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正義の味方・魔法少女は指名手配されています。  作者: 鵠居士
魔法少女の対極にある元・魔法少女
11/30

なに?相変わらず、一人で私に会うことも出来ないの?

「静音、完璧な悪の大王を目指してるの?」


愛する夫とその仲間、部下達に守られるように囲われて困り顔を浮かばせながらも、何処か嬉しそうな奏音の姿。いつか見たものに酷似する光景を見せ付けられ、静音は嘲笑を吐き捨てた。

そんな静音に、灯雫が苦笑を浮かべながら注意する。

奏音に対して苛立つ気持ちもよく分かる。伝え聞いた以前のように、怒り狂って力を暴走させないだけまだマシではある。

だが、そんな静音の態度を見て、何も知らない馬鹿共が静音を酷い言葉や態度を向ける反応を示すことも察せられた。誰よりも真っ直ぐで、誰よりも世界を愛して、今まさに誰よりも犠牲を費やしている静音の心を傷つけることを許せるわけはない。

それを発するであろう相手が、こちらの声など聞く耳を持たない、自分達の考えにのみ素直で真っ直ぐな奴等なのだから、灯雫達が自分達で気をつけなければいけない事に腹が立っていた。

「止めてよ。私は、正義の味方よ?」

茶化すような灯雫の言葉に、静音は少しだけ落ち着きを取り戻すことが出来た。

「いやいや。どう見ても、言動が悪役だよ。でも、大王じゃないな。ゲームの定番でいえば中ボスじゃない?」

「当て馬?」

「なぁ、お前もそう思わね?」

「え…えぇ…少しだけ…」

話を振られたニコルも、顔を背けながら控えめに頷いた。少しだけ、本当に少しだけ、敵として相対していた時から地球の文化を取り入れ始めていたアウネの民の間でも話題の的だったと、小さくニコルが告げた。

マジ…止めてよ…。

そんなふざけた話題を自分が提供していたなんて思いもしなかった静音は頭を悩ませた。その一時だけでも、奏音達のことを頭の隅に追いやり、静音は高まっていた怒りを忘れていた。


「カウスト、ソーン君。一人で大丈夫って言ったのに…。」

「馬鹿を言うな、奏音。何をするかも分からない危険人物の下に、お前を一人で行かせられるわけがないだろう。」

「静音ちゃんは、私の妹なのに…。」

「だが、私達の幸せを祝福をしようとしない奴だ。あの日のように、何を仕出かすか分からない危険の前に、お前を一人で居させることなど、出来るわけがないだろう。」


そうやって灯雫達によってようやく凪ぐことが出来た静音の心を、この世で最も静音の心を荒立てるのが得意である憎き夫婦がいちゃつきながら煽る。


あぁ…

静音の喉が唸り、その視線が睡蓮と流峰へと向けられた。

「睡蓮!流峰!」

パチンッと静音が指を鳴らせば、二人は頷いて見せる。何の指示かも静音は口にはしない。でも、二人は静音が何をしたいのか、きちんと理解していた。


じゃぁぁぁ!!!

屋上に雨が降り注いだ。

満遍なく、静音達が立っている屋上にだけ勢いよく降り注いだ雨は、静音やニコルを避けて奏音達の体を濡らした。

「奏音!!何をした、貴様!?」

突然の事で降り注ぐ雨粒から庇う事も出来ず、ずぶ濡れとなった奏音の体を気遣わしげに確かめる。慌てた様子を見せるカウストに静音は満足を覚え、静音を睨みつけてくるカウストを挑発するように睨み返す余裕さえ見せることが出来ていた。

「何って、私の前で余裕な姿を晒してるから、頭を冷やしてあげようとしただけよ。」

ちょっと、強烈な雨を集めてみたから、頭のてっぺんが涼しくなってくれるかもしれないけど。

それは、静音が前々から睡蓮達と相談していた計画の一つだった。

少しだけ濃縮した酸性雨を降らせての、作戦名は『ハゲあかせ!!!』。

人間達の頭から髪が消える前に植物に深刻な被害が出る、と怒られて諦めていた作戦だったが、屋上にだけ限定して降らせるくらいならば影響はほとんど無いだろう。

雨に当たってしまったカウスト達が、肌にピリリという僅かな刺激を覚えるだけだ。


「静音ちゃん…。どうして、どうして。確かに、私は静音ちゃんを裏切っちゃった。でも、今はあの時と違う!みんなが仲良く平穏に出来ているのに、どうして私達姉妹がいがみ合ったままでいないといけないの?」


刺激を感じた手を見つめ、奏音が肩を震わせていた。

頭湧いてるんじゃないの?

奏音とは真逆の感情によって、静音の肩も震えた。

その肩を、ニコルが腕を回して宥めようとしてくれる。


「今は違う?私達が任された役目を放り出して、最悪な状態に突き落としてくれたあんたが口にしていい言葉だと思ってるの?」

魔法少女に与えられた役目をすっかり忘れちゃったみたいね。

魔法少女に静音達が選ばれたのは、アウネの民が世界に穴を開けて降り立ってきたその日だった。

"この地にあって、最も精霊獣達との相性が良い貴女達に頼みます。世界を護る為に、アウネ神が率いるモノ達を世界の外へと戻して欲しいのです。精霊獣は、管理者である私を助ける為に存在している要。世界を支え、維持する為の存在であるが為に、戦いには向いていません。だからこそ、世界の中に生きている命である貴女達が精霊獣達と力を合わせ、戦って欲しいのです。"

その言葉の意味は、魔法少女となってすぐに判明した。

『世界の中に生きている命』ではない精霊獣達が振るう力は、アウネの民達だけではなく、地球に生きる人々さえも巻き込み、消し去ってしまうものだった。世界を守る存在であるが為に、命には無頓着なところがあった。それを制御して人々を守る為に、魔法少女という命をよく知り、尊ぶ相棒が必要だった。


死にたくない。そう思っているからこそ世界の現状をいち早く、魔法少女の中で把握した静音は、世界を風船だと例え、黒耀を感心させた。奏音が平和だと、戦わなくて良くなっていると言った現状は、空気や水を限界ギリギリまでに注がれた、空気が漏れ出そうとしている穴をガムテープによって塞がれ、引き伸ばされた薄皮が必死に耐えている状態と言えた。

管理者は、穴を塞ぐことと、引き伸ばされた薄皮を繋ぎ合わせるのに力を注ぎ、身動き一つ取れない状況だった。魔法少女がアウネの民を追い出せなかったとしてもマトモに機能していたのならば、管理者への負担は大きく減っていただろう。管理者に代わって、水、風、炎、土、光が造り上げている壁の部分を、魔法少女が負担すればいいのだから。

今、静音が負担出来ている闇だけでは、管理者を休ませてあげることも出来ない。

何より静音にはもう一つ、世界を守る為に任されている役目があり、憂さ晴らしに行なう悪戯や嫌がらせ以外には思うように動くことも出来ない。


「なんで、こうなっちゃったの。魔法少女になんて、ならなければ良かった。」


誰よりも魔法少女という役目を理解し、それを貫き通している静音。

そんな彼女に向かい、魔法少女と否定する言葉を吐き出すのだ…早い内から魔法少女という役割に苦痛を感じ、理解に苦しみ、敵の甘言に取り込まれてしまった奏音が。


「君が魔法少女だったからこそ、私達は出会えたんだ。そんなことを言って、泣かないでくれ。」

「そうそう。静音ちゃんはちょっと、意地を張ってるだけだって。手取り足取り、お話すれば分かってくれるよ。」

奏音を和ませようとしているのか、それとも素なのか。際どいものを感じるソーンの発言に、流峰が風の刃を投げつける。ソーンはそれを魔術を発動して防いだのだが、ソーンの力によって生まれた見えない壁を、黒耀が黒い闇を持って消し去った。


「そいつらが降り立ったのが、他の国とかだったら。私達が魔法少女になることはなかったでしょうね。」

まぁ、その場合は…。


アハハッ、と静音は笑う。

静音の下に身を寄せてから現実を知ることとなったニコルは、顔を曇らせる。


今、感じていられる普通が、普通では無くなっているでしょうけどね。


本当にたまたま、アウネの神は日本の上空に位置する場所に穴を開けた。

その為に、アウネの民達は日本に降り立った。

そして、管理者は精霊獣を遣わし、魔法少女に託した。

なら、場所が少しでも違っていれば?

静音達が魔法少女として見出されることはなかっただろう。

もっと心の強い少女達が選ばれていたのなら、アウネの民達を追い出せていたかも知れない。


今と同じ状況に進んでいたとすれば、世界の要である精霊獣がギリギリの状態で一箇所に集ってしまっているというその状況が、それ以外の土地でどんな意味を招くのか、それを静音達はその身をもって体験することになっていただろう。


「あぁ、頭が痛い。」

あまりにも話が通じない。

静音は本当に頭に痛みを感じ始めていた。

「大丈夫ですか、静音さん。」

「ねぇ、元から人の話を聞かないで、自分の考えを周りも巻き込んで賛美しちゃうような子だったけど。あそこまで突っ走っちゃってるのは、やっぱり神様のおかげかしら?」

頭を抱えてふら付いた静音を、ニコルが支える。

そんなニコルの肩に頭を置いてもたれ掛かりながら、静音は尋ねた。アウネの神の影響を受けているから、あんな馬鹿な発言ばかりするのだと、言って欲しかった。でなければ、あんなものと共に母親の腹の中にいたことになる。そんな事実を静音は突きつけられたくないと深く落ち込ませた。

「それもあると思いますが…僕が覚えている限り、彼女は最初に接触した時からあぁだったような…」

奏音やソーン達には届かないようにと配慮して呟かれたニコルの言葉に、静音は眩暈を起こさずにはいられなかった。


「ねぇ、静音ちゃぁん。いいのぉ?それも、君の大ッ嫌いなアウネの民だよ?」


ねっとりとしたソーンの声が投げつけられた。

珍しい事にその目は静音にではなく、真っ直ぐにニコルを睨みつけている。野球帽の上にパーカーのフード。顔を完全に隠しているニコルの正体がバレた訳ではないとは、ソーンの様子からも読み取ることは出来たのだが、ほの暗い光さえ宿したソーンの目がニコルを射抜いている意味が、静音には理解出来なかった。


「なんで、そんな風に、仲良ししちゃってるの?」


「アンタには関係ないでしょ?」


鳥肌が立つほどの拒否反応が出るソーンの声に、静音は吐き捨てるように返した。

「アウネの民でも、私の正義を理解して手伝ってくれるんだもん。なら、仲間にくらいしてあげるわよ。」


私が嫌いなのは、世界への負担も気づかずにアウネの神の力をバカスカ使う奴等、人の家に押し入り強盗しておきながら反省もなく、綺麗ごとを吐く奴等、よ。



「静音ちゃん!?」

「バイバイ、奏音。もう会いたくないけど…でも、そうね。一応、それは私の二人目の姪か甥になるんだっけ?生まれたらお祝いくらいしてあげる。楽しみにしておきなさい。」


ニコルの手を掴み、流峰達へと指示を出して、屋上から立ち去る準備を始める。

涙を流した顔を上げて奏音が呼び止めようとしたが、そんな奏音に静音は酷薄な笑みを浮かべて睨みつけた。

クスクス、と不気味で意味深な笑いを零しながら、静音はもったいぶった言葉を吐く。

「静音。そういうのはお止めなさいって何度注意したら…」


「な、なにをするの?」

悪ぶった静音に、陽妃が叱責を飛ばす。

だが、そんな言葉を遮った奏音が、お腹に両手を回して怯えた様子を見せ悲鳴を上げた。

「さぁ、何をするのかしらね?でも、はっきりと言えることがあるわ。貴女の子供は、世界に祝福されないって。」

「どうして、そんな酷いことが言えるの!?私が嫌いなのは分かってる。でも、子供達には関係無いことだよ!?」


「関係ならあるじゃない。アウネの血を持って、アウネの神の祝福を得ている子供。それだけで、私には排除の対象だわ。それが嫌なら、それが恐ろしいなら、今からでも自分達の世界に帰りなさいよ。ちょっとくらい被害はあるかもしれないけど、穴をもう一度開けて貰ってね。管理者には悪いけど、私も命を掛けるくらいするから、ちょっと頑張ってもらって穴を開けて…。」


流峰の風に押し上げられ、静音とニコルの体が屋上から放れ、宙へと浮かんだ。

「じゃあね。」

カウストの指示を受けた護衛達が、宙に浮かんだ静音達に攻撃を放つが、それらは全て黒耀によって消し去られ、その御返しとばかりに睡蓮が先ほどの余りである酸性を高めている水を投げつける。

その放たれた水に、陽妃が光を注いで煌かせ、彼等の目を眩ませた。

そして、眩しさから彼等の目が解放された後には、とっくの昔に静音達の姿は消えていた。


「静音ちゃん…」

「奏音。」

悲しげに空を見つめる奏音を抱きしめ、カウストが慰める。

そんな光景を、夫妻のことを敬愛してやまない護衛達は、労しげに見守っていた。そんな光景の隣では、ソーンが鋭い目で静音達が最期にその身を置いていた空を睨み続けていた。





「あぁ!!ムカつく!!!」


イライラと荒ぶりながら、風の力によって家に飛びかえった静音は、すぐさまに準備を整えてバイト先へと向かって歩いていた。

奏音に会った事、その意味不明な主張を聞く羽目になった事。

今日有った全ての事が、静音を苛立たせるのに充分なものだった。

何より、静音を苛立たせていたのは、家へと帰宅してすぐに入ったバイト先からの連絡。

服に布団など、急な依頼が増えたから予定より早くに入ってくれないか、という涙さえ混じっているかのような工場長からの電話。

ほらみろ、という黒耀達の視線を浴びながら家を出た静音は、自業自得の事だと分かっているからこそ誰に当たれるわけでもないイライラと共に、職場であるクリーニング工場へと向かっていた。

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