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85. 人伝に聞く血気盛んな少女の話

それから5分程経った後に休憩所にレンが戻ってきた。


レンは薄茶色の荷物袋を左肩に背負っており、それは行きの時よりも膨らんでいる。

そしてレンの右手には伸ばされた銀色の差し棒が握られていた。


「取り合えず見つけた源具と源鉱石は回収してきたよ」

レンが荷物袋をレイ達が座っている傍の机に置き口を広げる。


レイがのぞき込むと光源鉱石や水源鉱石を中心に様々な属性の源鉱石が詰まっていた。そしてパンに含まれたレーズンの様に所々源具らしきものが見える。


「町長が言ってたとおり、採掘自体は大分昔に止めてたみたいだね。奥の作業場は大分ボロボロだったし」

「はぁ?じゃあここは長い間使われていなかったのか?」

「んー。採掘は止めても、山に狩りとか行くときこの採掘場を拠点として使用してたらしいけど。怪異が出る前までは」

こんな場所を拠点に使う?まったく愚民の考えることはわからんな、とレンの返答を聞いたエトヴァルトは腕を組みながら呟いている。



「あ、フリーダちゃん鍵ってこれ?」


レンはフリーダの前に屈みこむと銀色の鍵を掲げた。レンの親指程の大きさしかない鍵はシンプルな物であり、レイには扉の鍵というよりは玩具箱の鍵に見える。


フリーダはそれをじっと見つめ、無言のまま頷くと鍵を手に取った。そして己の髪を括っていた紐を外した。

その細長い橙色の紐を鍵の持ち手にある輪っかに通して端っこを固く結ぶと、レイの方へと振り返った。



「―――はい!フリーダの鍵、お姉ちゃんにあげる!」


「え?」



レイは目の前に広げられた小さな掌の上に乗せられた鍵を見て戸惑ってしまった。

フリーダはニコニコと笑顔を浮かべながらレイの顔を見上げている。


「でも、これあなたの大事な鍵なんでしょう?」


「うん!さっき源技能教えてくれるって言ったでしょ!だからそのお礼だよ!」

迷いなど一片も感じさせずフリーダはきっぱりと言い切った。


「おい、子供。この鍵は何の鍵なんだ?」

「えへへ、内緒!お姉ちゃんだけには町に戻ったら教えてあげる!」

一連の流れを静かに見ていたエトヴァルトが尋ねるが、フリーダは口元に人差し指を立てた。


「ありがとう、フリーダちゃん」

レイは受け取った鍵を見つめるが、何の鍵なのか予想がつかなかった。


(日本だったら玩具箱とか宝石箱とかの鍵に見えなくもないけど……まさか金庫の鍵ってことはないわよね)

これで町に戻ってからフリーダに現金を貰ったらかなりのショックをうける気がする。

レイはそんな非現実的な想像をしてみた。


「レン、鍵はこの奥に落ちていたの?」

「ん」

問いかけに対して反応の鈍いレンに対して、レイは疑問を抱く。

そしてレイはあることに気が付いた。


「レン、もしかしてあなた―――怪異と戦ったの?」

「……よくわかったね」

「あなたの足や手に持っている差し棒の破源子が活性化しているように感じたから」

レイが指摘をするとレンの顔が少し引きつった。


レイはすかさず、怪我はない?と確認して、レンから問題無いという返答を得たところで、軽く息を吐き緊張感を解放した。


「でも、不思議ね。近くに怪異反応は無かったのに」

この採掘場も周りの森と同様に穢れており、独特の不快な気分をレイはずっと感じている。唯一の例外はこの先にある小さな澄んだ空間だけであり、そこがレイ達の目的地だ。

だが怪異の気配は全く感じていなかった。

レンに聞いてはみたが、肯定の返事が無ければ確信は持てなかっただろう。


「…………その理由は、この先に行けばわかるよ」




――――――――――――




休憩を終えてレンと合流したレイ達は、採掘場の奥へと進んでいった。

これまでの道中とは異なり、レンが先頭を歩いて皆を先導している。


途中でいくつかの分岐があったが、レンが既に探索及び物の回収を済ませているとのことだったので、目的地に向かってスムーズに進むことができた。


「つまり、お前らはこの奥で発現してる守護源技の源鉱石を回収しにきたんだな?」

「そうよ。さっき言った休憩所として使っていた部屋の話ね」

隣を歩いているエトヴァルトに説明しながら歩いていく。


採掘場に入ったばかりの頃は、エトヴァルトはびくびくしながら常に周囲を気にしていたが、今はもう慣れてきたのか雑談をしながら歩けるくらいにはリラックスをしているようだった。


「――――これまで怪異専門の傭兵団としていくつかの依頼をこなしてきたけれど、基本的には怪異からの護衛や、怪異に侵された場所から物を回収ってものが多かったわ」


「ふん。傭兵団は所詮その程度か。騎士科の最高学年では怪異討伐実習があるぞ。現役の騎士団と学生が組み任務にあたるんだ」


「学院を卒業したヒト達はその後ってどうするのが一般的なの?」


「戦闘職に就くものが多いな。成績優秀なものは王都や王領の騎士団に所属する。ごく稀に勲者の派閥に勧誘されるものもいる。それ以外は地方の州の中央都市の騎士団や、企業や統治者層の私兵団になったりする。変わり者は、お前らみたいに傭兵団を立ち上げたりもするな。後は、統治者層の子息もいるから後を継ぐために自分の領地に戻る場合もある」


「話だけを聞くと、とても就職先の良い学院に聞こえるけど」


「当たり前だ!最も格が高い学院だ!お前が想像する何倍も、入学するのも進級するのも卒業するのも難しいんだぞ!」


(今は長期休暇の期間なのかしら?)

タージア州のアップコップ領という王都からかなり離れたところでレイ達と行動を共にしているエトヴァルトに疑問を抱く。


(でも、アルテカンフにいた時にデリアは、もうすぐ休暇が終わる、と言っていた。あれが一月前に話だから、もう休暇は終わっている筈)

エトヴァルトにそのことを聞こうかとレイは一瞬思ったが、直ぐに考え直した。


「私の友達にデリア・デュフナーって子がいて、その子も学院の騎士科に所属しているんだけど、あなた知ってる?」

代わりに別に気になっていたことを尋ねた。


その瞬間レンが纏う源粒子の流れがブレたのをレイは感じ取る。


「――おまえ…………今の学院の生徒の中で、最も有名なヒトだ」

エトヴァルトが驚いた表情を浮かべ、そして呟く。


「有名?」


「僕より3学年上の先輩にあたるが、その世代で一番成績優秀だった――少し前までは」


(少し前までは?)

レイの怪訝な表情を見てか、エトヴァルトがさらに続けて話す。


「元々デュフナー先輩は女子でありながら、どの男子学生よりも強かった。戦い方も優雅で、繊細かつ大胆な源技能の使い手だった。それに加えて面倒見も良くて女子学生の中心にいるヒトだったんだ。だが………少し前にアルテカンフであった勲者殺しの話は知っているか?」


知っているどころの話ではない。当事者に一番近い所にいた、と言っても過言ではない。

だがレイはそれを言うわけにはいかなかったので、黙って頷くことしかしない。


「その時勲者ヴァルデマール・ヴィルヘルム以外にも、デュフナー先輩の親族も殺されたらしい。学院の長期休暇中にアルテカンフに帰省していた先輩も事件には立ち会っていたはずだ―――その後先輩と、父親と従者の一人が王都へと戻って来た」


(デリアだけじゃなくて、ダリウスも今王都にいるのね)


「そして、休暇明けの公開模擬戦闘で先輩は――――」

そこでエトヴァルトが言葉を切る。その時の記憶が悪いものなのか顔色が青白くなっていた。


「相手の男子学生を――――完膚なきまでに、叩き潰したんだ」


「え?」

レイはエドヴァルトの発言を直ぐに消化することができなかった。それほどまでにレイが知っているデリアの姿とは異なる行動だった。


「相手も、先輩の世代では2番目に優秀なヒトだ。これまでの公開模擬戦闘では学生同士とは思えないほどの名勝負を繰り広げて観衆を盛り上げていた。一進一退、お互いの拮抗した剣技や長所を生かした源技能の打ち合い。学生たちが憧れるものだった」


「だがその時は違った。先輩はありとあらゆる手を使って戦ったんだ。相手も己も傷つくことを厭わずに泥臭く、何かしらの執念めいたものを感じるほどに勝つことに重点を置いていたように僕には感じた」


「……デリア」


「すぐに決着はついて慌てて教官が止めに入り先輩を問い質したんだが、その時の先輩の言葉と表情が怖かったよ。【今以上に強くなるために本気で戦いました。先生よろしければ放課後にお相手していただけないでしょうか】って、目の前に倒れている相手を気にかけることなく、血だらけの先輩は、そう言ったんだ」


「……皆言ってた。デュフナー先輩は復讐のために、家族を殺した相手を自分が殺すために強さを、手にいれようとしてるって」


そこまで言うとエトヴァルトは恐怖に満ちて強張った顔を伏せる。


レイは思わず先頭を歩くレンの姿を気にしてしまう。

今の話を聞いて、レンがどう思うのかレイには想像できなかったからだ。



だがレイの予想に反して、



違和感を覚えるほどにレンは、一片の動揺を見せることなく、いつも通りに歩みを進めていた。




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