走れ万〜400メートル走〜
「なあ、幸神!」
「ん?何だ?」
「今更なんだけど、俺達のクラスの『智将』って誰だ!?」
「本当に今更だな!」
智将を決める時クラス全員で話し合いをしていたはずなんだがな…。こいつ、聞いてなかったのか?
…そう言えばこいつ、寝てたな。真照と一緒に。
「はいはーい。このクラスの『智将』は僕だよー。A組は眠り姫だね」
「おー?そうだったのか!」
夜神が話に入ってくる。その横で真照が「え、そうだったの!?」とでもいいたげな顔で夜神を見ていた。真照、お前もか。
『これより、400メートル走の選手の徴集を開始します…』
「お、出番だな」
「頑張れよ!」
「頑張りなさい!」
「頑張ってね」
「おう」
俺はこのクラスのテントを後にした。
☆☆☆
この中央高校体育祭のルールは至ってシンプル。人に怪我を負わせない事。
逆を言えば、人に怪我を負わせなければ何をしたって良いのだ。妨害なんて序の口である。
普通なら何も起こらないであろう時でも予想外の事が起きる。
だから、見ている方は面白い。やっている方は大変だが。
俺は渡されたビブスを着る。青色だった。これ、汗の匂いが染みて結構臭いんだよなあ。
『さアさアやって参りましたっ!中央高校体育祭第1種目っ!400メートル走ですっ!』
アナウンスが響く。
「位置について」
1年A〜H組までの俺を含めた8人の選手がクラウチングスタートの体勢になる。
「よーい」
銃が雨が降っていたのが嘘の様に澄み渡った空に向く。銃を持っている先生は耳を塞ぐ。
パァンッ
音が鳴ると同時に俺達は勢い良く走り出した。俺がいるのは第2コース、割と内側に近い所だ。
早速等価交換を使い脚力を強化する。ルール上、神力だって使っても良い筈だ。
見る見る内にトップにおどり出る。100メートルは過ぎたな。この調子でーー
ひゅんっ
左横を何かが通り過ぎる。A組か!一体何が!?
そう思い、俺の前に出てきた存在を見る。
体はムキムキで確かにスポーツ系なのが良く分かる。だが、それだけじゃあ神力も使っている俺に勝てる訳がない。
「だ、だれかっ、はぁっ、と、止めて、くれっ!」
息も絶え絶えだし、明らかにペースと足の動きが一致して居ない。自分の意思では止められない様だ。おかしい。
少しずつ遠ざかって行くムキムキを見る。遠ざかって行くにつれて小さく、全体的に見える様になった。
そこで、真っ赤な靴に目が留まる。
その靴は穴が開いて居て、そこから管が伸びている。で、そこから何か出ている。…空気か?空気が出ているのか?ジェット噴射か?
そしてデザインは滅茶苦茶だ。こんな事を考え、作れる奴はーー
俺はA組のテントを見る。そこには手にリモコンを持って操作しているこころの姿があった。
やっぱお前かーー!この小学生の様な発想であり、デザインも滅茶苦茶ながら何故か上手く完成させてしまっているこの靴、お前の作品かぁあああ!
こころはこちらに気づいて親指をグッとした。
いや、グッ、じゃねーよ!またなーに変な物作ってんだ、お前はぁあああ!
こころは発明の天才だが、圧倒的にデザイン力と設計力が足りない。これで何で作れているのか不思議だ。
って、今はこころは良いんだよ。問題は400メートル走だ。校庭一周200メートルなので、あと200メートル。この間に抜かさなければならない。
とりあえず等価交換でさらに足を強化する。距離がぐんと近くなった。
俺とA組の奴が横に並ぶ。だが、俺はもう更に速くなる事は出来ない。等価交換の対価となるものが無くなってしまったからだ。
しかし、それはA組の奴も一緒だ。靴がぷすぷすと音を立て、直ぐにでも壊れてしまいそうだ。
残り少し。あと何か、数センチでもいいから長くなるものは無いか!?
……。あ!あった!
俺は生太刀をこっそり生成して右手で掴み、前に掲げた。
我ながらクッソダサい。だが、こうするしかないんだよ!
俺(+生太刀)とムキムキは接戦となる。
「「うおぉおおおっ!!」」
走れ!一歩でも速く!前に!
ゴールテープが切れる。その切り口は、刃物…即ち生太刀で切られた跡だった。
1等になったが…あんまりかっこよくはなかったな。
生太刀を取り出した万は周りからは走りながらマジックをしたと思われた。




