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薬仙の帰還  作者: 夏目葵
45/56

第45話 ありがとう

はぁ、はぁ


苦しそうな呼吸。


夕陽に巣くう血蠱。


すでに、彼女の心臓には穴が開いている。


喰らわれる感覚。


夕陽が、未だ正気を保っているのは、

彼女の強い精神力によるものだ。


もう、私には彼女の、痛みを和らげる事しか

出来ない。


己の無力さに、吐き気がする。


過去の私は、なぜこんなものを作った。


思い出せれば、助けられる。


でも、思い出せない。


どうして。


懺悔の念ばかりが、頭をよぎる。



ゴホッ


夕陽が、大量の血を吐いた。


「か、寒舟様。あなたの事、冷酷な人だと思ってました。」


青白い顔で、夕陽は、必死に続ける。


「でも、沈七として会ったあなたは、とても温かくて………演技だと思いました。だけど、やっと分かりました。貴方は、本当に優しい人。私の事、気に病まないで下さい。こうなると、分かっていましたから。」



「…………っ」



ゲホ


ゲホ


「い、妹に会ったら、よろしく……おねがいします。」


「何を言っている。君が、直接会いに行くんだ」


夕陽は、悲しげに笑った。


「さ…最後に、あえた…のが、あなたで

よ…かっ…た。」


ドクン


ドクン


「頼む…まだ、目を閉じるな。」


ドクン


ドクン


「あ…りが…とう…………」


ドクン


ドク………


……………………………



脈を取っていた手をそっと離す。


「くっ……」


私は、救えなかった。


私が作ったという蠱から、


彼女を守れなかった。


目を手で覆う。


「うっ、うぐ…」


溢れでる涙を、止められない。


これまでの、事全てが頭を過る。


この世界に、戻ってきた事。


玄夜。


人をまた殺した事。


魔教で出会った友。


夕陽。


血蠱。


「あああああ…………」


死んでしまった。


…もう


優しい彼女は、二度と笑ってくれない。


私が作る菓子をいつも、楽しそうに食べていたのに。




そっと、夕陽の開いたままの瞳を閉じる。


「うっ、うっ、ひぐっ」


すまなかった。


守れなくて、すまなかった。






夜。


人目を忍んで、夕陽の身体を埋めた。


そこは、月の光が射す、見晴らしのいい丘。


春になれば、花や草が生い茂り。


うさぎや、小鳥も姿を現すだろう。


必ず、また来る。


その時は、彼女の好きだった菓子を供えよう。




月の薄明かりの中、

村への、道を歩いていると。


松明の明かりが見えた。


数人の武人の姿が見える。



グイッ



いつもなら、その気配に気付いただろう。


誰かに、暗い森の中へ引っ張られた。


「順光さん。あいつらが探してるのは、あんただろ。」


魚屋の店主だった。


「ほら、これ荷物。持ってきた。食料もある。」


「……」


「彼女、死んでしまったんだろう。森に入るのを見掛けてな。」


「店主………」


「ほら、早く逃げな。」


荷物を押し付けるように、渡される。


「ありがとう。」




私は、森の中を駆け出した。


これから、武林盟に帰っても、何がおこるか分からない。


盟主は、本当に変わってしまったのだろうか。


だが、今度こそ。


柳寒舟の家族は、守ってみせる。


それが、弟子の身体を奪ってしまった、

私の責任だ。




数日後。


ようやく、正派所属の町にたどり着いた。







これで、一部終わりって感じです。

次回は、人物紹介挟みます。


二部から、寒舟(主人公の使ってる身体)の妻と、3人の息子でてきますが………


恋愛要素は、一切ないので、ご安心ください。

私は、ブロマンスに、男女の恋愛好みませんので。

主人公としての、責任という感じで、良き友、良き家門の共同経営者みたいな感じです。






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