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神様(仮)達の日常  作者: 葛葉 シナチク
4月
18/308

オシラサマ (下)



眩い青い光が辺りを満たす。


それは、真っ白なオシラサマすら青く見せる程だった。


再確認(・・・)しました。神力『幸せを願う者』を獲得しました。神器を生成します…』


無機質な男性の声が俺の頭の中に響く。


それと同時に右手に光が集まって行くのを感じていた。


光は一段と強くなった後…散った。


俺の手には一振りの太刀が握られていた。名前は…生太刀(いくたち)と言うのか?不思議と分かる。変な感じだ。持ち手には真照の鏡にあった様なSの字を組み合わせた様なデザインが、刃の部分は波をイメージしたかの様なデザインが入っている。剣道の経験は無いが、使いこなせる気がした。


神力の方は…これは等価交換か?俺の目の前に『対価となるモノを選んで下さい』と言うメッセージが出ている。試しにリンゴを選んでみる。俺が真照に買って来た奴だ。強くなりたい、と願うと…みるみる内に力が溢れてくる。リンゴ凄い。


俺は生太刀の切っ先をオシラサマに向ける。オシラサマは真照の鏡と同じ様に生太刀を脅威と見なしたのか、2、3歩下がった。


「おらぁっ!!」


その隙を見逃さず俺はオシラサマに斬りかかる。


『……!』


オシラサマは鞭で応戦する。鞭と生太刀がぶつかり合うたびキィンッ、と高い音が鳴って火花が散る。


何度も何度も斬りかかるたび鞭に弾かれ、何度も何度も鞭が叩こうとするたび生太刀が弾く。五分五分の勝負だった。


クソ…。ラチが明かない。段々とあせってくる。だが、それはオシラサマも同じの様で無表情ではあるものの行動の中に焦りが見え始めていた。


『……!!』

「なっ!?」


オシラサマは鞭を器用に使い、生太刀をがんがらじめにした。そのまま引っ張り俺から生太刀をもぎ取ろうとする。


「させるか!!」


負けじと生太刀を引っ張る。手の皮が剥け、血が流れ出す。とても痛いが命が失われるよりはマシだった。するとーー


ブチッ ブチブチブチッ


何かが切れる様な音がした。切れたのは俺の血管では無くーーオシラサマの鞭だった。


『……!!??』


途端にオシラサマは糸が切れた操り人形の様にぱたりと倒れる。心なしか胸を掴んで苦しそうにも見えた。


「勝った、のか…?」


倒れてしまったオシラサマに近づく。もうぴくりとも動かなくなっていた。良かった。これで真照もーー


「万、危ない!!!」


真照の声が響く。次の瞬間、オシラサマは幾千もの紙吹雪と化した。否、元々オシラサマは紙の方が本体で少年の姿に化けていたのだろう。紙吹雪をよく見てみるとそれはただの紙では無く人の形を模した紙だった。一瞬の出来事で、紙吹雪に呆気に取られていた俺はアッと言う間に紙に囲まれてしまっていた。


俺はまじまじとオシラサマを見る。これ全部本体なのか?だとしたらキリがない。紙人形はよく見ると人型だけで無く狐等の動物を模したモノまであった。


ってそんな場合じゃない。俺を囲むオシラサマは今にも俺に襲いかかろうとしている。紙とはいえ人の肌を切る程の鋭さはあるし、そもそもこれらはただの紙じゃない。オシラサマである。襲いかかられたら切り傷どころじゃ済まないだろう。こういう場合は逃げるが勝ちだが、囲まれていて簡単には逃してくれそうに無い。


「それなら…」


俺は上を見る。月明りが漏れて少しだけ明るかった。あそこはオシラサマの数が少ないと見ていいだろう。俺は等価交換を使い、ジャンプ力を上げようとするが…。


「うわっ!?」


まずい。俺が逃げようとするのを察知したのかオシラサマが襲いかかって来た。俺は慌てて選択する。何を選んだか知らんが俺の持ち物の内のどれかだろう。大して大事な物はない。選んだ途端、リンゴ以上の力が足に集まって来るのを感じた。俺は一体何を選んだんだ。今なら空も飛べそうな気がする。


『……!!』

「うおりゃああっ!!」


思いっきり地面を蹴る。次の瞬間ドゴンッ、と言う音がして、地面がえぐれた。削れたんじゃ無くて、えぐれた。飛ぶ時の風圧で少しオシラサマが吹っ飛ばされたのはラッキーだった。


そのまま上に向かう。慌てた様にオシラサマが上に集まって来るが、もう遅い。俺は生太刀を振りかざす。オシラサマの壁は真っ二つに裂け、俺は外に出た。


「…?」


切ったオシラサマは煙となって消えてしまった。もしかして、本体がいるのだろうか。仮にいるとしても、どれが本体なのか。


『……!!』


オシラサマは集まって、今度は巨人を形作った。俺は今度は生太刀に等価交換で強化をしてみる。出来る様だ。たたき潰そうとして来るオシラサマに対して一突き。風が巻き起こり、ジンジャの境内の木が揺れた。オシラサマは風に吹き飛ばされ、煙となって消えた。ひとつを除いて。


それは、他のオシラサマとは大して変わらないが、1つだけ違う所があった。紙の部分に文字が書いてあるのだ。なんて書いてあるのかは文字が読めなかったから分からない。


そいつは最後の力を振り絞るかの様に、よろよろと飛びながらこちらにーー真照に向かって突進して来た。


「なっ!?」


確かにそうだ。オシラサマの目的は真照の死。俺に構わず真照を狙った方が目的を達成できるのだから。


だが、そうはさせない。


俺が、真照の願いを叶えると言ったのだから。


俺は真照の前に立ち、それからジャンプした。


一瞬の交差。


月が俺達を照らし、そして…。


次の瞬間、オシラサマは今までいたのが嘘の様に、煙となって消えたーー。


「…これで、約束は果たしたぞ、まてーー」


最後まで言う事は出来なかった。俺は膝から崩れ落ちた。立つ力が無く、眠い。疲れた。


真照が驚き、心配そうに声をかけて来るがその声すら聞こえない。ああ、眠いな…。今はぐっすり寝たい。


俺の意識はブラックアウトした。


最後に見た光景は真照に白い光が飛んで来る所だった。

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