうも寝所自体が所在である。即ち、彼女の家がブリスケン王家の寝所であるようだ。
こうなってくると、期待は否応が無く高まってくる。ジャーナリストとして何かある・・・否、何かあって欲しいと思うのは必然ではないだろうか。
そこでこんな日も出ない内からあくせくと準備に勤しんでいる、というわけだ。
「しっかしここまでガチガチに固めるもんかねぇ・・・・。」
表通りは前述の通り、マスコミが押さえている上に宮内省によって敷地内に入る通用門は封鎖されているため内部を撮影するのは絶望的だ。
ならばと、内部に忍び込む方法を模索したが、これも絶望的。宮廷警邏隊と監視カメラを始めとしたセキュリティでガチガチに固められており、スクープ欲しさに忍び込んだが最後、ものの数分と経たない内に手が後ろに回るハメになるだろう。
そこでテオはまず、調査の及ぶ限り敷地内に張り巡らされたセキュリティの全容把握を行った。宮廷警邏隊の巡回ルートは勿論、監視カメラやセンサーの位置も必死になって割り出した。
その結果、やはり内部への侵入は不可能に近いと分かったが、思わぬ収穫があった。
敷地の隅にに監視カメラとセンサーの死角になっている一画が存在する。しかも、警邏隊の巡回ルートからも微妙に外れている。
その一画の塀の上に、カメラを設置すれば上手くすれば寝所の内部が撮影できるかもしれない。
もし、何か記事になりそうなネタが写っていればそれだけで記事をでっち上げる自信はある。
よしんば何も写ってなかったとしても、ウィリアム王さえ撮れれば、それだけで小遣い稼ぎ程度にはなる。
何せ、ウィリアム王が外に出る時は公務がほとんどだ。そんなウィリアム王の私生活を写した画であれば、かなり高値で売れる事間違いなしだ。
事態がどっちに転んでもテオが損をする事はない。
安物のコーヒーを啜りながら、テオは一人にんまりと笑みを浮かべるのだった。




