アリーの旅立ち
「チチチ」
黒鍵鳥の雛の鳴き声が崖の上の巣から聞こえてくる。
荘厳な山肌が、美しい稜線を湛えながら白く反射していた。
屋根から伝う氷柱が溶け始め、風もどこか春めいた花の香りを運んでくる。
ここはズードリア大陸の北に位置するーー亜人国家フィルテリア。
「アリー、本当に行くのかぃ? わざわざ危険な職業につかなくったて、あんたは、十分狩りで食っていけるだろう? その魔導銃だって、やっと使えるようになったのに、ここにいれば良いんだ!」
縞々な尻尾を僕に巻きつけ、行く手を阻むばぁちゃんーー虎獣人のサルバ・オブニビア。
「ばぁちゃん、僕は死んだじぃちゃんのような立派な冒険者になりゅんだ。
ばぁちゃんだって、昔は冒険者だったはずにゃ!」
「それは遙か昔の話さね、アリー、あたしを何歳だと思ってるんだい?」
「500歳ぐらいじゃ、にゃいの?」
アリーは吐き捨てるように不貞腐れながらそっぽを向いた。
うっすら笑みを見せるオブニビアが、尻尾でアリーの肩をチョンと叩く。
「そう言うお前さんは、いくつになったんだい?
あたしゃ孫が多いから、いちいち覚えていられないんだよ」
ばあちゃんはそう言いながら、僕を優しく抱きしめる。
旅立とうとする度に、止められてきた僕。
今回も半ば諦めかけていた。
「16歳にゃ」
「もうそんな歳になったのかい。早いもんだねぇ」
そう言いながら、ばぁちゃんが涙を浮かべた。
僕は幼い頃からずっとじぃちゃんとばぁちゃんに育てられた。
僕は両親の顔すら、わからない。
じぃちゃんは古の時代から生きている伝説の魔獣フェンリル。
ばぁちゃんに一目惚れだったらしい。
言葉を話すじぃちゃんの決め台詞は『この世の全ての獣人の中でも群を抜く美しさと強さだったんだ。ガハハ』だった。
ばぁちゃんの頬に涙が伝うーーその瞳はどこか遠くを見つめていた。
遠い日の記憶が、オブニビアの瞳に蘇る。
若く、血気盛んだった頃の彼女は、燃えるような紅い髪を風になびかせ、
迷彩柄の動きやすい軽装を纏っていた。
神々しいほど巨大な白銀の毛並みを持つ魔獣フェンリルに颯爽と跨る。
フェンリルは鋭い眼光を放ちながらも、愛するオブニビアを乗せる背中はどこまでも力強く、広大な荒野を駆け抜けるその姿は、まさに伝説の夫婦そのものだった。
「ガハハ」と響く夫の豪快な笑い声が、オブニビアの心に今も温かく残る。
オブニビアは静かに涙を拭うと、アリーの前に跪いた。
その手には、白く輝く鋭利な牙の欠片が握られている。
それは、かつてともに世界を駆け巡ったじぃちゃん――フェンリルの牙を研磨し、小さく加工したものだった。
「アリー、これはじぃちゃんの牙から作ったお守りだよ。どんな困難からも、お前を守ってくれるだろう。決して、死ぬんじゃないよ」
オブニビアのその言葉は、普段の豪快さとは裏腹に、震えるほどの深い愛情と切なる願いに満ちていた。
アリーはそのお守りを両手でそっと受け取ると、強く握りしめる。
別れの抱擁を終え、アリーが家の入り口を抜けると、フィルテリアの山々に夜明けが訪れようとしていた。
薄紫の空には、まだ星が瞬き、荘厳な稜線が僅かに光を帯び始めている。
その瞬間、崖の上の巣から「チチチ」と鳴いていた黒鍵鳥の雛たちが、親鳥とともに一斉に羽ばたいた。
数十、数百もの漆黒の翼が夜明けの空を舞い、まるでアリーの門出を祝うかのように、雄大な山並みを背景に飛び立っていく。
アリーは振り返らず、一歩、また一歩と、新たな冒険へと踏み出したーー。
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(*ズードリア大陸マップ)
【アリー・ココロ・オブニビア】
この当時16歳。
のちに呼ばれる二つ名は、〝魔導銃のプリティー〟
『リリゴパノア』の癒しポジションで『猟師』。
アカリとジュリとは、ファルダット自由国のダンジョン攻略の際、知り合う。
そこで一度パーティを組み、見事攻略に成功。
じいちゃんの形見を天に翳すと、不思議と歩む先を光で照らし指し示す。
照らされた先は、ビヨンド村の方角だった。
偶然にもギルド前でアカリたちと再会。『リリゴパノア』に加入した。
女の子だが、1人称は僕。
目、鼻、耳は人族や、他の亜人たちを遥かに凌ぐーー
数十倍のスキルを持つ。
並々ならぬ身体能力を持ち主。
実は言語堪能でコリン語も話せる。
「すりゅ(する)」 の発音ができない。
食べ物に目がなく黄色や黄緑色を好む。
オーバーオールとハイカットシューズが大好き。
下着はイチゴ柄のスポーツタイプをたくさん持っている。
普段は大人しくしているがーーたまに爆弾発言も。
頭を「カクッ」とさせる癖がある。
ゴクトーの事を考えて、いつも助け船を出す。
アカリたちと買い物に出かけた際、
魔族に襲われ、身体が急激に成長した。
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