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83. 再会し暗闇を進む

「いいか!何かあったら直ぐにすまほでアガタに連絡するんだぞ!」


町長の家の外で、灰竜姿のディルクがレイ達に言い聞かせるように男らしく太い声を発している。


「わかってるって」レンが煩わしそうに答えていた。


フェルティグの町に来て二日目の朝。

レイとレン、そしてフリーダは、町の近くにある採掘場に放置されている源鉱石と源具の回収に行くところであった。


「そっちも、もし町に怪異が現れたら連絡入れてね―――お願いします、アガタさん」

「わかった!でも本当に気を付けてね。あと頑張ってね!」

アガタが笑顔で激励をし、隣にいるテヲは相変わらず虚ろな瞳で静かに佇んでいる。


「フリーダや。お二人のご迷惑にならぬよう大人しくするのじゃぞ」

「うん!」

町長に元気よく返事をしたフリーダはレイと手を繋ぎながらニコニコと笑顔を浮かべている。いつも一緒にいるニャーは己が付いていけないことを察しているのか、町長の足元に座っていた。


「何もなければ一刻半ぐらいで戻ってこれると思う。ディルクもその間、町の復興の手伝いよろしく」

「じゃあ、行くわね――――ってなにかヒトが集まっているけれど……」


レイ達が今まさに採掘場に向かうため町の外へと歩き始めようとした時だった。


レイの視界に、町の入り口にヒトが集まっている光景が映る。

何やら怒号のような男の声や戸惑い混ざりの声など、色々なヒトの騒めきが遠くにいるレイの耳に入ってくる。


「行ってみましょう」

レイはフリーダの手をレンに預けると、小走りで町の入り口へと向かった。





「飛んだ無駄足じゃないかっ!この愚図共が!!」

「申し訳ございません――――エドヴァルト様」


(この声って……)


ぎゃーぎゃー喚いている甲高い少年の声が町に響き渡る。それに対してひたすらに平謝りしている大人の男の声もだ。


数日前の、ある短い時間の間に何度も聞いた声だ。

聞いた回数は少ないが声自体もその声の持ち主や、その時の状況はレン脳裏に強烈に焼き付いている。


そして町のヒトを掻き分け入口へと辿り着いた先には、レイの予想した人物が立っていた。


「――――エドヴァルト?」


「誰だ?!愚民の分際で無遠慮に僕の名を呼ぶ輩は?!――――ってお前」


レイの呼びかけに犬属の少年、エドヴァルト・ビエナートが怒りながら顔を向けてきたが、レイのことを覚えていたようで怒りを戸惑いへと変えた。


エドヴァルトは相変わらず秀麗な衣服を身に纏っていたが、数日前とは異なり豪華な装飾剣に加え、もう一本腕の長さ程の小剣を腰に携えている。


「お前、、、レイって言ったっけ。何故お前たちがここにいる?」

エドヴァルトがレイに近づきながら言ってくる。


「私たちは傭兵団の依頼でこの町に来ているの。あなたは?このあたりはそれなりに危険な場所だけど?」


「ふん!無能な部下のせいで、こんな辺鄙な田舎までくる羽目になっただけだ!」

エドヴァルトが腕を組み踏ん反っている。レイの質問に答えてはいない。


レイに着いてきたアガタがその様子を見て眉間に皺を寄せている。


エドヴァルトの後ろには豪華な馬車と、体温を逃すように大きく息を吐きながら地に伏せている狼が二人と、従者の猫属、そして護衛隊長と呼ばれていた中年男性がいる。


「ヒトがいて本当に良かった。いや、私たちは、怪異に追われていてね、何とかギリギリ、逃げ切れたんだ」護衛隊長も息を切らしながら、状況を説明してきた。


「おい!お前何勝手に喋っているんだ!」


「怪我は?」エドヴァルトの文句を無視しながら、レイは聞く。

「いや、大丈夫。ただ疲れているだけだ。少し休憩すれば、戻る」そう言って護衛隊長は腰にぶら下げている水筒に口を付けた。


「ふんっ!………だが、お前らこの町にいるんだな――――よし、暫くこの町に滞在するぞ」

エドヴァルトが周りの意見を聞かずに決める。

一瞬従者の女性も護衛隊長も驚き戸惑ったような表情を浮かべたが、反対はせずに次の瞬間には一言わかりました、と答える。


(エドヴァルト、このボロボロの町で過ごせるのかしら?)

レイが修復途中の建物を見つつ、そんなことを疑問に思った。


そして、従者の女性は馬車から鞄や荷袋を持ち出し、護衛隊長は近くにいた町の住人に馬車を止める場所について尋ねていた。

エドヴァルトも機嫌良く傲岸不遜に町長に滞在場所について質問している。


外からのお客様が嬉しいのか町長は気分を害することなく、穏やかな笑みを浮かべながら会話をしていた。



「騒がしくなりそうだね」

「面白いおにいちゃんだね」


いつの間にかレイの傍にいたレンとフリーダがエドヴァルトの様子を見てそう言ってきた。




――――――――――――




町から徒歩20分ほど歩いた山にある採掘場の中は、生物の気配が無く死の様な静寂さが支配している。レイ達の足音だけが響き渡っていた。


漆黒の闇が広がっており、先頭を歩くレイと最後尾を歩くレンが手に持った源具が発する光だけが、レイ達の視界を明るくする。


僅かに見える地面の上には歩くための木の板が奥へと続いている。壁には数本の縄も奥へと繋がっていた。

レイの想像以上に採掘場内は整備されていたものの、時折打ち捨てられた古臭い道具が、この採掘場が長年使われていないことを証明していた。


(怪異を感知できるように、ある程度は集中しておかないと)


幸運なことに採掘場に来るまでも、中に入ってからも怪異に遭遇することはなかった。だが、いつ出現してもおかしくない環境ではあるため、レイは油断しないように意識を留める。



「―――で、あなた、大丈夫なの?」


そんな中、すぐ後ろをおっかなびっくり付いてきているエドヴァルトの方へレイは顔を向けた。


「だれが、怖がっているだと?!僕をなめるな!」

「私、怖がっているかなんて一言も言ってないわ」


明らかに虚勢を張っているエドヴァルトの小麦色の犬耳はピンっと張っており、周囲の音を少しでも漏らさまいためか、耐えず色々な方向に向いている。

そして、常に腰の携えた剣の柄に手を添えており、中腰であった。


「怖いなら怖いって言えばいいのに、変なの」


その隣をテクテク歩いているフリーダが不思議そうな顔をしている。

エドヴァルトとは異なり町での様子と変わらないフリーダは、薄暗く静かな採掘場を平然と歩いていた。


「黙れっ!愚民が!」

すかさずエドヴァルトが甲高い声で怒鳴るも、それを受けてもフリーダは平然としている。


「ぐみんがーぐみんがー、ぐみんがーぐみんがー」

「っな?!子供が何でも許されると思うなよ―――愚民が!」


フリーダがエドヴァルトの目の前で両手を振り上げながら煽るように言うと、エドヴァルトが素直に反応し、怒りの声が採掘場内に響き渡る。


だがレイの傍から離れることはしなかった。



その後、作業用の道具や垂れた縄が視界に入るたびに騒ぎ立てるエドヴァルトを諌めたり、

無警戒に色々なものに触ろうとするフリーダを止めたり、

気が付いたらいなくなりそうなレンの存在を定期的に確認したり、と


物静かな採掘場内の雰囲気とは異なり、賑やかなエドヴァルトとフリーダと共にレイ達は進んでいった。



レイ達が10分ほど歩くと、開けた空間にたどり着いた。


小さな体育館程あるスペースの入り口側には、古びた木の机とテーブルが幾つか置いてあり、隅には木箱が積み重ねられている。

奥側にはつるはしやヘルメットといった作業用の道具や、いくつかの鉄製の剣や槍、盾とが立てかけられている。


「ここが休憩所みたいね」

採掘場内部の構造は既に町長から聞いていたレイは、腰につけていた点灯用の源鉱石が入ったランプを近くの机に置き、源粒子を流し込んだ。

途端に、薄暗かった休憩所が白い光で満たされる。


「もう半刻も歩いたし、ここでちょっと休憩しましょう」


村から採掘場までは多少の上り道があり、なおかつ採掘場内は注意を払いながら歩いてきた。

レイ自身はそんなに疲労していないが、幼いフリーダや旅慣れていなさそうなエドヴァルトを配慮しての提案だった。


「なんだもう疲れたのか?」

「お菓子食べたい!」


だが二人ともまだまだ元気が有り余っているようだった。


「レイさん、ちょっと先を見てくる」

椅子に座りテーブルに飲み物やお菓子を広げ始めた二人を横目に、レンが奥の道へと進もうとしていた。


「この先確か分岐してるんでしょ?目的の部屋以外も念のため見ておくよ」

そう言いレンは差し棒と源具を手に持って歩いていった。


それを見送ったレイは荷物を机の上に置くと、フリーダの隣の椅子に腰を下ろす。


「お兄ちゃん大丈夫なの?」

「ふん。お前こいつらのこと何も知らないのか?あいつは見かけによらず強いんだぞ」


不安げにレイの服を引っ張るフリーダに対して、エドヴァルトがドヤ顔を浮かべながら謎のマウントを取っていた。


「今さらだけど、なんであなた私たちに付いてきたの?」

レイが目の前で水筒から水を飲んでいるエドヴァルトに対して尋ねる。


今この場にエドヴァルトの従者や護衛達はいない。疲弊していた彼らを置いてきて、エドヴァルトはレイ達に無理やり同行してきたのだ。


町の入り口でエドヴァルトがそれを言い出した時、護衛隊長はもちろん止めようとしていた。レイも面倒を見るヒトが増えることを避けるために同行を断ろうとした。


だがエドヴァルトがごねにごねたため結果として今の状況になっている。


同行を許可した時レイや護衛達は、仕方がないとため息や苦笑いを浮かべていたのだがディルクだけは、俺が我慢して村に残っているのにこいつは、と憤慨していた。



「…………別に、なんだっていいだろう。それよりお前たちはこんな場所に何をしに来たんだ?」

「採掘場に放置してある源具や源鉱石の回収よ」

「あとフリーダの鍵も!」


フリーダの発言にエドヴァルトが怪訝な表情を浮かべる。


「鍵?」

「前にフリーダの大事な鍵をここで落としちゃったの!だから、お姉ちゃんたちにお願いしたの!」


昨日教会で怪我人を治療していたレイにフリーダがお願いしたことは、この採掘場でフリーダが無くした鍵の探索だ。


フリーダ曰く、2週間程前にこの採掘場を訪れた際に大事な鍵を落としてしまったらしい。

何の鍵かは教えてもらえなかったが、2週間無くても問題が生じないということは、日常的に使用している鍵ではなさそうだ。

宝物を閉まっている箱の鍵とかだろうか。レイは己の子供時代を思い出してそう推測した。


「ふん。やっぱ愚民の子供だな。こんな所で落とし物するなんて」

「うるさい、ヘタレ」

そのフリーダの発言の後にまたエドヴァルトが騒ぎ始めた。


それを諌めようとした時レイのズボンのポケットが震えたため銀色のスマホを取り出した。


そして、そこに表示されていた通知は、レイの想像を超えるものだった。




レン【死体があった】






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