黎明
漫画脚本
【① 夕焼けの小高い丘(導入・数年前)】
淡く輝く金色の稲穂と夕焼けの景色。
小高い丘の上で、少し離れた城(和風)を見つめる二人の少女(由紀と杏花)。
二人とも小振袖に隙なく結びつけられた白袴を履いている。
たすきで袖を括り、両手に革手袋を嵌めた凛々しい道着姿の由紀と杏花。
(由紀は黒髪を後頭部の高い位置でふんわりと丸めて束ねたアップスタイル。
杏花は黒髪を後頭部高めでひとつに束ねた、剣士らしい凛としたポニーテール。)
小春「姉様~!」
枝を片手に駆け寄る幼い少女=小春。
質素な着物を着ており、袖を肩まで捲り、裾を膝上までたくし上げている。
無邪気な顔は泥だらけ。
杏花「まったく、小藩とはいえ一国の姫がそのような……」
由紀「そういうな。私たちが言えた義理ではなかろう」
そういって木刀を持ち上げる由紀。
杏花も木刀を強く握りしめる。
自身の手にある木刀を眺める二人。
杏花「我が父のもとに生まれ、我儘が許されている事は幸運だと思っている」
力強く、薙ぎ払うように木刀を振り下ろす由紀。
杏花「だが、この島国において女子であることが、私には悔しくてしょうがない」
杏花の顔を覗きあげるように、可愛らしく無邪気に話しかける小春。
小春「跡取りのことは気にするなと父上に言われておろう?」
杏花「父上は気にしなさすぎだ!そんなんだから、よそから道楽藩主と言われてしまうのだ!」
小春「よそからなんと言われようと、領民と私らが、幸せならそれでいいではないか!」
幼いながらも、声を張り杏花に食ってかかる小春。
そんな二人の様子を眺め、微笑む由紀。
由紀「そうだな、それが一番いい」
微笑みながら小春の頭を撫でる由紀。
由紀「だが…」
小春の頭から手を離し、杏花の肩をポンと叩く。
険しい顔で夕日を睨みつける由紀。
由紀「女子も真剣を握れる世が……来てしまうかもしれん」
ポカンとしている小春。
城の背後で、ゆっくりと太陽が沈んでいく。
【② 数年後:馬車の中(杏花の部隊)】
テロップ:「数年後」
しんしんと雪がちらつく景色。
木々に囲まれた細い街道を馬車が通っている。
その馬車の中にいる軍服姿の少女=杏花(袴のように腰下が大きく広がった、黒の詰襟軍服上衣。黒いブーツを履いている) 。
杏花は機巧銃刀を縦に軽く抱え込み、じっと目を閉じ座っている。
(機巧銃刀:銃の胴体と刀が一直線に融合した武器。
持ち手は通常のケーベル銃と変わらないが、機関部から銃口にかけて、刀身がフレーム自体に長々と埋め込まれている)。
その両サイドに座る若き新兵と中年の兵士A。
兵士A「おい、新入り。今日の朝刊見たか?」
新兵「朝刊ですか?」
兵士A「あぁ。今の総領事に変わって、あのファリウスが来国するらしいぜ。」
新兵「ファリウス?」
兵士A「あぁ、特命全権大使として数年この国に居座るらしい。」
新兵「そんなに有名な人なんですか?」
兵士A「お前…まがりなりにも政府の傭兵だろ?」
新兵「すみません。西洋事情には疎くて……」
兵士A「まぁ、この部隊ならそれでも問題ねーか」
兵士A「ファリウスってのはな、ルフェディア国特許通商会社のトップだった男だ。
カートの革命を成功に導いた人物らしいぜ。」
新兵「カートの革命……それくらいなら僕も知っています。革命で、政治が大きく変わったんですよね。」
杏花「そう。そして、この国に奴らがくることになった。」
落ち着いた声で呟く杏花。 ゆっくりと目を開ける。
兵士A「よしてくださいよ。参謀殿に注意されたばかりでしょうに……懲りないお方だ。」
杏花「ふん。由紀姉には怒られ慣れている。」
馬車の隙間から、雪景色を眺める杏花。
【③ 蔵(堕侍との戦い)】
兵士A「ついたぞ」
新兵「ハッはい!」
馬車から降りる杏花、新兵、兵士Aの3人。
目の前には寂れた蔵が広がっている。
所々屋根に穴が空いており、壁も崩れかけている。
杏花「最後に報告が入ったのが……」
新兵「今日の早朝です。」
兵士A「新入り。安全バーは外れてるか?」
緊張感のある声で話しかける兵士A。
新兵「えっ?」
そう言ってケーベル銃を覗き込むようにチェックする新兵。
すると屋敷の中から黒い影が飛び出してきた。
兵士A「バカやろう!」
新兵に飛び込んで覆い被さる兵士A。
黒い影の追突を間一発で躱わした新兵と兵士A。
黒い影はUターンし、今度は杏花の方へと突っ込んでいく。
杏花「ふん。」
機巧銃刀を一振りし、黒い影を薙払う杏花。
影は、急いで蔵へと戻っていく。
杏花「二人とも大丈夫か?」
落ち着いた様子で声をかける杏花。
兵士A「もうちょっと、心配してくれてもいいんですぜ。」
よっこらせと立ち上がる兵士A。
新兵「すみません。僕のせいで…」
膝についた雪を払う兵士A。
兵士A「で、セーフティーは外れてたかい?」
新兵「あっはい!」
兵士A「気を引きしめろ。」
ケーベル銃を蔵に向ける兵士A。
杏花「来るぞ!」
蔵の中から一人の男(ボロボロの着物を着ている)が現れる。
男「りょっ猟犬部隊か!」
どこか怯えるように震えている、くたびれた見た目の男。
兵士A「おとなしく投降しろ。そうすりゃ手荒な真似はしない!」
口に手を当てて、棒読みのように叫ぶ兵士A。
杏花「無駄さ」
兵士A「形式ってのを覚えてくださいよ」
冗談めかしく微笑む兵士A。
男「ふっふざけるな!あんたらが、異国さに尻尾を振ってなければ、オラさ村ば、こんなことにはならなかったんだ!」
叫び、守り刀を取り出す男。
兵士A「妖刀に魂を売った奴に言われたかないね。」
男「オラだって、好きで売ったわけじゃねー!」
男は守り刀を抜く。
守り刀の鞘の隙間から、黒い影が溢れ出し、男を包み込む。
杏花「その言葉、そっくり返そう。」
居合切りのように機巧銃刀を構える杏花。
黒い影が収まると、男の雰囲気はガラリと変わっていた。
金色と黒の絢爛な装束を羽織り、髪が獅子のように大きく逆立っている。
男が手に持っていた守り刀は、長く立派な刀へと変化していた。
新兵「あれが…堕侍」
【④とある脇往還(小春の乱入)】
人間離れした動きで、駆ける堕侍。
その先には小さな漁村。
後方から馬に乗った杏花が追いかける。
杏花「っち。間に合わないか!」
すると突然、激しい音と共に、銃弾の雨が堕侍を襲う。
杏花「!?なんだ。」
地面の雪がぶわっと舞い上がり、まるで白い煙や霧のように白く煙る。
堕侍の姿が霞む。
数秒して、雪の煙が落ち着くと、堕侍の輪郭がはっきりとしてくる。
銃弾を浴び、ボロボロの堕侍。体の所々に風穴が開いている。
杏花「この状態で、立っていられるのか…」
堕侍は、ゆっくりと腰を下ろし、刃を杏花の方へと突き立てる。
グッと武器を握り直す杏花。
一直線に飛びかかってくる堕侍。
しかし、その攻撃は、杏花を通り過ぎる。
杏花「……相変わらず耳が早い」
振り返らずに呟く杏花。
杏花の背後には堕侍の攻撃を受け止めている小春の姿。
顔や身体には旅や戦いによる汚れやかすり傷がある小春(髪型は、うなじ付近や後ろでざっくりと一つに束ねた無造作なスタイル。)
小春は薙刀を構えている。
火花が散り、力の押し合いで堕侍と小春の刃が震える。
押され気味の小春。しかし、その顔はいたって冷静。
堕侍「オラの勝ちだ!」
勝ち誇った様子で、さらに力を入れる堕侍。
すると、小春は自身の足で堕侍の足を薙ぎ払う。
バランスを崩し倒れる堕侍。
小春「私の勝ちだ」
そう言って堕侍の心臓を一突きする小春。
堕侍の体は赤黒い結晶へと姿を変え、一瞬で粉々になり消えてしまった。
(/)
地面に放り出された妖刀(守り刀)。
小春は薙刀を構え、真上から妖刀を潰すように刃を振り下ろす。
妖刀に薙刀の刃が触れそうになった瞬間、横から機巧銃刀が滑り込む。
小春の薙刀と守り刀の間に挟まるように割り込んでいる機巧銃刀。
杏花「悪いが、この妖刀には回収命令が出て…」
杏花が言い終える前に、強烈な蹴りを叩き込もうとする小春。
咄嗟に妖刀へと手を伸ばす杏花。
小春は杏花の腹を蹴り、数メートル吹き飛ばす。
【⑤ 脇往還(小春との再会)】
口元を拭い、腹を抑えながら立ち上がる杏花。
杏花「甘いな」
手にした守り刀を兵士Aに軽く投げ渡す杏花。
無言で対峙する杏花と小春。
しんしんと雪が降り積もっていく。
杏花「お前の妖刀も回収対象だ」
硬い顔のまま、小春に機巧銃刀を向ける杏花。
互いに刃を向けたたまま睨み合う二人。
ふと、硬い顔が崩れ、苦渋の表情を浮かべる杏花。
杏花「どうして、お前が……」
小春「……姉様に、深追いするなと言われているはずだが」
小春の言葉に驚く杏花。
杏花「なぜ、それを……」
杏花は少し動揺している。
小春「私からも聞きたいな……」
薙刀を片手で持ち、刃を斜め下に向けながら、杏花の周りをゆっくりと歩き始める小春。
杏花「何を……」
腰を低くし、構え直す杏花。
小春「どうして、政府の犬になった?」
そう小春が尋ねた瞬間、突如として背後から甲高いく警笛が鳴り響く。
ガヤ(女声)「火事だ!火事だ!」
驚き、振り返る杏花。しかし火の手が上がっている様子はない。
杏花「しまった!」
杏花が視線を逸らした隙に、小春は姿を消していた。
【⑥新政府軍 司令部(由紀と杏花)】
西洋式の重厚な書斎。 中央の机に向かって座っている由紀(艶やかでストレートな黒髪ロング。胸元に金糸のモール飾りが映える黒の立襟軍服を纏い、腰には飾緒と機巧銃刀を差している。)。
由紀は凛々しい面持ちで、鋭く冷徹な眼差しを書類に向けながら、静かな威厳を漂わせている。
コンコンとノックの音が聞こえる。
由紀「どうぞ。」
杏花「失礼します!」
ピシッと敬礼し、杏花が入室してきた。
杏花「回収した妖刀、大使館にて引き渡し完了いたしました。」
由紀「ご苦労。」
杏花「ハッ」
そう言って敬礼をしたまま動かない杏花。
由紀「全く、しょうがないな。」
そう言って、ため息をつきながらティーカップに茶を注ぐ由紀。
由紀「休憩にしよう。」
その言葉を待っていましたとばかりに、由紀に詰め寄る杏花。
杏花「姉様、またもや小春に邪魔されました。」
由紀「あぁ、報告書を見たよ。まさか、また説得しようなんて言いだすつもりか?」
そう言って茶の入ったコップを差し出す由紀。
杏花「そうじゃない。」
由紀「じゃぁなんだ?」
コップを受け取る杏花。
杏花「小春に、こちらの情報が漏れてる可能性が…」
由紀は穏やかに笑う。
由紀「ありえないな。」
由紀の顔をじっと見つめる杏花。
杏花「…それならいいのですが。」
どこか複雑で切そうな顔をする杏花。
由紀「すまない。いつものことながら、仕事が立て込んでいて。また、近いうちに食事にでも誘うよ。もちろん上司ではなく姉としてね。」
にっこりと微笑みかける由紀。椅子に腰掛け、作業に戻る。
杏花「……失礼します!」
(/)
杏花が立ち去ると、ため息のように息を吐く由紀。
受話器に手をかけ、ゆっくりとダイヤルを回し始める。
【⑦寂れた港町(ジィナとの出会い)】
西洋風のホテル、そのロビー。
人で賑わう片隅で、受話器を手に持つ女性=歩鹿(深い赤のクロッシェハットに深紫のケープコートを纏い、レトロモダンかつミステリアスな雰囲気を漂わせている)。
歩鹿「先日は機関銃をどうも。えぇ、妹さんには二日前に……はい。それも伝えておきます。では。」
ガチャンと受話器を置く歩鹿。首紐のついた警笛をくるくると回しながらその場を後にする。
(/)
街道から少し離れた、原っぱ。
標高が高く、遠くの海が見渡せる。
目を閉じ、心地よい風に煽られている小春。
薙刀は持っておらず、代わりに純白の守り刀を握りしめている。
歩鹿「お姉さまからよ」
どこからともなく、突然、小春の隣に現れた歩鹿。折り畳まれた紙片を小春に渡す。
小春「了解した」
紙を受け取りながら、小春は後ろに気配を感じる。
歩鹿「政府関係者じゃなさそうね」
後ろへと振り向く小春。
小春「何か用か?」
ぶっきらぼうに声をかける。
後ろにある一本松の陰に、身を隠すように子供が立っている。
ジィナ「あんた、駆け込み屋の小春だろ?」
木の陰から姿を表す少女:鳥居ジィナ(質素な肌着に素朴な織物のベージュ風ベストを羽織っている。全体的に毛先が跳ねた黒髪の野性的な髪型。)。
小春「依頼かい?誰に聞いたか知らないが、アンタみたいな小娘に払える金額じゃ受け付けてな……」
ジャランジャランと、小判の落ちる重厚な音が響く。
薄汚れた服の裾から、わざとらしく小判を落として見せるジィナ。
その様子をじっと見つめる小春。
小春「……アンタ、名前は?」
ジィナ「ジィナよ。母親を探してもらいたいの。」
小春はしゃがみ込み、ジィナの瞳を覗き込む。
黒く澄んだジィナの瞳。
歩鹿「あら、今度の依頼主は異人さん?珍しいわね。」
歩み寄ってきた歩鹿の言い方にムッとするジィナ。
ジィナ「この国は開国したんでしょ?」
そう言って、ジィナは景色を眺める(丘の上からは、遠く広がる広大な平野が一望できる)。
巨大な城(和風)とその先に広がる港。港には、複数の黒船が行き来している。
ジィナ「異国の名くらいで、いちいち驚かないで欲しいわ。」
〈第壱話 完〉




